VSコロナ コロンビア編

暴力と嘘

この記事は約5分で読めます by ユースケ“丹波”ササジマ

10万円一律給付が話題ですが、シリアスな生活困窮者に対してコロンビアではどのように支援しているのでしょうか? コロナウイルスと戦う世界の様子を紹介する『VSコロナ コロンビア編』。今回は生活困窮者への支援と抗議活動について取り上げます。支援が届かない、足りない等の問題でコロンビア当局と住民が対立するケースが増えていますが、その様子を見ていきましょう。笹島佑介が現地からお伝えします!

生活困窮者の間では食糧不足が深刻な問題になっています。道路を封鎖して鍋を叩きながら「我々は飢えている」と訴える人々の姿が、首都ボゴタ、メデジン、カルタヘナなどコロンビア各地で見られます。

ロックダウンが始まって以来、政府は生活困窮者に対して食糧配給を行っていますが、需要の多さに支援が追いついておらず、いまだに多くの家庭が飢えに苦しんでいるのです。

こうした食糧不足によって、一部では抗議活動が過激化していて、ESMAD(日本でいう機動隊のような組織)が出動する事態にまで発展していて、コロンビア北東部のコダッシという街では機動隊と抗議する若者グループが衝突して、グループの1人が死亡する事件が起きています。

地域住民の話によると、自治体は食糧セットを地域住民に配ったのだがすべての家庭に配給することができなかった。このことに怒った若者グループが暴徒化して衝突に発展したとのこと。
(出典 :
https://www.eltiempo.com/colombia/otras-ciudades/cuarentena-protesta-por-falta-de-mercados-deja-joven-muerto-en-cesar-487726 )

他方では、食べものを求めて略奪行為に走る住民も出てきています。前稿で紹介したように、略奪行為をはたらくグループを捉えた動画を、ボゴタ市長がツイッター上でアップロードしています。

ところで、市長は略奪行為をとらえた動画をアップロードした際、「警察やESMADは市民の抗議活動を止めるためではなく、こうした略奪行為を防ぐために投入されました」というメッセージを添えたのですが、これに対してツイッターユーザーから「嘘つき」「市からの支援がないから略奪するんじゃないか」などの非難が多く寄せられています。

というのも、一部のメディアでは、抗議を鎮圧するために機動隊が子どもやお年寄りがいる抗議グループに対して催涙ガス缶を投げつけたり、警察が空からヘリで住宅地へ催涙ガスを撒いたりしている、というニュースが流れていて、そうした当局の対応と絡めて市長を非難する声がよく見られます。

しかし、私も「そんな対応けしからん!」と思って調べてみましたが、どちらのニュースも怪しいものでした。「機動隊が地域住民に催涙ガスを投げている」、「警察がヘリからまいた催涙ガスで子どもが苦しんでいる」とされる動画の存在は確認できたものの、内容はどちらもそれらしいものが写っているだけ。

しかも出処はフェイスブックのみで、大手メディアも報道しておらず(もちろん大手メディアが報道すること全てが事実とは限りませんが)、情報のソースとしては著しく信憑性にかけます。「当局が意図的に無視してるんじゃないのか!」なんていう人がいるかもしれませんが、汚職や腐敗が問題視されるコロンビアでもさすがにメディアはそこまで腐ってません。

去年行われた大規模デモの際に、抗議していた女性を蹴り倒した機動隊員がいましたが、その出来事はしっかりと大手メディアも取り上げて報道しています。

日本同様、コロンビアにも、なにかにつけて当局側を批判しようとする人がいます。上記の「機動隊が地域住民に催涙ガスを投げている」という動画を上げているフェイスブックのアカウント元を確認すると、「機動隊が抗議者に暴力をふるう」と題した映像をあげていますが、確認してみると過熱した抗議者を盾で防いだりなだめたりしているだけです。

さらに、この動画に登場する男性が「機動隊に3回も蹴られた」と告発していたようなのですが、先日、この男性が嘘をついていたことが明らかになりました。

機動隊に暴力をふるわれたと主張する男性が、普通に歩いていたのに突然足を引きずって歩く姿が写っている。もちろん機動隊は蹴っていない。
(出典 :
https://noticias.canalrcn.com/bogota/criticas-claudia-lopez-por-supuestamente-no-cumplir-normas-de-cuarentena-355991 )

私はコロンビア政府の味方ではありません。もし当局が実際に暴力をもって抗議を鎮圧していたら絶対に許せないですが、情報操作やでっち上げで事実を捻じ曲げる行為も許せるものではありません。

そもそも、機動隊が出動しているのは抗議活動を徹底的に取り締まるためではなく、一部の人の抗議活動が過熱して暴力的な事態に発展する可能性があるからです。

一方で、そうしたことになるのも、抗議している人々が元々暴力的だからというわけではなく、支援を受けられずに食べものも何もない状態でロックダウンを生きのびないといけないというが背景にあることを理解しないといけません。もちろん、それで暴力行為が許されてはいけませんが。

話がそれましたが、とにかく、コロンビアでは国からの補助金や赤い布作戦(#4参照)などの支援活動が続けられていますが、資金不足や情報不足(住所情報のない人が一定数おり、支援物資が届けられない)などの問題があり、そうした恩恵を受けていない人がまだたくさんいるのです。

余談ですが、私が住むメデジンでも食糧支援を求める抗議活動が激しくなって機動隊が出動した地域がありました。当局と地域住民は対立状態にあったのですが、先日、支援物資が届き、平和的な雰囲気で受け渡しが行われたようです。

その中で、地域住民の一人が食糧と引き換えに持っていた手榴弾を当局に渡すという一幕があり、ニュースでは「これぞ人道的な物々交換」と紹介されていて、久しぶりに「自分はコロンビアにいるんだな」と改めて実感しました……。

次回は、4月27日から始まる3回目のロックダウンについて紹介したいと思います。

バックナンバー

VSコロナ コロンビア編

3度目のロックダウン、そして街は再び動き出す。

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執筆・編集・撮影
株式会社オフィス303の元社員。黒豆で有名な兵庫県丹波篠山市出身。2017年に日本を飛び出して1年ほどラテンアメリカ諸国を行脚する。現在はライターやフリー翻訳者として働きながら超低空飛行で生き延びる。