個人でもゲーム制作はできる!「ツクラー」の生態 露木佑太郎

今の時代、私たちは何にだってなれるのだ

この記事は約11分で読めます by 笠原桃華

短編RPGを中心に多くのゲームを個人制作されている露木佑太郎さん。第1話では露木さんにインタビューすることとなった経緯や、RPGが好きな理由についてお話しいただきました。第2話では、露木さんがゲームクリエイターとなった経緯や実際のゲーム作工程についてうかがいます。

露木佑太郎(つゆき ゆうたろう)

2015年1月に『RPGツクール』によるゲーム制作を開始し、これまで自作グラフィックの短編RPGを中心に多くの作品を制作してきた。2019年に『リアリティ×マインズ』が「第14回ふりーむ!ゲームコンテスト」のRPG特別賞を受賞。同作は日英2カ国語対応となり、2021年8月31日にSteamにて販売が開始された。現在進行形で新作ゲーム制作に奮闘中。

Twitter作品公開先ブログ「現在進行形」

きっかけはマンネリ打破

そもそもいつからゲーム制作を始められたのでしょうか。

笠原

2015年の1月だったかな。

露木

6年半前! 結構前ですね。これまで何作制作されましたか? 公表してないのとかも含めて…。

笠原

公開しているのが10作くらいで…。それ以外にも短いのも沢山あります。3日で作って、クリアまで5分ぐらいの(笑)

露木
3日で制作したという『覚醒男女』(2016年公開)。主人公エリックは旅の道中で謎の魔術師イザベルを助けるが、その後も勝手についてこられてしまい…?

露木さんって、本職もゲーム関係ですか?

笠原

いや、違いますね。完全に趣味です。

露木

元々、情報系というのかな、プログラムとかを組む学校や職場にいらっしゃったのかなと思ってました。

笠原

そういう感じではないですね。前職は土木業の事務でした(笑) イラスト描くことが昔から趣味で、それでゲームに…って感じです。

露木

確かに絵がとってもお上手ですよね。イラストの延長線上でゲーム作りを始めたというわけですね。

笠原

やっぱり僕もプレーしていて思いました。イラスト上手いな〜って!

安部

え〜うれしいです。ありがとうございます。でも絵とゲームが繋がったのはほんの偶然だったんです。

露木

なんで突然2015年に「何か作りたい」と思ったんですか?

笠原

イラストは好きでずっと続けていたんですけど、なんとなく「飽き」みたいなものも同時に感じていたんですよね。ちょうどその頃に身内が個人制作されたゲームの実況をやっていて、自分の書いたイラストでゲームが作れることを知ったんです。それで「ちょっと作ってみようかな」と。

露木

じゃあ特に身構えずにゲーム制作を始められたのですね。

笠原

Twitter見た感じ、露木さんご結婚されてますよね? 身内さんっていうのは旦那さんかな?

安部

そうです。

露木

お互いゲーム好きって楽しそうですよね〜。いいな〜。

笠原

ウチもまあまあ、そういう感じかも。ただ僕は結婚する前から凄くやってたんだけど、僕のパートナーは結婚するまでゲームのゲの字も知らなかった(笑) 結婚後に凄くやるようになったんだよね。ゲーミングPCも買い出して、一時期なんか僕よりもやってたな(笑)

安部

また本格的な(笑)

笠原

やっぱり夫婦が同じ趣味ってのは良いなとは思うね。一緒に生活していると、何かしらやっぱり影響って受けますよね。

安部

「ツクラー界隈」というのをご存知だろうか

Twitter見ると、今では露木さんの作品のファンアートみたいなのも見かけます。すでに結構ファンをたくさん抱えていらっしゃる…?

笠原

う〜ん、どうだろう(笑) ファンっていうよりかは同じことをしている制作者さんとかが多いですかね。仲間というか…?

露木

ゲーム作るコミュニティーみたいな感じですか?

笠原

多分「ツクラー」って呼ばれていると思うんだけど…。

安部

つくらー…?

笠原

確認なんですが、露木さんが先ほどお話しされていた「個人制作で作られたゲーム」って『RPGツクール』で作られたゲームってことですよね。

安部

そうです。『RPGツクール』を使っています。

露木

『RPGツクール』!? 何ですかそれ。

笠原

『RPGツクール』とは
「プログラムを覚えないで簡単にゲームを作りたい」というユーザーの思いをかなえるために生まれた、簡単にオリジナルRPGを作ることができるソフト。RPGを作るのに必要なグラフィックや音楽データもソフトの中に同梱されているので、アイディアさえあれば誰でも気軽にゲーム制作を始めることができる。

このツールが『ツクール』という名前だから、これを使ってゲームを作る人たちは「ツクラー」って呼ばれているんだよ。

安部

じゃあ露木さんは「ツクラー」なんですね!

