「LGBTQ+」が社会で輝くために

セクシャルマイノリティと企業を繋ぐ「JobRainbow(ジョブレインボー)」 とは?

この記事は約9分で読めます by 宗我部香

6月がLGBTQ+を考える「プライド月間」だとご存知の方も多いと思います。まだ日本では話題に出しづらいということもあるでしょう。自分たちが生きている世の中には、自分の思う「普通」や「常識」が当てはまらないことがあります。そして、インタビュアーである私自身もそのことにようやく気付いた1人でもあります。本記事ではプライド月間に寄せ、3回に分けてLGBTフレンドリーな会社の求人を集めたサイト「JobRainbow(ジョブレインボー)」を運営する代表の賢人さんに、マイノリティであるゆえに大変なことや仕事にまつわる話を中心にお聞きしました。

星賢人(ほし けんと)
1993年千葉県出身。2018年に東京大学大学院情報学環教育部卒。孫正義育英財団財団生(一期生)、板橋区男女平等参画審議会委員。自身が感じた社会的少数派に対する就活に疑問を抱き、企業と当事者をマッチングすべく2016年1月に「JobRainbow(ジョブレインボー)」を姉・真梨子さんと設立。

ジョブレインボー代表の星さんにお伺いします。こんにちは。6月はプライド月間ということで、6月中に星さんのインタビュー記事を303 BOOKSのサイトにアップしたいと思っています。

宗我部

あれ、今303 BOOKSさんのサイトのロゴをレインボーにされていますね。

気づいていただけましたか。そうなんです、6月にあわせてレインボー仕様にしました。

宗我部

ありがとうございます。

もしかしたら他の媒体でもお話をされているかもしれないですけども、まず事業を立ち上げられたきっかけを教えていただけますか。

宗我部

立ち上げのきっかけの前に、まずは私自身のライフヒストリーから話すべきかなと。私がLGBTQ+のゲイの当事者だということに気づいたのが中学1年生のときで12才でした。

他の方のお話も伺っていると、自認するのが中学生の頃の方が多いように思います。

宗我部

好きになる性のマイノリティと心とからだの性のマイノリティで異なりますが、いわゆるトランスジェンダーの方は幼稚園や小学校の頃から、例えば小学校の赤いランドセルや黒いランドセルに違和感があって気付くことが多いようです。

割と早い段階から気付く事象があるわけですね。

宗我部

好きになる性のマイノリティだと思春期に違和感を感じる人が多い傾向にあります。ただ遅いと40才とかになってから気づいて、40~50才になってから性別を適合される方もいらっしゃいます。

海外の映画監督にもそういう方がいらっしゃいましたね。

土屋

あ、そうですね、『マトリックス』の。

ウォシャウスキー兄弟がウォシャウスキー姉妹になりましたね。

土屋

そうそう。

へええ、違和感を抱きつつその年齢まで自認していない方もいるのですね。

宗我部

私は私立中高一貫校の男子校でしたが、そのときに周りの友だちは女性の話で盛り上がるようになってきていて……。それに対して自分は同性の友人が気になるようになってきていました。自分は周りと違うのだとはっきり気づいたのが中学校1年生の頃です。でも、そのことは何となく言っちゃいけないことなんだろうなと思っていました。アイドルの話や下ネタが頻発する中で、うまく溶け込むことができませんでした。

男子校だと特にそういった話が多そうです。

宗我部

そもそもゲイであることと関係ないのですが、周囲から自分の仕草を「女々しい」とか「オカマみたい」と言われて、それに対して自分もうまく受け答えができず、いじめられました。特に中学2年生の頃はいわゆる”オネエ”と呼ばれるタレントさんが活躍していた時期で、それはそれで社会的なムーブメントだと思うんですけど、芸人さんたちがそういう人達のことをバカにしたり、落とし穴に落としたりしていると、「オネエはいじっていい存在」と思うんですよ。私も「どんだけ~ってやれよ」といじられたり、下ネタでバカにされて嫌でした。特に嫌だったのが自分で自分を否定してしまうことです。「ホモかよ」とか「オカマじゃねえの」と言われたときに、言葉自体は差別的ですが、ゲイであることは確かだったので、それに対して「違う」と言うたびに自分で自分を否定してしまうことになるんです。

