おいしいものを、もうひとつ

だんごの輪島のだんごじゃないほう

この記事は約7分で読めます by 笠原桃華

こんにちは、笠原です。

みなさん、「求肥」をご存知でしょうか?
「求肥」は「ぎゅうひ」と読み、あんみつなどに入っているやわらかくてほんのり甘いお餅のことです。

和菓子好きの身としては「何でそんなこと聞くの!?」と思ってしまうのですが、ある調査では「ぎゅうひ」の認知率が10代では約2割まで低下しているということが明らかになっています。

何となく昨今耳にするようになった〈和菓子離れ〉という言葉。
私の周囲を見る限りでは「そんなことない!」と感じていたのですが、このように数字のデータまで突きつけられてしまうとちょっとさみしい気持ちになってしまいます。

ただ、こうして〈和菓子離れ〉がメディアで騒がれる現代にあっても、「永く愛されている昔ながらの和菓子屋さんだってちゃんとあるもんな〜」なんて思うわけです。

そこで改めて気になったのが、「じゃあ、時代に流されることなく愛される昔ながらの和菓子屋さんってどんなところなんだろう?」ということ。

そんなことを考えながら、今回は「だんごの輪島」を訪問しました。

「だんごの輪島」 概要

「だんごの輪島」は、40年以上続いている街のだんご屋さん。
昭和54年(1979年)に創業し、輪島功一さんが経営されているお店です。

輪島さんと言えば、元プロボクサーで元WBA・WBC世界スーパーウェルター級王者。タレント活動もされていますので、ボクシングに馴染みがない方や若い世代の方でもご存知かもしれませんね。

輪島さんが現役引退を表明したのは昭和52(1977)年7月。
かねてより「自分の店を持ちたい」と思っており、引退を機に色々検討した結果「だんご屋さん」をやることになったそうです。

だんご屋さん開店にあたり、当時有名だった「伊勢屋」で修業すること約半年。
そうして埼玉県の狭山ヶ丘に開店したのが輪島さん念願の1号店、「だんごの輪島」でした。

その後、2号店ができたのが東京の国分寺。
この場所は、当時スーパー・Olympicが目の前にあるという素晴らしいロケーションだったようです。
それに加えて下積み時代に輪島さんがこの街に住んでいたというご縁もあったそうで、最終的にこの地に2号店を出店することになったとのこと。

最近1号店である狭山ケ丘店が閉店してしまったため、現在は国分寺の店舗が「だんごの輪島 本店」となっています。

「だんごの輪島」 本店

現在は2号店ではなく本店となった「だんごの輪島 国分寺店」。
暖簾にも「だんごの輪島 本店」と書いてありますね。

ショーケースの中はこんな感じでいろいろなおだんごが並んでいます。
午前中に行けば大体揃っていますが、夕方前にはほとんど売り切れているなんてことも。

さて、よく見るとおだんごと一緒におにぎり巻き寿司も並んでいます。
「色々あった方がお客さまが喜ぶのではないか」ということで、ご飯ものも一緒に販売しているそうです。

ちなみに、おだんごで一番人気なのは「みたらしだんご」。
ここのみたらしはとろぉ〜りとしたタレがボテッとたっぷりついており、口に頬張った時の幸福感がたまらないんですよね…。

みたらしだんご、ごまだれだんご、あんだんご、きなこだんご、いそべだんごの5本が入った「だんご5本家族」、税込400円。

だんご三姉妹」というユニークな商品もあります。

多くのお店では一本に4つの丸だんごがついているのが串だんご。
ところが1999年に「だんご3兄弟」という歌が流行ったことによって、一本に3つの丸だんごをさすお店が出てきたそうです。

だんごの輪島でもまた「三色団子を三姉妹と名付けて出したら子供たちが喜ぶのではないか」と考え、だんご「三姉妹」を店頭に並べたところ、子供たちが行列をなすほどの大人気となったんだとか。

おだんごやご飯ものに続き、「ファイト最中」や「わじまやき」という商品も。

今川焼、大判焼き、甘太郎…と色々な呼称がありますが、「わじまやき」もその一つ。開店当初から販売しているそうですよ。

ところが唯一「ファイト最中」だけは開店当初にはなかったそうで…。

今回買ったもの…

比較的最近お店に並ぶようになったという「ファイト最中」。
こちらが今回の主役です。

店頭に大きく貼られている「ファイト最中」の紙。

「だんごの輪島」であるということもあり、おだんごがメインです。
そのため、「ファイト最中」は近所に住む人にも意外と知られていない商品なのだそう。

ショーケースに並ぶ「ファイト最中」。1個130円(税込)。

ファイト最中」は一つから購入可。
箱入りでも販売されており、6個入り・10個入りがあります。賞味期限は1週間。
オンラインでの販売には対応していませんが、電話もしくは店頭からの注文で宅配配送もできるそうです。

