『ここは知らないけれど、知っている場所』近藤康平×西山雅子

美しい画集と、出版社が生まれた。

この記事は約7分で読めます by 常松心平

音楽に合わせて即興で描くライブペインティングパフォーマーとして知られる近藤康平さん。また、”絵描き”として個展の開催を精力的に行い、多くの来場者を魅了しています。11月30日、画家としての作品を集めた近藤康平画集『ここは知らないけれど、知っている場所』が発売されました。そこで、発売を記念し、近藤さんと,出版社「月とコンパス」の西山雅子さんをお迎えして、お話をうかがいました。

近藤康平(こんどうこうへい)
1975年生まれ。2009年、友人のミュージシャンに誘われ、ライブペインティングパフォーマーとして活動を開始。樽木栄一郎 、あらきゆうこ、Schroeder-Headz(渡辺シュンスケ)、白井良明(ムーンライダーズ)など、共演アーティストは多数。また”絵描き”として、各地で個展を開催している。またCDのアートワークや舞台美術も多く手がけている。
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西山雅子(にしやままさこ)
美術雑誌、児童書出版社の編集職を経てフリーランスに。絵本の出版企画・編集・書評執筆等で活動。編著書『”ひとり出版社”という働きかた』(河出書房新社)が、韓国・台湾でも反響を呼び、自らもひとり出版社「月とコンパス」を立ち上げ、活動を始める。
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ライブの終わりに、物語が始まる

このたびは初画集『ここは知らないけれど、知っている場所』の発売、おめでとうございます! この作品がなにがきっかけになって生まれたのですか?

心平

3年前、個展を開いたときに西山さんが来てくださって、「ぼくの画集を出してくれませんか?」とお願いしたのが、きっかけになります。

近藤

そのとき私はフリー編集者になって3年目を迎え、今後を模索していました。近藤さんの画集を届けるためにベストな方法を考えたとき、既存の出版社に企画を持ち込むよりは、自分で出版社を立ち上げたほうがよさそうだと思いました。安定感より小回りがきくことのほうが、大切に思えたんです。

西山

そうして、ひとり出版社「月とコンパス」ができたのですね。この社名にはどういう意味が込められているのですか?

心平

月は世界中の誰にも見ることができて、毎日変化しつつも普遍的な存在です。出版社としての理想の姿があります。編集者としては、文房具のコンパスのように自分の軸を大切にしながら、一緒に関わる人と大きな円を描いていきたい、という思いがあります。

西山

素敵です! 3年前から話を進めていたということは、制作にはかなり時間がかかっていますね。

心平

そうですね。まずは近藤さんの手元にあった作品を、すべて見せていただきました。絵を描きはじめた初期の頃から最近のものまで写真にバシャバシャ撮ってずらっと並べて、全体の軸を決めるところからはじまりました。

西山

いろいろな人の画集を参考にしながら、最終的には装丁家の坂川朱音さんと相談して、全体の構成を決めました。カリブーの住む青色の世界から、作品と作品が有機的につながり、ストーリーをつむいでいこうということに。

近藤

年代順やテーマごとに章立てした画集をよく見ますが、普段買わない人にも手にとってもらうには、なにかしらストーリーが感じられたほうが入りやすいですよね。私と近藤さんが組むと、やはり絵本的な作り方になってきますよね。

西山

そうそう。過去の作品だけでは、流れをつくるのは難しかったから、多くの絵は画集のために描き下ろしました。それに文月悠光さん※に書いてもらった詩が加わったことで、この世界が完成したと思います。

近藤

※文月悠光:詩人。中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を過去最年少18歳で受賞。近年は、エッセイ集『臆病な詩人、街へ出る。』を発売し、詩の朗読や書評の執筆など幅広く活動中。
http://fuzukiyumi.com/

なるほど。ストーリーを伝える言葉が無い分、読者の想像で世界がどんどん広がっていくような感覚がありました。窓枠のような装丁も、絵の世界への入り口の役割を果たしているような気がします。

心平

今いる現実から、向こうの世界に入るための装置みたいな。そんな感じがしますよね。

近藤

そう、カリブーが「こっちの世界へおいで」と手招きしているみたい。この装丁のおかげで、読まないときでも部屋に飾っておきたくなる本になったと思います。

西山

この画集を読み手にとって特別なものにしたいという思いがあったからね。最初の案では、レコードのジャケットみたいに30cm×30cmぐらい大きいサイズにしようと思ったくらいだから(笑)

近藤
写真は坂川朱音さんの描いた装丁ラフ。絵画を飾るように楽しむための様々な案を経て、現在のドイツ装と型抜き、箔押しを組み合わせた「オリジナル額縁装」が生まれた。ドイツ装は本の開きをよくするため表紙まわりの厚紙を背にかけないよう表裏だけに貼り付けた製本方法。篠原紙工のディレクションで各加工会社の技術を結集し、一点一点、手加工で仕上げられた逸品。
表紙には額縁状に窓が開いていて、付録のリーフレットを差し込むことで、4種類の表紙絵を楽しめるようになっている。リーフレットは、この美しい画集の色を再現しきったサンエムカラーの会長から、読者へのプレゼントだそうだ!

