『カンパニー〜逆転のスワン〜』 黒木瞳さんインタビュー

努力、情熱、仲間、そしてバレエ

この記事は約9分で読めます by 常松心平

1月10日から放送される、伊吹有喜さんの長編小説が原作となったNHKドラマ『カンパニー〜逆転のスワン〜』。井ノ原快彦さん演じる主人公の青柳誠一が、会社をリストラされ、会社が資金援助しているバレエ団のスタッフになります。未知の世界に飛び込みながらも、起死回生を狙って、年末公演『白鳥の湖』を成功させようと奮闘していく、ビジネスエンターテインメントドラマです。またバレエに関してはKバレエカンパニー熊川哲也氏が監修するなど本格的なバレエシーンも見どころです。今回は、そのバレエ団の代表である敷島瑞穂役を演じた女優・黒木瞳さんに、共演者の方とのエピソードや、敷島瑞穂を演じるにあたっての印象、バレエについてのお話などをお伺いしました。

黒木瞳(くろきひとみ)
福岡県出身。1981年宝塚歌劇団に入団、入団2年目で月組娘役トップとなる。85年退団以降も、数多くの映画、ドラマ、CM、舞台に出演し、『嫌な女』(16)で監督デビュー。『化身』(86) では第10回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。『失楽園』(97)では第21回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、第10回日刊スポーツ映画大賞主演女優賞、第22回報知映画賞最優秀主演女優賞と数々の賞を受賞。その他の代表作は『仄暗い水の底から』(02)、『阿修羅のごとく』(03)、『東京タワー』(05)、『ウタヒメ〜彼女たちのスモーク・オン・ザ・ウォーター〜』(12)、『箱入り息子の恋』(13)、『弥生、三月〜君を愛した30年〜』(20)など。また、映画監督しても『嫌な女』(16)、『わかれうた』(17)、『十二単衣を着た悪魔』(20)など作品を発表。作家としても、エッセイや絵本の翻訳など、執筆活動も行い、著書『母の言い訳』では日本文芸大賞エッセイ賞を受賞。

 現場の一体感から“カンパニー”が生まれる

今日はよろしくお願いします。さっそくですが、主演の井ノ原快彦さんにはどのような印象をお持ちでしょうか?

心平

井ノ原さんが主演をされている『461個のおべんとう』という映画があるのですが、そこで演じるお父さんと、本作で演じている青柳誠一のキャラクターがまったく違っていて、そのギャップにおどろかされます。井ノ原さんは、いろいろな役をバラエティに豊かに演じられる役者さんですね。ご一緒させて頂いくと、すごく新鮮で、演じていてとても楽しいですね。今回の青柳さんの役は、何度めげそうになっても、それでも前に進んでいらっしゃるっていうキャラで、とても似合ってますよ。

黒木

高野悠役で、Kバレエカンパニーの宮尾俊太郎さんがご出演されていますね?

心平

宮尾さんはやはりプロのダンサーでいらっしゃいますので、その美しい動きをタダで拝見しているだけでも得したような気持ちです(笑) 現場ではシリアスな場面も多いのですが、井ノ原さんも宮尾さんも、(瀬川由衣役の)倉科カナさんも、待ち時間は本当に楽しい話ばかりしていて、本番3秒前まで笑っているくらい。でもメリハリもあって、自然と芝居に集中できる、そんなとてもやりやすくて、楽しい現場です。

黒木

原作の中で「カンパニーというのは仲間という意味もある」っていうセリフが出てくるんですけれども、今の現場では「カンパニー」になってきてるということなんですかね?

心平

そうですね、最初から違和感がなかったというか、すごく仲良くやっています。やはり井ノ原さんが、吸引力があってムードメーカーでいらっしゃるから、本当のカンパニーみたいな雰囲気づくりが自然とできていましたね。

黒木

舞台に生きる敷島瑞穂に共感する

今回の敷島瑞穂役には、どうアプローチしていったのですか?

