“3密”を回避するにあたり、刑務所の環境が世界各地で問題となっています。コロナウイルスと戦う世界の様子を紹介する『VSコロナ コロンビア編』。今回はコロンビアの刑務所事情について取り上げます。日本でも大阪拘置所や北海道の月形刑務所で感染者が確認されたことが話題となりました。日本に比べ刑務所の環境が劣悪なコロンビアでは、環境を改善するためにどのような対策を行なっているのでしょうか。笹島佑介が現地からお伝えします!
VSコロナ コロンビア編
175人でロックダウン
日本では拘置所に収容されている人や刑務官の新型コロナ感染がニュースになっていますが、コロンビアも同様です。ビジャビセンシオという都市の刑務所では24人の囚人の感染が確認されていて、そのうちの2人が死亡しているほか、首都ボゴタの刑務所では看守長の感染が見つかっています。
これを受けて、国内の刑務所では、所内を清掃して感染拡大防止に努めていますが、こうした対策では限界があります。なぜなら、刑務所はすでに収容可能人数以上の囚人で膨れ上がっているからです。
現在、コロンビア国内の刑務所には12万人以上(平成30年日本での収容員数は約5万人)の囚人が収容されていますが、実際の収容可能数は8万人で過密状態に陥っています。ある囚人によると、それなりに快適な場所もあるようですが、囚人同士が重なりあって夜を過ごさないといけないほどまでに過密している部屋もあるそうです。
また、所内で提供される食べものの質はとても悪く、病気になっても誰も治療してくれないので自力で治すしかないと語っています。
ところで、こうした刑務所内の劣悪な環境は今に始まったことではなく、昔から改善されることなく現在まで続いているようで、教皇ハベリアナ大学で法学を研究するLiliana Sánchez(リリアナ・サンチェス)氏によると、その背景には劣悪な環境でくらすことも罪を犯したものへの罰の一部という観念がコロンビア社会に存在していることが関係しているようです。
所内環境の問題のほかに、刑務所には新型ウイルスに感染すると重症化しやすい高齢者や基礎疾患をもつ受刑者、妊婦や身体障害者など感染予防に際して特に注意が必要な受刑者がいます。そこで、コロンビア大統領は、刑務所内での感染拡大を防ぎつつこうした人々を優先的に新型ウイルスから守るために、特定の囚人を自宅軟禁にする命令を出しました。
この命令によると、
- 60歳以上のもの
- 妊娠中の女性、もしくは子ども(3才以下)と一緒に刑務所にいる女性
- 基礎疾患があるもの
- 身体障害があるもの
- 勾留中のもの
- 5年までの拘禁刑で服役しているもの
- 現在までに刑期全体の40%を服役したもの
は、刑務所から釈放されて6ヶ月間の間自宅で軟禁状態になります。
しかし、もちろん例外はあります。上記の条件に当てはまる受刑者でも、殺人や婦女暴行、人身売買、テロ行為など(命令文にたくさん列挙されていますが割愛)の重罪で服役しているものは除外されます。
司法大臣によると、この命令で約4000人の受刑者が自宅に戻ることができます。自宅では軟禁状態におかれますが医療サービスは受けることができす。もし自宅軟禁を無視すると、逮捕命令が出て受刑者は元いた場所に送り返されるようです。
しかしながら、こうした対策でも刑務所の環境は劣悪なままです。これを機に、抜本的な解決がなされるとよいのですが、見通しは立っていません。
なお、ロックダウン宣言が出された翌日の3月21日、コロンビア国内の14箇所の刑務所で同時多発的に暴動が起こりました。検察庁によると、23人の死者100人以上の負傷者を出したこの暴動は、政府と対立している極左ゲリラ組織のELN(Ejército de Liberación Nacional)が影で計画したものだと指摘しています。暴動の詳しい動機についてはまだ分かっていませんが、コロナウイルスだけでなく、こうした武装組織の活動もコロンビア国民の不安を煽ります。
次回は、ロックダウン以降増加しているDV問題について紹介します。