『ほんとうの星』『そらごとの月』刊行記念トークショー 今、表現者は何を伝えていくのか? 長田真作×小島慶子#3

ひとりの選択が社会を変えていく

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ついに発売された長田真作最新作『ほんとうの星』『そらごとの月』。この本の発売を記念して本屋B&B主催で行われたオンライントークショーの模様を誌上再現いたします。長田真作さんと語り合うのは、親交がある小島慶子さん。タレント活動をしながら、エッセイや小説を執筆されています。また社会に対する様々なメッセージも発しています。第3話は、そんなふたりが、2020年にやってきて、世界に大きな影響を与えた新型コロナウィルス感染症について語り合います。

プロフィール(ページ下部へ移動します。)

未来の不確かさ

本来、私たちの心配事ってバラバラなはずで、ある人にとったら恋愛が、ある人にとったら就活がトップニュースなんですけど、めずらしいことに全世界の人がその未知のウイルスへの不安というのがほぼトップニュースになったという時期が半年以上続いてるわけですよね。長田さんは、この新型コロナウイルス感染症の流行という状況下で、なにか感じることはありますか?

小島

ぼくは専門分野の人間ではないので詳しいことはわからないんですが、率直な意見としてはやっぱり社会が変わるチャンスではあるのかなと思っています。もっといえば、これを機会に、社会をより良くしていくために、どれだけ多くの人が尽力することができるか、っていうのことに注目したいですね。小島さんはいかがですか?

長田

家族との心の距離っていうのをより実感するようになりましたね。私の場合は、家族がオーストラリアに住んでるんですが、自分は東京から動けないし飛行機も飛んでないしで全く会えてないんですね。もう7か月くらい※会えてないんですが、朝晩テレビ電話で交流して、家族の絆を保っています。やっぱり物理的に遠く離れているからこそ、心の距離は一層近く感じるようになりますね。そして、未来よりやっぱり目の前のことに注目するようになりました。

小島

※2020年8月22日時点

『曼荼羅家族』(光文社)
雑誌『VERY』で10年続いた人気連載が書籍化。2本の書き下ろしと、作家・白岩玄さんとのロング対談「『男らしさの呪い』を解く」を収録。小島さんが選んだオーストラリアでの子育て。エア離婚について、小島さんの抱えるリアリティと、あふれる思いがユーモアたっぷりに語られる。元カレが不倫で大問題を引き起こしたと聞くとこう記す「私だったら巨神兵のように全てを焼き払って、彼が完全に再起不能になるまで叩き潰したでしょう」。小島さんのパンチラインが堪能できる一冊。

未来って先の予定とか目標とか、そういうことですか?

長田

そう、コロナ以前は先の予定とか目標とかが保証されたものとして生きてたわけですよね。だけどコロナで世界中が全く見通しが立たなくなると、それらが全部なかったものにされるわけですよね。そうすると、ふだんから「先のことはなにもわからない」と知りつつも将来の予定とか目標を立ててたけど、やっぱりほんとに未来のことなんてわからないよねって改めて思わされましたね。

小島

そういう「来るべきはずだった少し先の未来」がなくなったせいか、精神的な余裕がなくなった感じはありますね。

長田

東日本大震災があったときも、先のことはどうなるかわからないけどとにかく今この瞬間を生きているっていうことを確かめながら1歩1歩進んでた感覚があったんですけど、それは日本だけの局所的なものでしたよね。でも今回は日本含めて世界でそういう事態が同時に起こってて、私たちにとっては未曾有の出来事でとても苦しいんですけど、こういう状況じゃないとできないことは絶対あるはずだとも思ってて、長田さんと同じように社会を変えていくチャンスと見ることもできるのかなって感じてます。

小島

今回の新型コロナウイルス感染症の流行は、不安っていう意識の流行とも言えますよね。

長田

不安の度合いはそれぞれ違うにしても、これだけ多くの人が不安であることを意識せずにはいられないっていう状況を同時に経験することってないですもんね。だから長田さんの考え方はすごく救いになったんですよ。

小島

そうですか?

長田

不安っていうのは克服するとか、なんとかしなきゃいけないものと考えがちじゃないですか。不安が人生にあってはいけないみたいに思いがちですけど、表現という手段で自分が抱える不安と付き合ってるっていう長田さんのお話は、それなら不安と生きていけるかもしれないっていう気持ちにさせてくれたんですよ。それは別に日記書くでもいいしメモにイラスト描くでもいいし、そういう表現を通して不安とうまく一緒に生きていけるかもって。

小島

そういうきっかけになればありがたいですね。

長田

何かが変わる、変えていく

長田さんは、新型コロナウイルスで社会が変わることが望めるかもしれないっておっしゃったけど、期待も含めて、どういう変化があると考えてらっしゃいますか?

