『白鳥の湖』から『ドン・キホーテ』へ。 Kバレエカンパニー 日髙世菜インタビュー

この記事は約10分で読めます by 中根会美

2021年1月、バレエダンサーの日髙世菜さんが、Kバレエカンパニーへプリンシパルとして入団することが発表されました。「プリンシパル」は、バレエダンサーとしてトップの階級。プリンシパルとしての入団は、Kバレエカンパニー史上初のことでした。ルーマニア国立バレエ団にはじまり、アメリカのタルサバレエ、そして現在所属のKバレエカンパニーと、世界のバレエ団で活躍してこられた日髙さん。今回のインタビューでは、Kバレエカンパニーでのデビュー公演となった『白鳥の湖』のことや2021年5月19日に、東京渋谷のBunkamuraオーチャードホールにて上演が始まる『ドン・キホーテ』についてお話を伺いました。

日髙世菜 (ひだかせな)
兵庫県生まれ。4歳よりバレエを始める。2008年バレエコンペティションin奈良シニアの部で一位を受賞。同年、ロシア国立ワガノワ・バレエ・アカデミーに留学。11年ルーマニア国立バレエ団に入団、14年プリンシパルに昇格。「World Ballet Stars」(ニューヨーク)など世界各地でのガラ公演に参加。16年アメリカのタルサバレエに移籍、19年プリンシパルに昇格。数々の作品で主演を踊る。21年1月よりKバレエカンパニーにプリンシパルとして入団。

会場全体が興奮に包まれたデビュー公演『白鳥の湖』

『白鳥の湖』とは?

ロシアの作曲家、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー作の音楽による、クラシック・バレエの名作。同じくチャイコフスキーが作曲した『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』とともに、三大バレエとも呼ばれる。その物語は、オデットが悪魔ロットバルトが呪いで白鳥の姿に変えられてしまう場面から始まる。オデットは、やがて王子ジークフリードと湖のほとりで出会い、恋に落ちる。王子の誠実さに心を許したオデットは、悪魔の呪いのこと、そして夜の間だけ人間の姿に戻れるという自身の悲しい身の上を語る。彼女を救うために永遠の愛を誓う王子。しかし、舞踏会当日、ロットバルトの策略によって王子はオデットによく似たオディールに愛を誓ってしまうのだった……。

3月の『白鳥の湖』の公演、観劇させていただいたのですが、本当に圧巻の舞台で……!
とても感動しました!

中根

ありがとうございます。

日高

カーテンコールの拍手もなかなか鳴り止まなくて。客席全体の興奮が伝わってくるような、そんな熱気が感じられました。歴史的瞬間に立ち会うことができて光栄でした!
日髙さんは、これまで海外で長く活動して来られて、日本での生活は約10年ぶりと伺っています。久しぶりの日本はいかがですか?

中根

日本で秋冬春を過ごすというのはすごく久しぶりです。春の花粉の多さには、久しぶりにちょっと衝撃を受けてしまいました(笑)。でも、日本での暮らし自体はとても快適です。

日高

Kバレエカンパニーでの活動はいかがですか?

中根

11月に入団発表があって、そこから正式な活動が始まる1月までの期間は、すごくプレッシャーを感じていました。東京へ来て、Kバレエカンパニーでリハーサルやレッスンに参加するようになって、最初は慣れない部分もありましたが、カンパニーのみんなが気さくに声をかけてくれたこともあって、すぐに打ち解けることができました。

日高

『白鳥の湖』の公演は、コロナ禍の影響で、約1年ぶりの舞台だったと伺っています。久しぶりの公演はいかがでしたか?

中根

やはり1年間舞台で踊っていなかったので、そのブランクによってどう感じるだろう? という思いはありました。きっと特別な舞台になるんだろうなあと。でも、実際に踊ってみると、意外と平常心でしたね(笑)。公演前、実際に舞台でリハーサルができる期間が短かったこともあって、心のどこかで不安な気持ちはあったのですが、先生方からいろいろなご指摘やアドバイスをいただいて、準備はしっかりできたという感覚がありました。なので舞台では自信をもって、そして思っていたように踊ることができました。日本で踊れるということが幸せなだあ、とも感じましたね。良い空間、幸せな空間にいさせてもらえることにとても感動して。そのときは、ちょっと涙ぐんでしまいました。

日高

デビュー公演から、プリンシパルとして踊るのは、初めてのご経験でしたか?