箱入りは、河童のかわいい包装紙にくるまれています。

ファイト最中6個入り、880円(税込)。

この河童のイラストは、輪島さんのファンの方が書いてくださったものだそう。
おだんごを食べる河童がのほほんとしていてかわいいです。ほっこりしますね。

中身はこんな感じ。

輪島さんのイラストの入ったカードとファイト最中が6つ。
同梱されているカードの裏側。(現在、20個入りの取り扱いはありません。)

カードには、
「ファイト最中は、頑張ってほしい方、何かに挑戦している方のお土産に、ご挨拶のおともにご利用下さい。ぜひ、輪島功一の気合いと共にご利用下さい。 元世界チャンピオン 輪島功一」

気合いと共に食べる最中…。
なんとも熱いお菓子ですが、その熱さのなかに人情的な温もりも感じます。

このカードがあることで、差し上げる相手の方により一層「応援しているよ、ファイト!」という気持ちが伝わりそうですね。

「だんご」じゃないほう食べてみた

「だんごの輪島」自体は有名なので、私も何度かおだんごを購入したことがあったのですが、最中があることはつい最近まで知りませんでした。

国分寺に長く住んでいる方から聞いた「だんごの輪島は実は最中も美味しいんだよ」という話がきっかけでその存在を知りました。 というわけで今回は、実際に生の声を拾った「じゃないほうスイーツ」なのです。

さて、こちらがその「ファイト最中」。

周りの薄紙には、輪島功一さんご自身の書いた言葉が。(達筆!)
「練習は根性 試合は勇気 輪島功一」と書いてあります。
これまた熱いメッセージ!

開けてみるとびっくり。

ボクシングのグローブの型の最中です。

この形、完全・輪島オリジナルだそう。

20年ほど前に当時近くにあったスーパー・Olympic(2005年閉店)の改築があり、そのタイミングで「何か一緒にできないか?」という話が持ち上がって、この最中の開発が始まりました。

そうしてできたのが、この「ファイト最中」。
輪島さんの熱い想いが込められたこのグローブ型最中は、唯一無二の存在です。
電車を乗り継いで国分寺まで買いにくる方もいらっしゃるようですよ。

ちなみにファイト最中、種類は粒あんのみとなっています。

割ってみると中はこんな感じ。

つややかな粒あんがぎっちり。
そしてただようこの皮の香りのこうばしいこと…!
毎日お店で餡を詰めているので、皮もパリパリなのです。

中の粒あんはおだんごに使用している餡子とは別に作っており、こちらは豆感も残しつつトロンととろけるような仕上がりの粒あん。
パリパリの皮に対し甘くトロッと広がる餡で、コントラストのはっきりとした最中になっています。それによって皮への感動も餡への感動もどちらも同じように感じられ、つまり、幸せなバランスです…。

この世にはさまざまな最中の形がありますが、こちらはグローブの腕部分が細身なこともあって、食べても重すぎないという印象を受けました。勉強、仕事など、何かの合間にちょっとつまむのにもちょうど良い大きさとも言えるかもしれません。
先ほど引用しましたが、「頑張ってほしい方、何かに挑戦している方のお土産」にぴったりですね。

おわりに

「だんごの輪島」のすごいところは、有名人の名前を冠したお店でありながら、名前が一人歩きしていないというところ。お店自体がきちんとその街に根付いており、愛されているのです。

取材にあたってもお店のみなさんとてもあたたかく、例えば私が最中の皮を前に息を吸い込んだら「良い香りでしょう〜!」とこちらに満面の笑みを向けてくれたのでした。

お店の方からしたら慣れ親しんでいるであろう最中の皮の香りですが、私と同じ目線に立って一緒になって嬉しそうにしてくれる。なんだかおいしいものを通して心がかよったような、そんな気持ちになり、地域の人たちの心の拠り所になっている場所なのだろうな〜なんて思ったのでした。

頑張る人を応援したいという想いの込められた「ファイト最中」にも通じる温かいまなざしを感じますね。
街に息づく和菓子屋さんとして40年以上愛され続ける理由を垣間見た気がします。

もしみなさんの街にもだんごの輪島のようなお店があったら、ぜひ教えてくださいね。

おいしいものを、もうひとつ。

【取材協力】

だんごの輪島

住所:東京都国分寺市本町4-1-12
TEL:042-323-1611
営業時間:9:00〜17:00
定休日:月曜日、火曜日

CREDIT

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執筆・編集・撮影
長野で野山を駆け回り、果物をもりもり食べ、育つ。好奇心旺盛で、何でも「とりあえず…」と始めてしまうため、広く浅いタイプの多趣味。普段はフリーで翻訳などをしている。敬愛するのは松本隆、田辺聖子、ロアルド・ダール。お腹が空くと電池切れ。