
こんにちは。加藤です。学生の頃は、映画館でアルバイトをしていました。あの頃、1年で300本映画を見てやるぞ! という謎の情熱を燃やしていたおかげ(?)で、田舎娘がいろいろな映画に出会うことができました。個人的には、家族愛をテーマにした作品が好きです。しかも笑えるともっといい! そんなわがままな私にとって、ウェス・アンダーソン監督の映画はドンピシャだったのかもしれません。
現実とファンタジーが溶けて混ざったような世界観の作品で、おしゃれに敏感な若者も、映画好きのコアなファンも虜にするウェス・アンダーソン監督。彼の映画に登場する小道具や建物、人物たちの衣装までどれもすごくかわいらしいんです。
画角を正面に固定するカメラワークや、人形を使ったアクションシーンなど、こだわりの強い独特の演出で、絵本をめくるようにストーリーが進んでいくのも彼の映画の特徴。
しかし、かわいいだけが彼の映画のすべてではありません。今回はサブスクを利用して、家でも楽しめるウェス・アンダーソン監督の映画作品をその魅力とともにご紹介します。
グランド・ブダペスト・ホテル
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ピンク色のおもちゃのようなホテルがメインビジュアル。思わず、パケ買いならぬ、パケ観した人も多いのでは? このビジュアルからは想像できないかもしれませんが、内容はコメディ・ミステリー。伝説のホテルコンシェルジュ、グスタヴがお得意様を殺害した容疑をかけられ、無罪を証明するためにベルボーイと奔走するという物語です。
細部までこだわった演出と、「謎」を追うミステリー的にも完成度の高いストーリーが人気となり、アカデミー賞4部門など、いくつもの賞を受賞し、日本でも公開当初から話題になりました。(同じ時期に映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』など、注目度の高い映画が目白押しで公開され、大盛り上がりでしたね! )
この映画で、ぜひ注目してほしいのは、物語は事件解決が終わりではないところ。冒頭でわかるのですが、この映画の語り部は小説家で、グスタヴの事件は古い過去の出来事なのです。
物語の最大の謎は、なぜ当時ベルボーイだった少年が、廃れてしまったグランド・ブダペスト・ホテルの支配人をしているのかということ。このあたりにコメディで終わらせないウェス・アンダーソン映画の深さが感じられます。
余談ですが、この映画に登場するメンドルのケーキ。作り方が公式に公開されていて、自分で作ることができます。映画の世界の料理を実際に楽しめるなんて、たまらなくうれしい。ジブリもこういうの公開しないですかね。
ムーンライズ・キングダム
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両親のいない天涯孤独のボーイスカウトの少年隊員サム、感情が抑えきれず暴走してしまう少女スージー、二人は孤独のさみしさを埋めるように惹かれ合い、駆け落ちをする。二人の愛の逃避行が主軸となった映画です。
二人はすっっっごく真剣なんですが、子供なのでやることがどこかかわいらしく、喜劇っぽくなってしまう。チャーミングな子供の世界が、ウェス・アンダーソン節の効いた演出で見事に表現されています。
子供たちが逃げる一方、大人達はてんやわんや。二人を捜索するシャープ警部は、『ダイ・ハード』シリーズで有名なあのブルース・ウィリスが演じています。「えっ!? あれブルース・ウィリスなの!? 」と思ったくらい、子供を守り切れなくて悩む、なんともしょぼくれたおじさんを演じています……
そのしょぼくれ方が、寂しいのだけど、おかしくもあり、アクション映画の印象とは、また違った魅力を醸し出しています。
サムとシャープ警部が会話をするシーンは、なんとも言えない雰囲気が漂います。頭のいいサムは愛を語ることに真剣だし、シャープ警部はサムを諭そうとするもうまい言葉が出てこない。
「君を守るのは、大人の役目だ」と言いつつも、二人の関係は他人なので、踏み込むことは難しい。自分の気持ちに正直な少年少女と、自分の思いをひた隠しにする大人が対照的に描かれており、最後に両者がどうぶつかるのかが見どころとなっています。
ダージリン急行
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インドの絵柄の建物を背景に、珍妙な恰好をした三人の男が並んでいるビジュアルが印象的な映画『ダージリン急行』。父親の葬式以降、会うことがなかった3兄弟が集まり、インドの北西部を走るダージリン急行に乗ってインドの秘境を旅するというお話。
