小松台東『てげ最悪な男へ』最速レポート&松本哲也・瓜生和成インタビュー

暗闇の先に灯る”愛”についての物語

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松本哲也が主宰する小松台東の最新作「てげ最悪な男へ」が5月21日、三鷹市芸術文化センター 星のホールで開幕しました。物語は2007年と2021年の宮崎を舞台とする2部構成で、全編宮崎弁で表現した、小松台東流の”愛”の物語です。コロナ禍の中、開催することもあやぶまれた中、いったい彼らが何を伝えようとしているのか、出演・作・演出の松本哲也さんと、出演の瓜生和成さんにお話をうかがいました。

※「てげ」とは、宮崎弁で「もっとも」「すごく」という意味。

松本哲也 (まつもとてつや)
日本映画学校・俳優科を卒業後、東京での生活に挫折し宮崎に戻る。
しかし、宮崎での生活にも挫折し、また東京に戻る。2010年12月劇団を旗揚げ。近年外部公演の作・演出やテレビドラマの脚本などに活動の場を広げる。
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瓜生和成 (うりゅうかずなり)
1996年青山劇場「銀河鉄道の夜」で白井晃氏と出会い、遊◎機械/全自動シアター等に出演。ナイロン100℃などの公演に参加の後、1998年に東京タンバリンに出演し劇団員となる。以後 ほぼ全作品に出演。2019年、東京タンバリンを退団し小松台東に入団。
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劇場内にウシガエルの鳴き声が轟く中、童謡「夕焼小焼(ゆうやけこやけ)」のメロディが流れると小園茉奈演じる主人公の江藤純恋(以下、すみれ)が、はしゃぎながら自転車に乗って家へ帰るシーンから物語が始まる。

宮崎弁で描く普遍的な物語

小松台東の作品は、全編宮崎弁で表現していますが、そこには松本さんの郷愁の思いや宮崎を知って欲しい、広めたいという気持ちがあるのでしょうか。

田中

2010年にひとりで劇団を始めて、そこから「戯曲」というものをちゃんと書き始めました。当時は戯曲を書く技術がなくて、必然的に自分が体験したことを書くようになったんです。最初は、宮崎の高校でレスリング部に所属していたので、部室で起こった出来事を書きました。何本か宮崎弁で書いて「ある程度力がついたら」と思っていたのですが、3本くらい芝居をやっていく中で少しずつ知られるようになって、評判が良かったので、そのままズルズルと(笑)。どこからか小松台東ではずっと宮崎弁でやっていくんだと思っています。

松本

宮崎弁で芝居をする場合の表現方法の違いはありますか?

田中
暗闇に浮かび上がる一軒家。この家の中で身近にありそうな、でも観たことがない物語が起こる。

18歳で東京に出てきて今44歳ですけど、もうすでに東京の生活が長くなりました。結局、僕が書いている宮崎弁は思い出して書いているだけで、現在の高校生のリアルな方言は聞いていないので、書けないと思います。宮崎に住み、暮らしながら宮崎弁の戯曲を書いていたら、今以上に方言が強く出ているかもしれません。そもそも僕は宮崎市内なので、そんなにキツイ宮崎弁に囲まれていなかったんですけどね。祖父母なんかは方言すごいですからね。今の若い人は、方言が少しずつなくなってきていると聞きました。

松本

僕は千葉出身ですけど、不思議とわからないところはありませんでした。

心平

単語がそんなに変わってないからだと思います。イントネーションは宮崎弁だけど、特殊な言葉ってそんなにないんですよね。

松本

瓜生さん、最初宮崎弁を練習するとき難しくなかったですか?

