夕立のアンティオキア ―パイサの生き方―

慈悲深い年下のお姉さん フリアナ・アコスタ(4話)

この記事は約7分で読めます by ユースケ“丹波”ササジマ

コロンビアで暮らす元303社員、ユースケ“丹波”ササジマが現地に暮らす市井の人々にインタビューしていく連載企画。今回はフリアナさんのインタビュー最終回。世話好きでとにかく優しい彼女の素顔がうかがえるエピソードのほか、外国語を学ぶにあたって間違えることを恥ずかしがる我々日本人に向けて彼女からのアドバイスも。

ゆーすけたんばささじま
ユースケ“丹波”ササジマ

株式会社オフィス303の元社員。黒豆で有名な兵庫県丹波篠山市出身。2017年に日本を飛び出して1年ほどラテンアメリカ諸国を行脚する。現在はライターやフリー翻訳者として働きながら超低空飛行で生き延びる。

ほっとけないよ!

ところでさ、こっちに住んでもう2年くらいになるんだよね? 文化的な違いにはもう慣れたよね?

フリアナ

あーそうだね。でも、なんでそんなこと聞くの?

笹島

いやだってほら、こっちで知り合う日本人はやっぱり挨拶するときにちょっとかたくなるイメージがあるから。

フリアナ

※ラテンアメリカや南ヨーロッパなどでは頬にキスして挨拶をする慣習がある。コロンビアでは、頬にキスをするのは男性と女性、もしくは女性と女性が挨拶を交わす場合だ。また、友人や家族間で行われることがほとんどで、初対面ではキスはしないことが多い。そして、厳密にはキスはせず、頬と頬をくっつけるのが一般的だが、これは世代によると思われ、高齢者の方はしっかりとキスをする傾向がある。しかし、キスの回数やキスをする相手、初対面でもキスをするかなどは国や地域によって異なる。例えばアルゼンチン(地域や個人で差があるかもしれないが)では男性同士でも頬にキスをして挨拶を交わす。このことを知らなかった私は、彼の地で知り合った男性友人にキスをされ、「俺はこの後アルゼンチンのオネエさまに食われるのか…」などと考えていたが、周りを見渡すと男性同士でもそのように挨拶していた姿を見てそのルールに気づいた。また、その昔、メデジンで知り合った日本人が「コロンビア人の女友達がすげーキスしてくんのよ」と嬉しそうに私に語ってきたことがある。「え、キスってもしかして…」と思っていると、その女の子が現れ、案の定挨拶として頬にキスをした。するとその日本人が「ほらね。」と言って得意げな顔で私のほうを見た。私は「そうっすね」と笑顔で返した。

まあ、あの方式の挨拶は日本人が慣れるでは少し時間がかかると思うよ。日本では頬と頬をくっつけるなんて基本的に恋人同士でしかありえないからね。

笹島

そうなんだ。あなたの家にホームステイしてた女の子とか、日本人の男友達(以下Tくん)とか知り合った当初は挨拶するときすごい固まってたから、なんか悪いことしてるのかなって(笑)。

フリアナ

最初はそうなっちゃう人が多いと思う。僕も慣れるまでガチガチだったから。そういえば、Tくんとすごい仲良いみたいだね。

笹島

私には妹がいて、日本語勉強してるんだけど、「日本語練習したいから、仕事で日本人と知り合ったら私に紹介して」って頼まれてたの。だから、Tくんが大学のスペイン語コースを受講申し込みに来たときに、妹のことがあって連絡先聞いて遊びにいくようになったのがきっかけだね。

フリアナ

そういえば、ほかの日本人留学生にも連絡先聞いて妹さんを紹介してたもんね。でも、なんでTくんとそんな仲良くなったの?

笹島

彼と知り合って1か月くらいたったときに、「これまでにどっか遊びにいった?」って聞いたらまだ大学周辺しか知らないって言ってて、コロンビア人の友達もいない様子だったの。そんな状態ならスペイン語の勉強も捗らないと思って、そこからいろいろ誘いだすようになったって感じだね。

フリアナ

なるほど。

笹島

困ってる人を見たら何かしてあげたい性分なのよね。彼が風邪ひいて熱で寝込んでたときとかはいろいろお世話したよ。まだこっちの保険がなくて診療受けられなかったし、ほかに頼れる人がいなかったみたいだから。そうやって世話してる間に私のほうが彼と仲良くなって、結局妹は日本語を練習するチャンスがなくなっちゃった(笑)。

フリアナ

慈悲深いなぁ。お母さんみたいだね。

笹島

まあそんな感じかも。せっかくコロンビアに来たんだから楽しんでもらいたいしね。だから、お互い時間があるときは一緒に出掛けたりしてるよ。

フリアナ
話す笹島とフリアナさん
パイサの人たちの中には、自分たちは世話好きで優しいと自負している人がわりと多い。もちろん全ての人がそうだとは言わないが、彼女を見ていると確かにそういう一面を感じる。

だからいろいろ日本の文化とか日本人の特徴とかについて詳しくなったの?