もちろんただ「インド文化を楽もうぜ~! 」っていう映画ではありません。三人とも、それぞれが何かで悩み、なかなか一歩前に進むことができないでいます。モヤモヤを抱え、兄弟ゆえに感情的にぶつかり、旅はどんどんハチャメチャになっていきます。
この三人、序盤は全然会話がかみ合わないんです。次男と長男が話している横で、三男が「あの子が欲しい…」って言ってる様子とか。(笑)でも、そこがまたリアルで、すべてかみ合う会話って現実でもなかなかないですよね。
言葉でこの作品を理解しようとすると、なかなか難しいかも。三人にも映画を観る私たちにも、インドの開放的な文化のように「悩まず、感じてみな」と訴えているようです。映画の中で、三人が「もっと自分を自由に表現したら? 言葉を使わずに」と言われるように。
余談ですが、この三人、『グランド・ブダペスト・ホテル』に全然違うキャラで出ています。ウェス・アンダーソンの映画作品には毎回おなじみの役者さんが登場するので、過去作を見て探すのも楽しいです。
途中で一瞬だけ出てくる、三男の元恋人役を演じるのは、映画『レオン』で有名なナタリー・ポートマン。『ダージリン急行』が映画館で公開されたとき、『ホテル・シュヴァリエ』という三男と彼女がメインの短編映画が、本編が始まる前に上映されていたようです。(サブスクで見られないので、ちょっぴり解説。)
番外編 犬ヶ島
(レンタルのみ)U-NEXT Amazonプライム・ビデオ dTVなど
(どの配信サービスもレンタルのみなので、番外編として)
日本人なら見たいウェス・アンダーソン監督の映画! 近未来の日本が舞台の映画です。人形アニメ映画という、なかなか見ないニッチなジャンルの作品なので、ウェス・アンダーソンの映画沼にもっとハマりたい! という人に向けて紹介します。
人形を少しずつ動かしてコマ撮りするストップモーション・アニメ映画『犬ヶ島』。感染症によって追放された犬たちと、人間の友情をテーマに描いた作品です(今の世の中とちょっとダブるような……)。外国の有名俳優だけではなく、渡辺謙、オノ・ヨーコ、夏木マリなど、日本の有名人たちもキャラクターの声を担当しています。
この映画、「ウェス・アンダーソンどんだけ盛り込むねん! 」とツッコミを入れたくなるほど、演出、キャスト、ストーリー、すべてにこだわり、日本文化を浸透させています。ウェス・アンダーソンは黒澤明、小津安二郎、宮崎駿ら、名だたる日本の映画監督作品から影響を受けており、この映画に彼らの作品の要素をオマージュしているそうです。例えば、『七人の侍』の音楽を使って、英語をしゃべる犬が存在する世界を「和」のテイストに仕上げています。
20年後の未来という設定にもかかわらず、テレビが白黒なことや、登場する人間のほとんどが和服を着ているところなど、日本人から見ると少しズレを感じる独特な世界はウェス・アンダーソンだからこそ作り出すことができたのではないでしょうか。
「和」の文化を基調とすることで、今までの作品には見られなかった無駄のない緊張感のあるカッコよさも滲み出ていて……見てほしい! ……レンタルしないと見れないんだけど……ああああああ(葛藤)。
ちなみに今年上映予定のウェス・アンダーソンの新作は、フランスの架空都市が舞台だそう。ウェス・アンダーソン作品おなじみのキャストはもちろん、映画好きが間違いないと推す映画『レディ・バード』に出演のシアーシャ・ローナン、ティモシー・シャラメら、話題沸騰中の若手俳優も登場するとのことで、映画ファンたちは待ちきれないと期待の声をあげています。(映画『レディ・バード』。実は、わが社の心平さんもおすすめの作品! 私、まだ観てないんです……めちゃくちゃ気になるので、サブスクで観てきます! )
ウェス・アンダーソン作品の魅力、うまく伝わりましたでしょうか。他にも『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001)など、面白い作品があるので、気になった方はぜひ見てみてください。
こちらのコラムでは、今後も303スタッフが映画やドラマ、アニメなど、サブスクで楽しめる作品を紹介してくれるとのこと……私が『レディ・バード』と出会えたように、今まで自分が知らなかったジャンルのおすすめを聞けると思うと、とてもドキドキしますね! いや、私がしてどうする。(笑)
