時代劇に、キュン!

「大江戸捜査網」の巻

この記事は約4分で読めます by 楠本和子

昭和の時代には、毎日のように、テレビで普通に見ることができた時代劇。
令和のいま、その存在のありがたさを思い出しています。
愛すべき時代劇と、時代劇を愛する人たちに、エールを送ります。

バックナンバー

時代劇に、キュン!

「大岡越前」の巻

「__尚、死して屍拾う者無し、死して屍拾う者無し!」

見ている子どもをいきなりビビらせてどうする? と思うような激しすぎるナレーションで始まる、インパクト大の時代劇、それが「大江戸捜査網」だ。

そもそも、「大江戸捜査網」という番組は、テレビ東京系で、1970(昭和45)年から1984(昭和59)年まで放送されていたそうだ(ウィキ情報です)。しかし、関西(神戸市ね)に住んでいた子どもにとって、当時、リアルにオンタイムで見るのは難しかった。たぶん、やっと見始めたのは再放送だったのだろうと思う。サブタイトルに“アンタッチャブル”と銘打ち、昔のアメリカの西部劇か刑事ドラマのようなド派手な音楽がついた、とにかく、ワクワクさせられるオープニングが印象的な時代劇だった。

主役は、杉 良太郎→里見浩太朗→松方弘樹と交代があったが、それぞれが戦隊ヒーローもののように、隠密同心の仲間でチームを組んで闘っていた。

ドラマは、旗本寄合席(旗本の中では位が高い)の内藤勘解由(中村竹弥)の下、秘密警察的な要素を持った隠密同心たちが集結して活躍する物語だ。はっきり言って、各話のストーリーは全く覚えていない。法で裁けない旗本や商人たちの悪だくみを暴いて、大立ち回りで成敗するというのがパターンだった。

そう、この番組の見どころは、大立ち回りにある。つまり、殺陣と呼ばれるチャンバラだ。終盤で悪の巣窟に乗り込んだ隠密同心たちが、一人ずつ順番に名乗りを上げながら登場する。

「貴様、何者だ!」と悪人。すかさず、「隠密同心 十文字小弥太(杉さまです)!」「同じく、井坂十蔵(瑳川哲朗)」……と、順々に襖や障子が(何故か自動で)開き、隠密同心たちが登場するのだ。誰が、どのチームだったかは覚えていないが、不知火お吉(江崎英子)、くれないお蝶(安田道代)、稲妻お竜(土田早苗)、いさり火お紺(山口いづみ)、風(志穂美悦子)、流れ星おりん(かたせ梨乃)…等々、女性陣が出てくると、いつもうっとりしながらテレビに見惚れていた(みんなネーミングが最高っしょ)。それぞれ武家の出だったり、くノ一風(女忍者ね)だったりした。幼い頃から侍になることが夢だった私は、彼女たちの闘いっぷりにしびれまくっていたのだ。

この最後の立ち回りの前には、主役の決め台詞があって、私は特に、伝法寺隼人(里見浩太朗)が名乗りの前に言う、「冥途の土産に聞かせてやろう」という台詞が気に入っていた。

後はもう、隠密同心たちと悪人たちの大チャンバラが始まって、悪人どもはことごとく滅びるのであった。

ところで、隠密なので、それぞれに仮の姿っていうのがある。杉さまは、遊び人の柵次郎。里見さんは、新内流しの音次郎。松方さんは、板前の清次郎。井坂の旦那は素浪人だった(見たまんま…)。私は、里見さん扮する音さんが唄う、新内流しも好きだったな。きれいで優しい歌声だった(「新内流し」は三味線を弾いて、“新内節”っていう流行り唄を唄いながら街を流す芸人のこと)。

時代劇といえば、主人公はだいたい男性だが、女性の存在が欠かせないのもまた時代劇なのだ。芸者、小唄の師匠、料理屋の女将、水茶屋の看板娘、お店の女中、武家の妻女や娘、さらには遊女まで、各々の出で立ちが、各々の身分や職業を表しているのが時代劇のすごさであり、ひと目でそれがわかるのも魅力の一つなのだ。もちろん、男性にも同じことが言えるのだが、女性のほうがバラエティーに富んでいて楽しい。

“稲妻お竜”を演じていた土田早苗さんは、私のご贔屓だった。もちろん現代劇にも出ていたが、時代劇のほうがピッタリだったと思う。着物の裾さばき、抜いた襟の美しさ、所作やちょっとした振る舞い…、どれをとっても役柄によって使い分けられていた。それが子どもの私にもわかったし、とても素敵だった。

とにかく、時代劇には見どころがたくさんあるのだ。長く続いたシリーズには、ストーリーは二の次というものも、まま見受けられたが、それはそれでよかったのだ。

「大江戸捜査網」の最大の魅力は、チャンバラに重きを置いたつくりになっていたことだ。カッコいい隠密たちが、悪人どもを成敗する。この爽快感、最高だ! 

 最後に「大江戸捜査網」のナレーションの一部を紹介しておこう。

 「……身をやつし、姿を変えて敢然と悪に挑む隠密同心に、明日という日は無い…」。

 キャー、カッコいいー!!

バックナンバー

時代劇に、キュン!

「水戸黄門」の巻

CREDIT

クレジット

執筆
神戸市の生まれだが、東京での暮らしも、すでに、ン十年。 根っからのテレビ好きで、ステイホーム中も、テレビがずっとお友だち。 時代劇と宝塚歌劇をこよなく愛している。
イラスト
1994年、福岡県生まれ。漫画家、イラストレーター。第71回ちばてつや賞にて「死に神」が入選。漫画雑誌『すいかとかのたね』の作家メンバー。散歩と自転車がちょっと好きで、東京から福岡まで歩いたことがある。時代劇漫画雑誌『コミック乱』にて「神田ごくら町職人ばなし」を不定期掲載中。