『くるみ割り人形 The Nutcracker』出版記念 Kバレエカンパニー杉野慧、吉田早織インタビュー
11月22日に発売した熊川哲也芸術監修ArtNovel第3弾『くるみ割り人形 The Nutcracker』の出版記念として、Kバレエカンパニーに所属するプリンシパル・ソリストの杉野慧さんと、ソリストの吉田早織さんにインタビューをさせていただきました。インタビュアーにはフリーアナウンサーの神田れいみさんをお迎えして、おふたりに『くるみ割り人形』公演で演じる役への思いと、その舞台裏。『くるみ割り人形 The Nutcracker』の感想やお気に入りのシーンなどを語っていただきました。
※こちらのテキストは、YouTube動画収録時の未公開部分も含めて再構成しました。
一気に読みたくなるクリスマスファンタジー
今回で熊川哲也ArtNovel第3弾となる『くるみ割り人形 The Nutcracker』が303 BOOKSより発売されましたが、率直な感想はいかがでしたか?
そうですね。ストーリーはKバレエの物語とだいぶ近いものがあるんですけれども、やはり文章になると舞台上で語られていなかった部分が鮮明になりました。この作品を読むことで、また新たな演技のヒントを得たように感じます。
実際に読んでいただくとわかると思うんですけれども、文を書いた藤田千賀さんの、ひとつひとつの言葉の選び方、使い方がとてもすてきですよね。吉田さんはいかがでしたか?
この本を頂いた日にペラっとめくって2、3行読ませていただいたんですけれども、その瞬間にこれは一気に読みたいと思いました。少し見ただけでも言葉のチョイスや表現の仕方がとてもすてきで、子供の頃にこの本に出会っていたら、もっとファンタジーに目覚めていただろうなと思うような本でした。
ぐっと、『くるみ割り人形』の世界に引き込まれますよね。
私は絵本を読むことが好きで、たくさん読んでいるのですが、この本がいちばん大切な絵本になるかもしれません。そのくらい好きになりました。
舞台にはないオリジナルのシーン
そして今回もすてきなイラストを粟津泰成さんに描いていただきましたが、吉田さん、特にお気に入りのイラストはありますか?
本当にどれもすてきなんですけれど、私シルバニアファミリーみたいなミニチュアの家具とかがすごく好きなので、70ページにある「ディヴェルティスマン」※の踊りが描かれている絵がとても気に入っています。
※ディヴェルティスマン=ストーリーとは直接関係なくはさみこまれた部分。各舞踊は、それぞれ独立した作品のように、ダンサーは力量と個性を発揮する。
各国のお衣裳がとてもすてきで、今にも踊り出しそうな絵ですよね。
Kバレエの衣裳って色彩も豊かで本当にすてきなんです。それが実際にイラストで描かれていて、子供心も大人心もくすぐるようなところが気に入っています。
本当にすてきな絵がもりだくさんなので、そのあたりも、ぜひみなさんに楽しんでいただきたいですよね。物語については杉野さんいかがでしょうか?
舞台上にはないシーンですが、52ページからの「雪の森を抜けて都へ」という話が気に入っています。ドロッセルマイヤーがクララを抱き上げてまわりの情景を見せてあげるというシーンがあるんです。ひとりで現実世界を抜け出し、雪の世界を経て、さらにお菓子の国へ到達するという、クララの旅を温かく見守り寄り添ってあげているドロッセルマイヤーの温かさがよく出ています。動きとしても舞台上でやってあげたいと思える、そんな温かいシーンでした。
なるほど。本当にドロッセルマイヤーの人柄が伝わってくる、そんな描き方をしてますよね。
演じるたびに深めていく役作り
今回の『くるみ割り人形』公演では、杉野さんはドロッセルマイヤー。そして吉田さんがクララを演じられますが、事前に役作りはされますか?
初めて僕がドロッセルマイヤーを演じるときに、Kバレエの『くるみ割り人形』初演でドロッセルマイヤーを演じた方と一緒にリハーサルさせていただく機会がありました。その時の彼の動きや、温かい心を参考にしながら毎回役作りに取り組んでいます。
杉野さんは、このドロッセルマイヤーはどのような人物だと解釈してらっしゃいますか?