心平
瓜生和成が演じる伯父の河野文雄。すみれへの”無私の愛”で江藤家を支えつづける……。

まず松本くんが台本を全部しゃべってくれるんです。僕たちは、それを録音したものを聴いていて練習します。そこには、もちろん演出も含まれていますので、意外と大変ではないです。

瓜生

僕も九州なので、ある程度わかるのですが、本作を演じた役者さんたち、宮崎弁が上手でした。

田中
ある日、すみれの彼氏の中島樹生(青野竜平)が、父親の篤郎(今村裕次郎)に連れられて、すみれの家を尋ねる。小さな幸せを守るものは……。

今回、初めて方言指導に宮崎の方に入ってもらいました。1か月の稽古中、ほとんど毎回現場に来てもらいチェックしてもらったので、その成果はあるんじゃないかなと思います。今までは僕がやっていましたけど、方言指導は方言に特化して聞いているので、僕が気づかないところも全部指摘してくれて、助かりました。

松本

女子高生が主役だから、女性の方言指導の方だったので、よかったです。宮崎の文化についてもいろいろと教えてもらいました。

瓜生
昼間から酒を飲み、荒んだ生活を送る母・真希子(荻野友里)。その目に映るものは何なのか。

小園さん演じる主役の高校時代と大人になってからの話し方が違うと感じました。特に都会から来た彼氏との会話に現れていたように思います。

田中

そうですね。宮崎弁って「ちゃ、ちぃ、ちゅ、ちぇ、ちょ」が多いんですけど、二人で話しているシーンはそれを減らして書いています。宮崎弁を隠そうとして話している感じです。自分のことを高校生の頃は「うち」と言っていますが、大人になってからはちゃんと「わたし」と言うようになった部分もそうですね。

松本

すれ違い、ねじれ、それでも人生は一歩ずつ進んでいく。

瓜生さんが演じる役柄で前半部分の善意が気持ち悪いと感じていました。自分の身の周りにはどこにもない話なのに、ああいう人生だったら同じ苦しみがありそうだなって、すごくリアルだなと思いました。

心平

僕は全然、気持ち悪くやっているつもりはまったくないです(笑)。特に前半は全然気にしていませんでした。

瓜生

前作『シャンドレ』は場面転換がありました。今作はワンシーンで時間軸だけが動きます。演じるにあたり大変だったことはありますか。

田中

どちらかというと『シャンドレ』が特殊で、割と小松台東では今作のように一幕物が多いんです。すごく細かいことを言うと、奥行きがある舞台なので、役者が見える位置とか、明かりとか、スタッフさんや美術さんは大変だったと思います。こだわったらキリがありませんし、予算との戦いもあります。お客さんには同じ目線で家の中を見てもらいたいんです。一緒に体験しているような。だから今回、座席を低く下げてもらって、家の中の人と同じ目線になるようにしています。

松本

かなり没入感があり、家の中を覗いているような感覚でした。『シャンドレ』同様に、すさんでいて、どこか中心に空洞があるような人たちを描き出しているのですが、それはどうしてですか?

心平

33歳くらいで劇団を始めたので、18歳から始めるのとは違うなと。18歳の頃だったらたくさん失敗もできたんでしょうけど、「失敗したくない」という思いがあったんです。だから、リアルなことを書かなきゃなと。でも、以前は「小松台東の話ってほっこりするね」とか「いい話だね」と言われることが多かったんです。だんだんそれが嫌になってきて、変わっていきました。今は自分としてはできるだけ正直に書いています。自然に書いていたら、あのようになりますね。

松本
田辺(松本哲也)の体現する、田舎の閉塞感、見えない鎖が、すみれをこの部屋に縛り付けていく。

小松台東の作品には、「人生はそんなにうまくいかない」という基本的な価値観を感じます。人の思いはつねにすれ違って、関係性はねじれて。それでも人生は良くも悪くも、ちょっとずつ先へと進んでいく。

心平

そのようにみんなが見てくれたらうれしいですね。今は、劇場に足を運ぶことが難しい状況じゃないですか。見た人の気持ちが動いて、いい方向にちょっとでも動いてくれたら。小松台東が動いたことによって、お客さんたちも明日から何かやっていけたりすればいいかなと。僕たちは、そのように思ってやっています。

瓜生

もし開幕できなかったら、ドキュメンタリーにしようと思っていた。

今回、いろいろな障害を超えて、幕が開いたと言うことは、本当にすごいことですよね。

心平

いろんなパターンを想定して稽古をしていました。スタートした時から緊急事態宣言が出ていたので、稽古を毎回撮影して記録していました。もし劇の公開が中止になっても、ただじゃ転ばないようにしようと思ってドキュメンタリー映像を作ろうと思っていました。

松本
そして時は経ち、物語はクライマックスに向かう。それは悲劇なのか、それとも幸福な結末なのか。「てげ最悪な男」は果たして誰なのか?

