獣神サンダー・ライガー 過去・今・そして未来のプロレスへ

すごいもの・かっこいいもの・好きなもの

この記事は約12分で読めます by 三橋太央

前回は、新しいファン層にも広がりつつある「今のプロレス」について語りました。第2回では、獣神サンダー・ライガー選手の趣味や幼少期に触れた「かっこいい」「すごい」の思い出、そして現代のプロレスラーたちの必殺技について、話を聞きました。

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獣神サンダー・ライガー 過去・今・そして未来のプロレスへ

プロレスは今、「かっこいい」

獣神サンダー・ライガー選手プロフィール用画像
獣神サンダー・ライガー
1989年4月24日、東京ドームで獣神ライガーとしてデビュー。同年5月に第9代IWGP Jr.ヘビー級王座に輝き、その後も数々のタイトルを手にした。2020年1月4日、5日『WRESTLE KINGDOM 14 in 東京ドーム』で引退記念試合が行われる。身長170cm、体重95kg。得意技は「ライガーボム」「ロメロ・スペシャル」「掌底」。
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プロレスラーってどんな人?

少しプロレスを離れたところで、ライガー選手のようなプロレスラーがどんなものを「かっけー」「すげー」と思うのか、そのあたりを聞きたいです。

三橋

趣味で言わせてもらったら、魚釣りをするんですよね。だから大きな魚を釣った人を見ると「おわ! すっげー! いいなあ! かっけー!」って思います(笑)その日1番大きな魚を釣った人とかは写真を撮ってもらえるんですよ。俺も写真撮ってもらいてー! みたいになりますね。

ライガー

新日本プロレスは、オカダ・カズチカ選手や鈴木みのる選手も魚釣りがお好きなようですが、なにか親和性があるのでしょうか・・・。

三橋

あと、食虫植物を育てていて。これをまた大きく元気に育てる方が、いらっしゃるんですよ。同じものを育てていても、こんな大きなものに育てることができるんだって。それも「うわー、かっこいいなー!」って思いますよね。

ライガー

育て方が上手いと。

三橋

作品というか、植物全部がかっけーなと思うし。その人がこうして育てたんだよって解説するのも、「へー、そうなんだ。すげー、そうやって作っているんだー、かっけー!」と思うし。すごいこととか、かっこいいことなんて、そこら中に転がっていると思うんですよ。

ライガー

食虫植物は形そのものがかっこいいですよね。

三橋

きれーだよ。ハエトリソウとか、あれ植物だからね。虫が中に入ったら、葉っぱの内側に生えている針みたいな棘があるんです。それに触れたら、閉まるようになっているんです。それ、どうやって進化したらそうなるの?すごくね!? 葉っぱだよ? 葉っぱ! それこそ「すげー!」でしょ。

ライガー

食虫植物は大人になってからの趣味なんですか?

三橋

じつは僕は小学校5年、6年とか、園芸部だったんです。そのときに園芸屋さんの雑誌やカタログを見て、食虫植物があると知ったんです。それで先生に話を聞いて、育てるようになって。それから途切れ途切れで空白の時間はありますけど、今でもやっているという。

ライガー

子どもの頃にかっこいいと思っていたものの造形というか、憧れみたいなものがいろいろあったと思うんですけど。その中のかっこいいの1つのベクトルが食虫植物だったということですか?

三橋

いや、その当時はまだかっこいいじゃなかったかも。虫をとるのがすげーなって。だって、植物って普通は虫に食われる方でしょ? 食物連鎖では。でも、虫食っちゃうんだよ。どうして虫を食おうとしたんだって。お前、何があったんだよ!って。

ライガー

では、かっこいいと思ったものは別にあったと。

三橋

子どもの頃、かっこいいと思ったのは仮面ライダーとかウルトラマンとかですかね。テレビで目から入ってきて、素直に大好きですね。なかでも怪獣。ウルトラマンは毎回ウルトラマンだけど、怪獣は毎回違うじゃないですか。怪獣を見ていて、かっこいいやつとか、強いやつとかいたら、うわっ、すげーなって思っていました。

ライガー

ウルトラマンだけではなくて。悪役と言うとあれですけど、怪獣の方が好きだったんですね。

三橋

好き好き。僕、粘土で怪獣を作ったりするんですけど。怪獣の方が多いですね。ウルトラマンとか、ウルトラセブンとか、あまり作らないですね。

ライガー

怪獣の方が、かっけーと思ったりするってことですか?

