個人でもゲーム制作はできる!「ツクラー」の生態 露木佑太郎

インディゲームの世界

この記事は約11分で読めます by 笠原桃華

近年よく耳にするようになったインディゲーム。「ニッチな層のディープな需要を掬ってあげる、〈偏愛の結晶〉みたいなものがいわゆるインディゲームなのかな?」、そんなふうに私は思っていたのですが近年はそうでも無いようです。第3話ではゲームクリエイターの露木佑太郎さんに「インディゲームの世界」についてお話をうかがいます。

露木佑太郎(つゆき ゆうたろう)

2015年1月に『RPGツクール』によるゲーム制作を開始し、これまで自作グラフィックの短編RPGを中心に多くの作品を制作してきた。2019年に『リアリティ×マインズ』が「第14回ふりーむ!ゲームコンテスト」のRPG特別賞を受賞。同作は日英2カ国語対応となり、2021年8月31日にSteamにて販売が開始された。現在進行形で新作ゲーム制作に奮闘中。

Twitter作品公開先ブログ「現在進行形」

そもそもインディゲームってなんですか?

『リアリティ×マインズ』はじめとする露木さんの作品って、いわゆる「インディゲーム」なんですよね?

笠原

う〜ん、どうだろう。

露木

このツイートみると、インディゲームとしてピックアップされたのかなと思って。

笠原

私インディゲームっていうもの自体ほとんどやったことがないんですが、例えば『Minecraft』もインディゲームです、よ、ね…?

笠原

いや、あれはもうメジャーになっちゃってるな。開発費すごいかかってるし、今やマイクロソフトさんから出ているからね。スタートはインディだったかもしれないけど、今はそういう括りではないかな〜。

安部

インディゲームか…。私もそんなに遊んでないんですよね…。

露木

そもそもインディゲームの定義が曖昧だよね。国によっても違ったりする。だからそもそも露木さんのいるコミュニティをインディゲームと括るのも微妙なところありますね。

安部

そうですね〜。微妙かも。

露木

私「インディゲーム」っていうものがあること自体、NintendoのYoutTubeチャンネルで『よゐこのインディーでお宝探し生活』見て初めて知りました。国によってもまた違うんですか…。

笠原
2018年に公開された『よゐこのインディーでお宝探し生活 第1回』。

例えば露木さんの今回Steam化された作品は、きっとアメリカから見たら「日本のインディゲーム」になる。でも日本国内でみたらどうかな…と言った感じ。

安部

結構漠然としたジャンルなんですね。一応調べてみると、インディゲームというのは…。

笠原

インディゲーム(Indie game)とは
「Independent game」(独立系ゲーム)の略称で、個人や小規模の開発チーム、新規独立系企業、同人サークルなどによって作られたビデオゲームタイトルの総称である。国内では和製英語の「インディズゲーム」とも呼ばれている。自作ゲームや同人ゲーム、フリーゲームもこれに該当する。

(引用:ニコニコ大百科 インディゲーム

これをみる限り、私の作品はインディゲームですね。

露木

でも近年はインディ市場の様相が変わってきているようですね。ダウンロード配信の一般化で、「インディゲーム」自体の公開性が以前よりぐんと高くなって来ていたりもするから。

笠原

そうね。僕の印象だけど、ここ最近の日本で「インディゲーム」って呼ばれている作品は、ニッチなりにもなんか世界でバーっと広まってるゲームって感じ。

安部

確かになあ。「インディゲーム」っていう市場としてもう確立されてますよね。ライトユーザーの私でもちょっと知っているくらいだし…。今やもう結構お金と結びついてる感じがします。

笠原

一方で露木さんのいるコミュニティーは、こういうこと言うと嫌かもしれないけど、ちょっと閉鎖的なところがありそう。割と強固なコミュニティーとして長く存続し続けてきて、中身の濃いコミュニティーなんだけれど、アウトプットに関してまだまだ…って部分がある印象。基本的に身内で楽しむ非営利的なもの。

安部

私のところはそうですね。でも非営利であってもオープンに活動しているコミュニティーも探せばあるとは思います。

露木

だから、今回露木さんの作品がSteam化されたっていうところについて、僕は「すごい!」って思ったんですよね。結構周りの人からもそういう目で見られたんじゃないかなと思ったんですけど、どうでした?

