個人でもゲーム制作はできる!「ツクラー」の生態 露木佑太郎

ゲームクリエイター露木佑太郎

この記事は約10分で読めます by 笠原桃華

こんにちは、笠原です。
過去数ヶ月『リアリティ×マインズ』というゲームの翻訳に携わったのですが、それがなんとたった1人で作られたゲームだと聞き驚いてしまいました。
「個人でゲームを作るって一体どう言うこと!?」、そんな好奇心から同作品の制作者であるゲームクリエイターの露木佑太郎(つゆき ゆうたろう)さんにお話をうかがう機会をいただきました。ゲーム制作経験のある303 BOOKSエンジニアの安部にも聞き手として助けてもらいながら、ゲーム制作の裏側を探っていきます!

はじめに

露木さん、初めまして! 笠原です。本日はよろしくお願いします!

笠原

初めまして! よろしくお願いします。

露木

2人は初めましてなんだね。

安部

そうなんですよ、実際お会いしたのは今日が初めてです。それに今日こうしてパソコンの画面を通してお会いするまで、露木さんが女性でいらっしゃることすら存じ上げずに…。

笠原

紛らわしくてすみません…(笑)

露木

翻訳している間も〈露木佑太郎〉って言うんで、「ゆうたろう…、男性かな?」という印象を受けていたんです。でもインタビュー前に安部さんと一緒に露木さんのTwitterを拝見していたら、「どうも女性らしいぞ」と(笑)

笠原

ちょっと作った感じがするというか、「これ本名ってことは多分ありえないな」って最初思ってたんですよね(笑) それでSNSさかのぼっていったら「女性っぽいぞ」ってなって。

安部

小野妹子が男だと教わった時くらい衝撃的でした(笑) というのも『リアリティ×マインズ』にはキーパーソンとして、ちょっと色っぽいというのか、男好きのしそうな豊満なお姉さんが登場するんですよ。それもあって勝手に男性かなって…。

笠原

ははは(笑) 実は女なんです…(笑)

露木

女性であることを隠したいだとか、そういう動機があって男性っぽい「〜太郎」にされているのかなとも思ったのですがそれもどうも違いますよね。Twitter見ていると女性ってことを隠してらっしゃるわけでもない…ですし。

笠原

はい。全然そういうことは無いですね。

露木

このお名前自体何か由来があるんですか?

笠原

10年以上使っている名前なので正直覚えていないんですよね。まあ実名からちょっと持ってきて…という感じですね。でも意味は特にないです(笑)

露木

何ていうか、ゲーム作るコミュニティ始めこういうところってあんまり本名で活動されてる方いらっしゃらないですもんね。

安部

そうですね。特に深くは考えずこの名前で活動しはじめました。

露木

長編RPG『リアリティ×マインズ』

まず今回のインタビューのきっかけになった『リアリティ×マインズ』について、ご存知ない方のために少し触れておきたいと思います。ネタバレにならない程度に概略を教えていただけますか。

笠原

ごく普通のロールプレイングゲーム(以下RPG)です。ある日、主人公の男の子は知らない女の子と心と身体が入れ替わってしまうのですが、冒険をしながら戻る手立てを探すというストーリーです。

露木
『リアリティ×マインズ』ストーリー
王都の兵士になるため日々剣術を磨く男、アストレイク。いつものように親友と森の中で特訓をしていると、そこで一人の少女に出会ったのだが…突然襲撃され、彼は意識を手放してしまう。しばらくして目を覚ますと……なんと、さっき出会った少女の姿になっていた!?

実は私、プレーしていないんです…ごめんなさい。でもセリフは全て翻訳させていただいたので、何がどうなるのかはきちんと把握しています。安部さんは『リアリティ×マインズ』プレーしたんですよね?

笠原

はい、全部クリアしました。

安部

そうなんですか! ありがとうございます!

露木

最初結構時間かかるかな〜と思ったけど、1日でクリアしちゃいました。

安部

結構懐かしい感じのゲームですよね、古典的なRPGというか。

笠原
ゲーム冒頭、主人公アストレイクとその親友ユーディルが出会う場面。

ちなみに今作は制作時間はどれくらいかかったんですか?

笠原

『リアリティ×マインズ』は、1年8ヶ月ですね。

露木

ひぇ! 20ヶ月!

笠原

僕はそんくらい当然だと思ったよ! そんくらいかかるよ〜、これは〜!

