夕立のアンティオキア ―パイサの生き方―

慈悲深い年下のお姉さん フリアナ・アコスタ(3話)

この記事は約7分で読めます by ユースケ“丹波”ササジマ

コロンビアで暮らす元303社員、ユースケ“丹波”ササジマが現地に暮らす市井の人々にインタビューしていく連載企画。今回もメデジンの言語センターで働くフリアナ・アコスタさんのインタビューです。今回は、プロポーズされた話からコロンビアの求人情報、コロンビアと日本人のメンタリティの違いなど、いろいろな話題が飛び出します!

ゆーすけたんばささじま
ユースケ“丹波”ササジマ

株式会社オフィス303の元社員。黒豆で有名な兵庫県丹波篠山市出身。2017年に日本を飛び出して1年ほどラテンアメリカ諸国を行脚する。現在はライターやフリー翻訳者として働きながら超低空飛行で生き延びる。

神秘的なフィーリング

ところで、彼氏っていないの?

笹島

いないよ。探してもないなー。いつか恋人ができる日がくるのかもしれないけど、イエス・キリストが現れて、「彼こそがあなたの人生の伴侶である」っていうほどの男性じゃないと(笑)。

フリアナ

今はお告げ待ち?(笑) まあ、フリアナにとって恋に落ちるっていうのはそれぐらい神秘的なことっていうことだね。

笹島

そんな感じ。私にとって恋に落ちるって魔法みたいなもんだから。そういう神秘的なフィーリングを感じる相手じゃないとね。まぁ別にいなくてもいいんだけど。そういえば、3回くらい結婚申し込まれたことあるよ。

フリアナ

彼氏に?

笹島

いや彼氏じゃない人に(笑)。コロンビアにもわけのわからない人がいるのよ・・・。

フリアナ

世界中どこでもね・・・。ところで、将来の夢とかってあるの?

笹島

基本的に未来のことは考えない。ただ日々やるべきことをコツコツやるって感じかな。たとえば、今なら大学を卒業して学位をとることとか。

フリアナ

学位ね、すごい大事だもんね。

笹島

たぶん日本でもそうでしょ? コロンビアでは大卒の学位がないといい仕事にはつくのは難しい。ある企業の中で誰かの元で指示を受けて働くっていうのは自分の性分としては好ましくないけど、学位をとるためにはしょうがないよね。

フリアナ

じゃあ、大学を卒業して学位をとったらどうするの?

笹島

いい仕事探してそこに応募するんじゃないかな。自分のビジネスを立ち上げたいとも思うけど、簡単じゃないからね。よりいい職にありつけるようには勉強のほかに仕事も頑張らないといけないから、今はそのことだけを考えてる。

フリアナ

勉強を続けるために学費を捻出しないといけないもんね。

笹島

仕事しているのは学費のためじゃないけどね。コロンビアでは、例えばこんな求人をよく見かけるの「大学を卒業したばかりで5年以上の経験をもつエンジニア」。

フリアナ

なるほど、大学だけ出てもダメってことか。

笹島

そう。もちろん全ての求人がそういうわけじゃないかもしれないけど、経験を求められるケースは多い。いい仕事に就くためには学位を持ってるだけではダメだし、経験があるだけでもダメなの。だから、コロンビアでは大学行きながら仕事をするっていうのは利にかなってると思う。

フリアナ

そういう求人の傾向ってコロンビア全体の話だよね?

笹島

そうだね。求人の数の話をすると、ボゴタ、メデジン、カリっていうコロンビアの主要な都市はやっぱり求人数が多いから地方から人が集まってくるね。

フリアナ

ボゴタは首都でメデジンより大きい都市だからたぶんいい仕事も多いだろうけど、ボゴタに行って仕事を探そうとは思わない?

笹島

ボゴタは物価も高いし犯罪も多いからあんまり住みたくないな・・・。ボゴタの人も・・・ちょっとアレだし・・・。

フリアナ

※大阪と東京、ロサンゼルスとニューヨークの人々が対立しがちなように、コロンビアでもメデジンとボゴタの間でそうした対立がある。どおりで世界が平和にならないわけだ。「ボゴタの人は「Bogotano(ボゴタノ)」や「Rolo(ロロ)」、「Cachacho(カチャコ)」と呼ばれる」と紹介しているブログを見かけるが、これは半分正解で半分間違い。「Rolo(ロロ)」はボゴタ以外の場所から来た人の子どもや孫でボゴタに住んでいる人、「Cachacho(カチャコ)」は古くからボゴタに住んでいる人のことを指す。また、「Rolo(ロロ)」は一般的にボゴタ以外の地域の人がボゴタの人を蔑んで呼ぶ名称、つまり蔑称なので使わないほうがいい。「Bogotano(ボゴタノ)」という言葉が一番適当である。

