ほんとうの長田真作、そらごとの長田真作

子どもの視点

この記事は約4分で読めます by 深谷芙実

今回は、長田さんが絵本作家になる前のお話をうかがいます。上京して数年間、学童保育のアルバイトをしていたという長田さん。子どもたちと触れ合う中でなにを感じたのでしょうか。

子どもたちとの出会い

絵本作家になる以前のお話もうかがいたいと思います。長田さんは広島県の高校を卒業して、すぐに上京されたんですよね?

深谷

どうやって親を説得したのか覚えてないんですけど。上京と言ってもなんの手立てもないから、先に上京した姉の家に転がり込んだんですよ。とりあえず東京で、早くいろんなものを見聞きして体験したいと思ってたのかな。大学とか海外留学とかじゃなくて、なんとなく東京で自分自身でウロウロしたいと思ったんです。

長田

上京してすぐに、アルバイトを始めたんですか?

深谷

そうです。東京でウロウロしてたら、ある学童保育の施設に出会ったんですね。そこは、障害のある子どもたちが放課後遊びに来るところ。手描きのチラシに、スタッフ募集!って書いてあって。面接に行ってそのまま働きはじめたんです。入ってみたら、本当にいろんな子どもたちがいっぱいいて。

長田

でもいきなり働き始めて、初めての仕事で、大変だったんじゃないですか?

深谷

それが、いざ子どもたちと遊んでみたら、ただただ楽しかったんですよね。そこでは遊べば遊ぶほど評価されるんです。あ、子どもからね。つまり、遊びが盛り上がってくる。気がとっても合うんです。ひたすら穴をほったり、やたら走り回ったり、あと野球が好きだから、自閉症の子に野球を教えたり。一緒にキャッチボールをしてたらその子の親御さんが感動しちゃったりして。

長田

ご友人で俳優の満島真之介さんとも、その学童で出会ったんですか?

深谷

そうです。同い年で、同じく高校を出て上京してきて、同世代で切磋琢磨する人が、もうお互い自分たちしかいなかったから、気が合ったんですよ。ふたりとも大学に行ってないってところで妙な反骨精神があるから、より充実させたいと思っていて。

長田

満島さんという友人を得て、毎日子どもたちと真剣に向き合っていたんですね。

深谷

僕とあいつのやり方は、根っこの部分でどこか似ているところがある気がしてるんです。それは、“自分がどれだけ楽しめるかを第一に考える”ってこと。もちろん遊びの中での話ですよ。つまり、子どもに合わせてとか、何か定石に乗っとってとかではなく、そこは頑張って工夫して、遊びを自分の中でどれだけ向上させられるか、夢中になれるか、それを遊びながらアドリブで積み上げていく・・・。
もしかしたら、そんな動きが子どもたちにも伝わったのかな。それまで僕自身、学校でちょっと抑圧されてたものが、子どもと改めて遊んでいくうちに自由に動けるようになって。ですから、学童では仕事という責任を持ちながら、すごく楽しんでやってました。学童には5~6年いましたから、子どもたちから本当に多くのものを吸収しました。

長田

自由な目線、正直な目線

長田さんの作品を見ていても、子どもの視点が入っているのはなんとなく感じます。

深谷

まず、子どもたちは理屈じゃないですよね。僕は毎日、彼らの自由を見せつけられてたわけです。いい刺激です。そこには個性って言葉じゃ言い表せないくらいの何かがあって。子どもたちには福祉的に考えるとそれぞれに何かしらハンディキャップがあるけど、思いもよらない行動、言動がたくさんあるんです。僕からするとそっちのほうが印象が強いですね。具体的に説明するのは難しいですが…、やっぱり感性の生き物ですよ、彼らは。

長田

学童でお芝居をやったりもされていたんですよね。

深谷

やりました。僕が絵を描いて、脚本とかを書いて、真之介に劇に出てもらったりして。あ、そうだ絵本『はらぺこあおむし』のパロディとかやりましたね、あおむしが、たべるんじゃなく、カマキリや酔っ払いの神様、欲深いクモと出会っていく・・・。ま、わけわかんないことやってましたね(笑)
でもね、何とか頑張って劇をやっても、子どもたちは正直だから、おもしろくなければ笑わない。つまらなかったら出ていっちゃう。いやあ、あれはこたえますよ…。でもおもしろければ最後まで見てるし、気分が高揚してくると前に出てくるんです。いつでも劇に入っちゃうぞみたいな、あの気持ちっていいなと思って。見る側で気持ちが収まってないんですね。

長田
『すてきなロウソク』(共和国)より。あるとき一本のロウソクをもらった、とんがりあたまのパロムの物語。

そういう活動の中で、人を楽しませる長田さんの表現が磨かれたのかもしれませんね。

深谷

そうかもしれませんね。彼らはね、ストーリーも、やっぱりありきたりなものはだめなんです。ちょっと極端なもの、味があるものじゃないとおもしろいと感じてもらえない。言葉だけで説明してもわからない子もいるから、ストーリーだけじゃなくて声や音も駆使して楽しませないと。だから緊張感はすごくありましたね。

長田

学童の子どもたちは、自分の子どもの頃とは全然違いますか?

深谷

全然違います。自分とは。いやほんとピュアですよー、彼らは。だからよく喧嘩もしました。彼らは怒ったら本気でかかってくるんです。そういうところでちょっと、獣的な要素、原始的な感覚が磨かれましたよね。本当にいい出会いでした。最近はそういう出会い、なかなかないですから。

長田

五味太郎との出会い、絵本との出会い

CREDIT

クレジット

執筆・編集
2014年入社。学校図書館書籍や生物の図鑑などの児童書を担当してきた。おもな担当書籍に『深海生物大事典』(成美堂出版)、『齋藤孝の どっちも得意になる!』(教育画劇)、『MOVE』シリーズ(講談社)など。