待望のメジャーオリジナルアルバムが発売! Night Tempoインタビュー 「シティポップの向こうへ描く世界」

この記事は約9分で読めます by 池上 尚志

2021年12月1日にリリースした、メジャーオリジナルアルバム『Ladies In The City』(ユニバーサル ミュージック)

韓国のアーティストNight Tempoといえば、竹内まりやの「プラスティック・ラブ」が世界に広まるきっかけを作った一人であり、シティポップを世界的なものへと広めた功労者の一人。フューチャーファンクのシーンを足がかりに、シティポップや80年代アイドル歌謡の独自のオリジナル・ミックスを使ったDJプレイや” 昭和グルーヴ”というリミックス作品集のようなリミックス・ワーク、そしてオリジナル作品と活動を積み重ねてきた。特にアメリカでの存在感は大きい。

しかし今、シティポップという言葉は、その本来の意味から逸脱して、80年代レトロのリバイバル・カルチャーとして独自に歩み始めている。そんな中でリリースされるNight Tempoのニューアルバム『Ladies In The City』は、初となるヴォーカル入りのオリジナル楽曲作品。全曲にさまざまな世代の女性シンガーを迎え、都市に生きる女性の心象を描き出す。今まではDJやリミキサーという印象が強かったNight Tempoだが、よりアーティスティックに踏み出した新たな一歩からは、シティポップの次の風景が見えてくる。

Night Tempo
80年代のジャパニーズ・シティポップ、昭和歌謡や和モノ・ディスコ・チューンを再構築したフューチャー・ファンクの人気アーティストである韓国人プロデューサー/DJ。アメリカと日本を中心に活動する。竹内まりやの「プラスティック・ラブ」をリミックスして欧米で和モノ・シティポップ・ブームをネット中心に巻き起こした。2019年に昭和時代の名曲を現代にアップデートする『ザ・昭和グルーヴ』シリーズを始動。Winkを皮切りに、これまでに杏里、1986オメガトライブ、BaBe、斉藤由貴、工藤静香、松原みき、中山美穂、秋元薫、菊池桃子、八神純子の11タイトルをリリース。2021年には初のメジャー・オリジナル・アルバム『Ladies In The City』(ユニバーサル ミュージック)をリリース。
Web SiteTwitterInstagram

これまでの作品はほとんどインストかリミックスでしたが、今回はオリジナルの楽曲で全部フィーチャリングでシンガーが入っていますね。完全に自分の音楽を表現し始めたんだなっていう感じがしたんです。で、このシンガーのチョイスが面白くて。確実に次のシーンを見てるなって感じがしたんですよ。

池上

ありがとうございます。僕は次に行きますっていうことで、渋谷系とか、もうちょっと先の音楽シーンを見据えてアルバムを作ることにしました。

Night Tempo(以下NT)

例えば、刀根真理子さんとか国分友里恵さんは80年代に活躍されていたので、シティポップの流れですよね。そこになぜ、BONNIE PINKさんや野宮真貴さんが入ってくるのかってことですね。

池上

誰にお願いしようかという過程で、国分友里恵さんの名前が出て、「あ! 絶対やりたいです!」って言いました。そこはアルバムの重要なところだったので、参加頂けて光栄でした。刀根麻理子さんは声がすごく好きだったんですよ。カセットもほぼ全部持ってるし。決まったときは、「やった!」って。ベテランの実力者なので、僕のアルバムでも当時のイメージそのままで歌っていただけると思いました。野宮真貴さんは80年代から90年代にかけて、ずっと活動していた方なので、80年代から90年代へ移動するところを表現できると思いました。

NT
Wonderland (feat. BONNIE PINK)

橋渡しってことですね。

池上

はい。そして、BONNIE PINKさんは、元々すごく好きだったんですよ。いつか僕が曲を作れるようになったら絶対一緒にやってみたいって思っていたんですけれど、意外とすぐにOKを頂けたので、楽しく作れました。この「ワンダーランド」は今回のアルバムのメインになる曲なんですが、渋谷系とちょっと前のハウス、UKのディスクロージャーってグループのイメージを合わせて作ったんです。90年代と今を繋いでいく感じですね。

NT

アイドルの人たちは最近の人が多いですけれども、やっぱりちょっと変わった人選に思えます。どういう風に決めていったんでしょうか?

池上

道重さゆみさんはデビューが2003~4年くらいですよね。だから90年代から2000年代に繋がるところを担当してもらうイメージでお願いしました。道重さんも声が好きなんです。でも曲がクラシックなディスコっぽかったので、歌い方を曲に合わせてもらって、オートチューンをかけました。歌い方を変えてもちゃんと歌える人だったので、これは成功だ!って思いました。竹内美宥さんは元々AKBの一員だったんですが、韓国のオーディションで結構上のほうまで行って、韓国の会社に入ったんです。僕もちょっと知り合いだったので、今回参加してもらうことになりました。上坂すみれさんは、「昭和グルーヴ」を公式で出した時から自分のラジオで流すとか、とてもサポートしてくれたんですね。去年ある番組でご一緒したときに、ちょっとお話しして、フィーチャリングをお願いしますって話したら、すぐ、「やります!」って言ってくれたんです。それから、十束おとはさん。フィロソフィーのダンスは音楽に特徴がありますよね。

NT

フィロのス(フィロソフィーのダンスの略)はファンキーな生バンドがバックをやっているんですが、Night Tempoさんと同じような波長がある気がしますね。

池上

はい。あのメンバーは特徴がすごく強いなって思っていて、特にこの十束おとはさんの声はすごく面白いなって思っています。可愛いアニメボイスだけど、ちゃんと歌えるんです。だから、絶対にお願いしたいって思っていました。

NT

フィロのスの中でも、メインシンガーじゃないんですよね。

池上

はい。ほぼソロパートがないんですよね。でも、僕はもっと歌ってほしくて。今回の「House Music」っていう曲はクラシックなハウスなんですが、そこに日本語の可愛いボイスを乗せるっていう冒険をしたんです。すごく相性がよくて。僕自身、この曲はすごく好きです。

NT

そこがひとつのポイントで、Night Tempoさんが作る音楽は、音としては、いわゆるシティポップとは全く違うんですよね。ハウスに近いと思うんですが、ハウスとはまた違うんですか?

