おいしいものを、もうひとつ

ゴンドラのパウンドケーキじゃないほう

この記事は約7分で読めます by 笠原桃華

こんにちは、笠原です。

「やっぱりお店一番人気はパウンドケーキですか?」
以前ある老舗パティスリーの店主にこう尋ねたところ、
「恋人を選ぶ時だって、人それぞれタイプは違うだろ?」
と問われ、ハッとさせられたことがあります。

お菓子と恋人…?う〜ん、似ているかも…。

イケメンも、優しい人も、お洒落な人も、ちょっと偏屈な人もみんなそれぞれの魅力がありますよね。

お菓子もその点、同じ。
「おいしいものを、もうひとつ…」と言って有名じゃないほうのお菓子を特集している私ですが、立ち返ってみればそもそもお菓子の美味しさに「どれが一番!」だなんてないのです。

基本でありながらすっかり意識の外に飛んでいってしまっていた大切なことを、改めて私に気づかせてくれたお店です。

おいしいものを、もうひとつ。
今回は「洋菓子の店 ゴンドラ」です。

「洋菓子の店 ゴンドラ」概要

ある時ランチタイムに会社の近くをぶらついていたところ、フワ〜っと甘い、とてつもなく美味しそうな匂いがしてきました。

そして文字通り鼻先を釣られるように、あるお店の扉へと吸い込まれてしまったことがあります。

靖国神社の向かい側にお店を構える「洋菓子の店 ゴンドラ」。
そのおいしそうな匂いが最初の出会いでした。

初代・細内善次郎さんが昭和8年(1933)に創業し、もうすぐ90年目をむかえる老舗洋菓子店。

「知られているケーキを、より美味しく作ること」

ゴンドラのお菓子を食べたなら、きっとこの想いが感じられます。

店内に並ぶお菓子はすべてごくシンプルな材料構成でありながら、それぞれ選び抜かれた上質な素材が使用されています。その上、その日の気候まで考慮されひとつひとつ丁寧に作られているんです。

ゴンドラのお菓子たちには〈隙〉が無いというのか…!

「パウンドケーキならゴンドラ」と巷で言われているほど熱烈なファンがついていることも、一口食べたら納得するはずです。

現在は二代目・細内進さんが社長です。

店主の細内進さん(右)と息子の滋之さん(左)。

進さんこそが冒頭で紹介した「問い」を私に投げかけてくれた方。

進さんはスイスの名門製菓学校である「リッチモンド製菓専門学校」をアジア人で初めてご卒業された方なのだそうですよ。

店内に飾られている賞状の一部。国内外問わずその実力が評価されている。

三代目の滋之さんは伝統の味の継承はもちろんのこと、その時代にあったお菓子の製作にも邁進されています。

「洋菓子の店 ゴンドラ」本店

店内はさっぱりとした優しい空間。
まろやかなクリームホワイトを基調とした店内にショーケースが2つ並んでいます。

入って正面にケーキのショーケースがあり、ショートケーキやシュークリーム、フロマージュブラン、サバランなどが並んでいます。

向かって右手には、マドレーヌやパウンドケーキ等の焼き菓子の入ったショーケースがあります。

冒頭で書いた通り、お菓子の「おいしい」に一番はありません。しかし店内に飾られているゴンドラの特集記事の数々を見ていると、どうやら「パウンドケーキ」がこのお店の名物である様子…。

店内のショーケースの上には、ゴンドラのパウンドケーキが特集された雑誌の数々が。

実際お店を訪問するたびにパウンドケーキを指名しているお客さんを見かけるので、お得意様からの厚い支持を感じます。

パウンドケーキについてはさまざまな大きさがあり、ホールで5号(15cm缶)、6号(18cm缶)、7号(21cm缶)とサイズが3種類あります。さらに6号を12カットしたものは単品で購入することができます。
どんなシチュエーションにも対応できそうですね。

