スペシャル企画『昭和遺産へ、巡礼1703景』×「ネオ昭和」

「平成生まれだから昭和がわかる」阪田茉鈴さんインタビュー

この記事は約9分で読めます by 常松心平

「ネオ昭和」阪田茉鈴さんと、『昭和遺産へ、巡礼1703景』のコラボ企画第2回。今回も東京・新宿の昭和スポットを巡りながらインタビューをしました。今回は、茉鈴さんの現在とこれからの活動についてお話を聞きました。平山雄さんが撮影した写真にも注目です!

阪田茉鈴(さかたまりん)
2000(平成12)年生まれ。昭和を愛し、SNSでネオ昭和の魅力を発信する。Twitterは3万人以上、Instagramは1.4万人以上のフォロワーをもつ。月に1回、大阪のFMラジオ番組「マリンのヒットナイトスタジオ」のパーソナリティーをつとめる。大阪芸術大学に在籍中。
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ヤンキーの昭和から都会の昭和へ

昭和のヤンキーに憧れていた時代には、ほかにどんなものが好きだったんですか? 映画とか、漫画とか。

心平

『スローなブギにしてくれ』っていう、浅野温子さん主演の映画が大好きでした。浅野温子さんがソバージュにしてて、ほんまにかわいくて。マネしてソバージュをかけたりしました。もちろん休みの日とか、夏休みとかですけど。

茉鈴
新宿駅東口を出て左方向にある地下通路、プロムナード壁アート。1959(昭和34)年に「メトロポリタンプロムナード」の名前で開通したそうです。(写真:平山雄)

ボディコンっぽい服とかも?

心平

そうです。その映画を見て、ボディコンにハマりました。

茉鈴

「あぶない刑事」より前の浅野温子さんですね。あの頃の浅野温子さん、死ぬほどかわいいですよね。

心平

あの映画に出ているムスタングっていう車に乗っている男の人がかっこいんですよ。浅野温子と三角関係みたいになるのも、またそれもいいいなぁって憧れて。

茉鈴

それこそシティ・ポップ感がある感じですね。

心平
新宿百人町にある「ながさき旅館新館」。まさに昭和遺産な外観を誇る。(写真:平山雄)

そこから、ヤンキーよりもちょっと都会的な部分に憧れてくるんですよ。ヤンキーの昭和より、都会の昭和っていう感じに。松田優作さんの『探偵物語』も、すごく好きになりました。あと、野村宏伸さんの『キャバレー』とか。あの頃の角川映画ですね。

茉鈴

なるほど。茉鈴さんの場合は、ヤンキーから入って、だんだん都会の部分にいったんですね。僕の場合もなんだかんだ言って、見た目的なファッションとか音楽から昭和に入ってるので、共感できます。

平山
歌舞伎町にある新宿ゴールデン街。木造長屋建ての飲食店が、狭い路地をはさんでマッチ箱のように並んでいる。ここも、戦後の闇市がルーツ。(写真:平山雄)

音楽でいえばシティ・ポップって今まさしくマイブームだったりするんですけど、聴く人が2つの層に分かれていると思うんです。1つ目は、田舎の女の子が都会に憧れて聴く音楽かなと。もう1つは都会の女の子が共感をして聴くジャンルだと。

茉鈴

というと、つまり?

平山

たとえば竹内まりやさんの『プラスティック・ラブ』は、最初が「突然のキスが〜熱い眼差しで〜♪」って始まりますよね。まず、田舎に住んでたら突然のキス、熱い眼差しも、ディスコもなければクラブもないので、そんなことまず起こるはずないじゃんと。

茉鈴

うんうん、なるほど。

心平

田舎の女の子がそれを聴いたら「うわぁ1回行ってみたい」って憧れますよね。都会の女の子が聴いたら「あーわかるわ、そういうのあるわ」みたいに共感する。私は、後の方なんです。あぁそれわかるわっていう方なんですよ。

茉鈴

僕は完全に前者ですね(笑)。僕の青春にそんな状況はなかったな。トレンディドラマ見て憧れてばかりでした。

心平

シティ・ポップ、今よく聴いてます。中学高校で意味わからへんなって思ってた歌詞が、二十歳になって、こういうことやったんかって思ったりします。

茉鈴

だんだん大人になるってそういうことかもしれないですね。僕なんて正直、二十代後半くらいまで、山下達郎とかの本当のすごさってわからなかったです。

心平

ラジオの魅力にハマって

茉鈴さんが大阪芸術大学に行こうと思ったのは、どうしてだったんですか?

