夕立のアンティオキア ―パイサの生き方―

麗しの大学講師 ベアトリス・モンサルベ(1話)

この記事は約7分で読めます by ユースケ“丹波”ササジマ

コロンビアで暮らす元303社員、ユースケ“丹波”ササジマが現地に暮らす市井の人々にインタビューしていく連載企画。今回は、大学で国語講師として働くベアトリスさんにインタビューしました。講師としての仕事やスペイン語(コロンビアの国語)についてお話を伺いました。

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夕立のアンティオキア ―パイサの生き方―

ユースケは何しにコロンビアに?

ゆーすけたんばささじま
ユースケ“丹波”ササジマ

株式会社オフィス303の元社員。黒豆で有名な兵庫県丹波篠山市出身。2017年に日本を飛び出して1年ほどラテンアメリカ諸国を行脚する。現在はライターやフリー翻訳者として働きながら超低空飛行で生き延びる。

歯科医を目指していたけれど・・・

教授、では今日はよろしくお願いします!

笹島

教授ってずいぶんかたい響きね(笑)。教授じゃないし先生でいいわよ。

ベアトリス

失礼しました! 早速で恐縮なんですけど、おいくつでいらっしゃいますか・・・?

笹島

47歳よ。あぁー言うのがつらい(笑)。

ベアトリス

いやいや、めちゃくちゃお美しいですよ。美貌の秘訣は・・・?

笹島

まあ! うれしいわ、ありがとう。あなたみたいな人が生徒ならもっとやる気が出るのに(笑)

ベアトリス

まさかインタビューしながら目の保養ができるなんて思ってませんでしたよ! ところで、教授じゃないってことは、大学では非常勤講師として働いてらっしゃるんでしょうか?

笹島

そうね。学期ごとに授業単位で大学と契約して授業してるわ。コロンビアではそういう非常勤講師のことを「Profesor de cátedra(プロフェソル デ カテドラ)」っていって、私はUPBっていうところで授業をしてるわ。

ベアトリス
Universidad Pontificia Bolivariana
UPB(Universidad Pontificia Bolivariana)は、メデジンにある私立大学。日本語では「教皇ボリバル大学」となる。名前からわかるようにカトリック系の大学で、アンティオキアの中では前回紹介した「EAFIT大学」に次ぐ有名大学。

※常勤講師のことは「Profesor de planta(プロフェソル デ プランタ)」という。いずれもコロンビアでの呼び方。他のスペイン語圏の国では違う名称があるかもしれない。

うちの近所の大学ですね。どんなことを教えていらっしゃるんですか?

笹島

言語学と文学を担当してるわ。文学一般の修士号を持ってて、専門領域はテキストを言語学的に正しいものに校正する作業全般ね。まぁでも、そうね、ざっくりいうとスペイン語を教えてるわ。

ベアトリス

この仕事を始められて何年くらいになるんでしょうか。

笹島

もう22年になるわね。最初は小中学校で教えて、次に大学で教えるようになったわ。

ベアトリス

この仕事は昔からの夢だったとか・・・?

笹島

実は、昔は歯科医になりたかったの。でも、当時から文学が好きだからとりあえず歯学部と文学部に申し込んだの。で、最終的に文学部を選んで、そのままそっちの道に進むことになったわ。これが私がやりたかったことだわって思ったの。

ベアトリス

なるほど。卒業してすぐに大学で教えはじめたんですか?

笹島

最初は小中学校で教えてたんだけど、そのときに大学でも教えたいっていう夢が芽生えたの。で、修士号をとって大学でも教えるようになったわ。

ベアトリス

そうなんですね。授業を持っているのはこのUPBだけですか? それともほかにいろんなところで教えてらっしゃいますか?

笹島

そうね、UPB以外にもITMでも授業を持っているわ。おかげさまで大学で教える以外にもいろいろな仕事がしてるんだけど、例えば、Universidad de Antioquia​(アンティオキア大学)の機関誌に載る論文を審査したり、Universidad Nacional de Colombia Sede Medellín(コロンビア国立大学メデジン校)、Universidad de Medellín(メデジン大学)で修士論文の校正をしたり、民間企業でスペイン語を教えたりをしたりしてるわ。

ベアトリス

※ITM(Instituto Tecnológico Metropolitano de Medellín)は、公立の理系大学。広いネットの世界で調べても日本語訳は出てこないが、「メデジン都市科学技術大学校」という感じであろう。

※アンティオキア大学は、1803年に設立された歴史ある国立大学。コロンビアで最も優れた大学の一つに数えられ、アンティオキア人の思想や知性の象徴である。

※コロンビア国立大学メデジン校もアンティオキア大学と並んで長い歴史をもつ大学。大学は1867年に、メデジン校は1886年に設置された。大学の前は何回も通ったことがあるが、まだ中に入ったことはない。

※メデジン大学は、国公立大学みたいな名前だが私立大学。設立は1950年。当時アンティオキア大学で幅を利かせていた保守派たちに対抗して、政治、人種、社会、宗教的な制約から自由な教育機関を目指して設立された。

論文審査もされるんですね! 審査とか校正っていう仕事もそれぞれの大学で講師としてやる形ですか?

