おもちゃ作家・佐藤蕗さんのクリエイションの狭間 インタビュー

おもしろいことを考え続ける

この記事は約6分で読めます by 宗我部香

ちょっと間が空いてしまいましたが、おもちゃ作家・佐藤蕗さんのインタビューの最終話をお届けします。佐藤蕗さんはペットボトルや空箱といった、身の回りにあるお金のかからないアイテムでおもちゃを作る名人です。上のお子さんが育って、プログラミングの領域にも足を踏み入れたお話をお聞きします。気になる蕗さんのおもちゃアイデアは近著でチェックしてくださいね。

佐藤蕗(さとうふき)
手づくりおもちゃ作家 
子育てをしながら作り始めたおもちゃが反響を呼び、雑誌やウェブ、テレビ、ワークショップなどで活躍。9才と2才の男の子のお母さん。著書に「ふきさんのアイデアおもちゃ大百科」(偕成社刊)がある。
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【前回の続きから】

子どものころに考えていたおもしろいことって、他に何かありますか?

宗我部

危ないから作品にはしていませんが、子どものころ鏡面を上に向けて自分の目線の下で持って、それを見ながら歩いていました。天井を歩いている感じがして楽しかったです。天井の起伏を歩いているみたいなんですよ。もしやる場合は床を片付けてからお願いします(笑)。

佐藤

おおーたのしそう。(※読者の方はくれぐれもお気を付けください)でも、子ども時代って蕗さんみたいにおもしろいこと考えていたかな……。

宗我部

いや、考えていたと思いますよ。私たちの子ども時代って、今よりずっと暇だったじゃないですか。だからほとんどの人はやっていたはずです。それを大人になって本気でやったら、そこそこの作品になるのではないかと思います。

佐藤

覚えてないなー。

宗我部

例えば、お話を考えたりしてませんでした? あとは、安全ピンで紙に自分でミシン目を作ってパッて破れるカードとか、色々やっていました。

佐藤

いや多分、やってない人の方が多い気がします。それか忘れているか。だから生活の中でやろうとすると、どうすればいいのだろうと思います。

宗我部

何かに気づいてワクワクして、アイデアがひらめくことはあんまりないってこと?

佐藤

ないです。(カメラマンに向かって)ありますか? 

宗我部

いや、ないですね。

土屋

そのワクワクを経験してみたいです。

宗我部

そこが楽しいんですよ! そこが楽しくてやるわけです。その上、共有してくれる子どもがいたから6年間くらいすごく楽しかったです。長男が育って一旦その世界から抜けて、それから次男が登場したので、再び「やった!」みたいな。子どもも成長するとアイデアを披露したとき「おー、考えたね」みたいな大人の反応になるんですよ。「あー、反転してるわけね」みたいな(笑)。でも下の子は、「うわあ~!」ってなってくれる。

佐藤

純粋に喜んでくれるとうれしいですよね。

宗我部

まだ子どもがいないときに、例えば小さな点線の影がゆらゆらしていて、おもしろいなと思っても、それを共有できる相手がいませんでした。同僚に言っても「へえ」で終わってしまう。でも子どもだと「点線だー!」と大騒ぎです(笑)。それがあったから、うわーっと作っていたのかもしれないですね。

佐藤

蕗さんのワクワクは、「これを子どもに言ったら喜んでくれるかもしれない!」っていうワクワクも、含んでいるのですね。

宗我部

そう、共有できるかもしれないっていう。

佐藤

ということは、お子さんが生まれる前はワクワクも半分くらいだったわけですか。

宗我部

そうですね、ワクワクを具現化しても誰とも共有できないし。例えば当時、道路工事の「止マレ」という仮で書いていた文字が「トマト」になっていたんですよ。今だったら「わー!」って近づいて見に行くんだけど、当時は写真に撮って「トマトになってた」で終了。今はおもしろいものを見つけたときに、活用できる度合いが高いから楽しいです。「それ使って何か作れないか大喜利やろう!」という流れになります。

佐藤

蕗さんのおもちゃ作りって、結構大喜利に近いものがありますよね。ペットボトルや紙皿で何ができるかみたいな。

宗我部

そうそうそう、そういうことです。

佐藤
紙皿を2枚を切ってずらして重ねて作るおもちゃ。紙皿を回すと絵柄が変わっておもしろい。

なるほど。自分に制限をかけて考えると、何か膨らんでくるのかもしれないですね。

宗我部

「折る、回す以外に何かある?」みたいなね。「切るとどういうパターンがある?」など。実は、割とシステムチックでもあって、ひとつのモノ、材料をいろんなパターンで展開していく手法でもあります。それと子どもの成長を掛け合わせていました。最初の頃は赤ちゃんの行動からアイデアを拾っておもちゃを作っていました。

佐藤

そうですよね、面白いですよね。赤ちゃんがポストに物を入れたがるとか、シールを貼りたがるとか、そういう欲求を叶えるものを作っていましたよね。

宗我部

あとは、夫が「おもしろいね」と肯定的に受け入れてくれていたので作る気も起きました。「何やってるの?」とか否定的だと、シュンとなっちゃうから(笑)。まあお互いなんですけどね。例えばこれは夫のアイデアで、私が作ったものです。

佐藤

これすてきなアイデアですよね! 朝陽と共に詩が浮かび上がるなんてすてき。

宗我部
朝のリレーの詩の文字を、反転させて窓に貼っている。光がさすと詩が床に浮かび上がる仕組み。

ところで市販品のおもちゃは買いますか?

宗我部

買います。例えばプラレールに対抗しても仕方がないから。市販品をより活用するアイデアとして、線路を描いてその上でプラレールを走らせるTシャツがあります。

佐藤
その名も「パパドーロ」。親は寝ているだけの楽ちんおもちゃ。

今、上の子はプログラミングにはまっているんですよ。

佐藤

おおー。アナログを経てデジタルに変わるものなんですね。

宗我部

デジタルとアナログ、両方かな。今はmicro:bitやToioなど、簡単に扱えるプログラミングトイがたくさんあるので、それを工作とどう組み合わせられるかをやっていきたいなと思っています。

佐藤

アナログがあってこその、デジタルというわけですね。

宗我部

プログラミングって聞くとゲーム画面とかだけを思い浮かべがちだけど、生活のあらゆるところにプログラミングの要素があるんですよね。

佐藤

物との組み合わせのものって、いくらでもあるんですね。

宗我部

そうそう。センサーで自動ドアがひらくとか、暗くなると自動で照明が点灯するとか。

佐藤

おもしろいなあ。よくそんなことまで考えられるなと思います。

宗我部

プログラミングに関しては、私よりも息子の方が進んでいるので一緒にやる感じです。

佐藤

なんと母子の共作がうまれる予感です!

宗我部

例えば『音のセンサーでモーターが動く』というシンプルなプログラミングだけでも、とってもかわいいおもちゃを作れるんですよ。おもちゃとプログラミングをミックスさせて親子でこれなら作れそう! というくらい簡単で楽しめるものを作れたらと思っています。

佐藤

なんだか蕗さんから、ビジネスチャンス的な匂いがしますね。

宗我部

あはは。そうかもしれません(笑)。

佐藤

おしまい

CREDIT

クレジット

執筆・編集
最近は303BOOKSの動画を担当していることが多い一応編集者。私立中学に通う長女に作るお弁当をインスタにアップすることを日課としている。中学2年生と小学5年生の女の子の母。故郷・高知を世界の中心と思っている。
撮影
千葉県千葉市美浜区出身。ゴースト・オブ・ツシマにはまってます。パンダが好き。