ほんとうの長田真作、そらごとの長田真作#3

時代へのまなざし

この記事は約4分で読めます by 深谷芙実

前回は、絵本のストーリーの作り方などをうかがいました。今回は、長田さんが生きてきた時代から受けた影響、現代という時代についてのお話です。

生きてきた時代、今という時代

作家として、今まで影響を受けてきたものはありますか?

深谷

創作物に限った話でいくと音楽、映画、小説…色々ありますけど、どっちかというと僕の世代は、デジタル技術でビジュアル的なものが急速に発達した世代で。僕が幼少期のとき、ちょうど映画やゲームがガラッと変わった時期だったと思うんですよ。まず、画面がメキメキとクリアになっていった。特に映画の『マトリックス』を観たときに、あ、これは大きく何かが変わるなって思いました。少年心に、マトリックスみたいな世界がもしかしたら実現するのかな?と思って。びっくりですよ、そりゃあ。

長田

それは確かに、衝撃を受けた世代かもしれませんね。

深谷

ゲームでも、スーパーファミコンとかで、あの味のある荒い画面でガチャガチャ遊んでいると、ある日突然プレイステーション2ってのが現れて。まさに、画像の解像度とかを、画期的に変えてしまったんですよ。ああいうビジュアルの急速な世界の変化を見てくると、脳がぐっちゃぐちゃになりますよね。でも、いつの間にか慣れてきて、脳はきっちり対応している。こういう変化の積み重ねって、自覚できないほど強い影響ですよね。ともかくこういった物質的なビジュアルの革新というのは、イメージを構成する上でいちばん強い刺激になりましたね、今考えるとね。

長田
『そらごとの月』より。

そんな時代の中で成長してきて、今の時代をどういうふうに捉えていますか?

深谷

間違いなくさらに変わってきてると思います。ほら、SNSとか、デジタルの分野がメキメキ発達してきたおかげで、明確にいろんな価値観を持った人がいるってことがわかったじゃないですか。そういう事実がどっと表に出てきたっていうか。多様化が加速度的に進んだから、これぞ王道、一本筋、というような全体としての動きが少なくなった。それは全体としてすごく良いことだと思うんです。どんどん欲望や悩みを共有できるようになって。いいじゃないですか、いろんな考え方があって、ね。

長田

いろんな人が意見や表現を発信できるようになりましたね。

深谷

一方で、人によっては、思い悩んでしまう時代でもあるかもしれない。もうほんと、情報がありすぎる…。僕の同年代の奴らでも、ただならぬ不安を感じていますね。そこには根深い何かがありますね。

長田

確かに、多くの人が不安を抱えている時代という気はします。

深谷

就職難とか不景気も関係してるだろうし、かつ極端に人に迷惑をかけちゃいけないという意識が強くなればなるほど、ある種独特の抑圧が生まれてしまうのかもしれません。僕の身の周り、同世代についていえば、その空気みたいなものは、何となく感じていましたよ。僕はその空気の中でまわりから見たら、嗅覚に任せて何かやってるのが不思議だと思われがちでしたね。

長田
『ONE PIECE picture book 光と闇と』(集英社)より。人気少年漫画『ONE PIECE』を、長田さんが絵本という表現で新しく描き出した作品。(C)長田真作・尾田栄一郎/集英社

人の感覚に触れる、アナログな表現

長田さんの作品自体は、印刷された本というアナログな表現ですよね。絵本という表現と、長田さんの生きてきた時代には、ある種ギャップがあるじゃないですか。例えばデジタルの分野でアーティストになっていてもおかしくないですよね。

深谷

自分がおもしろいと思えばそうしてましたね。でも単純に僕はいたっての機械音痴なので・・・・・・。

長田

そこは時代の流れとは別に、アナログな絵本という表現を選びとっているわけですよね。それはどうしてですか?

深谷

結局、肉体的な感覚…ま、手足を動かしていたいんでしょうね。アナログなもののほうが、作業として性に合ってる。それにつきますね。紙の感覚、筆の感触、絵の具の匂い、そういったものが好きなだけです。

長田

絵本のようなアナログな表現は、感覚的に読まれる部分が非常に大きくて、そこが面白いのかもしれませんね。

深谷

でも僕は、アナログの方が優れているって言いたいわけじゃないんですよ。デジタルはデジタルで理にかなっている気がするし。うーん、つまり、デジタルかアナログかって話は、あんまり興味がないということです、はい。

長田

今は電子書籍も増えてきていますが、それについてはどう思っていますか?

深谷

書籍のデジタル化については、多くの人に見てもらえる機会になるから、僕としてはいいことだと思ってるんですよ。遠方の人や海外の人が、デジタルでそのビジュアルを見られるようになるのはうれしいですよね。せっかくだからこれからは、デジタルとアナログのいいところを掛け合わせていければいいなって思ってます。

長田

アナログなものを大事にしつつ、時代に合わせて変化していくんですね。

深谷

変わっていく時代そのものが、自分の人間性そのものに影響を与えてるっていうことですね。逆説的に言うと、それぞれの人間性は周りにも大きく影響しますよね。それを伝える手段としては、創作物、アート、これらがとっても強烈なんでしょうね。創作物っていうのはその人が生きているということがそのものであるはずなので。

長田

#4 子どもの視点

ほんとうの星
長田真作
1,800円+税
8月19日(水)発売
そらごとの月
長田真作
1,800円+税
8月19日(水)発売

CREDIT

クレジット

執筆・編集
2014年入社。学校図書館書籍や生物の図鑑などの児童書を担当してきた。おもな担当書籍に『深海生物大事典』(成美堂出版)、『齋藤孝の どっちも得意になる!』(教育画劇)、『MOVE』シリーズ(講談社)など。