コロナウィルスと戦う世界の様子を紹介する『VSコロナ コロンビア編』。今回は、コロンビアで起きたベネズエラ移民の問題を取り上げます。目に見えない小さなウィルスは、もともと社会が抱えてた矛盾や、ほころびに感染し、その痛みを拡大していくのかもしれません。
VSコロナ コロンビア編
175人でロックダウン
コロンビアには、2015年に始まったベネズエラ経済危機以来、よりよい暮らしを求めてなだれ込んできた人々がたくさんいます。コロンビアには、現在約180万のベネズエラ移民がいると考えられています。その180万のうち、45%は不法滞在、90%は一時的な雇用や路上での呼び売りなど、非正規かつ不安定な仕事をしながらその日暮らしをしている人だと言われています。彼らは、今回のロックダウンで仕事が無くなり、家賃が払えなくなって宿泊施設から追い出され、路上で暮らすことを余儀なくされています。
路上では、移民たちはグループで集まって暮らしていて、ウイルスが広がりやすい環境になっているため、感染予防の観点からもこうした問題は早く解消されなければなりません。しかし、首都ボゴタでは移民たちのためにいくつかの簡易宿泊施設をつくることを検討していますが、現地住民の反対や設置場所の選定に問題があり難航しています。
また、ボゴタ市長が国に対して、「ボゴタ市は移民たちの幼稚園や小学校の費用や食糧を負担している。ただ家賃まではかばいきれない。移民たちが家から追い出されないよう国の援助が必要だ」と求めましたが、政府からの動きはありません。そもそも、コロンビアは自国民の救済で手一杯のように見えます。支援が必要なコロンビア国民はまだまだたくさんおり、ベネズエラの移民まで助ける余裕がありません。
そうした状況が続くなか、祖国に帰ろうとする人が増えています。現在、ベネズエラに帰ろうとする移民の波が、国境に近いブカラマンガやククタといった街に押し寄せていて、ブカラマンガには1000人以上のベネズエラ移民が集まり、国境に接するククタまでの輸送を求めています。また、感染者がどんどん増えている隣国エクアドルにもベネズエラ移民がたくさんおり、コロンビア西部のカリという都市には、エクアドルからの自国を目指すベネズエラ人が多く流れ込んでいます。エクアドルから来た人はウイルスに感染している可能性が高いため、カリ市では到着したらすぐに移民用施設に入ってもらうようです。
ちなみに、エクアドルのみならず、ブラジルやペルーからも、コロナウイルス禍によって仕事や住居を失ったベネズエラ移民が帰国しようとコロンビア国内に集まっています。ロックダウン中の今、公共交通機関を利用するのが難しい上、十分な資金もないため歩いて移動する人もおり、首都ボゴタからベネズエラとの国境に位置するククタまでの600kmを徒歩で移動する移民たちも見られます。そのククタでは、ウイルス感染拡大予防のために3月13日以来封鎖されていた国境が開放され、毎日多くの移民がベネズエラに入国しており、これまで5800人以上が移民が自国へ帰っていきました。
なお、カリ市では移民のためにベネズエラへ向かう航空機を特別に飛ばしており、妊婦や子どもを優先してベネズエラまで送っています。ブカラマンガ市でも移民のためにバスを手配して国境までの輸送を行っているなど、国内各地で移民が帰国できるよう支援する動きが見られます。
さて、無事自国に帰ったベネズエラの人たちが安心して暮らせるかといえばそうでもないようです。あいかわらず経済が安定しておらず2019年時点の失業率は44.3%、食べ物などの物資も不足しているといいます。ただ、少なくとも、風雨を凌ぐ家があって離れ離れになっていた家族と一緒にいられることが大きな救いになるようで、BBCMundoの取材に答えた男性は「向こう(ベネズエラ)の問題は食べ物の不足だけ。家もあるし家族もいるから、あとは何とかなるんじゃないかな」と語っています。
しかし、あいかわらずベネズエラは経済危機の真っただ中でこの先いつ仕事にありつけるか分かりません。コロンビア以上に医療・衛生システムが脆弱なベネズエラで、コロナウイルスの感染が拡大してしまうと大惨事になりかねません。しかし、それでも自国へ帰らざるをえないというのがベネズエラ移民の厳しい現実です。
180万の移民を支えるためには、コロンビアの力だけでは難しく、政府はベネズエラ移民を助けるための国際的支援を世界各国に求めています。こうした呼びかけで必要な資金が集まり、必要としている人に届けばいいのですが。
次回は、ロックダウンで仕事を失った性産業従事者のにスポットを当てたいと思います。