心平

私、紡木たくさんの『ホットロード』っていう漫画に憧れて、高校3年間ずっとガソリンスタンドで働いていたんです。お客さんが来ないヒマな時間が出てくるわけなんですけど、その間ずっとラジオが流れてるんですよね。

茉鈴

そうですね、ラジオ流してますね。

心平
映画やドラマなど数々の作品に登場した新宿バッティングセンターの看板をバックに撮影。(写真:平山雄)

ラジオって私、聴いたことなかったから、聴いてるうちに「ラジオって声だけでこんなにおもしろいんや」って思いました。声だけなのに、自分の中で無限大に情景が広がるから、すごいなと。私もラジオでしゃべる人になりたいと思ったんです。そういう大学がないかって調べたら、大阪芸術大学の放送学科というラジオ系の学科があって。

茉鈴

そうなんですか。じゃあ今は、放送系の、特にラジオの方向で勉強しているんですね。番組のパーソナリティーはいつから?

心平

今年の1月からです。FMラヂオきしわだという局で、毎月第四木曜日にやってます。「マリンのヒットナイトスタジオ」という番組で、1時間1人でまわしています。

茉鈴

すごいな。1時間、しゃべってるんですね。生放送で。曲も入れて。

平山

はい。お便りも結構くるので「ラジオネーム◯◯さん」とかって読み上げて。私、やりたいことがあったら、自分から探しにいくんです。ラジオをさせてくれる人いないかとか、大学生の友達とかにいろいろ話したりして、情報を集めました。それで、やっと回ってきたんです。

茉鈴

募集しているのに気付いて、応募したんですか?

心平
新宿バッティングセンターにあるアイスクリームボックス。中身は全部、100円の蓋付きソフトクリーム。(写真:平山雄)

そうです。自分のしゃべりをテープに録音して。中森明菜のことを普通にしゃべって、曲流して、話5分曲5分の10分くらいのデモテープなんです。それで合格しました。ラジオ、やっぱり楽しいです。

茉鈴

番組とかを作る方と出る方、どっちがやりたいみたいなことはありますか?

心平

どっちもやってみたいです。

茉鈴

茉鈴さん、出る方の可能性もかなりあると思うんです。だけど作り手、クリエーターとして、すでにすごいです。SNSに上げている昭和写真とか、やばいですよ。あれはどうやって撮っているんですか?

心平

とりあえずフラッシュをたいて撮って、そのあと昭和アプリっていう昭和風に加工できるアプリを使います。それで加工して、わざと画質を粗くして。

茉鈴

そんなアプリがあるんですね!? 茉鈴さんの写真、写ってるの全部、まるっきりの昭和ですよね。車とか、こんなの走ってるのかなって信じられなくて。最初は、昔の写真を探してきて自分を合成してるのかと思ったんですよ。フォトショップの達人かなと。

心平

してないです、してないです。

茉鈴

ファッションと風景は全部昭和なのに、すごく不思議で。でも合成にしては自然すぎるなって。僕、茉鈴さんのSNSフォローしているんですけど、毎日見ているうちに「ガチの昭和愛なんだ」って気づいたんです。すごい人がいるなあって感動しました。

心平

現在と未来へ、ネオ昭和の発信

大学を卒業したらどうしますか? ラジオ局を受けてみたり?

心平

はい、受けてみたりしますね。

茉鈴

例えば、芸能事務所からの話があったとしたら、どうします?

心平

私は、やりたいものだけやっていきたいという気持ちが強いんです。芸能事務所に入れたらいいなとは思いますけど、芸能人になれるならなんでもやりますみたいな気持ちはまったくないんです。やりたくないことをするのって、それは人生を無駄にしている気がするんです。

茉鈴

なるほどね。僕、正直言うと、大阪芸術大で学んでいるって知っていたから、最初は昭和を題材にした現代アートをやっている人だと思ったんですよ。

心平
新宿区の都道302号線沿いにある、GUNKAN東新宿ビル、通称「軍艦マンション」。1970(昭和45)年に建てられたもので、ギザギザしたノコギリの歯のような外観がアート。(写真:平山雄)

そうなんですか!? いやいや、私はガチで昭和を愛してます。

茉鈴

ライフスタイル全てが昭和だって、知らなかったんですよ。茉鈴さんは平山さんとそういう意味では近いですよね。人生に不要なものを入れたくないっていうのも。人生ずーっと、自分の好きなものを自然と追求していくってことなんですよね。

心平

そう。やっぱり好きが最強ですよね。どこから始まったのか自分でもわからないんですよ。

平山

運命なんでしょうね。茉鈴さんの場合は、お父さんもおばあちゃんもそういう昭和のスピリットがあったということをふくめて。ちなみに、今の活動を見て、ご両親はなんておっしゃっていますか?