笹島

詳しいかは分からないけどけど多少は知識がついたね。あと妹が日本文化好きで詳しいからそこから情報が流れてくる。

フリアナ

間違えることを恐れずに

なるほど。なにかTくんとの付き合いを通して他に日本文化とか日本人の気質で気づいたことある?

笹島

あるよ。彼個人だけがそうなのか日本人の傾向としてそうなのかは分からないけど、完璧主義の人が多いのかな? 掲げるハードルが高いのかなって思って。

フリアナ

具体的にいうと?

笹島

例えば、前に「スペイン語を勉強する上で、間違えることを怖がったり恥ずかしがったりしないでね。たくさん間違えることで上達していくから。」って彼に言ったの。でも、彼は「スペイン語で何て言っていいかわからないときは何も言いたくない」っていってきかないの。それは、完璧主義で外国語を話すときは正しく喋らないといけないっていう高いハードルを掲げるからなのかなと。

フリアナ

なるほどね。そういう傾向は日本人全般にあると思う。

笹島

彼に「とにかく何でもいいから思ったことを言える範囲で言ってみなよ、それを私が訂正して正しい言い方を教えるから。」っていっても、間違えるのを恐れてる感じなの。「だめだ。今日はもうスペイン語できない」っていって諦めちゃう。

フリアナ

日本では、間違えると笑われたり批判されたりすることが多いからね。たとえば、学校の英語の授業では、間違えたらみんなに笑われるし、真剣に勉強しようと本来の発音で喋ろうとするとこれも笑われる。こんな環境じゃ英語どころか外国語を学ぶ姿勢も育たないよ。

笹島

あなたも最初は間違えるの怖かったの?

フリアナ

そうだね。だからTくんの気持ちは分かるよ。でもそんなんじゃ早く上達できないというのはわかってたからとにかく喋るようにしてたし、今もよく喋る。コロンビア人の妻にも、僕が間違えたらすぐに指摘して訂正してってお願いしてる。最近では自分の間違いを自分で気づけるようになったんだけど、たまに妻が僕の間違いを流すことがあるんだよね。そんなときは「今、間違い無視したよね? ちゃんと指摘してくれないとダメじゃん!」って怒るね。

笹島

なんでそんな偉そうなの (笑)。でも、その姿勢は大事。

フリアナ

フェルナンド・トーレスも、スペインのクラブチームに移籍する若い日本人選手に対して「日本ではミスは許されず、若手たちはミスを恐れるようになり選手として成長できないけど、スペインならミスをすることが認められているからどんどん挑戦してほしい」って言ってたしね。

笹島

※元サッカースペイン代表のサッカー選手。リヴァプールやチェルシーなどで活躍した。あだ名は「El Niño(エル ニーニョ)」。2018年にJリーグのサガン鳥栖に移籍して2019年8月23日の試合を最後に引退した。

急に何なの? 誰なのそれ?

フリアナ

なんでもないです・・・。とにかく、外国語を勉強するだけでなく、何かに挑戦するときは周りから笑われようがバカにされようが間違えたり失敗したりすることを恐れないことが大事だよね。日本人は他人がどう思うかを気にするっていうことを話したと思うけど、だから余計に周囲からの嘲笑に敏感なんだと思う。高いハードルを掲げるのも、完璧主義というよりかは周りからバカにされないようにっていう部分が大きいんじゃないかな。

笹島

やっぱり日本の人は繊細だね。でも、良くも悪くも他人の気持ちまで考えられるそういう繊細さがあるからこそ、日本人の規律正しさがあるでしょ。規律正しく行動するのは他人がいやな思いをしないためだと思うから。それは、私たちが学ばないといけないところだよね。私たちはとにかく規律がない(笑)。

フリアナ

お互い学ぶところはたくさんあるということだね。じゃあこのへんで終わりますか。長々とありがとうね。

笹島

いーえ。じゃあまたね。Chao(チャオ)!

フリアナ

※Chao(チャオ)はご存知イタリア語の挨拶だが、スペイン語圏でもよく使われる。イタリアでは「Hello」や「Goodbye」のどちらの意味でも使われるが、こちらではもっぱら後者の別れる際の挨拶として使われる。

ソフトクリームを持つフリアナさん
インタビュー後、近くのショッピングモールにてマクドナルドのソフトクリームを食べる。

CREDIT

クレジット

撮影・聞き手・執筆
株式会社オフィス303の元社員。黒豆で有名な兵庫県丹波篠山市出身。2017年に日本を飛び出して1年ほどラテンアメリカ諸国を行脚する。現在はライターやフリー翻訳者として働きながら超低空飛行で生き延びる。