笹島

大学の講師として登録されているのはUPBとITMだけで、それ以外の仕事は委託っていう感じね。だから、論文の審査とか校正が必要なときにだけ大学が私に仕事をお願いするの。機関誌の論文の審査だったら、先方から「期日までにこの論文の審査お願いします」といって論文が送られてきて、審査して送り返すっていう流れね。修士論文の校正の場合は、たんに出来上がったものを校正するんじゃなくて、修士課程に進む学生のアドバイザーとして2年間にわたって論文の書き方を教えたり校正したりするの。

ベアトリス

あーなるほど。民間企業でも教えるっておっしゃいましたけど、どんな企業で教えられているんですか?

笹島

たとえば、今は警備会社で文章の書き方を教えてるわ。警備員は毎日作業報告書を書かないといけないんだけど、その報告書の書き方を教えてるの。民間企業以外にもそういう講座を担当することがあって、この前は、メデジンの市役所の秘書の方、会計監査局で働く方や弁護士の方にも文章講座をしたわね。

ベアトリス

文法やつづりを間違っていたり文意がわかりにくかったりする人は少なくないですよね。

笹島

そうね、文章を書くっていう行為は一見すると簡単そうだけどそんな容易いことじゃなくて、訓練が必要なのよね。だから、私みたいな専門家が必要とされているんだと思うわ。

ベアトリス
「Petirrojo(ペティロホ)」という鳥
UPBで見られる「Petirrojo(ペティロホ)」という鳥。メキシコからアルゼンチンの北部まで分布する。オスはUPBのスクールカラーと同じ赤と黒の体色だが、メスは灰茶色で目立たない。和名はベニタイランチョウ。

大変だけど大満足

ちなみに、お金の話で恐縮なんですけど大学の先生の給料って大体どれくらいなんですか?

笹島

私は大学専属の教員じゃないからそういう方々がどれくらいもらっているかは詳しくわからないんだけど、UPBの常勤講師なら500~600万ペソ(16~20万円)くらいって聞いたことあるわね。

ベアトリス

最低賃金が100万ペソ弱って考えると結構高いですね。

笹島

非常勤講師だったら1時間3万から4万ペソ(960~1280円)の間くらいかしらね。給与体系は大学によって変わるし、持っている学位とか科目によっても変わるから一概には言えないわ。

ベアトリス

なるほど、たとえば修士号よりも博士号を持っていたほうが給料は高くなると。

笹島

そうね、大学で教職に就こうと思ったら最低でも修士号は持ってないといけないんだけど、もちろんなかには博士号を持っている人もいて、その中でも給与の差があるわ。私の場合は、博士課程にかかる費用が高かったから取らなかったの。これからも取る予定はないわね。そんな余裕ないわ(笑)。

ベアトリス

担当する授業のコマ数でもかわりますよね。

笹島

そうね、だから、学期によってコマ数も違うから給料は大体これぐらいっていうのはわからないわ。私自身、いくらもらっているかっていう細かい数字は把握してないし・・・。

ベアトリス

把握してなくて大丈夫なんですか?(笑) でも確かに先生みたいにいろんなところで働いてたら正確な数字を出すのはちょっと骨が折れそうですね・・・。

笹島

非常勤講師は担当する講座ごとに契約するから、当然授業がないときは仕事がないでしょ? 常勤だとその休みの間も給料は支払われるけど、非常勤講師の場合だと大学が休みの二ヶ月間は失業状態になるからね。そもそも契約が続くとも限らないし。その点は大変よね。ただ、授業単位の契約だから拘束時間が短いし、同時にいろんな大学で働けるのがメリットね。

ベアトリス

非常勤講師のそういった問題は、もはやグローバルな事柄ですよね・・・。日本やアメリカでも問題になってるって聞きますし。

笹島

そうね。でも、私に限っていえば、自分の仕事に満足してるわ。こうして大学でスペイン語を教えることは、講師として働き始めたときの夢だったし、楽しいしね。色んな場所で忙しく働いてるから休みは多くとれないけど、経済的に自立できてるし、なんの不満もないわ。

ベアトリス

ご本人が満足してるならそれが一番ですね。とても活き活きとされてますし! 美貌の秘訣はこれだったのか。

笹島

そうだとうれしいわ(笑)。

ベアトリス

もちろんそうですよ! じゃあ、次回は話題を変えてスペイン語について伺いたいと思います。

笹島
大学の中庭にて。
大学の中庭にて。ベアトリス先生はじつは恥ずかしがり屋で、写真を取られるのが苦手らしい。
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夕立のアンティオキア ―パイサの生き方―

麗しの大学講師 ベアトリス・モンサルベ(2話)

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株式会社オフィス303の元社員。黒豆で有名な兵庫県丹波篠山市出身。2017年に日本を飛び出して1年ほどラテンアメリカ諸国を行脚する。現在はライターやフリー翻訳者として働きながら超低空飛行で生き延びる。