池上

うーん、ある意味フュージョン(融合)ですよね。だからハウスでもないし、シティポップでもない。全体的に曲を聴いてみると、これNight Tempoが作るサウンドだなって分かる感じです。だから、あんまりジャンルにこだわらなくてもいいかなって思っています。

NT

なるほど。これまでのオリジナルはインストゥルメンタルが多かったじゃないですか。改めて聴き直してみると、本当は歌のバックトラックを作ってたんじゃないかという風にも聞こえたんですよね。

池上

はい。なので、カラオケだと思われることが結構多かったです。実際は、自分で歌って曲を作って、後で声を抜くんですよ。仕上げる時に。

NT

自分では歌いたくないんですか?

池上

はい。いつもはインストだけのアルバムを作っていたんですが、今回は本当にちゃんと歌を入れたいと思って。だから全曲シンガーをフィーチャリングして作りました。特に女性の歌を作りたかったんです。

NT

元々、女性だけにしようと思っていたわけですね。

池上

このアルバムは日本のカルチャーが変化していくところを自分の音で表現してみたかったんです。だから、主人公は女性で、タイトルも働く都会の女性なんですよね。例えば、恋の悩みとか一人暮らしの悩みとか、いろんな理由があって、いろんな悩みがあって、それを一つにまとめてみたいっていうところから、このアルバムの構成を作りました。僕、近代の歴史とかすごい好きなので、いろいろ勉強しながら文化を解析して、それを音楽にしたかったんです。

NT

それは日本人的な目線なのかな? それとも外国から見た目線?

池上

西洋人でもない日本人でもない、アジア人で外国人である僕の目線です。僕は日本人じゃないから、主観的にも客観的にもどっちにも持っていける。西洋の人は表面しか見ない人が多いんです。日本の文化やファッションだったり、アニメとかカワイイとか、そういうものにしか興味がないんです。だから、同じアジア人だけど、日本と韓国ではやはり違うので、ちょっと中立的な立場なんじゃないかな・・・と自分では思っています。

NT

そうなると、もうシティポップ云々ってレベルではないですね。

池上

まぁシティポップのアルバムじゃなくても、シティポップっぽいのはありますよね。シティポップっぽくて、渋谷系っぽくて、ハウス・ミュージックっぽくて、ヒップホップっぽいっていう。

NT

全部「っぽい」なんですね。王道にはいかない、ど真ん中にはいかないっていう。

池上

僕は世界観を作るのが好きなので。”っぽい”のを作るっていうのも適当なわけではないんです。感覚的なものを作りたいんですね。

NT

ところで、アルバムの最後に、昔のテレビの『どこどこの提供でお送りします』みたいなのが入っていますよね。

池上

はい。まずイントロで、このアルバムは女性の声で作られていますっていうのを言うために、女性の声でちょっとスキャットを入れました。最後に入っているのは、その”提供”ですね。

NT

提供っていうのは、どこから思いついたんですか?

池上

トレンディドラマにはまって見ていた時に、途中でいきなりひらめいたんです。1枚のアルバムをオムニバス・ドラマとして考えると、テレビ番組のように最後に”提供”があるときれいに収まるんじゃないかと思って入れました。これ、機械ボイスです。

NT

あっ、そうなんですか。このアイデアは面白かったですね。80年代から最新の機械の声まで、女性の声で辿る歴史みたいなところもあるわけですね。

池上

はい。

NT

で、今回は初の歌モノのオリジナル作品となるわけですが、今までのいろいろな作品を作ってきた中で、どういうポジションとなる作品なんでしょうか?

池上

うーん、正直に言うと、ただ僕が作りたかったものの中の一つという感じです。もうすでにこの『Ladies In The City』の”2.0″や、次のアルバムの構想もほぼできています。ほかにもやりたいプロジェクトが10個くらいあります。

NT

なるほど。やりたいことはまだまだあると。

池上

たくさんあります。世界観を作るのが好きなので、自分が作りたいものをこれからも企画して、やりたいことを自由にやっていきたいと思っています。

NT
待望の日本ツアーが決定!

『Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ・ツアー 2022』

1月31日(月)東京LIQUIDROOM
2月2日 (水)札幌Sound Lab Mole
2月4日 (金)仙台darwin
2月5日 (土)東京O-EAST
2月6日 (日)大阪BIG CAT
2月8日 (火)福岡evoL
2月10日(木)名古屋BOTTOM LINE
2月11日(金・祝)京都CLUB METRO

一般チケット発売日  
12月4日(土)

問合せ:SMASH
https://smash-jpn.com

CREDIT

クレジット

聞き手
音楽ライターや編集者として活動をする一方で、イベント企画なども手がける。第1日曜の21~22時、狛江FM(コマラジ 85.7MHz FM)で「ジャパニーズ・ロック80’s」のパーソナリティも務める。2022年2月1日に303 BOOKSより発売する『Japanese City Pop 100 selected by Night Tempo』では楽曲解説を担当。