『ほんとうの星』『そらごとの月』刊行記念トークショー 今、表現者は何を伝えていくのか? 長田真作×小島慶子

わからなさとの格闘

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ついに発売された長田真作最新作『ほんとうの星』『そらごとの月』。この本の発売を記念して本屋B&B主催で行われたオンライントークショーの模様を誌上再現いたします。長田真作さんと語り合うのは、親交がある小島慶子さん。タレント活動をしながら、エッセイや小説を執筆されています。また社会に対する様々なメッセージも発しています。そんなふたりはいったい何を語ったのでしょう。本日が第1話です。

プロフィール(ページ下部へ移動します。)

筆を動かしてイメージを形にする

じつは私たちってこれが初めての出会いじゃないんですよね。まだ形にはなってないんですけど、あるプロジェクトで一度お目にかかって。

小島

そうですね。それ以来ですよね。

長田

この『ほんとうの星』『そらごとの月』の構想はいつぐらいにできてきたんですか?

小島

じつは構想らしい構想はなかったんですよ。そもそも、僕はあんまり構想を練らないタイプで、今回の絵本の元となるものも、ちょうど一年くらい前に突然書き始めたって感じで。

長田

じゃあ、303 BOOKSから連絡があって、長田さんちょっと絵本出しませんかな?て言われて、書いたわけではなく、日常生活の中でふと降りてきた感じなんですか?

小島

そうですね、そう言っていいと思います。

長田

どういう時に思いつくんですか?

小島

基本的に、紙を前にして筆を持って「よし、なにか描いてみよう」って描いていくんですね。で、今回の場合は、言語化も意識化もされていないアイデアの種みたいなものは僕の中に1年くらい前からあって、筆を動かしながらそれを具現化していったっていう感じですね。

長田
『ほんとうの星』
『そらごとの月』

『ほんとうの星』と『そらごとの月』の誕生

今回は『ほんとうの星』『そらごとの月』2冊同時に出版されましたけど、最初から星と月っていうイメージはあったんですか?

小島

じつはそのふたつが出てきたのはわりと後の方だったんですよ。『ほんとうの星』は赤基調、『そらごとの月』は青基調になっているんですけど、この「赤い世界と青い世界」っていうコンセプトがまずありました。描きながらその世界観を明確にしていったら、行き着いたのが「星」と「月」っていう感じだったんですよ。

長田

私が読んだ印象だと、赤はダイナミックなエネルギーが外に向かってあふれ出る「動の世界」、反対に、青はひっそりとした内面的な「静の世界」という感じがしたんですけれど、この赤と青ってのはどういう長田さんの中でイメージの違いはあるんですか?

小島

結果的にそうした違いが現れたっていうのが現実に近いかもしれませんね。じつは、描いているときは楽しくなっちゃって、そういう部分はあまり厳密に考えないんですよ。もう、とにかく必死で描いてるんで。

長田

ご自身も描いてるときは着地点は見えてない…?

小島

見えてないです(笑)。赤と青の世界をどれだけ広げられるかっていうことを第一にして描き進めた結果、小島さんが感じ取ってくださったようなそれぞれの世界観が生まれたっていうことかなと。

長田

そうなんですね。ということは、今回の2作ではさまざまなすがたかたちをしたものが描かれてますけど、これは何の象徴、これは何々を表そうっていう感じでなく、ご自身でも「これなんなんだろう?」って思いながら描いてるんですか?

小島

そうですね、象徴とかそういうことは決めずに描くように意識してます。ぼんやりとしたアイデアのもとみたいなものが意識と無意識の間にあって、それを頭の中で具現化させる前に。筆を動かして形を与えるといったことをしているんですが、こうすることで絵としてよりおもしろいものになると思うんですよ。

長田
『ほんとうの星』
『そらごとの月』

わからなさと永遠に格闘していたい

絵もそうですけど、文章も抽象度が高いですよね。たとえば「ぜーんぶあべこべ、これで何もかもぜーんぶあべこべ、それでもなお夜」っていう、なんかわかったような分からないような、ずっと考えさせられる言葉が並んでますけど、「あれってどういう意味だったんですか?とか、ちょっと最後の言葉ってのはどういう意味なの?」とか、ストーリーのねらいはなんだったの?とかって聞かれたりしません?

小島

よく聞かれますよ。でも、いつも答えられないですね(笑) そもそも、僕はそうやって答えを出すのが好きじゃないんですよ。答えを見つけるよりも、わからなさと永遠に格闘していたいタチなんですよね。

長田

それはわかります。絵本じゃなくても日常生活で「あれはなんだったの?」っていうことと出会うことは多いと思うんですけど、そういうわからなさに思いをめぐらせてるうちに、かえって自分の考えとか自分が大事にしてることとがわかってくることがあると思うんですよ。だから、そういう理解できないもの、得体のしれないものと向き合うことって大切ですよね。

小島

理解できないのが不快で、とにかくわからなさを解消したいっていう人もたくさんいると思うんですけど、僕は解消してくれるなっていうタイプで、それはもしかしたら僕の作品のコアな部分にあるのかもしれないですね。だから、「結局あれは何なの?」って言われると一番困っちゃうっていうことを強く言っておきたいです(笑)。

長田

じゃあ皆さん、長田さんに会う機会があったら「あれはどういう意味なんですか?」ってのはなるべく聞かないでくださいね(笑)。

小島

不安と付き合って生きていく

プロフィール

©︎ 阿部祐介
長田真作(ながたしんさく)
1989年生まれ、広島県出身。2016年に『あおいカエル』(文・石井裕也/リトル・モア)で絵本作家としてデビュー。『きみょうなこうしん』『みずがあった』『もうひとつのせかい』(以上、現代企画室)、『風のよりどころ』(国書刊行会)、『すてきなロウソク』(共和国)、『とじてひらいて』(高陵社書店)など多数の作品を手がける。また、漫画『ONE PIECE』のスピンオフとなる絵本『光と闇と ルフィとエースとサボの物語』や、ファッションブランドOURETへのデザイン原画提供など、多分野のクリエイターたちとのコラボを実現させた。2018年には、渋谷ヒカリエで『GOOD MAD 長田真作 原画展』を開催。近著に『のりかえの旅』(あすなろ書房)、『おいらとぼく』(文化出版局)がある。
小島慶子(こじまけいこ)
1972年オーストラリア生まれ。幼少期は日本のほか、シンガポールや香港で育つ。学習院大学法学部政治学科卒業後、1995年にTBSに入社。アナウンサーとしてテレビ、ラジオに出演する。1999年、第36回ギャラクシーDJパーソナリティー賞を受賞。ワークライフバランスに関する社内の制度作りなどにも長く携わる。2010年に退社後は各種メディア出演のほか、執筆・講演活動を精力的に行っている。『AERA』『VERY』『日経ARIA』など連載多数。著書に『解縛』『るるらいらい』小説『ホライズン』ほか多数。最新著書『曼荼羅家族 「もしかしてVERY失格!?」完結編』(光文社)が話題に。現在は東京大学大学院情報学環客員研究員として、メディアやジャーナリズムに関するシンポジウムの開催なども行っている。昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員。

構成:常松心平、笹島佑介