心平

役に入っていくときは、どういう作品にしたいかっていうのをプロデューサーにうかがって、その中からどんどん想像を膨らませていくという感じです。プロデューサーの宮武由衣さんとは、NHKドラマ『ファーストラヴ』でご一緒させていただいたんですけれども、それがとても素晴らしい作品だったんですね。その宮武さんから、最初に「今回のカンパニーは、それぞれの人たちの情熱と再生の物語なので、ただ単純に最終回でバレエ団が白鳥の湖を踊ってパチパチというものではない」ということをうかがっていたので、それを信じて演じさせていただいています。毎回台本が届くと、なるほどなと思いながら読んでおります。

黒木

黒木さんが演じられる敷島瑞穂から、舞台人として共感する部分はありますか?

心平

敷島瑞穂はトップダンサーから演出家になったので、現役の人たちの辛さや心の痛みがわかる人なんですよね。私もエンターテイメントの世界で生きてきたので、この世界のシビアな部分とか、そこに必要な覚悟とか、きっとこういう気持ちでステージをつくっているんだろうなと解釈して演じていますね。

黒木

なるほど。そんな敷島瑞穂ですが、作中では心境がどんどん変わっていきますね。そのきっかけはどのようなものだと思われますか?

心平

バレエ団を率いていく敷島は、高野さんや青柳さんに出会っていく中で「このままクラシックバレエという芸術に囚われているだけでは生き残っていけない。新しい風が必要なんだ」と目覚めていくんですね。人と出会っていく中で、気持ちに変化が起こっていくんです。

黒木

敷島瑞穂は夫を亡くしてしまうわけなのですが、そのような逆境は彼女のパーソナリティに大きな影響を与えていますよね?

心平

そうですね。敷島瑞穂は自分の夫が志半ばで亡くなってしまい、ダンサーとして最後の輝きを取り戻してあげられなかったという気持ちから、人生の時計の針が止まってしまっているんですよね。それを青柳さんはじめ、高野さんやバレエ団の子たちみんなたちの影響もあって、ふたたび動き始めるんです。単純に年齢を重ねるからではなく、何かの出会いだったり意識が変わるきっかけがあったりして、人は成長しますよね? 今回の作品は、そういう敷島瑞穂の成長も描かれるお話になっていると思います。

黒木

敷島瑞穂役としてプロのダンサーを指導するという立場ですが、どのような気持ちで演じられましたか?

心平

Kバレエカンパニーの方々は公演をやりながらのドラマ撮影です。どんどん贅肉が削ぎ落とされていくのが心配で。普段言葉の無い舞台の方々が、映像というナチュラルさが求められる芝居の中で、その上セリフも言わないといけないという二重のプレッシャーを抱えていると思うんですよね。ですから本当に心も体もタフでいらっしゃるんだろうなという風に思っています。

黒木

ご出演されているKバレエの小林美奈(有明紗良役)さんは、黒木さんに演技面でのアドバイスをいただいたとおっしゃっているそうです。

心平

声で気持ちを伝えるということが、少し恥ずかしいという思いもあると思うんですよね。だから少し大げさなくらいにやってみて、それを監督に徐々に抑えてもらうようにするといいかもしれませんよ、というようなことはお話をしましたね。

黒木

”バレエ”を描く

黒木さんはバレエを鑑賞するのがお好きだとうかがいました。

心平

そうなんです。よく舞台を拝見しています。私自身はバレエができないので、本当に羨望の眼差しで、宮尾俊太郎さん、小林美奈さん、栗山廉さん、バレエダンサーのお三方を眺めていますよ。でも、今回の敷島瑞穂は、演出家役なので、プロをしかっているという立場が少しおかしくて。でもちょっと快感でもあります(笑)

黒木

今回の『カンパニー〜逆転のスワン〜』で、カギをにぎる『白鳥の湖』という作品を生み出したチャイコフスキーの音楽についてはどういう印象をお持ちですか?

心平

チャイコフスキーもさまざまな作品を生み出しましたが、当時は酷評されたこともあったそうです。それでもずっと演奏され、演じられ、語り継がれて今に至っているわけですから、「本物の芸術」なんだろうと思います。インタビューで小説家の高樹のぶ子さんが「ひとつの映画や小説を見て、何かを感じる。でもまた見てみたくなる、それこそが本物なんじゃないか」というようなことをおっしゃっていて、名言だなと思いました。『白鳥の湖』しかり、『くるみ割り人形』しかり、また見てみたいと思わせますよね? チャイコフスキーの音楽は、まさしく本物なんだと思います。

黒木

本格的なバレエのレッスンのご経験はありますか?