安部

どうなんですかね(笑)でもフォロワーさんにも何人か個人でSteam化してる人はいます。でも私のように他所から声がかかって…っていうのはあんまり無いですね。

露木

他所っていうのはGotcha Gotcha Games(以下GGG)さんですよね。露木さんは元々作ったゲームを個人的に無料で配信されていたんですが、GGGさんからお声がかかってSteamで世界に有料配信することになったんですよね。

笠原

はい、そうなんです。

露木

Steam化でツクラー界隈から世界へ

私のような初心者からすると「Steamって何?」から始まると思うので一応以下に簡単に紹介します。

笠原

Steamとは
アメリカのValve Corporationが運営しているPCゲーム・PCソフトウェアの配信プラットフォーム。2002年に開始され、ゲーム配信プラットフォームの先駆け的な存在。PCゲームの購入・販売、コンテンツ投稿、コミュニティ参加などができる。世界中のゲーマーが利用しており、2020年の月間アクティブユーザー数は1億2千万人であった。

それから、GGGさんについてもお聞きしてよろしいでしょうか。

笠原

確か、元々KADOKAWAにあった『ツクール』開発部が子会社化したんじゃなかったですっけ。それが去年、2020年と最近なんですよ。『ツクール』の作品を海外に発信するというような方針を確か掲げていらっしゃったと思うんですけど、私はその駆け出しということでお声がけいただいたのかな〜って思ってます。

露木

Gotcha Gotcha Games
過去約30年に渡ってKADOKAWAが作り続けてきた『ツクール』シリーズの事業展開の推進を目的に、KADOKAWAツクール事業部が独立する形で2020年9月に設立された会社。「誰もがゲームクリエイターになれるワクワクする体験を届ける」をミッションに掲げている。

https://www.gotchagotcha.jp

立ち上がったばっかりの会社なんですね。

笠原

はい。今回の件については自分から何か働きかけたわけではないので、最初はびっくりしました。ただ以前、まだGGGさんがKADOKAWAさんから独立されていなかった時代にも一回声をかけていただいたことがありました。そういうご縁はあるかもしれません。

露木

僕、元々ゲームメーカーにいたから感覚としてわかるんだけど、やっぱり「とにかくタイトル数を増やしたい」っていうのも当然あるし、「クオリティの高いゲームを出したい」って想いもあるしで、すごく執念かけてそういうゲームを発掘しているところなんだと思う。

安部

数も大事ですよね。まず人の目に触れなきゃ始まりませんから。

笠原

そう。あと今回露木さんの作品が最終的に選ばれたというのは、その人の何かに多分引っかかるものがあったからだと思うよ。イラストとかね。クオリティーももちろん大切だけど、制作者の熱量とかも大事だから。

安部

実際、この作品1年8ヶ月かけて作ってますもんね。

笠原

そうね。あとは多分ツクラーとして活動してるTwitter上での、何ていうか「ひととなり」とかも見てたかもしれない。まあ、推測だけどね。

安部

えええ…(笑) ありがとうございます!

露木

海外マニア垂涎のJ-indie

Steamというプラットフォームに出品するにあたって英語翻訳は必須だったのでしょうか?

笠原

いえ、そういうわけではないです。日本語だけで出されている方もいらっしゃるはず…。

露木

そうなんですか。今回、英語翻訳するに至った経緯は何かご存知ですか?

笠原

いや…(笑)

露木

まあ海外でも求められているんですよ、こういう日本の方が作ったゲームっていうのは。海外の人から見たらこう言ったものも全部「ジャパニーズ インディゲーム」に該当していて、結構そういうゲームを求めて買ってる層って一定数存在しているみたいだから。

安部

レトロゲームやる人たちみたいな?

笠原

そうそう。スーパーファミコンとか初代Play Station、セガサターンのゲームだって今でも好きでやってる人たち結構いたりするでしょ。

安部

あ〜、確かにYouTubeとかで見かけますね。

露木

きっとそういうニーズを見越して、翻訳にかかる費用と海外に出す費用いろいろ勘定して「いける!」っていう算段になったんじゃないかな。GGGの中の人に聞いてみなきゃわかんないけど(笑)

安部

ともかく、露木さんご本人の意見ではなかったんですね。

笠原

そうですね。声かかったから、「じゃあやってみようかな…」っていう感じです。ノリですね(笑)

露木

翻訳にあたっての準備・対応も露木さんがされたのですか?

笠原

いや! システムへの組み込みはほとんどGGGさんにやっていただいていました。だからそこまで負担はありませんでした。

露木

そういうもんなんだ。僕は露木さんが手を入れたのかなって思ってたんですけども…。

安部

はい。私は意外と作業量で言ったら多くなかったと思いますね。

露木

結構サポートも手厚いんですね。っていうことは、翻訳データチェックもGGGさんがやってくださったんですか?

笠原

あ、翻訳データに関しては私もチェックさせていただきました!

露木

あれも結構な量でしたよね、かなり細かく見て下さって大変助かりました…。私にとっては初めてのゲーム翻訳 だったので悩んだ部分も多くて…。

笠原

何人ぐらいでやってたの?

安部

実際翻訳した人間だけでいうと4人です。3人ネイティブで、私だけノンネイティブでした。途中でメンバー減ったりもして結構大変でした…(笑)

笠原

ローカライズ:文化の違いをどう翻訳するのか

自分の書いたセリフが英語になるってのは露木さんからしたらどういう気持ちなんですか?