笠原

そういうことになりますね(笑)

露木

ツクラーコミュニティー以外にも、多分ゲーム作るコミュニティーっていろんなパターンがあるんですよね。『Unity』とか使って本格的にゲームを作るコミュニティもあるだろうし、割とライトなゲームコミュニティもある。実を言うと、僕も今回調べて知ったんですけども(笑)

安部

『Unity』って何ですか。聞いたことはあるような…ないような…。

笠原

『Unity』っていうのはゲームエンジンですね。

露木

※ゲームエンジンというのは、ゲームを開発のためによく使用する機能を1つのツールにまとめたもの。ちなみに「Pokémon GO」もUnityを使って制作されているのだそう。

各界隈ネットで交流してるんですか。

笠原

そうですね、Twitterとかでやり取りしています。相互で作品をプレーしあったり、相互に協力して作成したり、あとは企画を一緒に練ったりとか…。制作したゲームに使用している音楽も、知人やフォロワーさんに頂いたものを使ってたりして。

露木

いや〜音楽いいな〜と思ってプレーしてたんですよね! 街の音楽とか、あとは森林彷徨ってる時とかの音楽。

安部
『リアリティ×マインズ』の公式トレーラー。

素材のやりとりもあるんですね。じゃあゲーム作り始め当初はそのコミュニティで協力⇨制作⇨発表…というのが露木さんにとっての楽しみ方だったんですかね。

笠原

いや実は作り始めた最初の頃は、今のようにTwitter上で活動していなかったんです。人に見せず独りでやってました。でもその後に、他にも作ってる人がいるって知ってだんだんと繋がっていきました。

露木

『リアリティ×マインズ』では、露木さんの前の作品からキャラクターたちが参加してたりもしたじゃないですか。そういうのはツクラー界隈では良くあることなんですか?

笠原
過去作で登場したアルヴァとリアーナ。他にも『リアリティ×マインズ』ではツクラー界隈の仲間のキャラクターが登場する。

あると思いますよ。自分の過去作からとか、あとは他の方の作品からも借りてきたりするんですけども…。結構作品自体コラボレーションして制作されている方達も見かけます。

露木

この手の味付けは普通のゲームメーカーでもやってますよね。遊び心の範囲内ではあるけど、自分たちのアイデンティティーを確立したいのもあると思う。

安部

ゲームを作るって一体何からするの?

私ゲームするのは好きなんですけど、超ライトユーザーなのであんまりゲームの細かい部分を知らないんです。だから素人として、ゲーム制作の工程が気になります。どんな感じなんでしょうか。

笠原

ん〜〜〜工程…。

露木

自分で作るってまず何から始めるのかなとか…。

笠原

そうだね、ゲームの作り手の世界を知らないと気になる部分だよね。基本的にはストーリーを考えて、制作用のツールを決めて、画像や音声などの素材データを集めて、それらを組み立てていく(プログラミングを行う等)という感じかな。

安部

そうですね。でも使うツールは本当に人によると思います。私は『ツクール』ですけど、さっき安部さんがおっしゃっていたように『Unity』を使って本格的に作成している方もいらっしゃると思います。工程についてもシナリオから作る人もいるでしょうし、グラフィックからというのもあるでしょうし…。

露木

定石みたいなのは特にないんだ。

笠原

例えば〈歌〉で考えてみて。実際に楽器使って音を作ることもあれば、PCの音だけで作るものもある。それに要素だってメロディー、歌詞、編曲って色々あるじゃない。その中でメロディー先行の曲もあれば、歌詞先行の曲だってある。そんな感じかな。

安部

そう言われると分かりやすいです。納得。

笠原

うん、そうですね。私について言うと、今回戦闘システムから作りました。その後にシナリオとか、キャラクターとか…。

露木

シナリオ後なんですか! てっきりシナリオから考えてらっしゃると思っていました! 結構伏線も盛り込んであって世界観がガッチリ組まれていたから…。

笠原

あ、でもあの作品はもしかしたら「男女が入れ替わる要素」を一番最初に考えてたかもしれない…(笑) でも結局その要素を詰めた後は、システムの方ばかりになっていきますよ。

露木

実際のゲームメーカーでも同じだよ。シナリオ先行のパターンもあるし、システム先行のパターンもある。「ゲームプランナー」が最初に世界観を考えて、その後にその世界観に肉付けしていく感じでゲーム冒頭のシナリオを作ってみる、同時に別のゲームプランナーが世界観を考慮しつつバトルシステムなどを考えてみる、みたいのが定番じゃないかな。

安部

 ゲームプランナーとは
その名の通り「ゲームを企画する人」のこと。「ゲーム企画」「ゲームクリエイター」とも呼ばれる。ゲーム制作の工程は大きく分けて4つあり、「企画立案」「制作準備」「制作」「集計・分析・改善」。この中でゲームプランナーは主に「企画立案」と「プロジェクト進行」、「集計・分析・改善」の作業に携わる。

そっか、大手だと分業ですよね。まずプランナーから企画が立ち上がって、その後エンジニアに渡るっていう…。

笠原

そうだね。ま〜正確に言うと、そこからさらにゲームシステムとかも練り込んでいって、全体的なボリューム感が見えてきたところでプロデューサーと予算の話とかが始まる感じかな。