心平

バレエの練習をしていたのは数年です。宝塚音楽学校時代の2年間と、『プリマダム』という素人の主婦たちがバレエに挑戦するというドラマがありましたので、その時に1年ほどスタジオに通って練習しました。バレエに関しては、専門ではありませんが、今回は人間ドラマですので、私としては、その部分をきちんと表現していければと思っています。

黒木

黒木さんは、見事なタップダンスを踊られますよね?

心平

タップダンスだけはずっと続けていますし、ミュージカルではジャズダンスを踊ったりもしています。でもやはり、今まで踊った中ではクラシックバレエが一番難しかったので、ダンサーの方々を尊敬しています。軽やかにトゥシューズで立ってらっしゃって、足も操り人形のように上がりますけれども、ものすごく大変なんですよ。だから撮影の時も「顔じゃなくて、ダンサーは足を撮って!」ってお願いしています。バレエダンサーは本当にすごいんです。

黒木

この物語は“再生”というのがキーワードになってくると思うのですが、現在コロナ禍で苦しい思いをしている舞台関係の方々も多いと思います。この作品はそのような方たちにどのような影響を与えられると思いますか?

心平

バレエ団だけではなくて、舞台の方々、そして飲食店や旅行業界、あらゆる方々にとって大変な事態が続いています。このドラマを見たからといって閉店してしまった飲食店がもう一度蘇るというわけではありませんが、この作品には「情熱、努力、仲間さえあれば、前に進むことができるんだ!」という、とても前向きで勇気づけられるメッセージがあふれています。私たちの作品が、観てくださるみなさんの勇気や元気、笑顔になればいいなと思います。

黒木

最後に、視聴者の方にメッセージをお願いします。

心平

バレエ人口って日本が世界でいちばん多いようで、小さい子からご年配の方まで親しまれているんです。だからバレエに興味のある方、やったことがある方は、どの年代の方も思わず観たくなる作品だと思います。そして、この作品には、しっかり人間ドラマがあります。骨太な作品としてみなさんにご納得いただけるようなドラマになっていると思います。

黒木

これからが楽しみです! 黒木さん、本日はありがとうございました!

心平
カンパニー〜逆転のスワン〜

https://www.nhk.jp/p/ts/NYXK5QNJVW/
2021年1月10日(日) 夜10時 <BSプレミアム・BS4> スタート

妻子に捨てられたアラフォーサラリーマンに突然下された出向命令。左遷先は総務一筋の彼にとって縁もゆかりもないバレエ団。そこで課されたのは『白鳥の湖』の大規模公演を大入りにするという荒唐無稽なミッションだった。

【原作】伊吹有喜『カンパニー』
【脚本】梅田みか
【音楽】田渕夏海
【バレエ監修】熊川哲也・Kバレエカンパニー

【出演】

井ノ原快彦(青柳誠一)

倉科カナ(瀬川由衣)
宮尾俊太郎(高野悠)

  〇
織田梨沙(高崎美波)
古川雄大(水上那由多)
小林美奈(有明紗良)
松尾龍(Jr.SP/ジャニーズJr.)

岡田浩暉(相馬薫)
  〇
尾花貴絵(清水りさ子)
大谷玲凪(原田優希)
藤谷理子(井上真帆)
栗山廉(長谷川蒼太)
田畑志真(青柳佳奈)

  〇
岩松了(有明清治)
  〇
坂井真紀(田中乃亜)
小西真奈美(青柳悦子)
西村まさ彦(脇坂栄一)

黒木瞳(敷島瑞穂)

CREDIT

クレジット

聞き手
303 BOOKS(株式会社オフィス303)代表取締役。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。
聞き手
愛知県出身。猿やムササビが日常的に出没する、のどかな村で生まれ育つ。ダイエットアプリと家計簿アプリで記録をつけることが最近の趣味。
執筆
フリーのライター兼プランナー。フードスタイリストやウイスキー検定の資格を持つ。趣味は料理やお酒。一人でどんなお店にでも入れるため、取材も積極的に行う28歳。人との繋がりとコミュニケーションを大切に、遊びも仕事も全力で取り組みます!
撮影
千葉県千葉市美浜区出身。ゴースト・オブ・ツシマにはまってます。パンダが好き。