VSコロナ コロンビア編

マチスモとDV

この記事は約5分で読めます by ユースケ“丹波”ササジマ

日本でも増加しつつあるドメスティック・バイオレンス(DV)。外出自粛により家庭での過ごし方が変わってきています。コロナウイルスと戦う世界の様子を紹介する『VSコロナ コロンビア編』。今回はコロンビアのDVについて取り上げます。ロックダウン後DVが急増しているコロンビア、その原因や背景にはどのようなものがあるのでしょうか。笹島佑介が現地からお伝えします!
※トップ画像はユースケ渾身のイメージカット(想像図)です。

世界各地でロックダウンによる外出制限が行われている現在、ドメスティック・バイオレンス(DV)の増加が指摘されています。イギリスではロックダウンが始まって以来、DVに関する相談が25%も増えたそうですが、コロンビアでは100%以上も増加しているそうです。

コロンビアでは、ロックダウンが始まった3月25日から4月11までの3週間弱の間、1,674件のDVがあり、去年の同時期と比較する142%も増加しています。今年の1月からロックダウンが始まるまではDVに関する相談が一日で平均50件でしたが、ロックダウン以降は一日100件まで増えています。

コロンビア最大規模の全国紙El TIEMPOの取材に応じた被害者の一人が、「DVから逃げられる唯一の方法は仕事に行くことでした。だからロックダウンが始まると聞いたときに何が起こるかは分かっていました。」と語っているように、外出制限によって被害者はどこにも行けずに、暴力をふるうパートナーと家に閉じ込められて苦しんでいるのです。

また、こちらの女性は「何度も通報しようと試みましたが、パートナーは「子どもがどうなってもいいのか」と脅迫してきて…。でも、周りの人はそうした状況を分かってくれません。」とも話しており、暴力を受けている被害者でもさまざまな理由で家庭内暴力を通報できない人もいるようです。

しかし、コロンビア女性副大統領のマルタ・ルシア・ラミレスは、「家庭とは、誰もが安心できる場所でなければならず、いかなる家庭内暴力も許されてはなりません。こうした暴力に苦しんでいる女性は迷わず相談してほしい」と強く呼びかけています。

どんな理由があっても家庭内暴力は許されないと語る副大統領
(出典 :
https://www.elcolombiano.com/colombia/vicepresidenta-marta-lucia-ramirez-invita-a-denunciar-la-violencia-intrafamiliar-en-la-cuarentena-MB12752718 )

さて、国や宗教に関わらず、ー悲しいことにー、普遍的に見られるDVという家庭内暴力ですが、コロンビアの場合、やはり「Machismo(マチスモ)」という思想がその背景にあることを指摘しないわけにはいかないでしょう。

「Machismo(マチスモ)」とは、スペインやラテンアメリカの国々などスペイン語が話されている国における男性優位主義思想のことを指します。男らしさの優位や男尊女卑などがこの思想に一部になっていて、こうした思想を持つ男性を「Machista(マチスタ)」といいます。

余談ですが、スペイン語でオスは「Macho(マチョ)」といい、日本で筋肉隆々の男性を指す「マッチョ」の語源になっています。つまり、「マッチョ」とは、本来的には筋肉がたくさんあることを意味するのではなく、筋肉をたくさんたたえた「男らしさ」を意味する言葉です。

なので、西城秀樹もカバーした「Y.M.C.A」で一斉を風靡したVillage People(ヴィレッジ・ピープル)の楽曲「マッチョマン」では、「男はみんな筋肉ゴリゴリのマッチョマンになりたい」云々と歌っていますが、厳密にはマッチョマン = 筋肉隆々の男とはならず、「雄々しい男」という意味になります。なお、スペイン語で筋肉ムキムキは「ムスクロソmusculoso 男性の場合)/ムスクロサ(musculosa 女性の場合)」と言います。

話が脱線してしまいましたが、コロンビアでは上記のような男性優位主義思想があり、女性に対するDVを生む要因の一つになっているといわれています。そのDVにはさまざまな種類がありますが、コロンビアの女性相談事務局によると、相談してくる女性がうける暴力のうち、

  • 49%が心理的暴力
  • 28%が身体的暴力
  • 14%が経済的暴力
  • 4.7%が性的暴力
  • その他

のようです。もちろん、家庭内暴力の被害者は女性だけではありません。EL ESPECTADORによると、2020年1月から3月までに起こった15,440件のDVのうち、約77%は女性が被害者のケースですが、約23%は男性が被害者です。

家庭内暴力の被害者は夫や妻などの配偶者だけではありません。家庭内暴力で苦しんでいる子どももたくさんいます。コロンビア家庭福祉機関(Instituto Colombiano de Bienestar Familiar)によると、18才までの未成年のうち41%の子どもが何かしらの形で児童虐待を受けたことあるようで、こうした児童たちによるロックダウンの影響が心配されています。当機関では、3月12日から4月4日までのわずか3週間ほどで、家庭環境に問題がある児童が1,250人も出てきており、対応を進めているようです。

長期間のロックダウンにより、みんなが不安や苛立ちを抱えて生きています。こうしたストレスがDVなどを増加させているのでしょうが、そもそも家庭内暴力とは新型コロナウイルスが現れる以前から存在しているものです。日本でも、具体的な数字こそ出ていませんが、最近ではDVの相談が増えています。コロナ禍の今、家庭内暴力という問題について今一度考えなければいけません。

次回は、ロックダウンで客を一気に失った飲食店の苦境についてレポートします。

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株式会社オフィス303の元社員。黒豆で有名な兵庫県丹波篠山市出身。2017年に日本を飛び出して1年ほどラテンアメリカ諸国を行脚する。現在はライターやフリー翻訳者として働きながら超低空飛行で生き延びる。