中根

そうですね。でも、踊っているときは、「プリンシパルとしてお披露目」という気負いはあまり無くて。ただ自分の踊りを日本のお客さまにお見せしたい、という感じでしょうか。「私を見てくださいね」「私とはこういう人間です」という心持ちで踊っていました。

日高

日髙さんは、海外でご活躍されていた間にも、客演などで日本の舞台に立たれる機会はありましたか?

中根

ガラ公演に出演させていただいたことが数回あったくらいですね。

日高

そうすると、あのときオーチャードホールにいた観客のなかには、初めて日髙さんの踊りを御覧になられた方もたくさんいらっしゃったということですよね。

中根

そうだと思います。

日高

では我々は貴重な舞台を見ることができた、ということですね。うれしいです!

中根

『白鳥の湖』を踊ることの難しさ

『白鳥の湖』といえば、だれもが知る名作ですが、日髙さんが初めて主役のオデット/オディールを踊られたのはいつごろですか?

中根

まだルーマニアのカンパニーにいたころでした。当時、私は20代の前半で、まだ主役としての経験は少なかったのですが、いろいろな作品で主役を踊らせていただけるようになってきた時期でした。『白鳥の湖』も、そうした演目のなかのひとつだったんです。でも、実際に舞台で踊ってみると、何か、ほかの作品とはまったく違うなと感じて。ただただ「踊りたい」という気持ちだけではこなせないというか、務まらない役だなというのを強く感じました。やはり、人間ではなく、白鳥を演じなくてはいけないですし。それも、人から白鳥に姿を変えられてしまった少女の悲壮感も出さなくてはいけない。しかし、悲壮感だけかというと、そうではなかったりもする。そのあたりの表現が難しいなと、デビューの舞台では痛感しました。その後、何度も踊らせていただいているのですが、踊るたびに新たな発見がありますね。さまざまな表現の仕方に挑戦しやすい作品であり、役柄なのかなとも思っています。やはり、『白鳥の湖』には、他にはない特別さがあるなと思いますね。

日高

白鳥のオデットと黒鳥のオディールは、見た目の印象からも、真逆の性質をもつ2人なのかな? というイメージがあります。日髙さんは、オデットとオディールのことをどんなふうにとらえていらっしゃいますか?

中根

たしかに、見た目は白と黒ではっきりと違う2人ですが、私は、2人が全くの別人だとは思っていないんです。作品のなかで、ジークフリードがオディールのことをオデットと間違えてしまう場面がありますよね。オディールはオデットと全然違う出で立ちをしています。それなのに間違うということは、きっと、2人にどこか似ているところがあるのだと思うんです。オディールはオデットに無い強さや小悪魔らしさを持っているので、そこは表現しなくてはいけないですが。ただ、振り付け自体が、オデットとオディールではまったく違うものになっているので、感情的なところまでは、意識的に別人として表現する必要はないのかなと私は思っていました。Kバレエの公演では、こうした部分を自分の思う方向性で踊らせていただけたので、ありがたかったなと思っています。

日高

演じる役柄については、どういったことから理解されるのですか?

中根

私の場合、読んだり調べたりするよりは、演じる役に起こる出来事や感情を自分の経験に落としこんでみて、「こういう表現がこの役には合っているかな?」と模索しつつ、踊りの中に取り入れていくことが多いでしょうか。でも、知っていると思う作品でも、もう一度あらすじなどを読んでみて、理解しようとすることもあります。

日高

ご自分の経験に一度置き換えてみて、役を理解されているんですね。

中根
純粋無垢なイメージの白鳥と、妖艶で小悪魔的な魅力の黒鳥。

Kバレエカンパニーならではの結末

『白鳥の湖』は、バレエ団によって結末がちがうのだそうですね。Kバレエカンパニー版では、最後、天国でオデットとジークフリードが結ばれますが、このラストの場面はどんな印象をお持ちですか?

中根

私が過去に踊ってきたバージョンだと、例えば、ルーマニアのバレエ団では、それまでの出来事は全部王子の夢だった、という結末だったこともありました。バレエ団によっては、最後、2人が天国にいったのかどうか、はっきり表現しない場合もありましたね。でも、Kバレエカンパニー版は表現がしっかりとしていて、とてもわかりやすいですよね。やはり、さすが熊川ディレクターの演出だなあと思います。オデットが天国で王子と再会できて、人間の姿で幸せになって。そうして2人の幸せがそのまま続いていくように感じられる終わり方なので、私もとても好きで、素敵な場面だなと思っています。

日高

先日の公演後も、2人が引き裂かれて悲しく終わるより、天国で結ばれる結末の方が、観客側としても救いがあって幸せな気持ちで帰れるなあと感じました。

中根

そうですよね、素敵ですよね。

日高

公演後、熊川さんからは何かお言葉はありましたか?