安部

あ〜そうなんだ。

露木

予算的に作れるってなったら、「こんなの作ろうと思ってるけど作れる?」技術者に聞くわけなんですけど、技術者は「できます・できません」と答えるわけです…(笑) あとはこの段階で「こういうゲーム作るとしたらどれぐらいでできる?」とかも聞かれます。僕は技術者側の立場だったから、よく考えて「やっぱこれ無理です、出来ません」とかって言ったりしてね(笑)

安部

じゃあ結構決定権はちゃんとあるんですね。なんかディレクターとかに無茶苦茶なこと言われるのかなと思ってました(笑)

笠原

ま〜でもね、「なんとかしてやって」って言われることもたまにはあるよ。仕方ないから「はい、やります」って返事するんだけど、結局ポシャったりしてね。へへへ(笑)

安部

ポシャる、か〜。私は1人で制作しているので、その辺の議論は無いので自由に作れています(笑)

露木

個人ゲーム制作の醍醐味

やっぱりRPG作るって本当大変なんですよね。実を言うと僕はかつて仕事で関わったことあるんですよ。

安部

そうなんですか。

露木

スマートフォン向けのMMO RPGで、けっこう人数も時間もかけて、なんとかα版として公開したんだけれど、正式公開まではたどり着けなかった。まだスマートフォンでMMO RPGをやるなんて時代じゃなく、ちょっと先取り過ぎたのもあったけど。

安部

MMORPGとは
インターネットを通じて数百人から数千人規模のプレーヤーが同時参加するロールプレーイングゲーム。プレーヤーは用意された仮想世界にアバターとして参加し、仮想通貨やアイテム課金などを利用して衣装や道具を集めたり、イベントを通じて他者との交流を楽しんだりする。大規模多人数同時参加型オンラインRPG。

(引用:https://www.weblio.jp/content/MMORPG)

せっかく命かけて作ったのが出ないって、キツそうですね。

露木

あとは制作スタッフが入ったり抜けたりもあって、業務の引き継ぎ作業とかそういうのもすごく大変だったな。そう考えると、露木さんの置かれた状況の一番いいところは、ほぼ個人制作ゆえ、自分の都合でものごとを進めたり考えたりできることですね。

安部

露木さんの場合は趣味でやってるとおっしゃってましたけど、何というのかな…、やましい気持ち…なんて言ったら語弊がありそうですけど、「有名になりたい」とか「いくら稼ぎたい」みたいな野望は無いんですか?

笠原

私は全然ないです。ツクラー界隈の他の方はわからないですけど…。

露木

いや、いっぱいいると思うよ。特にYouTuberみたいな感じで、今は自分の作品とかでお金を稼げる時代だから。

安部

ですよね〜(笑)

笠原

RPGツクールで作ったゲームでも人気が出て売れているゲームもあるようだし。

安部

漫画やイラストだと、SNSで4コマとかそういうのを自分で載せてバズってどこかの編集者さんの目に止まってプロになる…みたいな流れがあるなと思うんですけど、ゲームってあんまり見たことないです。

笠原

そういうところはゲームメーカー自体に閉鎖的な部分があるかもね。まずゲームメーカーに入るのも大変だし。

安部

あ〜。なかなか厳しいみたいですね(笑)

露木

一昔前まではゲームを作ってたくさんの人に遊んでほしいと思ったら、ゲームメーカーに入るくらいしか選択肢はなかった。でも、今はゲーム制作に関しては以前よりもグッと敷居が下がって個人でもできるようになったし、Steam※のようなプラットフォームを使えば、個人であっても世界に向けて発信、販売することも容易にできるようになった。

安部

※Steam(スチーム)は、PCゲームなどをインターネットでダウンロード販売できるプラットフォーム。手続きを踏めば個人でつくったゲームでも販売することが可能。この記事の第3話で詳しく取り上げます。

門戸は開かれつつあるんですね。

笠原

でもやっぱりゲーム作るのは大変だし、そこから稼げるようになるのはすごく大変だよ。

安部

収益に繋げようとしたら色々制約がありそうですね…。

露木

そういう意味でも、「メジャー」に対して「インディ」が根強く存在してきたのかな。

笠原

などと話しながら、「そもそもインディゲームって何だろう?」という疑問が浮かんできました。次回、第3話ではインディゲームの世界についてお話しをうかがいます。

インディゲームの世界

CREDIT

クレジット

執筆・編集
長野で野山を駆け回り、果物をもりもり食べ、育つ。好奇心旺盛で、何でも「とりあえず…」と始めてしまうため、広く浅いタイプの多趣味。普段はフリーで翻訳などをしている。敬愛するのは松本隆、田辺聖子、ロアルド・ダール。お腹が空くと電池切れ。
聞き手
出版業界やゲーム業界を渡り歩いてきた風来のエンジニア 兼 WEBディレクター。かつて勤めていたゲームメーカーが発売したレトロゲームを数年前から収集し始めたが、数が膨大にあるのと、一部はプレミア価格が付いていて、すべて集めるのは無理と悟った。それでも直近1年間で20タイトルほど購入した。