安部

『リアリティ×マインズ』自体、クリア時間の目安は5時間程度でしたっけ。

笠原

そうです。一応公式だと、「本編のみ4~5時間程度、サブイベントを含めると本編+1~2時間程度」ということになっています。

露木

制作期間が1年とか2年かかるっていうのは、個人だろうと企業だろうとあんま変わらないというか。割とこれが普通なのよ。だいたい10時間ぐらいで終わるゲームでも何年かかけてつくられていることもあるよ。

安部

じゃあ『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』(以下ブレワイ)なんて、制作期間すごく長いんだろうな…。私200時間くらい遊びましたけど、そう考えると制作は…。

笠原

『ブレワイ』なんておそらく制作に3年以上はかけてるよ。「基礎研究」っていうのもあって、それなんて含めたらもっとじゃないかな。5年以上かかっていてもおかしくない。さすがに数ヶ月じゃできないよ〜、笠原さん(笑)

安部

5年も! すみません、ナメてました。

笠原

ははは(笑)

露木

うちの会社は「本」を作ってますが、大体「本」も1年ぐらいかけて一冊作っています。厳密にいうと9ヶ月〜1年ぐらい。そう考えればゲームの1年8ヶ月ってのは全然長くも無いなというか。むしろ、露木さんお一人でよく作ったなという印象です!

安部

画面から漏れ出るRPG愛

1年8ヶ月モチベーションをずっと保つのが難しそうですよね。

笠原

まあ確かにそれは難しいですね〜。

露木

だんだん煮詰まってくると「ちょっとやりたくないな〜」とかいう作業も出てくるし。こういうのをはねのけてやり遂げるところがすごいと思います。

安部

悩んだり挫折しそうになった時はありました?

笠原

挫折はなかったですけど、シナリオは1回結構ガラッと変えました。その時やっぱり描き直しが大変でしたね…。あと今回「マップ」※が手書きだったんですけど、これが大変で…。まるっと3ヶ月ぐらい書いてたんじゃないかな。

露木

※マップ:ゲーム内で主人公が動くフィールドのこと。

そんなかかるんだ。

安部

大体1ヶ月間ぐらい、Twitterとか何にも見ずにずっと「マップ」書いてました(笑) 140点以上描きましたので…。

露木
実際露木さんが制作された「マップ」。

ご自分の殻を張れるってのは凄いことですよ。結構みんなそれができないから「もう嫌〜!」ってなっちゃって、間延びして放置しちゃうことの方が多いと思う。多分露木さんはその辺しっかりされていて、作るとなったら「作る!」と。

安部

まあ、当時はそんな感じでした(笑)

露木

制作期間っていうのは毎日作業されていたってことですか?

笠原

時間があったら…って感じですね。でも毎日かと言われたら毎日は時間取れてなかったかもしれないんですけど、コツコツ進めてましたね。

露木

露木さんのTwitterを見ていると結構色々なゲームをプレーされてるなという印象なんですけど、作ってらっしゃるのはRPGがメインですよね?

笠原

作るのはRPGだけですね。戦闘がないアドベンチャー系ゲームを一回作ろうとしたことがあるんですが、やめました。

露木

やめた…。

安部

やめたっていうか、なんか作っていておもしろくなくて。戦ってないと気が済まないんでしょうね(笑)

露木
『リアリティ×マインズ』の戦闘シーン。

アドベンチャーゲームも自分で作らないだけであって、誰かの作品遊ぶのは好きなんですよ。作るのだけは無理でした(笑)

露木

そのあたりも向き不向きみたいなのがあるんですかね。

笠原

今作は結構戦闘システムが凝っているというか、複雑で…。回復とかも結構大変だし、ちゃんと考えてやらないと途中で行き詰まってしまう。連携※とかも凄くあるんですよね。

安部

※連携:一定の条件を満たすと発生する連続攻撃のことで、敵に与えるダメージや効果が大きくなる。

そういうところを見ても、やっぱり「これは戦闘が好きで作ったな」とは感じました。

安部

思い返せば、戦闘に関わる翻訳データもめちゃめちゃ量多かったかも(笑) 戦闘好きなのは何ででしょうかね。

笠原

戦闘も物語の一つになり得る要素だと思っているから…ですかね。例えば連携するシーンであれば、「戦闘時におけるキャラクター同士の関係性」が想像できておもしろいなと思っています。親友同士のキャラクターが連携技を出しているところなら、戦闘という緊張感のある場面でもバッチリ息が合ってるんだろうな~なんて想像するのが楽しくて(笑)

露木

なるほど、そんな楽しみ方もあったんだ…。なんかキュンとしちゃった…(笑)

笠原

それに戦闘という時間が何度か挟まることで、事前に読んだストーリーの余韻に浸れる時間が長くなるというのも大きいです。目的地に辿り着くまでの間に次の展開を予想したりするのが楽しいんですよね。

露木

たしかにRPG遊んでいる時って「さっきのあの発言は…」なんてことが頭にずっと引っかかっていたりしますね…! う〜ん、露木さんのRPGへの偏愛ぶりが出ているなあ(笑)

笠原

あとはやっぱり「達成感」もあります。戦闘ってただ通常攻撃を連打するだけでは勝てないことが多いので、使うスキルとか色々考えながら戦うんですけど、そういった努力によって得られる勝利は気持ちいいですよね。

露木

その偏愛の源泉は…?

