時代劇に、キュン!

「里見八犬伝」の巻

この記事は約4分で読めます by 楠本和子

映画「里見八犬伝」は、1983(昭和58)年12月公開のお正月映画だ。

薬師丸ひろ子・真田広之という、当時の映画界のアイドル2人が主演の時代劇だった。曲亭馬琴(滝沢馬琴)の「南総里見八犬伝」を元にした、鎌田敏夫の「新・里見八犬伝」が原作になっている。監督は深作欣二だ。

さて、私と同世代ならば、NHKの人形劇「新八犬伝」に釘付けになっていた方も多いのではないだろうか。1973(昭和48)年から2年に渡り、平日の夕方に放送されていた人気番組だ。学校から帰って、晩ご飯の前に姉と一緒に見るのが毎日楽しみだった。

「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌 いざとなったら 珠を出せー♪」と流れるテーマ曲で、八つの珠の名前も覚えてしまったほどだ。辻村ジュサブローの人形も思い出深い。ちなみに「仁義礼智忠信孝悌」は、儒教における八つの徳のことだよ。

映画「里見八犬伝」のお話はこうだ。毒婦・玉梓に心を奪われ、領民を苦しめる領主。そんな彼らを討ったのが里見義実。だが、玉梓の呪いを受けて里見の家も滅ぼうとしている。里見の姫・伏姫(声・松坂慶子)が寵愛の犬・八房とともに死ぬ間際、八つの珠が空に飛び散る。伏姫は予言する。この光の珠が百年後に八犬士となって戻ったとき、里見の姫を奉じて、玉梓の呪いに打ち勝つことができるだろうと……。

百年後に現れた姫が静姫(薬師丸ひろ子)で、運命に導かれて彼女と巡り合う八犬士が、犬江親兵衛(真田広之)、犬山道節(千葉真一)、犬村大角(寺田農)、犬坂毛野(志穂美悦子)、犬塚信乃(京本政樹)ら、八人の剣士だ。みな名前に「犬」の字がつき、各々が光珠を持っている。仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字が浮かぶ、光の珠だ。

この映画には、闘いのシーンがあふれている。でも、JAC(ジャパンアクションクラブ。千葉真一が創設。真田広之、志穂美悦子も所属していた。現在はJAE)がアクション・スタントについているので、千葉さん、真田クン、志穂美の悦ちゃんらも、いきいきとアクションをこなしていた。まだ、CGとかVFXとかいう技術がない時代なので、大蛇に絡まれて逃れようとする静姫が(作り物の大蛇に抱きついて転がり回っているだけなのだが)大変そうだなあ…と思ったり、やっぱり真田クンの動きはキレが違うなあ…と感心したりしながら見ていたものだ。

対する妖怪・玉梓を演じていたのが、夏木マリ。「千と千尋の神隠し」の湯婆婆(声が夏木さん)など足元にも及ばないおぞましさで、まあ恐い恐い。こういう役はこの人にしか出来ないわ、うん。この役には特殊メイクも施されていたしね。

ラスト、敵に捕らわれた静姫のもとに、八犬士が向かうのだが、みんなが最後までたどりつくことはかなわず、一人、また一人と倒され死んでいく…。ただ一人生き残った親兵衛が、静姫と力を合わせ、八つの珠で作った光の弓で矢を放ち、ついに玉梓の命を絶つ。

生き残った静姫と親兵衛は、七犬士を墓に弔い、二人で生きていこうと決意するのだった。めでたし、めでたし。

ところで「里見八犬伝」ってさあ、うっすらだけど、スターウォーズを意識しているんだよね、絶対。親兵衛はルークだし、静姫はレイア姫なのだよ。まあ、そう思って見ると、冒険活劇的な展開もロマンスも許せるよね。なんせ、薬師丸ひろ子と真田広之を主演にした“カドカワ映画”だから…(決して、“カドカワ映画”をバカにしている訳ではない、念のため)。「新八犬伝」に思い入れがあるものだから、“ちょっと違うのでは⁉”と感じてしまったのだよ…。

さて、21世紀の現代に、この映画をよみがえらせてみたらどうなるだろう。特撮技術は当時とは格段に違うし、真田クンたちが体を張って演じていたアクションも変わってくるだろうなあ…。

純然たる時代劇と違い、魑魅魍魎がうごめく世界観は特別だし、新しい時代劇ができるのじゃないかしら…などと想像すると、ちょっとワクワクしてしまう。

「八犬伝」の物語は、冒険活劇でもあるし、ファンタジーでもある。現代でも十分に楽しめると思うのだ。

同世代としては、薬師丸ひろ子も真田広之も、現在の活躍については嬉しいかぎりだが、はち切れんばかりの若さがあふれていた時代の映画もいいものだ。現在の目で見てみたら、また新しい発見があるかもしれないなあ。

よし、レンタルビデオ屋さんに「里見八犬伝」のDVDがあったら、思い切って借りてみることにしよう。

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執筆
神戸市の生まれだが、東京での暮らしも、すでに、ン十年。 根っからのテレビ好きで、ステイホーム中も、テレビがずっとお友だち。 時代劇と宝塚歌劇をこよなく愛している。
イラスト
1994年、福岡県生まれ。漫画家、イラストレーター。第71回ちばてつや賞にて「死に神」が入選。漫画雑誌『すいかとかのたね』の作家メンバー。散歩と自転車がちょっと好きで、東京から福岡まで歩いたことがある。時代劇漫画雑誌『コミック乱』にて「神田ごくら町職人ばなし」を不定期掲載中。