ああ、それはつらい。

宗我部

当時は剣道部に入っていたので、顧問や先輩たちから「女々しいから鍛えなおしてやる」と言われ、竹刀や木刀でボコボコにされました。耐えられなくなって泣きながら部室を出て、そのまま学校に行けなくなってしまったのが中学二年の後半です。そこから1年半不登校になりました。

私立の中高一貫校で1年半不登校になったら結構大変ですよね。

宗我部

大変ですねー。だから高校にあがれないかもしれないってなってしまって。校長面談をして、親も総動員で大変なことになりました。ただ当時は、両親がテレビを見ていてたまたまLGBTQ+のタレントさんが出てきたときに、「気持ち悪い。賢人はこんなふうになっちゃダメだからね」と言われたときにズーンと落ち込みました。家にもいたくないし、学校にも行きたくなくて、ネットカフェ通学をずっとしていました。

ネットカフェ通学って何ですか?

宗我部

学校に行くふりをしてネットカフェに行くんです。午後だけ学校へ行ったり保健室に行ったり。ネットカフェでゲームをずっとやっていたら、オンラインゲームの全国大会で4位になることができたんです。そのときに初めてネット上でたくさん友だちができたんですね。そこで初めてカミングアウトをオンライン上で仲良くしていた友人にしたら「お前はお前だから」と言ってくれて……。

おおー 。

宗我部

そこですごく自分に初めて自信が持てました。ああ、自分のことをこんなふうに世の中に認めてくれる人が、外に出ればいるのだと気づいたんです。自分が今の時代に生まれていなかったらオンラインでこんなにたくさんの人とつながることはできませんでした。それに、インターネットのおかげでLGBTQ+の運動が広がっていると思うんですよね。このときのネットの力が今のジョブレインボーの原動力にもなっています。
大学に入ってからは自分と同じように悩んでいる子や、学校生活でイジメにあったり、メンタル面で不安な子がいたりするんじゃないかなと思って、LGBTQ+サークルの代表になりました。

今はLGBTQ+関連のサークルが結構あるんですか?

宗我部

結構どこでもありますよ。

そうなんですねー。知らなかった。

宗我部

大学に入るまでは、自分がゲイだったので、ゲイ以外の方に会ったことがなかったのですが、初めてそこでレズビアンの方やトランスジェンダーの方、バイセクシャルの方と出会いました。中でも仲が良かったのが、同じ学部だったトランスジェンダーの1学年上の先輩です。彼女は元々高校生まで男性として過ごしてきて、大学に入るときに女性として入学をされた方でした。すごくキレイな方で学校生活を謳歌されていたのですが、3年生の終わりになったときに就活で壁にぶつかりました。エントリーシートって名前の次に性別の欄がありますよね。

そうですね。あれどうしたらいいんですか? そういえば。

宗我部

戸籍上の彼女は男性だけど、生きたい性が女性だったので、どちらにもマルをつけないで真ん中にマルをつけたり空欄にしたり。あとは戸籍上の男性にマルをつけておいて、備考欄に「自分はトランスジェンダーです」と書いていたようです。

男女しかないとややこしいですね。

宗我部

そうですね。

選択肢がそれ以外ないっていうのは、言われて見ればおかしなことです。

宗我部

僕の本の中では自分の性自認どおり書いていいとお伝えしていますが、当時はそういう情報もありませんでした。彼女は悩みながら履歴書の時点でつまずいた。今は私服での面接OKだという会社も増えていますが、5、6年前はリクルートスーツで真っ黒なスーツが当たり前でした。だからリクルートスーツをちゃんと着て、キッチリ就活しなきゃなという感覚があったんです。そうなったときにやっぱり彼女は身体的には男性なので女性のスーツはサイズが上下で合わないんですね。そもそもスーツを着たくないという思いもある。この会社なら大丈夫かと思ってカミングアウトしたらしたで「あなたみたいな人はうちの会社にいないんです」と言われて、そのまますぐ帰されてしまったこともあるんです。

そのまま帰らされたんですか?  面接の途中で?