クララに寄り添う温かい部分もあるんですけれども、やっぱり人形の国を救うという役目もっているので、ぶれない部分であったり、任務をしっかり果たしに来たという責任感と、クララを心から支えてあげる温かさの両立を目指しています。
そのあたりもぜひ、注目させていただきたいと思います。吉田さんはいかがでしょうか?
クララを演じるのは今回で3回目なんです。でも、回数を重ねるごとに難しさが増しているなと感じています。今回この本を読ませていただいて、自分の内面が年々大人になっていってるなと思ったんですよね。精神的に大人というわけではなく、ちょっとした人形に対してのリアクションだったり、ドロッセルマイヤーに対してのアイコンタクトや反応が、どんどん自分になってきてると思いました。もう一度この本を読むことによって、自分が子供だった時のことを思いだしながら、かわいらしく、だけど誠実で勇敢で、強いクララを演じられたらいいなと思っています。
なるほど。同じ『くるみ割り人形』でも、公演を重ねるごとにまた違った姿が見られますし、今回はその純粋な気持ちも改めて表現されているということですね。
雪のシーンは大変!?
ここからは舞台の裏側ということで、『くるみ割り人形』の公演でのレアなお話を聞かせていただきたいのですが、吉田さん何かありますでしょうか?
私がいちばん好きなのは雪のシーンなんです。舞台ではとてつもない量の紙吹雪が降ってくるんですね。それが、ものすごく視界不良なんですよ。
そんなに降るんですか。
本当に大量に雪が降るんです(笑) お客様にとっては本当にきれいなシーンですし、魅力たっぷりのシーンです。オーケストラの演奏も盛り上がります。ここでの振りつけはテクニックが必要で、速い動きが多いですが、鼻の中にも口の中にもまつ毛の上にも耳の中にもみんな紙吹雪がついてるんです。ダンサーはすごく体を張って、呼吸困難で視界不良になりながらやってるんですよ(笑)
そうなんですね。足元にももちろんたくさん紙吹雪があるわけですよね?
はい。ですので滑るし大変なんです(笑)
豪華な舞台の裏には、ダンサーのみなさんの努力があるんですね~。続いては杉野さんにも舞台裏をうかがいたいなと思うのですが、何かエピソードありますでしょうか?
そうですね、やはりその雪のシーンでのところなんですけれども、ドロッセルマイヤーがソリに乗ってクララを迎えに来るんですね。僕の後ろの座席にくるみ割り人形役のダンサーが乗ってるんですけれど、運転するのが僕の役目なんですよ。
そうなんですか⁉︎
レバーを押すとアクセルになって、それを離すと止まるんですけれど、舞台上で運転してみるとすごく速いんです。なので、初役のときは本当に少しのアクセルを上げるのがこわくて、舞台上ですぐに離してしまって、後ろでくるみ割り人形役が、振動で揺れてるっていう(笑) 帰りはゆっくり帰らないといけないので、本当に繊細に押すんですけど、片手しか使えない状況なので、急に加速してしまって舞台上でずっとソリが揺れてる状態になってました(笑)
本当に運転されてるって事ですよね?