三橋

かっこよくないですか? いろんな怪獣がいてさ、すごいよー。あれだけ考えて造形されて。

ライガー

子どもの頃はそういう特撮をかっこいいと思って、園芸部ではすげー植物を見つけて、そこからプロレスに移っていったのはいつでしょうか?

三橋

それも不思議と繋がるんですけど。植物の本を本屋さんに買いに行って。そしたら、プロレスの雑誌がぼーんって置いてあって。藤波辰爾さんがジュニアヘビー級のチャンピオンとして、ベルトを肩に下げて海外から帰ってきたと。それが表紙にバーンって写っていたんですけど、かっこよくてね~。腹筋バリバリでさ。

ライガー

体がすごかったんですね。

三橋

すーごかったですね! バリバリだもん。無駄な肉が一切ないみたいな。「うわ! かっこいい!」と思って、それからプロレスを観るようになった。それまでそんなにね。相撲とかはうちの親父も好きだったんで、観ていたんですけど。プロレスはあまり観たという記憶はないんですよね。

ライガー

スポーツ自体はそんなに?

三橋

やってないです。だって園芸部だもん。野球とか、友達同士ではやっていたけど、所詮その程度で。クラブとかにも入っていなかったですね。

ライガー

ちゃんとやったのは、そこで藤波選手の影響を受けてから体を鍛えるように。

三橋

体を鍛えるというか、こういう体になりたい。自分が細かったし。やっぱりかっこいいなって。すげー、かっこえーって。それまで「プロレスっていつも血流してこええな」と思ったのが、藤波さん場外へ飛んで行ったりするんです。リングの外までびょーんって。「え?」って思いましたね。「すげー!」って。ドラゴンスープレックスとかいろんな技があるし、すごいんですよ。

ライガー

そこで感じた「すごい」からプロレスの道に入っていって。
今は自分がファンからすごいかっこいいと言われる存在になるまで。

三橋

かっこいいって言ってくれる人、いるか?(笑)
俺の体型見てみ? 学校の先生みたいな体型だべ。

ライガー

それこそ、先日鈴木みのる選手との試合のときも、上半身を見て、やっぱりすごいなあって思いました。かっこいいって。

三橋
鈴木みのる選手と獣神サンダー・ライガー選手
2019年10月14日両国国技館にて、鈴木みのる選手(左)と、獣神サンダー・ライガー選手の試合が行われた。この試合では「バトルライガー」と呼ばれるコスチュームで試合に臨み、ライガーの上半身があらわになった。(写真:新日本プロレス)

他のレスラーは普段から裸じゃん? でも俺、普段隠している。だから、例えば20代くらいの清純派と言われている女優さんが脱ぐのと、10年間脱ぎ続けている人。どちらが見たいか? みたいな話なんですよ。

ライガー

それは初めて見る方・・・になりますかね、普通の反応ですと。

三橋

性(さが)ですよね。人としての。それと、一緒なんですよ。

ライガー

なるほど・・・(ライガー選手が20代くらいの清純派ということになっちゃいますが)。

三橋

みんなもすごい体しているの。たなっちょ(棚橋選手)なんてすごいじゃん。

ライガー

でもファンは「ライガー選手があの体を隠しているなんて、もったいない」と思ってますよ。
別のインタビューで棚橋選手も、そうおっしゃっていましたが。

三橋

それは騙されています(苦笑)
僕の手のひらにのせられてね。本当にそう思いますよ。

ライガー

そういう駆け引きがあったとしても、やっぱりみんなかっこいいと思いましたよ!

三橋

ありがたいです(笑)でもまあ、道場とかで若いやつらがガンガン練習をしているのを見ると、俺もやらなきゃいけねえなと思うよね。下手に休んでいると、ライガー休んでばっかり!って言われるのも癪じゃないですか。だから、練習とかやっていた結果が、今までできていたのかなと思うので。自分の生活環境というか、それも上手く動いてくれたなと思います。

ライガー

最近のプロレスラーの技は「かっけー」「すげー」

次は、技の名前とか、技の動きとかで「かっこいい」「すごい」と思うものを、ぜひ聞きたいです!