心平
歌舞伎町一番街の看板の下で。飲食店やゲームセンター、映画館が集中する「日本三代歓楽街」の一つ。(写真:平山雄)

高校時代から、だんだんと活躍しだした私を見てきてくれて、今すごく応援してくれています。高校のときは夜遊びとかで心配をかけて申し訳ないことをしたなって、今になって思います。

茉鈴

やんちゃな時期って、誰にでも多少はありますよね。もう一つ、大事なことを聞きたいのですが、茉鈴さんが発信しているネオ昭和のネオの部分って、どういう風に表現していきたいですか?

心平

私たち平成生まれの人は、昭和を古いものじゃなくて新しい物やと思っているということがあるんです。それもありますし、あとは、私たちの世代に昭和の良さを伝えていくとなったら、古い昭和を伝えたところで、みんなはただ古臭いもの、ちょっとダサいものと思ってしまうだけなんですよ。

茉鈴

なるほど。

心平

だから、例えば化粧だと、平成っぽい今時の化粧して、現代風に魅せながらもどこかクラシックに、昭和を魅せていくっていう意味で、ネオ昭和にしたんです。そういう、ちょっと平成っぽいけど昭和も交えつつ、という投稿をしていくうちに、一気にフォロワーが増えたんです。

茉鈴
もちろん『昭和遺産へ、巡礼1703景』が好きな茉鈴さん。(写真:土屋貴章)

そうなんですねー。

心平

同い年くらいのフォロワーから「茉鈴ちゃんのまねします」とかそういうコメントを頂いてるので、あぁやっぱり私、「ネオ昭和」でウケるんや。だから、古いだけじゃなく、ちょっと新しさも取り入れよう、っていうのが、「ネオ昭和」という意味なんです。

茉鈴

ネオをつけることで、新しい価値観にアップデートするということかもしれませんね。確かに、新しい世代を昭和にいざなうならそういう切り口を入れた方がいいですよ。魅力が伝わりやすくなるから。

心平

そうなんです。昭和オタクの私たち平成生まれが、昭和オタクすぎたら、まわりはその良さをわかってくれない。単に昭和を追求していたらリアルタイムの昭和のファンは増えるんですけれど。でもその場合は単にまねなんですよ。私はまねじゃなくて、新しさを追求したいんです。

茉鈴

だから、茉鈴さんの場合は「表現」に見えるんだと思います。ただ自分がかわいく昭和風に撮りましたっていうより、作品っぽく1枚を撮っているものが多いから。茉鈴さん、昭和にタイムスリップして行ってみたいと思いますか?

心平

それ、思いますね。だけど、昭和に生まれていたら昭和の良さは多分、わかっていないんじゃないでしょうか。今生まれたから昭和がわかる。だから、平成生まれで良かったと思います。

茉鈴
新宿の夜景を見下ろすバーの茉鈴さん。(写真:土屋貴章)

スペシャルゲスト・撮影
平山 雄(ひらやま・ゆう)
ブログ「昭和スポット巡り」で、 2012年から、 ジャンルを問わず昭和が体感出来るスポットをレポートしている。訪ねたスポット数は1700カ所以上。住まいも、 古い一軒家を買い取り、 完全に昭和の家庭を再現して暮らしている。「できることなら昭和時代へ戻りたいのですが 戻ることはできないので、 昭和の服に身を包み、 国産旧車に乗り、 和製ポップスでも聴きながら昭和の面影が残る場所を巡ります」

昭和スポット巡り
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単行本 電子書籍
昭和遺産へ、巡礼1703景
平山雄
1,650円(税込)

CREDIT

クレジット

聞き手
303 BOOKS(株式会社オフィス303)代表取締役。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。
撮影
千葉県千葉市美浜区出身。ゴースト・オブ・ツシマにはまってます。パンダが好き。
構成
丑年生まれの編集者。3人の子どもが全員学齢期となり子育てが格段にラクになってきたので、自分の人生を取り戻すべく、楽器演奏の趣味を復活させようと助走をつけている。最近「Official髭男dism」を熱烈に応援するという新たな趣味も加わった。