時代劇に、キュン!#8

「陽炎の辻 〜居眠り磐音 江戸双紙〜」の巻

この記事は約4分で読めます by 楠本和子

「陽炎の辻 〜居眠り磐音 江戸双紙〜」は、2007(平成19)年からNHKで放送された時代劇。原作は佐伯泰英の「居眠り磐音 江戸双紙」で、今も人気を誇る時代小説のシリーズだ。書店に行くと、時代小説の数の多さに驚かされるが、そのトップを走っているのが佐伯泰英 原作の数々の時代小説なのだ。

ドラマ「陽炎の辻」の人気も高く、第3シリーズまで制作され、スペシャル版も3作放送された。

主人公の坂崎磐音は、九州・豊後関前藩(架空です)の家臣だったが、いまは、江戸の金兵衛長屋に暮らす浪人だ。鰻屋で鰻割きの仕事のかたわら、両替商・今津屋の用心棒になった。坂崎磐音の剣の腕前は誰もが舌を巻くほどで、目を閉じて、まるで居眠りでもしているかのような「居眠り剣法」と呼ばれる独特の闘いぶりが特徴だ。

この時代劇、一話完結ではなく、第1シリーズは全11話まであったのだが、まあ毎回毎回、泣いた泣いた。ボロ泣きといっていいくらい泣きました…。連続時代劇でこんなに泣けるお話は珍しいと思うよ。うん。

まず、主人公の背負ったものが辛すぎる__謀略にはまり妻を斬った侍、妹を斬られ怒りにまかせてその夫を斬った兄、そして藩命で兄を斬ることになったのが磐音だった。しかし、その兄は許嫁の兄でもあったのだ。ややこしいけど、わかる? 亡くなった三人とも磐音の幼なじみだったのだよ。三人の位牌を胸にして、藩を棄て浪人となって江戸へ出た磐音。そして、やむなく身を売るはめになった許嫁は、やがて吉原の花魁となって江戸に来るのだった__

ちょっと、最初っから哀しすぎるでしょ。でもね、この坂崎磐音という人、背負っている哀しみを微塵も表に出さない爽やかな好青年なのだよ。そこがまた、余計に哀しいのだけれども…。

主な登場人物は、坂崎磐音(山本耕史)、おこん(中越典子)・金兵衛の娘で今津屋の女中、今津屋吉右衛門(渡辺いっけい)、由蔵(近藤正臣)・今津屋の元締め番頭、お艶(檀れい)・吉右衛門の妻、金兵衛(小松正夫)・長屋の大家でおこんの父親、おきね(原田夏希)・長屋の住人、そして、元許嫁・奈緒(笛木優子)…といったところだ。

今津屋の懐の広さ、酸いも甘いも知る由蔵の判断力や、金兵衛長屋の人びとの人情も、このドラマに深みを与えている。

磐音を演じる山本耕史は、身体能力が高いせいか、刀さばきのスピードが速い。だから、殺陣シーンがすごい! 毎回、ドキドキするくらいカッコイイ! 磐音が身に着けている着物は黒色なのだが長襦袢が赤い。黒と赤のコントラストが、これまたカッコイイ。

結構、哀しい出来事が多いドラマなのだが、それを感じさせないのは、主人公・坂崎磐音の性格に負うところが大きい。磐音の性格を最も際立たせているのは、食事シーンだと思う。今津屋で出される食事を、いつも嬉しそうに無心にパクパクと食べる姿は、見ていて本当に気持ちがいい。「この人、いい人だよなあ」と素直に思えてしまうのだ。こんな人がそばにいたら、おこん(中越典子)でなくたって、気になって仕方がないだろう。坂崎磐音の魅力は、剣の腕の強さはもちろんだが、彼の性格が健気で誠実なことだと思う。また、自分のことを「それがし」と言うのも私のお気に入りだ。

第1シリーズでは、磐音を慕っていたおきね(原田夏希)が殺されたり、お艶(檀れい)が不治の病だったりと、本当に哀しいことが多い。

でも、磐音はおこんに言う。「人とは哀しいものです。いつか、別れなければなりません。でも、だからこそ愛おしい。いつか別れることになっても、心にはその人が残る」と。

そうだね、そうだね。その通りだね…(ここでまた涙)。

「陽炎の辻 〜居眠り磐音 江戸双紙〜」は、この後、第2、3シリーズを経て、2017(平成29)年の「陽炎の辻 完結編」まで続いた。

坂崎磐音は、回を重ねるたびに、ますます強く、たくましくなっていき、奈緒やおこんとの関係も変わっていく。第2シリーズの後に放送されたスペシャル版では、亡き妻・お艶にそっくりの女(もちろん、檀れい)に惑わされる今津屋が描かれている(第1シリーズで、檀ちゃんのファンになった私としては、とても嬉しかったです。ハイ)。

話は変わるが、2019(令和元)年に、映画「居眠り磐音」が公開されている。坂崎磐音を演じたのは、松坂桃李。映画では、奈緒が江戸吉原にやって来るところまでが描かれている。こちらの磐音も、哀しい運命を背負っていることに変わりはない。

…と、この文章を書いていたら、坂崎磐音の行く末が気になりだしたので、いまは原作のシリーズも読んでみようかなあ…などと考えている。

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執筆
神戸市の生まれだが、東京での暮らしも、すでに、ン十年。 根っからのテレビ好きで、ステイホーム中も、テレビがずっとお友だち。 時代劇と宝塚歌劇をこよなく愛している。
    イラスト
    1994年、福岡県生まれ。漫画家、イラストレーター。第71回ちばてつや賞にて「死に神」が入選。漫画雑誌『すいかとかのたね』の作家メンバー。散歩と自転車がちょっと好きで、東京から福岡まで歩いたことがある。時代劇漫画雑誌『コミック乱』にて「神田ごくら町職人ばなし」を不定期掲載中。