三橋

やっぱりオカダ選手の代名詞になっている「レインメーカー」。あれはよく考えましたよね。あの至近距離でああいう風な技というのは、受け身取れないし、また回転をうまく使っているから相手がタイミングを図るのも難しいし。あの技はよく考えたなと。あの技はかっこいいですよね。

ライガー
オカダカズチカ選手のレインメーカー
オカダ・カズチカ選手の必殺技「レインメーカー」(写真:新日本プロレス)

オカダ選手は身長も高いですし、腕をふり下ろす感じでそれもかっこいいですよね。

三橋

あとは棚橋選手のハイフライフローですか。ボディプレスですよね。あれも1回体を縮めて、フロッグ式と言うんですけど。彼はそれをリング内だけでなく、場外に飛んでいくときにもやるんですよ。あれは加速つきすぎて自分も危ない技。相手のダメージになっているんですけど、自分にもかかってくる。だから、それをよくやっているなと思いますよね。ただでさえ足とか悪いのに、膝とかね。それは彼のプロ意識というか、為せる技なんですよね。

ライガー
棚橋弘至選手のハイフライフロー
棚橋弘至選手の必殺技「ハイフライフロー」(写真:新日本プロレス)

タッグパートナーとして組むことが多いタイガーマスク選手はどうですか。

三橋

タイガーマスク選手は「タイガースープレックス」とか綺麗でしょ。彼はブリッジが綺麗ですからね。

ライガー

あれってプロでもめちゃくちゃ怖いんじゃないかと思うんですけど、タイガースープレックスって。

三橋

そうなんですよ! タイガースープレックスは、受け身が取れない。めっちゃ怖いです。

ライガー

あの選手のブリッジが綺麗だなとか、あの選手のあの技は危ねえ!というのは選手間でも話したりはするんですか?

三橋

ありますあります。「あの技どうだった?」「いやあ、頭から刺さって・・・」とか。あと、最近ではチェーズ・オーエンズの「パッケージドライバー」。僕はあれ、2回も3回も食らってますけど、あれは食らっちゃだめだよ。

ライガー

ヘナーレ選手は公式コメントで「パッケージドライバーは大嫌いだ」と言っていましたけど。

三橋

でしょ、みんな嫌いですよ!

ライガー

その他に技の名前とかで、語呂がいいなとか、かっこいいなとか好きなのはありますか?

三橋

オスプレイ選手のやつで、「シューティングスタープレス」って名前の技・・・あれは誰が作ったんだろうね(とぼけて)。

ライガー
ウィル・オスプレイ選手の「シューティングスタープレス」
ウィル・オスプレイ選手の「シューティングスタープレス」。すごすぎてよくわからない写真に見えますが、コーナーポストから飛んで、宙返りをしている瞬間です。ここからもう180度回転して体前面を相手に叩きつけます。(写真:新日本プロレス)

あれは・・・だれでしょうか(笑)

三橋

あれは誰がつくったのかなあって(とぼけて)。
あの「シューティングスタープレス」という名前はいいなあって思いますね。

ライガー

名前も、動きもかっこいいですよね。

三橋

動きもかっこいいですね。僕の知っているレスラーが使うんですけど、それは飛距離も出ないし、高さもないんですよ。でも、オスプレイ選手とかが使うのはね、高さもあって、リングの中央まで飛んでいきますからね。どんだけ飛んでるの?って。

ライガー

オスプレイ選手の身体能力は、本当にすごいですね。

三橋

あと、最近なんて言うんだろう。・・・横文字が多くてね。おじさんだめ。カタカナ弱いから。
まだ後藤洋央紀選手の「牛殺し」。かんたんでいいですよね。牛を殺すぐらいすごいんだーって。

ライガー

伝わりやすいですよね(笑)

三橋

うんうん。牛殺すなんてすごいなあみたいな。

ライガー

リングネームでは、怒りの獣神、世界の獣神とか付いていて、そういうところではどうですか?

