時代劇に、キュン!

「篤姫」の巻

この記事は約4分で読めます by 楠本和子

NHKの大河ドラマといえば、主人公は圧倒的に男性の場合が多い。

女性が主人公の大河で記憶に残っているのは、やはり「おんな太閤記」、それから「江~姫たちの戦国~」だろうか。どちらのドラマにも、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の三傑が登場する。大河ドラマでは、戦国時代が描かれることが多いように思う。まあ、それだけ人気も高いのだろう。

そんななか、高い視聴率を誇ったのが「篤姫」(2008〈平成20〉年の放送)だ。視聴率が取れないといわれた幕末ものにも関わらず、女性の人気を集めたそうだ。かくいう私もちゃっかり観ていた。

「篤姫」は、薩摩藩主の養女となり、将軍・徳川家定に嫁ぎ、家定亡き後は「天璋院」と呼ばれた女性が主人公のドラマだ。宮尾登美子の『天璋院篤姫』が原作で、脚本は田淵久美子。ナレーションは、私の好きな奈良岡朋子さんだった。

篤姫を演じたのは、宮﨑あおい。彼女は、大河ドラマ史上で最年少の主演だそうだ。

大河ドラマは1年間という長いスパンで放送される。正月に始まる大河ドラマの第一話はたいてい観ているのだが、だいたいの場合、途中で飽きてしまったり、後で観ようと思って録画をするものの、観るのが追いつかなくなる。また、ビデオがたまりすぎたりして(いまだと、ハードディスクが一杯になったりして)、結局、観ないまま終わってしまうことが多いんだよね…。

さて、「篤姫」が私を惹きつけたのは、確か、まだ、初めのほうの回だったと思う。

島津家の分家の娘だった於一(おかつ:後の篤姫)が、藩主・島津斉彬の目に留まり、島津本家の養女になることが決まった辺りだ。本家の養女になれば、大名への輿入れも可能になる。しかし、養女になって実家を離れる決心がつかない於一に、乳母の菊本(佐々木すみ江)が言う。

「女の道は一本道。さだめに背き引き返すことは、恥にございますよ」

この台詞が、ずーーーっと心に残ってしようがない。そう、私は台詞の網にかかってしまったのだ。この台詞に引っ張られて、篤姫の生涯を見届けたいと思うようになった。

この後、乳母の菊本は、自害してしまう。「なんでー?」と思うよね、フツー。菊本は、身分の低い自分が、姫の生涯に関わったという事実を消すために、自分の一切を消滅させるよう、ご主人宛てに遺書を残し、自害して果てたのだった。ちょっと、そんなこと出来る?   

出来ないでしょ、絶対。

こうして、名優・佐々木すみ江さんの演技とともに、私の心に深く刻まれた台詞となったのだ。

篤姫自身も、この言葉に背を押されて、どんな時も運命に立ち向かう。やがては、江戸城の無血開城という大仕事に、一役買うことになるのだ。

さて、戦国時代の大河ドラマの場合は、むさ苦しい(失礼…)男たちが大勢出てくるのが常なのだが、「篤姫」の場合は、舞台が江戸城の大奥なので、美しく着飾った女性がワンサカ出てくるのもうれしかった。将軍・家茂に嫁いだ皇女・和宮(堀北真希)をはじめ、教育係の幾島(松坂慶子)、大奥年寄・滝山(稲森いずみ)、家定の生母・本寿院(高畑淳子)ら、大奥で暮らす女性たちの衣裳や調度品なども美しく、見ていて飽きなかった。

そういえば、タイトルバックもちょっと変わっていたね。まるで、クリムトの絵画のような金色のキラキラしたのや、たくさんの花々のイラストで彩られていて、とても綺麗なものだったなあ。

もちろん、幕末のお話なので、島津斉彬(高橋英樹)、小松帯刀(瑛太)、西郷隆盛(小澤征悦)、大久保利通(原田泰造)ら、薩摩藩の面々がいる。また、徳川家定(堺雅人)、徳川家茂(松田翔太)、徳川慶喜(平岳大)、井伊直弼(中村梅雀)、勝海舟(北大路欣也)ら、江戸の面々も、それぞれ大河ドラマにふさわしい俳優陣が演じていたので、安心して観ていられた。

このドラマに出逢ってからというもの、私の脳裏には、「女の道は一本道」という言葉が沁みついてしまった。日々の生活のなかでも、何か、自分の行動に迷いが生じたとき、いつもこの言葉が浮かぶのだ。

「女の道は、一本道。引き返すのは恥にございますよ」

篤姫(宮﨑あおい)がついに大奥を去ろうとする時、滝山(稲森いずみ)が言う。「貴女様は選ばれしお方だ。自らの運命を知った大奥が、貴女様を呼んだのだ」と。

江戸城を去った篤姫は、明治維新後、徳川宗家16代・徳川家達を育てたが、その後、49歳という若さで亡くなっている。

篤姫の一生は、決して長いとはいえないが、潔くて美しい一本道だったと思う。

CREDIT

クレジット

執筆
神戸市の生まれだが、東京での暮らしも、すでに、ン十年。 根っからのテレビ好きで、ステイホーム中も、テレビがずっとお友だち。 時代劇と宝塚歌劇をこよなく愛している。
イラスト
1994年、福岡県生まれ。漫画家、イラストレーター。第71回ちばてつや賞にて「死に神」が入選。漫画雑誌『すいかとかのたね』の作家メンバー。散歩と自転車がちょっと好きで、東京から福岡まで歩いたことがある。時代劇漫画雑誌『コミック乱』にて「神田ごくら町職人ばなし」を不定期掲載中。