ニュー・サブスク・パラダイス

アメリカン・ハニー

この記事は約7分で読めます by 常松心平

心平です。社会人になってからというもの、映画館に映画を見に行く時間がなかなか取れず、サブスク時代になって、いろんな映画を観られるようになって、恩恵受けまくり。いろんな作品を観てていて気がついたのが、僕の前世は、アメリカの郊外に住む女子高生なのかもしれないってこと(!) だいたいそういう映画の主人公は、スクールカーストは下の方で、ほふく前進のように青春を生きている。そこでできる青春の擦り傷が切なくてたまらない。そんなこんなで、ネットで観られるアメリカのガールズ・ムービーを紹介します。

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ニュー・サブスク・パラダイス

奇才ウェス・アンダーソンの映画世界

つねまつしんぺい
常松心平

編集プロダクション 株式会社オフィス303の代表取締役 兼 303 BOOKSのプロジェクトリーダー。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。

JUNO/ジュノ

2007年公開
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ポン・ジュノじゃなくてねジュノね。エレン・ペイジが演じるジュノが、童貞役に定評があるマイケル・セラとの間に子どもを授かるというストーリー。ネジが4本くらいぶっ飛んでて、突飛な行動を繰り返すジュノ。だけど、子どもを産むことを決意して、徐々に成長していく。学生が妊娠しちゃうって、『金八先生』世代としては、結構デリケートなテーマだと思っちゃう。

でも、この作品では、なにもかも足りなかったジュノが、お腹と一緒に成長していくのが、ストレートに感動できる。ずっと笑ってみてたけど、最後はやられちゃったなあ。エレン・ペイジは実はもう20歳だったんだけど、ジュノの16歳の9か月を演じきった。『セッション』ではパワハラ先生を演じたJ・K・シモンズがいいお父さんなんだよね。

監督のジェイソン・ライトマンは、その後、『マイレージ、マイライフ』とか『ヤング≒アダルト』とか、いろいろ痛いところを突いてくるのに、不思議と元気がわいてくる映画を連発していく。エレン・ペイジは現在、ダンサーの女性、エマ・ポートナーと結婚して、幸せにしているよう。良かったね。

ローラーガールズ・ダイアリー

2009年公開
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ジュノから2年。エレン・ペイジがふたたびボンクラ女子ブリスを演じる。母親はブリスをミスコンに勝たせることにすべてを捧げているが、メガネ女子で美人タイプでもなければ、しゃべりもさっぱりなブリス。ミスコンなんて勝てるわけがない。

そんなある日、タトゥーにカラフルな髪色のお姉さんたちが爆走しながら殴り合うローラーゲームに出会ってしまう。ルールも知らなかったブリスだが、オーディションを勝ち抜きチームに入団する。これは典型的なマイナースポーツものの作品で、構造は『ちはやふる』とか『チア☆ダン』に近い。

この作品はクライマックスに向かい、新しい仲間とおさななじみ、友情と恋人、母の期待と自分のやりたいこと、普遍的な悩みが遠慮なく突きつけられ、ブリスはドツボにハマっていく。もちろんそこから立ち上がっていくのだけど、そこでこのローラーゲームというのが効いてくる。

ごっついお姉さんたちの間をぬって小柄なエレン・ペイジがリンクを駆け抜けるとき、それはしがらみを打破して、未来に向かって疾走しているように見える。チームのおっかないお姉さんたちの一人が監督もつとめたドリュー・バリモア。相手チームのライバルがジュリエット・ルイス。かつてのアイドルふたりが、後輩女優に、道をつくっている感じも熱い! 

