内田麟太郎・石津ちひろトークライブ&サイン会「詩のことば、絵本のことば」レポート

この記事は約5分で読めます by 渡辺葉奈

2023年1月20日、ブックハウスカフェにて内田麟太郎さんと石津ちひろさんによるトークライブ&サイン会「詩のことば、絵本のことば」が開催されました。
2022年11月に『詩303P 内田麟太郎』(303BOOKS)を出版された内田麟太郎さん、『ねことワルツを』(福音館書店)を出版された石津ちひろさん。ことばと戯れるように数々の作品を生み出してきたおふたりが、この2冊が誕生した経緯や「詩のことば」「絵本のことば」について、語ってくださいました。

作品誕生までの道のり

『詩303P 内田麟太郎』が出版されることになったきっかけは、303BOOKSの絵本『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』(文・林木林 絵・こがしわかおり)の刊行記念トークイベントにありました。

打ち上げで、林木林さんとゲストで来ていただいていた内田麟太郎さんが、「石津ちひろさんをお誘いして一緒に詩集のシリーズを出したいですね」という話で盛り上がり、翌日、内田麟太郎さんが「この企画をどこか出版する会社はありませんか?」と、Facebookで呼びかけました。すると、すぐに303BOOKSの代表・常松心平が立候補。打ち上げでふと出た話から、1日もたたずして「詩303P」の詩集のシリーズを立ち上げることが決まり、第一弾の『詩303P 内田麟太郎』が誕生しました。

『ねことワルツを』は、石津ちひろさんのことばに、世界的なピアニストであるフジコ・ヘミングさんが温かい絵で応えてできた絵本です。フジコ・ヘミングさんは、画家の父親の影響で、子どもの頃から絵が得意だったそうです。

石津ちひろさんとフジコ・ヘミングさん、この驚くべきコラボレーションは、フジコ・ヘミングさんの絵に魅了された編集者が、熱意ある手紙を送ったことから実現しました。

編集者が楽屋を訪ねて原稿を読んでもらい、猫好きのフジコ・ヘミングさんが、石津さんの猫への愛情あふれることばに触れ、猫をテーマに絵を描くことになったそうです。

石津ちひろさんは、「最初、フジコさんの絵には、物語よりことば遊びのような文の方が合うと思って、様々な回文やアナグラムなどを考えてお見せしたんです」と、当時のメモを読みながら話してくれました。

最初の絵があがってきたのは3年後。そして、最初のやりとりから12年もの歳月を経て、ようやく完成に至りました。

ふたりの詩人による朗読

内田麟太郎さんは、少年詩の世界はノスタルジーやリアリズムに満ちているけれど、子どもにとっては、やわらかい心を育む詩が必要だと思っていたと話されました。そんな思いを抱いていた時、石津ちひろさんの詩集『あしたのあたしはあたらしいあたし』が出版され、「ああ、こういう人を待っていたんだ」と嬉しかったそうです。

そして内田麟太郎さんは、石津ちひろさんに『ねことワルツを』の表題の詩でもある「ねことワルツを」の朗読をリクエスト。石津ちひろさんは、この詩が完成する前につくった詩も紹介しながら、朗読してくれました。

また、石津ちひろさんが、「作者ではない他の人の声で詩を聞くのが好き」とおっしゃったので、内田麟太郎さんが「あしたのあたしはあたらしいあたし」の詩の朗読をされました。

お返しに、今度は石津ちひろさんが『詩303P 内田麟太郎』の中から、お気に入りの詩を朗読しました。その詩は「さくら」。抽象画のようでありながら、景色が思い浮かぶところに惹かれたそうです。続いて「かける」も朗読されました。

内田麟太郎さんは、この詩集の作品を、「今、この瞬間の目線で書かないと、少年たちには届かない」という思いでつくられたそうです。そして、少年時代をノスタルジックに過去のものとして書くのではなく、少年詩にほしいのは「今」なんですと、熱く語られました。

絵と共にあることば

おふたりに「絵本のことば」についてもうかがいました。

内田麟太郎さんは画家への尊敬と信頼の大切さを語り、「例えば、梅の絵がページの全面に描かれていた時は、絵描きさんがその美しさを十分表現しているのだから、ことばでそれを説明する必要はありません。その場合、絵を活かすことばが必要なんです」と話されました。

石津ちひろさんも、「このページには、どんな絵が描かれるんだろうと、想像しながら書いています」とおっしゃいました。

また、ことばは「重さ」を持っていると語る内田麟太郎さん。絵本では、文字も絵の一部となるということを念頭に置いて、絵とのバランスをとることも重要なのだそうです。

ことばとの向き合い方

最後に会場の方から、「おふたりにとって、ことばとは何ですか」という質問があがりました。

それに対し、内田麟太郎さんは、「詩人はことばを自在に使えていいですね、とよく言われるけれど、詩を書いている人はことばが自在に使えないことを一番自覚している人」と、ご自身のことばとの向き合い方を話してくださいました。

石津ちひろさんは、フランスの詩人ポール・ヴァレリーの「(詩は)鳥のように軽やかでなければならない。ただし、羽のようであってはならない」ということばを引用し、「地に落ちていく羽ではなく、空を飛ぶ鳥のように軽やかで、魂のこもったことばが書けたらいいと思う」とおっしゃいました。

日常のさりげないできごとから、ことばと戯れるように詩を編む、内田麟太郎さんと石津ちひろさん。その温かいことばは、子どもたちだけでなく、わたしたち大人の心もやわらかく包み込んでくれます。

おふたりがどのように「ことば」に向き合ってこられたのかをうかがうことができ、改めて身近なところにある景色や日常のできごとを見つめ直して、ことばにしてみたいと思えるイベントでした。

会場

Book House Café

東京都千代田区神田神保町2-5 北沢ビル1F

「神保町」駅より徒歩1分神保町で唯一の新刊の子どもの本(絵本・児童書)専門店。約11,000冊を揃え、子ども連れに嬉しいカフェスペースやキッズスペースがある。ギャラリーでの展示やイベントも多く開催している。

CREDIT

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執筆・編集
フィルムカメラを持ってお散歩することが大好きで、お散歩途中に素敵な本屋さんやカフェ、居酒屋を見つけるとわくわくする。好奇心旺盛なのでいろんな人のおすすめを試して幅を広げていきたい。
撮影
303BOOKS所属、本の編集者。新日本プロレス、アメフト、プロ野球、ツール・ド・フランス、劇団唐組…これらを見ていると1年が終わります。