宗我部

そうですね。

それはショックですね。

宗我部

すぐさまあなたみたいな人うちの会社にいないですと言われて早々切り上げられてしまったようです。

それが言えちゃう人もすごいですね。

宗我部

その面接官もヤバイですよね。

ヤバイですねソレ。

宗我部

今でも我々のもとに相談が来るケースで面接中にハラスメントまがいのことを言われてしまったり、酷いケースだと事前に面接の前に確認事項を渡されて、健康上の問題は無いかとか、LGBTQ+じゃないかと書かされたりする事例もあるんです。そしてLGBTQ+にチェックつけると「面接できません」と言われます。

そんな会社があるんですね。それ最近のことですか?

宗我部

ついこの間です。

本当に何のためにそれをやるのだろう、不思議ですね。

宗我部

彼女は就活を続けるのが苦しくなってしまい、就職もできないとなったときに、そこから学校にも来なくなってしまいました。そもそも彼女は親にカミングアウトしてから勘当されていて、生活費も学費ももらっていなかったんです。いわゆるニューハーフヘルスといわれるトランスジェンダーの方の風俗店で働きながら学費と生活費稼いでいました。だから彼女にとって、お昼の仕事で生きていく“就職”は人生にとって大きな意味があったんです。

自分で学費も生活費も出してすばらしいですよ。

宗我部

結局彼女は学校へ行っても学費が無駄だとすぐ辞めてしまいました。そもそもLGBTQ+であることと仕事の能力は全く関係がないのに、そこで評価されてしまうのはつらいし悔しいと思いました。労働人口が少子高齢化で減ってきている中、多様な人材が活躍できないことは日本社会にとって大きな機会損失だと思います。社会にとっても当事者にとってもWIN-WINな関係は絶対にあると思ったんですよね。そこで双方を橋渡しできる存在になろうと「株式会社JobRainbow」を、2016年1月、私自身が学生だったころに立ち上げました。

大学院生のときですか。

宗我部

そうですね。1年目はもう年商10何万とかで全然でした。けれど、学生向けのビジコン(ビジネスコンテスト)や、アクセラータプログラムなどができ始めていたころだったので、結構応援してもらえたんですよ。ビジコンでは優勝して賞金をもらいました。

「TRIGGER2015」で優勝された。

宗我部

そうです。それで100万円をもらいました。

それを事業資金にされたということですね。

宗我部

サイトを作る資金や経費として使いましたね。ただ本格的にフルコミットしたのは2018年です。

もう今2021年だから3年。満3年ぐらいですね。

宗我部

そうですね。全力になってからはそれぐらいです。

結構大きくなられたんじゃありませんか? この3年で。

宗我部

もちろん規模感としては大きくなったかなと思います。従業員でいうと、当時は姉とふたりで立ち上げて、社員はゼロみたいな感じでしたが、そこから今は社員全体で8名です。

すごい。

宗我部

最初と比べたら大きくなりましたけど、ただ当時思い描いていた規模感ほどはまだ大きくなれていないので、そういう部分では本当にまだまだでこれからです。

東京オリンピックをきっかけに大手企業を中心にダイバーシティ担当が誕生

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執筆・編集
最近は303BOOKSの動画を担当していることが多い一応編集者。私立中学に通う長女に作るお弁当をインスタにアップすることを日課としている。中学2年生と小学5年生の女の子の母。故郷・高知を世界の中心と思っている。
撮影
千葉県千葉市美浜区出身。ゴースト・オブ・ツシマにはまってます。パンダが好き。