はい。今のところまだ一度も帰れなかったことはないんですけど、毎回袖に帰れなくなってしまうんではないかと思って。
ドキドキですね。
ドキドキです。
杉野さんのソリの運転も、ファンの方にとっては見所ですね。
注目はしないでいただきたいところですね(笑)
何度でも楽しめる『くるみ割り人形』
最後に2021年12月1日から始まる『くるみ割り人形』公演に向けて意気込みをうかがいたいと思います。吉田さんお願いします。
『くるみ割り人形』は本当に夢がたくさんつまっている作品ですし、ぜひご家族で観に来ていただきたいなと思います。私が初めていただいた役がクララで、とても思い入れがある役なんです。また去年とは違ったクララを演じられるように、残りのリハーサルに励んでいきたいなと思っています。
『くるみ割り人形』、今の季節にもぴったりですし、本当にたくさんの方に楽しんでいただきたいですよね。では、最後に杉野さんお願いします。
僕にとってはこのドロッセルマイヤー役は9度目になるんですけれども、今年は4人のドロッセルマイヤーのキャストがいて、僕以外のダンサーは初めて演じるんです。一緒にリハーサルをする中で新鮮な取り組み方をする仲間から参考になる部分を取り込んで、今年はまたグレードアップしたドロッセルマイヤーをお見せしたいですね。寒い冬ですけれども、心温まるファンタジーに僕たちがお連れいたしますので、ぜひ劇場に足を運んでいただけたらと思います。
杉野慧(すぎのけい)
プリンシパル・ソリスト
神奈川県生まれ。6歳よりバレエを始める。2008年Kバレエ スクールに入学。 11年8月Kバレエ カンパニーにアーティストとして入団。14年1月ファースト・アーティスト、15年8月ソリスト、18年9月ファースト・ソリスト、21年9月プリンシパル・ソリストに昇格。 主な出演作は、熊川版『ドン・キホーテ』のバジル/エスパーダ/闘牛士、『海賊』のコンラッド/ビルバント、『白鳥の湖』のロットバルト/スペイン/マズルカ、『ロミオとジュリエット』のティボルト/僧ロレンス/キャピュレット家の若者たち、『くるみ割り人形』のドロッセルマイヤー/雪の王/アラビア人形/スペイン人形、『ジゼル』のヒラリオン、『コッペリア』のジプシー、『シンデレラ』のオレンジマン/王子の友人、『ラ・バヤデール』の太鼓の踊り、『眠れる森の美女』の4人の王子、熊川振付『マダム・バタフライ』のボンゾウ、『カルミナ・ブラーナ』の植物、『クレオパトラ』のオクタヴィアヌス/3人の官僚、『カルメン』のドン・ホセ/エスカミーリョ/ダンカイロ、『ベートーヴェン 第九』、アシュトン振付『バレエ ピーターラビット™と仲間たち』のティギーおばさん、『レ・パティヌール~スケートをする人々~』『ラプソディ』、渡辺レイ振付『FLOW ROUTE』など。 「Ballet Gents」メンバー。 13年8月Kバレエ ユース第1回記念公演『白鳥の湖』のロットバルト、15年4月第2回公演『トム・ソーヤの冒険』のインジャンジョー、17年8月第3回公演『眠れる森の美女』のカラボスを踊る。
吉田早織(よしださおり)
ソリスト
愛知県生まれ。4歳よりバレエをはじめる。 2014年新国立劇場バレエ団入団。2015年東京バレエ団に入団。 18年9月Kバレエ カンパニーにアパレンティスとして入団。19年4月アーティスト、20年11月ファースト・アーティスト、21年9月ソリストに昇格。 主な出演作は、熊川版『くるみ割り人形』のクララ/フランス人形、『海賊』のオダリスク、『白鳥の湖』のパ・ド・トロワ/4羽の白鳥/ナポリ/チャルダッシュ、『ドン・キホーテ』『ロミオとジュリエット』『くるみ割り人形』『シンデレラ』、熊川振付『カルミナ・ブラーナ』『マダム・バタフライ』『カルメン』など。 Kバレエ スクール ティーチャーズ・トレーニングコース修了。同校にて教師を務める。
インタビュアー 神田れいみ(かんだれいみ) 慶應義塾大学総合政策学部卒業。慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科 公衆衛生・スポーツ健康科学専攻 修了。バスケットボールの魅力を伝えるNHK-BS1『熱血バスケ』の司会や、東京2020オリンピック・パラリンピック NHKオンラインパブリックビューイングの司会を務めるなどどスポーツに関わる仕事の経験が多い。雑誌『月刊バスケットボール』では「神田れいみのタイムアウト」を連載中。千葉市の情報を伝えるbayFM『BAY MORNING GLORY』では、その地域密着型のレポートが好評。日本舞踊吾妻流名取の資格を持つ。趣味は、Bリーグや野球などのスポーツ観戦。横浜DeNAベイスターズファンで、シーズン中は中継視聴またはテキスト速報の確認を必ず行う。愛犬と過ごす時間が幸せ。 Twitter・Instagram・Website
写真:杵嶋宏樹
『くるみ割り人形 The Nutcracker』杉野慧・吉田早織対談・朗読動画
KバレエカンパニーWEBサイト
https://www.k-ballet.co.jp/
『くるみ割り人形 The Nutcracker』WEBサイト
https://303books.jp/nutcracker/