スウィート17モンスター

2017年公開
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アメリカではアイドル的な人気の、ヘイリー・スタインフェルドの出演作。彼女は、コーエン兄弟の『トゥルー・グリット』では、ならず者にも口が減らない少女を演じ、その後、ジョン・カーニーの『はじまりのうた』で反抗期のギター少女を演じるなど、超名作でかなり印象的な演技を残して、この作品にたどり着いた。

ごりごりの天才女優で、背も高く、歌も超うまいヘイリーが、エレン・ペイジ顔負けのボンクラ少女ネイディーンを演じている。モテないというコンプレックスをこじらせまくっていて、常に下ネタを口走りまくりながら、まわりの親切をすべてはねのけ、信じられない大失敗を繰り返していく。死ぬほど笑えるけど、どこか思い当たるような節もある。青春はいつだって、恥ずかしいものだ。

この作品では、もがきながらネイディーンがちょっとずつ成長していくのがとても愛おしい。ヘイリーはきっと大女優になるだろうけど、この作品は彼女の記念碑的作品になるでしょう。絶対。

レディ・バード

2017年公開
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脚本を自ら書いた『フランシス・ハ』の演技が最高すぎた女優グレタ・ガーウィグが監督した作品。カリフォルニア州サクラメントを舞台に、自分の名前が嫌いで「レディ・バード」と名乗る、かなり変わった女の子を、普段はめっちゃ美人なシアーシャ・ローナンが演じた。

ずっと男性と初体験をすることばかりレディ・バードは考えている。でも、思うようにいかなくて、仕上がり途上の自意識が思いっきり傷ついていく。でもネイディーンと比べたらプライドと向上心があるレディ・バードは、地元の大学ではなく、ひそかにニューヨークの大学を目指すようになる。

基本的にはコメディなんだけど、後半は女の子と母親という普遍的な問題を描いていく。地方から東京に進学で出てきた人は、観たら泣いちゃうんじゃないかな? グレタ自身のリアルな思い出が入った特別な作品。レディー・バードが成長して、27歳になったような映画『フランシス・ハ』もオススメ!

アメリカン・ハニー

2016年公開
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主演のサーシャ・レーンはテキサスで時給7ドル25セントでウェイトレスをしていた学生だった。たまたまマイアミのビーチでアンドレア・アーノルド監督にスカウトされて、この作品でデビューした。タトゥーもドレッドヘアーも彼女自身のナチャラルなもの。すんごい逸材。

この作品はここまで紹介したような映画とは違う。主人公のスターは貧困に苦しむ女の子。バンに仲間と乗り込み、旅しながらあやしい雑誌を無理やり定期購読させる仕事をしている。マリファナを吸って、夜はモーテルに泊まる。この映画の画角は昔のテレビの4:3サイズ。それも自由なようで、閉塞感しかない彼女の日常を強調している。移動の車の中もずーーとサグい感じのヒップホップが鳴り続けている。アメリカの「現実」を描いたロードムービーだ。

しかし途中、リアーナの『We found love』が流れるところだけは、スターの心が開放される。実際に車の中でも鳴っていて、キャストが一緒に歌っている。この映画はある種の音楽映画なんだよね。ラストシーン、言葉はなにもないけれど、スターが再生していくことが確信できる。荒涼とした日常を描く作品だけど、演出は細かやかで、繊細な視点で描かれたこの作品らしいラスト。『アメリカン・ハニー』とはカントリーのレディ・アンテベラムというバンドの曲名から。「アメリカの女の子」という意味。

で、すみません。全部書き終えてから、『アメリカン・ハニー』のAmazonプライム・ビデオの配信が終わってました。USのアカウントなら観られるんだけど……。

僕自身は学生時代、正直スクールカーストが下の方というわけではなかったと思う(別に上でもなかったけど)。でも、アメリカのボンクラガールたちの傷だらけの青春にどうしても惹かれてしまう。挫折しても挫折しても、生きるためにちょっとずつ前に進もうとする姿に感動する。やっぱり「生きてこそ」なんだと、どの作品も伝えてくれる。

しかし、エレン・ペイジが! ヘイリー・スタインフェルドが!と言っている同年代の男性は皆無で。「気が合うね〜」って人には会ったことがない……。

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執筆・編集
303 BOOKS(株式会社オフィス303)代表取締役。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。
イラスト
1994年、福岡県生まれ。漫画家、イラストレーター。第71回ちばてつや賞にて「死に神」が入選。漫画雑誌『すいかとかのたね』の作家メンバー。散歩と自転車がちょっと好きで、東京から福岡まで歩いたことがある。時代劇漫画雑誌『コミック乱』にて「神田ごくら町職人ばなし」を不定期掲載中。