欄干に留まるキバラオオタイランチョウ
インタビュー中に現れた可愛い鳥。アメリカ合衆国の南からアルゼンチンにかけて生息する鳥で、和名はキバラオオタイランチョウという。名前の通り、黄色のお腹が特徴的だ。コロンビアでは「Bichofue(ビチョ フエ)」と呼ばれている。スペイン語でbicho(ビチョ)とは「虫」を、fue(フエ)は「行った(「行く」という動詞の3人称単数の過去形)」を意味する。鳴き声が「ビチョフエ」と聞こえるためこの名がついたらしい。

繊細な日本人、悩まないパイサ

ボゴタの人は一般的にちょっと冷たい感じするよね。日本でも東京の人は一般的に冷たいっていうイメージがあるから(個人の感想です)、どこでも大都市になればそうなるんだろうけど。

笹島

日本人てさ、冷たいとは言わないけど真面目で静かなイメージがあるんだけど、どうなの?

フリアナ

もちろん人によるけど、一般的にはそんな感じかもねー。こっちの人と比べるとあまり主張しない控えめな人が多いのかもしれないね。

笹島

こっちで知り合った日本人みんな静かに喋るんだけど、それも控えめだからってこと?

フリアナ

大きな声で喋る日本人もいるけど、こっちの人と比較すると大きな声で喋る人は多くないと思う。海外で慣れない外国語で喋るとなると、萎縮してさらに控えめになるっていう人はいるかも。

笹島

でもあなた声でかいじゃん。なんで?

フリアナ

コロンビアでは小さい声で喋ってると自信なさそうに見えるし、舐められやすくなるんじゃないかなと思ったから、堂々と大きな声で話すように心がけてる。日本にいるときはそんな大きい声で喋らないよ。大きな声で話すと疲れるし、場所によっては他の人の迷惑になるかもしれないからね。

笹島

それよく言われるよね、日本人は他人を尊重する傾向が強いって。たしかに日本人の友達と話したりどっかに出かけたりするときは、私の気分を害さないようにいろいろ気を遣ってくれてるなって感じる。でも、相手のことを気にしすぎじゃない? って思うこともあるけど・・・。

フリアナ

そうだね。とにかく日本人は相手がどう思っているかを気にするね。相手がどう思うかを考えることで他人を尊重することができる反面、相手のことを気にしすぎて自分を苦しめることもあると思う。

笹島

私のイメージだけど、日本人はそういうところすごく繊細だよね。

フリアナ

そうかもね。もちろん人によるから一概にはいえないけど、そういうタイプの人は多いかもしれないね。こっちの人は良くも悪くも図太いよね(笑)。悩んでることなんてないでしょ?

笹島

ないよ(笑)。もちろん今まで辛い状況はいろいろあったけど、別に悩んだことはないな。こっちのことわざみたいなもので、「何か問題が起こったとき、解決策があれば心配する必要はない。解決策が無ければ、なおさら心配する必要はない」っていう言葉あるんだけど、私たちはこんな感じだね。基本的に悩まないし、悩んでもどうにもならないことではなおさら悩まない。

フリアナ

僕も繊細で、悩むことは多いから、あなたたちからそういう前向きな精神を学んでるよ。

笹島

私たちは神じゃないし、この世界は思い通りにならないのが常なんだから、自分でどうにもできないことを心配したってしょうがないよ。

フリアナ

これからは、不必要に悩む暇があったら美味しいものでも食べて幸せな時間を過ごすようにします!

笹島

食べすぎてGordo(ゴルド)にならないようにね(笑)

フリアナ

※Gordo(ゴルド)とは「太った人」という意味の名詞。形容詞としても使われ、「太い、分厚い」などの意味にもなる。ところで、コロンビア(ほかの特定のスペイン語圏でも)では、太っている彼氏や夫を「Mi gordo(私の太っちょ)」と呼ぶ女性がいる。これは日本語では「あなた」に相当する表現で、決してバカにしているわけではない。なお、私は身長170cmで体重86kg、スリーサイズは108・98・104ほどなので日本では文句なしでGordo(ゴルド)と呼ばれるだろうが、こちらコロンビアでは標準サイズ。

椅子に座るフリアナさん
言語センターのテラスで少し休憩。

慈悲深い年下のお姉さん フリアナ・アコスタ(4話)

CREDIT

クレジット

撮影・聞き手・執筆
株式会社オフィス303の元社員。黒豆で有名な兵庫県丹波篠山市出身。2017年に日本を飛び出して1年ほどラテンアメリカ諸国を行脚する。現在はライターやフリー翻訳者として働きながら超低空飛行で生き延びる。