2020年代に現れた80年代キュレーター Night Tempo 夜韻 インタビュー

コロナを越えて"昭和"がやってくる!

この記事は約8分で読めます by 常松心平

BaBeの『Give Me Up』を始め、主に80年代日本の昭和ポップスのリエディットを多く手がけるDJ/プロデューサー/キュレーターのNight Tempoさん。2021年1月に新しいアルバム『集中CONCENTRATION』をリリースされ、『ザ・昭和グルーヴ』シリーズも大ヒットしています。最終回の今回は、どうやって昭和のアイテムを探すのか、そしてNight Tempoさんがこれからどこへ向かうのかお話をうかがいました。

Night Tempo
80年代のジャパニーズ・シティ・ポップや昭和歌謡、和モノ・ディスコ・チューンを再構築し、「フューチャー・ファンク」というジャンルを生んだ韓国人プロデューサー兼DJ。米国と日本を中心に活動する。竹内まりやの「Plastic Love」をリエディットして欧米で和モノ・シティ・ポップ・ブームをネット中心に巻き起こした。昭和カセットテープのコレクターでもある。2019年に昭和時代の名曲を現代にアップデートする『ザ・昭和グルーヴ』シリーズを始動。Winkを皮切りに、杏里、1986オメガトライブ、BaBe、斉藤由貴、工藤静香、松原みきとこれまで7タイトルをリリース。同年フジロックフェスティバル'19に出演を果たし、秋には全国6都市を周る来日ツアーを成功させた。2020年2月には東京ドーム ローラースケートアリーナでバースデイ・イベントを開催。
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テープを探せ!

『アイドルを探せ』(1987年)のポスターをお部屋に飾っているんですね! かわいいい!

笠原

そうなんです。ビデオテープでよく見ています。

Night Tempo(以下NT)

菊池桃子さんがお好きで、そうした彼女の昔の作品もご覧になるのですか?

笠原

菊池桃子さんは好きですが、彼女の作品に限らず色々なビデオテープを見ています。当時の女性アイドルやアーティストのものが多いですね。菊池桃子さんは色々な映画に出ているので、出演映画の中でも特に好きな作品はビデオテープを買って見ています。

NT

素敵な趣味!

心平

ビデオデッキは70年代のものです。ステレオがまだなかった時代のデッキです。この頃の作品はDVD化されていないものが多いんですよね。今井美樹さんのものとか、ほとんどビデオテープしかないので。

NT

レコードプレーヤーを持っている若者はいますけど、ビデオデッキなんて……。すごい情熱ですね。どこで購入するんですか?

笠原

オークションやメルカリで購入しています。日本から送ってくれる仲介業者もいるんですよ。

NT

Night Tempoさんは日本に来たときはハードオフに行かれるという話を聞いたんですが。韓国にはそういうお店は無いんですか?

安部

無いです。だから日本に行って、眠っていた中古品を掘り出すのが好きなんです。おじいちゃんたちがコレクションしていたような物を宝探しみたいに。韓国の競馬公園でやっていたフリマにも行ったことがあります。

NT

そうなんですか!

安部

韓国ではMade in Japanのものがあまり出てこないんです。たまにウォークマンとかが、明洞(ミョンドン)で出てるので買ったりするんですけど、状態の良いものは少ないですね。日本だとモノを丁寧に使う方が多いから、状態の良いものが見つかることが多いです。

NT

愛×心配=ストック

レコードもたくさんコレクションされていますよね。「心の一枚」みたいなものはありますか?

笠原

フルアルバムで言ったら、角松敏生さんの『Touch And Go』ってアルバムですね。大好きで、念のためにレコード10枚以上持っています。カセットでも持っています。杏里さんの『Timely!!』はレコードで30枚以上持ってます(笑) 竹内まりやさんの『ヴァラエティ』も10枚以上持っていますね。でも1枚だけと言われたら、やっぱり『Touch And Go』ですね。

NT

ストック30枚はすごい(笑)

笠原
『Touch And Go』角松敏生
1986年に発売された角松敏生、通算6作目のアルバム。後に第28回日本レコード大賞優秀アルバム賞を受賞。角松敏生は杏里のプロデュースでも知られている。「ザ・昭和グルーヴ」シリーズでNight Tempoさんが手掛けた杏里の『Remember Summer Days』『Lady Sunshine』も角松敏生の作品。

敬意をかたちに……名盤へのオマージュ

『Touch And Go』も1曲だけじゃなくて、1枚として聞くものなんです。最初の1曲から順番に。ファーストトラックに『Overture ~Take Off Melody』というイントロがあって、それがこのアルバム全体を説明するように構成されています。このアルバムの影響で、僕も「1枚のアルバムを作りたい!」と思うようになり、今回『集中CONCENTRATION』の制作に繋がっているんですよ。

NT

なるほど。このアルバムでは形式的に角松敏生さんの作品をオマージュされているのですね!