そもそもRPGを好きになったきっかけはございますか?

笠原

ドラゴンクエストとかテイルズシリーズとか、その辺の影響が強いと思いますね〜。

露木

※ドラゴンクエストシリーズ:スクウェア・エニックスにより発売されている人気RPGシリーズ。第1作目が1986年に発売されて以来、シリーズ累計出荷・配信数は8,200万本超え。
※テイルズシリーズ:バンダイナムコエンターテインメントより発売されている人気RPGシリーズ。第1作目の販売は1995年。ゲーム始めアニメや漫画など多岐にわたる形態(メディアミックス)での展開が特徴的。

幼少期から遊んでいらしたのですか?

笠原

はい。RPGに関しては小6ぐらいのときくらいから好きになった気がします。ゲーム自体はもっと前から好きで、もっと小さい時は任天堂のマリオやカービィなどのアクションゲームで遊んでいましたね。

露木

あっ、それ私が今でも抜け出していないところです! うちはゲームが禁止の家だったので当初買ってもらうのにだいぶ苦労したんですけど、露木さんのお家はそういうこともなかったんですか。

笠原

なかったですね。普通にやらせてもらえました。

露木

僕の感覚で言っちゃうんですけど、露木さんの作品見ているとテイルズシリーズの方が多分影響大きいのかなって感じがします。

安部

あ〜そうですね。そっちの方が影響受けてると思います。

露木

テイルズやったことないです。

笠原

テイルズは本当に純粋なRPGという感じだね。

安部
1995年からシリーズ累計販売2500万本 を突破している人気シリーズ。

テイルズに対して、スクウェア・エニックスさんのファイナルファンタジー(以下FF)シリーズとかだと、近年はもう「近代化」の道を辿っているっていうかね。世界観が今やもう…なんて言ったらいいんだろうか(笑)

安部

一方で、中世のヨーロッパっぽい世界観の王道のファンタジーを守っているのがやっぱりテイルズシリーズか、ドラクエですね。

露木

へえ〜。

笠原

他のRPGシリーズだとそういう固定観念的なものをあえてぶち破ってきてるもの多いよ。その最たるものがFFシリーズなんだけど。FF15なんて過去の話なのか未来の話なのかすらも全然わからない、もう時代という概念すらよく分からない独特の世界観だよね(笑)

安部
2016年11月29日に発売され、現時点で最新作であるFF15のトレイラー動画。

トレイラー見ました。何ていうかSF映画の世界というのか、これはこれで壮大でおもしろそうですね。

笠原

そうそう。FFに関しても「その世界観が好き!」って人いっぱいいますから。

安部

でも信じられないなあ。90年代にはRPGっていう括りで「FFシリーズ」、「ドラクエシリーズ」、「テイルズシリーズ」が一緒に並んでいたわけですもんね。どのシリーズも時代とともにグラフィックはすごく綺麗になっているけど、世界観で言ったらFFだけはシリーズ通してもの凄く変わってきてますね。

笠原

RPGブームの中でお互い差別化しあってきたんでしょうね。

露木

何が良くて何が悪いではないんだけど、そういう意味では露木さんはストイックなRPGが好きなんだなって。露木さんの作品群を見ていると凄く伝わってきました。

安部

次回、第2話ではRPG好きの露木さんがゲームを作り始めたきっかけについてうかがいます。

今の時代、私たちは何にだってなれるのだ

CREDIT

クレジット

執筆・編集
長野で野山を駆け回り、果物をもりもり食べ、育つ。好奇心旺盛で、何でも「とりあえず…」と始めてしまうため、広く浅いタイプの多趣味。普段はフリーで翻訳などをしている。敬愛するのは松本隆、田辺聖子、ロアルド・ダール。お腹が空くと電池切れ。
聞き手
出版業界やゲーム業界を渡り歩いてきた風来のエンジニア 兼 WEBディレクター。かつて勤めていたゲームメーカーが発売したレトロゲームを数年前から収集し始めたが、数が膨大にあるのと、一部はプレミア価格が付いていて、すべて集めるのは無理と悟った。それでも直近1年間で20タイトルほど購入した。