三橋

真壁選手の「暴走キングコング」。いやですよねー「キングコング暴走してるんだぜ!止めろよ!誰か」って・・・思わず、そうなりますよね(笑)それぐらい暴れっぷりがすごいってことでしょ。

ライガー
真壁刀義選手
真壁刀義は「暴走キングコング」と呼ばれる、新日本プロレス所属の人気プロレスラー。1972年生まれ。パワフルなファイトスタイルが魅力の実力派レスラー。「スイーツ真壁」としてのグルメリポートなど、メディアでの活躍も多い。(写真:新日本プロレス)

インパクトありますよね。たしかに。

三橋

「暴走キングコング」って嫌でしょ(笑)暴走さすなよ、キングコング!って。でも、真壁選手の表情とかね、スタイルとかと、上手く合っているなと思って。

ライガー

ライガーさんは「怒りの獣神」というキャッチコピーですが。

三橋

「怒りの獣神」は入場曲のタイトルそのまんまなんです。それで怒りの獣神なんですけど、僕はいつも怒ってないからね! 僕、そんな怒りん坊おじさんじゃない。そこは誤解なきよう。暴走キングコングとは全然違う。

ライガー

暴走キングコングは、常に暴走しているということでしょうか(笑)
では次は少し話の角度を変えて、試合ではどうですか? すごい、かっこいいと思った試合などあれば。

三橋

う~ん、どうなんだろうな。僕らにとっては「毎日が初日」なので。終わったら、僕にとっては過去なんですよ。次なんですよ。1つにこだわってられないから。

ライガー

1つにこだわり続けない、というのは年間150試合以上やっている新日本プロレスらしい考え方ですね。

三橋

よく「ライガーは何回もIWGPジュニアのチャンピオンになったよね」って言われますけども。同じだけ負けているからね。負けたから、返り咲いているわけ。本当に強い人は1回で終わる。取ってずっと防衛してればね。しょっちゅう負けるから(笑)。返り咲いて、その回数が1番多いとか、記録保持者って、全然言われないから。そういうのは僕、どうでもいい。

ライガー

常に最新、常に前を向くと。

三橋

そう。常に前を向いておかないといけない。それをあらためて気づかせてくれたじゃないけど、大事なものは何かというのを分からせてくれたのは鈴木みのるだよね。この間の一連の抗争があって、両国でシングルをやって。僕、試合が終わった後、彼に「ありがとな」って言ったんです。試合には負けたんですよ。なのにライガー、「ありがとな」ってどういう意味なの?って聞かれたんです。僕は3月に引退発表をして、その引退までちゃんとそつなくこなして、最後まで試合をやり遂げる。それでいいやみたいな、ちょっとどこかで甘えというか、考えがあったんですよね。それを鈴木は見抜いたのかどうか知りませんけど、「新日本のレスラーだったら、どうあるべきなの?」って。猪木さんが言っていた怒り。怒りをリングでぶつけないと、意味がないやんって。それが新日本の闘魂。闘う魂の根源なんだと。怒らなきゃ。そんな腑抜けな気持ちでどうするの?って言われたような気がした。なので、僕の試合が終わった後、そのまま突っ走ろうと思ったし。だから、そういうことに気づかせてくれた鈴木に対して、「ありがとな」って言ったんですよね。最近の自分の大きいターニング・ポイントがそこだから。

ライガー

そうですね。あの試合は・・・(反芻)すごかったですね。

三橋

自分の試合をあげるのもなんですけど、それにしておいてください(笑)。1個ぐらいね、入れてもいいよね。

ライガー

当然だと思います! 今年の1番大きい出来事の1つだと思うので。
いちファンとして、本当にあの試合はすごく心に残っています。

三橋

そんな! ありがとうございます。
じゃあ、それ入れといて(笑)。

ライガー

はい! 最終回は、そんなすばらしい試合をしている新日本プロレスでのライガー選手の思い出、また新日本プロレスはどのように広まっていったか、そして今後どう広めていくかをお聞きしたいと思います!

三橋
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プロレスはまだまだ広がっていく

CREDIT

クレジット

執筆・編集
303BOOKS所属、本の編集者。新日本プロレス、アメフト、プロ野球、ツール・ド・フランス、劇団唐組…これらを見ていると1年が終わります。
撮影
某研究学園都市生まれ。音楽と東京ヤクルトスワローズが好き。最近は「ヴィブラフォンの入ったレアグルーヴ」というジャンルを集めて聴いている。