作品から放たれて、広がっていく力

あとがきも、絵と同じように、近藤さんらしいなと思いました。あそこも作品の重要な一部ですね?

心平

「ぼくの絵に下描きはない」という書き出しではじまる、近藤さんのこれまでの歩みは、キャンバス上に偶然生まれた模様に着想を得て、物語を紡いでいく絵の描き方と不思議と重なっています。偶然や直感に身をゆだねることで次の風景が現れるという。

西山

そうなんだ。僕は、ふつうの文章って感じで書いたんだけど(笑)

近藤

近藤さんは、もともと美術の世界を目指していたのではなくて、ある小さなきっかけから”絵描き”になったわけですよね。そういう生き方もまた、夢に向かって一歩踏み出したい人たちへ「自分の心の声に従えばいいんだよ」と優しく背中を押してくれるように思います。

西山

画集を買う側からすれば、ひとり出版という、すごい挑戦をしている西山さんからも、同じくらい力をもらえると思いますよ。

心平

そうですよ。そう簡単にできることじゃないですからね。

近藤

ありがとうございます。これも、近藤さんから一歩踏み出すエネルギーをもらったからだと思います。

西山

やっぱり、近藤さんの自己肯定感の強さって、あのライブパフォーマンスを通じて、音楽から刹那に出る圧倒的なパワー、目の前のお客さんから放たれる生のエネルギーを、常に受け取っているからだと思うんですよ。

心平

それはありますね。ライブをしていると悩んでいる暇が無いというか、常に動こうという気になります。絵を評価してくれるのが美術評論家じゃなくて音楽ファンだというのも、自分にとって大きいですね。反応もすぐに返ってきて、もう純粋に楽しんでくれているので。

近藤

ほんと、音楽ファンと音じゃなくて、”絵”で交流しているのは、近藤さんくらいしかいないですよね(笑) 最後に、おふたりの今後をお聞かせください。

心平

本をもっとつくりたいですね。今回の画集が初めての本だったので、浮かんでいるアイデアをこれからも形にしていきたいです。ライブ活動としては、海外でのパフォーマンスを増やしていきたいと考えています。

近藤

月とコンパスとして、次に刊行したいものは決まっていますが、まずは近藤さんの画集の魅力をもっとたくさんの人に広めていきたいです。フリー編集者としての子どもの絵本の仕事と両輪で、やっていけたらと思っています。

西山

おふたりのこれからがますます楽しみです。近藤さん、西山さん、今日はありがとうございました!

心平

『ここは知らないけれど、知っている場所』

近藤康平
特別寄稿 : 文月悠光(詩人)
翻訳 : 岩渕デボラ
装丁 : 坂川朱音
発行 : 月とコンパス
印刷 : サンエムカラー
製本 : 篠原紙工
箔押し加工 : コスモテック
型抜き加工 : 東北紙業社
プリンティングディレクター : 山根亮一(サンエムカラー)
バインディングディレクター : 吉永久美子(篠原紙工)
寸法 : B4変形(240 x 250 x13mm)
仕様 : オリジナル額縁装(ドイツ装・表紙型抜き・箔押し)60頁
ISBN : 978-4-909734-00-6 定価 : 本体4,700円 + 税

*表紙は窓あきオリジナル額縁装。付録のリーフレットとあわせて4つの表紙絵が楽しめる。初回限定特装版 

https://www.moon-compass.com/

近藤康平画集『ここは知らないけれど、知っている場所』原画展&フェア

  • 函館蔦屋書店(北海道) 1月15日(金)まで開催中
  • ジュンク堂池袋本店(東京) 1月20日(水)〜2月21日(日) 会期中サイン会を開催
  • Book Shop Traveler(東京・下北沢) 2月26日(金)〜3月14日(日)
  • 青山ブックセンター本店(東京・表参道) 3月31日(水)〜4月12日(月)

*会期は変更になる可能性があります。最新情報は、月とコンパスwebサイトをご覧ください。

CREDIT

クレジット

聞き手
303 BOOKS(株式会社オフィス303)代表取締役。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。
執筆
東京生まれ、ベーシスト。アメリカの音楽と風景に憧れ、アメリカのマザーロード「ルート66」を横断するのが夢。現在バンドは組んでおらず、これからの音楽活動に向けて水面下で色々と準備中。多分、ベースよりギターの方が好き。
    撮影
    某研究学園都市生まれ。音楽と東京ヤクルトスワローズが好き。最近は「ヴィブラフォンの入ったレアグルーヴ」というジャンルを集めて聴いている。