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奇才ウェス・アンダーソンの映画世界

この記事は約6分で読めます by 加藤季余乃

こんにちは、加藤です。学生の頃、映画館でアルバイトをしていた時、「1年で300本映画を見てやるぞ! 」という謎の情熱を燃やしておかげで、とにかくたくさんの映画を鑑賞しました。今回は私が特に心奪われた、独特の世界観や映像表現が魅力のウェス・アンダーソン監督の映画作品を紹介します。

現実とファンタジーが溶けて混ざったような世界観の作品で、おしゃれに敏感な人も、映画好きのファンも虜にするウェス・アンダーソン監督。

画角を正面に固定するカメラワークや、人形を使ったアクションシーンなど、こだわりの強い演出で、絵本をめくるようにストーリーが進んでいくのが彼の映画の特徴。

今回はサブスクを利用して、家でも楽しめるウェス・アンダーソン監督の映画作品をその魅力とともにご紹介します。

グランド・ブダペスト・ホテル

2014年公開
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まるでおもちゃのような、ピンク色のホテルがメインビジュアル。その可愛らしいビジュアルに、目を奪われた人も多いのでは? この映画を見る前の私は、ビジュアルから映画の内容が想像できなかったのですが、実はコメディ・ミステリー作品。伝説のホテルコンシェルジュ、グスタヴがお得意様を殺害した容疑をかけられ、無罪を証明するためにベルボーイと奔走するという物語です。

ウェス・アンダーソン監督らしい、こだわりの演出がめいっぱい詰まった作品で、アカデミー賞4部門などを受賞し、日本でも話題になりました。

独特の世界観だけでなく、「謎」を追うストーリーにも、ぜひ注目してください。冒頭でわかるのですが、グスタヴの事件は古い過去の出来事なのです。

物語の最大の謎は、なぜ当時ベルボーイだった少年が、今は廃れてしまったグランド・ブダペスト・ホテルの支配人をしているのかということ。コメディで終わらせないウェス・アンダーソン映画の深さが感じられます。

余談ですが、この映画に登場するメンドルのケーキ。作り方が公式に公開されていて、自分で作ることができます。ぜひ作ってみて、映画の雰囲気を味わってみてください。

ムーンライズ・キングダム

2012年公開
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両親のいない天涯孤独のボーイスカウトの少年隊員サム、感情が抑えきれず暴走してしまう少女スージー、二人は孤独のさみしさを埋めるように惹かれ合い、駆け落ちをする。子供たちの愛の逃避行が主軸となった映画です。

二人は駆け落ちはとても真剣なんですが、発想がまだ幼くて、やることがどれもチャーミング。そんな子供たちの世界が、ウェス・アンダーソン節の効いた演出で見事に表現されています。

子供たちが逃げる一方、大人達はてんやわんや。二人を捜索するシャープ警部は、『ダイ・ハード』シリーズで有名なあのブルース・ウィリスが演じています。「えっ!? ブルース・ウィリスなの!? 」と思ったくらい、子供を守り切れなくて悩む大人を演じています……

サムとシャープ警部が会話をするシーンでは、なんとも言えない雰囲気が漂います。頭のいいサムは愛を語ることに真剣だし、シャープ警部はサムを諭そうとするもうまい言葉が出てこない。

「君を守るのは、大人の役目だ」とシャープ警部が言いつつも、二人の関係は『他人』なので、踏み込むことは難しい。自分の気持ちに正直な少年少女と、自分の思いを隠す大人が対照的に描かれており、両者がどうぶつかるのかが見どころとなっています。

ダージリン急行

2007年公開
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インドの絵柄の建物を背景に、珍妙な恰好をした三人の男性が並んでいるメインビジュアルが印象的な映画『ダージリン急行』。父親の葬式以降、会うことがなかった3兄弟が集まり、インドの北西部を走るダージリン急行に乗ってインドの秘境を旅するというお話。

三人とも、それぞれが何かで悩み、なかなか一歩前に進むことができないでいます。モヤモヤを抱え、兄弟ゆえに感情的にぶつかり、旅はどんどんハチャメチャになっていきます。

個人的に、この作品を言葉で理解しようとすると、なかなか難しいと思っています。三人にも映画を観る私たちにも、インドの開放的な文化のように「悩まず、感じてみな」と、映画が訴えてくるようです。

余談ですが、三兄弟を演じる役者さんは、『グランド・ブダペスト・ホテル』などにも出演しています。ウェス・アンダーソンの映画作品には、おなじみの役者さんが登場するので、過去作を見て探すのも楽しいです。

番外編 犬ヶ島

2018年公開
(レンタルのみ)U-NEXT Amazonプライム・ビデオ dTVなど

(どの配信サービスもレンタルのみなので、番外編として)

近未来の日本が舞台のウェス・アンダーソン監督の映画作品!

人形を少しずつ動かしてコマ撮りするストップモーション・アニメ映画『犬ヶ島』。感染症によって追放された犬たちと、人間の友情をテーマに描いた作品です(今の世の中を連想するような……)。渡辺謙、オノ・ヨーコ、夏木マリといった、日本の有名人たちもキャラクターの声を担当しています。

演出、キャスト、ストーリー、全てにこだわって、日本文化を浸透させているのが、この映画の魅力。ウェスアンダーソン監督は、黒澤明、小津安二郎、宮崎駿、名だたる日本の映画監督へオマージュを捧げたそうです。例えば、『七人の侍』の音楽を使って、英語をしゃべる犬が存在する世界を「和」のテイストに仕上げています。

個人的には、20年後の未来という設定にもかかわらず、テレビが白黒なことや、登場するキャラクターのほとんどが和服を着ているところなど、日本人から見ると少しズレを感じる「独特な日本」がこの映画の魅力だと思っています。

ちなみに今年上映予定のウェス・アンダーソンの新作は、フランスの架空都市が舞台だそう。ウェス・アンダーソン作品おなじみのキャストはもちろん、映画好きが間違いないと推す映画『レディ・バード』に出演のシアーシャ・ローナンといった、話題沸騰の俳優も登場します。(映画『レディ・バード』は、わが社の心平さんもおすすめの作品です! )

2020年公開「The French Dispatch(原題)」

ここまで読んで頂き、ありがとうございました! 他にも『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001)など、面白い作品ばかりなので、ウェスアンダーソン監督の作品が気になった方はぜひ見てみてください。

こちらのコラムシリーズでは、今後も303BOOKSスタッフが映画やドラマ、アニメなど、サブスクで楽しめる作品を紹介します。まだ見たことのない作品に出会うきっかけになれば幸いです!

エモーショナルな音楽映画

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執筆・編集
303BOOKS編集スタッフ。コーヒーをいれることにハマっているけれど、ブラックコーヒーが飲めず、ミルクをいれたカフェオレしか飲めないことを、ちょっとだけ気にしている。
イラスト
1994年、福岡県生まれ。漫画家、イラストレーター。第71回ちばてつや賞にて「死に神」が入選。漫画雑誌『すいかとかのたね』の作家メンバー。散歩と自転車がちょっと好きで、東京から福岡まで歩いたことがある。時代劇漫画雑誌『コミック乱』にて「神田ごくら町職人ばなし」を不定期掲載中。