小島

前よりは嫌なことは回避しやすくなってるんじゃないかなって思います。満員電車が好きっていう人はいないと思うんですよ。みんなこれまでしょうがないから乗ってたけど、今は人混みがよくないので、満員電車をどうにかしようっていう意識が出てきてると思うんですよ。

長田

満員電車って、それこそ『ほんとうの星』に出てきたようなガチャガチャしたものが大きな動力で回ってるような、誰にも止められない巨大なシステムの一部で、乗るしかないよねっていう感じでしたもんね。でも、今はリモートワークっていう働き方も出てきて”乗らない”選択肢を選べる人も増えてきた。乗らないほうを選びますって人が多ければ、満員電車っていうシステムを変えられるかもしれないし、そうやって個人がこれまでと違う選択をすることで、満員電車みたいに誰にも変えられないって思われてたシステム、それこそ世の中の常識とか制度とかが変わっていく可能性もありますよね。

小島
『ほんとうの星』

そう、そういう個人の選択が社会を変えていくことになると思うんです。で、選ぶからにはそれぞれが自分の選択にリスクを負う形になるんじゃないかと。

長田

そうなったらいいですよね。私は、みんなそうやってリスクを取らないと生きていけないっていうことは、そのリスクを取った分だけちゃんと助けの手も差し伸べられる仕組みをつくっておこうよっていうことになればいいなと思うんですよ。これまでは、巨大なシステムに身を任せれば人生安泰なんだから、それに乗っかれなかった人は自己責任でしょ、別に助けとかいらないでしょみたいな考えが強かったと思うんですけど、全員がリスクをとって全員がその不安を抱えるんだったら、みんなが安心できるような助けはもちろん必要だよねっていう方向に向かっていってほしいですね。

小島

僕もそう思います。

長田

新型コロナウイルスからの学びとしては、どんな生き方も安心して選べるような社会に近づけようってころだと思うんですけど、今はまだまだ先が見えないし不安はつきまといますよね。だから、例えば日記をつけるっていう小さな表現活動をしたり、不安にさせられるけど開放されたような、不確かな状態を肯定してくれる長田さんの作品に触れたり、そういうものを通して不安とうまく付き合っていければと思います。

小島
『そらごとの月』

#4 この禍の向こうへ

プロフィール

©︎ 阿部祐介
長田真作(ながたしんさく)
1989年生まれ、広島県出身。2016年に『あおいカエル』(文・石井裕也/リトル・モア)で絵本作家としてデビュー。『きみょうなこうしん』『みずがあった』『もうひとつのせかい』(以上、現代企画室)、『風のよりどころ』(国書刊行会)、『すてきなロウソク』(共和国)、『とじてひらいて』(高陵社書店)など多数の作品を手がける。また、漫画『ONE PIECE』のスピンオフとなる絵本『光と闇と ルフィとエースとサボの物語』や、ファッションブランドOURETへのデザイン原画提供など、多分野のクリエイターたちとのコラボを実現させた。2018年には、渋谷ヒカリエで『GOOD MAD 長田真作 原画展』を開催。近著に『のりかえの旅』(あすなろ書房)、『おいらとぼく』(文化出版局)がある。
小島慶子(こじまけいこ)
1972年オーストラリア生まれ。幼少期は日本のほか、シンガポールや香港で育つ。学習院大学法学部政治学科卒業後、1995年にTBSに入社。アナウンサーとしてテレビ、ラジオに出演する。1999年、第36回ギャラクシーDJパーソナリティー賞を受賞。ワークライフバランスに関する社内の制度作りなどにも長く携わる。2010年に退社後は各種メディア出演のほか、執筆・講演活動を精力的に行っている。『AERA』『VERY』『日経ARIA』など連載多数。著書に『解縛』『るるらいらい』小説『ホライズン』ほか多数。最新著書『曼荼羅家族 「もしかしてVERY失格!?」完結編』(光文社)が話題に。現在は東京大学大学院情報学環客員研究員として、メディアやジャーナリズムに関するシンポジウムの開催なども行っている。昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員。

構成:常松心平、笹島佑介