安部

なんか新鮮ですよね。「こういう表現するんだ〜」とか、読んでいておもしろかったです。

露木

よくあるのは、例えば日本語のことわざとか使っちゃうと翻訳する時に困っちゃうよね。

安部

あ〜、今回もありましたよ。「見ざる言わざる聞かざる」が元になってるんだろうな〜っていうモンスターが…。

笠原

いましたね(笑)

露木

そうなのよ。だから一回自分の作ったゲームが翻訳のプロセス経る経験をすると、今後のゲーム制作に影響が出てくる可能性あるよ(笑) 「これ英語にすると表現しようがないのかな…」とかちょっと尻込みしちゃうとか。

安部

そうなるんですかねえ…(笑)

露木

少なくとも僕はそういうのを意識しちゃうな(笑)

安部

そこはあまり自分の表現に制限かけずに好きなように作っちゃっていいと思いますけど…。そうもいかないんですか?

笠原

「これ…、これ海外に…通じるのか…!?」って、もう最初から気づいちゃうんだよ。そもそもその文化自体海外にないってなると、シナリオ自体根本から変えなきゃいけくなるパターンもある。実際に後で「絶対こんなの理解できない!」とか言われて「どうしよう…」みたいなこともあるから…。

安部

なるほど。安部さんが以前勤めていたような大手だと、そもそも世界に出すつもりでいるから、企画の段階で十分な配慮が必要になりますね。ローカライズしないと。

笠原

そうなんだよね。単純に「お正月」って言っても海外だと日本の「お正月」とは違ったりするでしょ?

安部

細かいところ考え出すと、文化の違いしかないですよね。翻訳しているとその違いがおもしろかったりもしますけどね。一緒に翻訳やっていたネイティブの上司は、逆に理解不能なストーリー展開や言い回しに遭遇すると「萌える」って言ってました(笑)

笠原

最近はそれを逆手にとって、日本の独特の文化をあえてゴリゴリに表現する手法も増えている気もするね。ゲームやアニメへの興味が強い海外の人たちは、「日本そのもの」に対してもすごく興味をもってくれているようなので、そこを上手く利用しているケースもあるような気もします。

安部

なんかもうゲーム自体が異文化理解のためのツールになってますね。

笠原

翻訳がめちゃくちゃ大変そうですけど(笑)

露木

大変だったと言えば、今回キャラごとの個性の付け方が結構難しかったんですよ。日本語だとまず一人称に男女の差がありますよね。それに加えて「私・わたし・アタシ」とさらに細分化されたニュアンスの違いがあって…。英語だと全部《 I 》になっちゃうので、機械的な翻訳だと個性が消えちゃうんですよ。それをどうやって出そうかなっていうのは少し考えましたね〜。

笠原

へえ〜。

露木

露木さんは結構カタカナ表記も意図的に使われていましたよね。岩のアートを作る魔物のセリフとか…(笑)

笠原
魔物 ったくテメーら超つえーな!つっえーなー! YOU’RE STRONG! SUPER STRONG!
アストレイク ………何だこいつ。 …what’s with this guy?
魔物 オレさー、岩を使ってゲージュツ?を作るのにハマってんだー!けどこんなにブチ壊されるとはビックリだあー!何してくれてんだコラー! I LIKE MAKING ART (?) WITH BOLDERRSS! BUT YOU SURPRISE ME AND SMASH THEMM! WHAT ARE YOU DOING TO ME!!

日本語の表記だと平仮名・カタカナ・漢字の3種類あって、露木さんはそれを組み合わせて微妙なニュアンスの違いを出すのがお上手でした。でも英語の文字はアルファベットのみで、大文字と小文字の区別がつくくらいだから、上の例でいうと全部大文字にしてみたり。

笠原

いや〜、これに関して言うと笠原さんがよく頑張ったなと。

安部

本当ですね。

露木

ありがとうございます、みんなで頑張りました(笑)

笠原

これまで露木さんにお話をうかがってきて、「ゲーム、私もちょっと作ってみたいかも…」という気がしてきました! 第4話では露木さんが実際ゲーム制作に使用されている『ツクール』についてうかがいます。

プログラムが組めなくてもゲームは作れる!?

CREDIT

クレジット

執筆・編集
長野で野山を駆け回り、果物をもりもり食べ、育つ。好奇心旺盛で、何でも「とりあえず…」と始めてしまうため、広く浅いタイプの多趣味。普段はフリーで翻訳などをしている。敬愛するのは松本隆、田辺聖子、ロアルド・ダール。お腹が空くと電池切れ。
聞き手
出版業界やゲーム業界を渡り歩いてきた風来のエンジニア 兼 WEBディレクター。かつて勤めていたゲームメーカーが発売したレトロゲームを数年前から収集し始めたが、数が膨大にあるのと、一部はプレミア価格が付いていて、すべて集めるのは無理と悟った。それでも直近1年間で20タイトルほど購入した。