VSコロナ コロンビア編

医療の現場で闘う戦士たち

この記事は約4分で読めます by ユースケ“丹波”ササジマ

コロナウイルスと戦う世界の様子を伝えるこの緊急企画「VS コロナ」。第5回はコロンビアの医療の実情を紹介します。ここまで、コロンビアのコロナウイルス対策には、ひょっとしたら日本より進んでいるかも!? と思う部分もありましたが、医療の問題は深刻でした。医療崩壊寸前でギリギリ踏みとどまってくれている、日本の医療の世界を考えるために参考にしてください。笹島佑介が現地からお伝えします。

最初の稿で、コロンビアの心もとない医療体制について触れました。今回のコロナウイルス感染症の拡大は「100年に一度のパンデミック」とも呼ばれるほどなので、欧米などの医療体制が比較的整った国でも医療崩壊の危機に瀕しています。そのため、コロンビアではコロナウルス感染拡大による医療崩壊が心配されています。

もっとも心配しているのは、日夜治療にあたる医師や看護師などの医療従事者でしょう。コロンビアでは感染者が1000人を超え、人手不足や感染を防ぐための防護用品の欠乏、医療機器の不足といった問題をはらむ今の医療現場を心配する声が医療従事者からあがっています。メディアの取材に答えた医師たちによると、上記の問題により、コロンビアの多くの医療機関が平常時でも十分な医療サービスを行える状態ではないようです。いわんや感染爆発時をや ですね。

そうした問題は、医療サービスを提供するための資金不足に気づかせてくれます。フランスのテレビ局の取材に答えた教皇ハベリナ大学(日本では徳川家光が将軍についた年である1623年に創立された首都ボゴタにある大学)のディエゴ・ロッセリーニという医師で疫病学者によると、「コロンビアでは常に公共福祉よりも防衛に多く予算がまわされる」と語っています。

また、厚生・社会保障省大臣フェルナンド・ゴメスは、「コロンビアの医療技術が高いことは国際的によく知られている。…しかし、医師たちが彼らの仕事を十分に行うための資源が必要とされている。」(日本ではあまり知られていないが、コロンビアは医療サービスを求めてさまざまな国から人が訪れるメディカル・ツーリズムの目的地の1つで、とくに美容形成外科の技術の高さで知られる)と言っています。

そうしたことから、同大臣は、医療機関が資金不足に陥って医療サービスが止まる事態を避けるため、医療機関に対して約60億円の予算投入を発表しました。この予算投入は以前から計画されていたみたいですが、状況を見て投入を早めたようです。

こうした動きはあるものの、依然、医療従事者たちは苦しい状況に置かれています。資金不足の病院では、医療現場で使う基準に満たないマスクしか支給されない上、1年近く賃金が未払いのまま勤務している医師もいるようです。

コロンビア医師連合会(la Asociación Médicos Unidos de Colombiaの拙訳)は、こうした窮状の改善を訴えるため、大統領にこういう内容の書状を出しました。

“我々は、政府の方々に知られることなく、流動性の高い雇用システムや非正規雇用、賃金の減少とった悪環境で長い間苦しんできました。今、感染症蔓延防止対策の一端を担う我々医療スタッフは、国にとって不可欠です。スタッフは、倫理と使命を自覚し、覚悟をもって働いております。これまでさまざまな対策がとられてきましたが、いまだウイルス危険に晒されています。”(拙訳)

医師を苦しめるのは医療現場だけではありません。医師への差別です。悲しいことに、日本でも(世界でも)同様のことが起こっていますが、コロンビアも例外ではありません。女医のアンヘル・ビジェガスさんは、仕事帰りに病院の制服(もちろん患者を診たあとに着替えたきれいなもの)でスーパーに入ると、男性店員に「おいネーチャン、出てってくれるか?みんなあんたにはよ出てってほしいねん」(関西弁なのは筆者の母語というだけで他意はない)と言われ、辛さのあまり泣いてしまったそうです。

その後、ただ一人、スーパーの精肉係の男性がスーパー従業員として謝罪を求め、日頃の感謝の念を伝えたそうです。病院の制服を着なくてもいいのでは…とも思いますが、彼女にとっては誇りの証なので着用してるとのことです。もっとも、こうした差別にあわないために、外での制服の着用をやめるように提言している医師会もあるようですが。

ほかの医療従事者の例では、タクシーやバスが乗せてくれなかったり、公共交通機関では周りにいる人が離れていったりすることがあるようです。さらに、医師であることを理由に賃貸を借りられなかったり、住んでいる部屋の大家に別の場所へ移ってくれと言われたりすることがあるようです。

こうした差別に苦しみながらも、医療従事者の方々は死の危険と隣合わせの最前線で、日夜、身を粉にして闘っています。これはコロンビアに限らず、コロナウイルス感染症が拡大しているどこの国でも同じでしょう。

さて、次稿はロックダウン中に起こっているさまざまな問題についてお伝えいたします。

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執筆・編集・撮影
株式会社オフィス303の元社員。黒豆で有名な兵庫県丹波篠山市出身。2017年に日本を飛び出して1年ほどラテンアメリカ諸国を行脚する。現在はライターやフリー翻訳者として働きながら超低空飛行で生き延びる。