笠原

はい。実は『集中CONCENTRATION』をもとに展示会をしようと考えていて、アルバムにまとめる過程で省いてしまった曲も聴いてもらおうと思っています。音楽だけで歴史を表現するのは中々難しかったので、音楽と一緒に当時の文化や歴史を紹介したいと考えています。まだまだ構想中ですが…。

NT

音楽の展示会ですか。「アート×音楽」だったら聞いたことありますが、「音楽×歴史」の展示会は聞いたことがありません。おもしろそう!

笠原

ナイトスポット梨泰院の「今」

今、韓国は日本よりコロナ禍は落ち着いているとは思うんですが、ライブとかイベントはあまりできないんですか?

心平

韓国はクラブが全部しまっています。クラブが勝手に運営して大きなスキャンダルになったので、そこからイメージが悪化してしまいました。日本では梨泰院がおしゃれで盛り上がっている場所だと思われていますけど……。

NT

ドラマの影響ですね。

心平

そうです。今、梨泰院は完全に終わってます。店も2~3割しか開いていなくて、人がいなくなってます。イメージ悪いですね。梨泰院自体、「クラスターが発生したクラブがある」っていう印象が強い場所になってしまいました。

NT

落ち着いたらやっぱりクラブで早くプレイしたいですか?

心平

それはありますけど……。でも、僕の場合はクラブでDJすることがメインではないんです。どちらかというと曲を紹介する展示やイベントをしたいです。昔の音楽や文化を紹介したい気持ちの方が強いです。

NT

キュレーターとしての表現ですね。

心平

自分のツアーで、日本やアメリカのクラブでプレイするのはありなんですけど…。それ以外でクラブから呼ばれてDJとしてやりたいという気持ちはそれほどありません。それよりは自分が集めている曲をたっぷり紹介できるイベントをやりたいですね。

NT

昭和ポップス愛好会長、次に狙うは……!?

最近Clubhouseで昭和ポップスを紹介するような配信をされていますよね。

笠原

はい。毎晩、夜に合いそうな曲を紹介しています。歌手の方を呼んだりもして。まだ始めてまもないですけど、結構反応良くて、400~500人くらい入ってきてくれます。ここでは自分がやりたかったイベントみたいに、ゆる~く話しながら1曲ずつ紹介しています。「これ今なら安いので、ヤフオクなどで買ってみてください!」とか。愛好会の感覚でやっています。これをリアルでやりたいっていう気持ちが強くあります。

NT

愛好会長ですね(笑)

笠原

僕はもう本当に、昭和のアイドルの方達のためになんでもサポートする準備はできているのでなんでもします。あっ! ダンス以外でお願いします。

NT

今後、『ザ・昭和グルーヴ』で取り上げたいアーティストはいますか?

心平

やっぱり、菊池桃子さんを手掛けてみたいです。あとは自分の原点である中山美穂さん。ほかにも、素敵なお話があって、逆にお名前を出せない方も。あまり名前が知られていないような方の作品もリミックスしてみたいです。まずはちゃんと『ザ・昭和グルーヴ』っていうブランディングをある程度のところまで持っていってから、いろいろとやらせていただきたいと思っています。

NT
2020年にデビューした佐藤ミキのセカンド・シングルをNight Tempoさんがリミックス。インタビュー時点の最新アイテム。これから” 新しい昭和”サウンドを展開していくことに期待!

日本のファンに向けて

SNSで交流があるかとも思うんですが、最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

心平

80年代の音楽や文化を、偏見なしに、外国人でも日本人でも仲良く聴きましょう。音楽専門家の間でもいろいろあるじゃないですか、「これが源流だ」とか「これが出発点だ」とか。僕は全部正しいと思っています。「これが合っていて、これが間違っている」というのは子供のケンカだと思って、僕は見てみぬふりをしています。”けんかをやめて”です(笑)。

NT

みんなが楽しめる場であって欲しいですよね。SNSを通して80年代文化を発信し続けているNight Tempoさんならではのメッセージだと感じました。今後予定されているという展示会も楽しみです! Night Tempoさんのリミックスを通して、これからもさらに『ザ・昭和グルーヴ』が盛り上がっていくことを期待しています。ありがとうございました!

笠原

『集中  Concentration』
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『松原みき – Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』
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CREDIT

クレジット

聞き手
303 BOOKS(株式会社オフィス303)代表取締役。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。
聞き手
出版業界やゲーム業界を渡り歩いてきた風来のエンジニア 兼 WEBディレクター。かつて勤めていたゲームメーカーが発売したレトロゲームを数年前から収集し始めたが、数が膨大にあるのと、一部はプレミア価格が付いていて、すべて集めるのは無理と悟った。それでも直近1年間で20タイトルほど購入した。
執筆
長野で野山を駆け回り、果物をもりもり食べ、育つ。好奇心旺盛で、何でも「とりあえず…」と始めてしまうため、広く浅いタイプの多趣味。普段はフリーで翻訳などをしている。敬愛するのは松本隆、田辺聖子、ロアルド・ダール。お腹が空くと電池切れ。