中根

「ようこそカンパニーへ」と仰ってくださいました。そのお言葉をいただいたときは、「ああ、私も一員になれたんだな」と感じて、とても嬉しかったです。ほかにも、踊りについていくつかアドバイスをいただきました。きちんと覚えておいて、次に『白鳥の湖』を踊る機会には取り入れていきたいです。リハーサルも見ていただいているのですが、やはり一番重要なのは本番の舞台でどう見えるかということなので。終演後にディレクターからアドバイスをいただけたことは、とてもありがたかったですね。

日高

ArtNovel『白鳥の湖』

弊社では、熊川ディレクターにご監修をいただいて、ArtNovel『白鳥の湖』を制作しました。日髙さんもお手に取ってくださったと伺っています。ありがとうございます。

中根

私は公演中にいただいて、千秋楽の前に読むことができました。とても感情移入してしまって、泣きながら読みました。

日高

本当ですか? うれしいです。

中根

千秋楽の前に読むことができて、良かったなと思いました。「ああ、王子ってこんな人だったのか」、「オデットを囲む4羽の白鳥、2羽の白鳥ってこういう存在だったのか」と、文章で読んでみると、すーっと理解できることがたくさんありました。

日高

このArtNovelは、キッズダンサーも含め、若いダンサーの方たちに物語を読んで役の理解を深めてもらおうと始まった企画なのですが、日髙さんは子どものころはどんなふうに役のことを理解していらっしゃいましたか?

中根

先生や親に質問して教えてもらうことが多かったでしょうか。今は、インターネットも身近なので、自分で調べたらわかることも多いかもしれないですね。でもこの本は挿絵もふんだんで、各場面の雰囲気がわかりやすいなと思います。例えばコンクールや発表会でも、きちんと場面の雰囲気を理解して踊れるといいだろうなと思います。もっと早く出会っていたかったですね(笑)。

日高

間もなく開幕!明るい雰囲気をまとった『ドン・キホーテ』

『ドン・キホーテ』とは?

スペインの作家、セルバンテスによる小説をもととしたバレエ作品。理想の恋人、ドルシネア姫の幻影を追って放浪の旅に出た老紳士、ドン・キホーテ。バレエ作品では、彼が旅先のバルセロナで出会う宿屋の娘・キトリとその恋人・バジルを中心として物語が展開される。

間もなく、『ドン・キホーテ』の公演が始まります。『ドン・キホーテ』は、とても明るく、コメディタッチな部分もある作品というイメージですが、ヒロインのキトリはどんなところが魅力なのでしょうか?

中根

やはり、ふつうの女の子ではなくて、誰からも好かれるような、アイドル的存在であるところでしょうか。人一倍元気で活発で、でもかわいらしい部分も人一倍あって。そうした部分を自然に表現できたらなと思いますね。

日高

キトリは、これまで何度も演じてこられた役だと思うのですが、演じられる上で難しいのはどんな部分ですか?

中根

そうですね。これまで、ルーマニア国立バレエ団でも、タルサバレエでも踊ってきた役なのですが、やはりキトリはとても元気な役なので、体力勝負というところがありますね。今回も、『白鳥の湖』と同じく髙橋裕哉さんがパートナーなのですが、『ドン・キホーテ』では組むのが初めてなので、ふたりで体力をふりしぼってがんばっていきたいです。『白鳥の湖』とはまたガラリと雰囲気が変わるので、また違った踊りを見せられるように。髙橋さんともまた違った雰囲気で皆さんにお見せできるように頑張りたいと思います。

日高

『ドン・キホーテ』も、楽しみにしております!本日はお時間をいただいて、ありがとうございました。

中根

CREDIT

クレジット

取材・文
愛知県出身。猿やムササビが日常的に出没する、のどかな村で生まれ育つ。ダイエットアプリと家計簿アプリで記録をつけることが最近の趣味。
    取材
    303 BOOKS(株式会社オフィス303)代表取締役。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。