そして入り口すぐの右手の棚。

この棚にはクッキー缶やサブレ、季節ごとに変わるお菓子などが並んでいます。こちらも贈答用に購入される方が多いようです。

次にケーキのショーケース向かって左手。

単品のクッキー類が沢山並んでいます。
クッキー缶に入っているものもあれば、単品のみでしか販売されていないものまで種類も構成もさまざま。

よく見ると各クッキーの名前の横に、その特徴も一緒に説明されています。
たまに新作が出ていることも。

今回買ったもの…

ゴンドラのお菓子はどれも私のお気に入りなため、どれを取り上げようか悩んでしまうのですが…。
今回は「サブレー」を紹介したいと思います。

と言うのも先日、私が仲良くしていただいている和菓子屋さんの方と話していたところ、ゴンドラの「サブレー」が偶然話題にのぼったからです。本当に偶然で驚きました。

美味しい物に詳しい人たちの間でコッソリ噂される商品なんて、間違いないに決まっています。

ゴンドラの「サブレー」。

ゴンドラ創業当時からある「サブレー」
一枚から購入することができます。

紙箱入りは4・8・12枚入りから、缶入りは15・20・35枚入りから選ぶことができます。
賞味期限は購入日から約3週間。価格についての詳細はこちらから。

今回は紙箱入り・12枚入りを購入しました。

サブレー 12枚入り 1,900円(税込)。小花柄の愛らしい包装紙は細内さんが滞在していたスイスに咲く花々をイメージしたもの。

開けるとこんな感じの箱に入っています。

ゴントラとゆかりの深い方のエッセイが書かれた冊子と、お店の商品紹介のパンフレットが同梱してあります。

各個体の間にはプチプチが挟まっている。

クッキーはじめとするゴンドラのほとんどの焼き菓子は郵送可能なのですが、このサブレーは繊細なため店頭販売のみの取り扱いとなっています。

…繊細ってどんな? クッキーとサブレって何がちがうんだっけ?
ということで、食べてみましょう!

「パウンドケーキ」じゃないほう、食べてみた

フランス語で「砂」を意味する”Le Sable”に由来すると言われる焼き菓子・サブレー。サラッとくずれる砂丘の砂の如くサクサクッとした歯ざわりが特徴的です。

ゴンドラの「サブレー」はこんな感じで個包装になっており、店名にもなっているゴンドラの絵が描かれています。

中身はこんな感じ。

手のひらサイズで結構大きいです。

よく見ると、サブレーそれ自体にも手漕ぎボート・ゴンドラの絵が!
由緒正しき焼き菓子、そんな風格があります。

サブレーもさまざまなかたちで世に出回っていますが、ゴンドラのサブレーはその名に忠実。

かじった瞬間ポクっと砕け、ほろほろと砂のようにくずれていきます。

甘さは控えめで、卵とバターのまろやかな香りが余韻を持たせてくれる至福の一枚。
しっかり焼かれた表面からはほんのりとビターな風味も感じられます。
一見シンプルなこのお菓子ですが、凝縮された技術力に驚かされます。

例えばクッキーを作ったことのある方ならご存知かと思うのですが、お砂糖の多いクッキーは固めの質感になりますよね。
そう考えるとこの「サブレー」の儚い食感は、ふんだんに使われたバターと湿度が逃げないようにと密閉された袋のなせるワザなのでしょう…。(おそらく)

職人とはなんたるかを突きつけられた気持ちになりました。

おわりに

サブレーに限らず、ゴンドラのお菓子は見た目は質素で地味。
これが私の持っている印象です。

しかし地味であることによって、かえって味や食感、香りに素直に注意を向けることができました。そうして素材に集中させられてみると、ふと「これら全て同じ小麦から出来ているのだ」ということに気づき、クッキーをはじめとする焼き菓子全般の表現力の広さ・深さを思い知らされます。

どれも小麦なのに、不思議。

なんとも官能的な世界に目覚めさせてくれる、そんなお店です。

「洋菓子の店 ゴンドラ」に行くためには、最寄り駅である市ヶ谷駅からも九段下駅からも1kmほど歩かなければならず、これは決して有利とは言えない立地です。

お店の方のお話をうかがっていると、「わざわざここまで買いに来てくれるお客さんたちをガッカリさせたくない」という熱い想いが伝わってきました。それが日々の努力として積み重なり、結果として90年近く愛され続ける名店にさせているのかもしれません。

ゴンドラのお菓子は多様なニーズに合わせたパッケージングはもちろんのこと、クッキーそれ自体の種類も驚くほど多く、そしていつどれを購入しても期待を裏切らない美味しさです。
是非お店に足を運んでみてくださいね。

おいしいものを、もうひとつ。

【取材協力】

洋菓子の店 ゴンドラ

住所:東京都千代田区九段南3-7-8
TEL:03-3265-2761
営業時間: 平日9:30~18:30 、土曜日 9:30~18:00
定休日: 日曜・祝祭日 (12月は変更あり)
http://patisserie-gondola.com/index.html

CREDIT

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執筆・編集・撮影
長野で野山を駆け回り、果物をもりもり食べ、育つ。好奇心旺盛で、何でも「とりあえず…」と始めてしまうため、広く浅いタイプの多趣味。普段はフリーで翻訳などをしている。敬愛するのは松本隆、田辺聖子、ロアルド・ダール。お腹が空くと電池切れ。