舞台はドラマや映画と違って、どこを見ても良いという自由度がありますね。

田中

演出は「今、ここを観て欲しい」というところにお客さんの目線が行くように導いています。多分、自然と導かれていると思うんです。1回目はそのようになるので、2回目は違う楽しみ方ができると思います。

松本
江藤家が暮らす田舎の一軒家。変わらない場所で、時間だけが重く、一歩ずつ進んでいく。文雄を演じた瓜生和成と、すみれを演じた小園茉奈は、1つの役のふたつの時代を演じきる。

初めて演劇を観る方や、演劇に興味を持っている方に伝えたいことはありますか?

田中

小松台東の演劇は、初めて観る方でも楽しめる作品だと言われることが多いんです。きっと、映画を観ているように楽しめると思います。舞台って、物語はなるべくわかりやすい方がいいと思っているのですが、物語の中の人たちが生で目の前で動いているものを観てもらうことが醍醐味ですね。最低限、ストーリーは成立しなくては、なりませんが息遣いなど、あの家に暮らしている人たちの「人生」を観てもらえればと思います。今、コロナ禍でお客さんもひとつ気合い入れて劇場に来てくれるので、演劇陣はがんばらないと行けないですよね。お客さんの目線もハードルも無意識に上がっていると思います。今、特に責任を持って演劇を作らないといけないと思っていますね。

松本

「優しい気持ちになりました」とか「楽しい気持ちになりました」ということを前提として劇場に足を運んでくださるお客さんはたくさんいると思います。でも、小松台東を観に来てくれるお客さんは、ある程度、そういう作品じゃないということをわかってくれていると思うんです。ただ観劇している時間はちょっとでも今の生活のことを考えないで、そこに没入していただくことで何か気持ちが入れ替わったりする楽しみもあるはずです。優しい気持ちや楽しい気持ちじゃないもので、伝えられるものがあるんじゃないかと思っています。

瓜生
(左上から)今村裕次郎、松本哲也、瓜生和成
(左下から)荻野友里、小園茉奈、青野竜平
<公演情報>

小松台東『てげ最悪な男へ』
2021年 5月21日(金)~5月30日(日) 全13公演
三鷹市芸術文化センター星のホール

【前売】一般3,500円 / 会員3,100円
【当日】一般3,800円 / 会員3,400円
【学生】前売・当日とも2,000円(当日学生証提示)
【高校生以下】前売・当日とも1,000円(当日学生証提示)

★早期観劇割引・平日昼公演割引は、会員・一般のみ300円引き
*未就学児は入場不可。

出演 作・演出:松本哲也
出演:瓜生和成、今村裕次郎、松本哲也、荻野友里(青年団)、小園茉奈(ナイロン100°C)、青野竜平(新宿公社)

詳しくはWEBサイトをチェック
https://mitaka-sportsandculture.or.jp/geibun/star/event/20210521/

CREDIT

クレジット

聞き手
303 BOOKS(株式会社オフィス303)代表取締役。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。
聞き手・執筆
福岡市出身。千葉市を拠点に会社役員とライター、2足のわらじを履くパラレルワーカー。 千葉は第2の故郷。趣味はプロ野球、Jリーグ、プロレス観戦。
撮影
千葉県出身。どんな趣味も一年であきてしまう45歳。最近始めたジョギングにいたっては冬を越せるか心配中。チーバくんとパンダが好き。
撮影
某研究学園都市生まれ。音楽と東京ヤクルトスワローズが好き。最近は「ヴィブラフォンの入ったレアグルーヴ」というジャンルを集めて聴いている。