本屋B&B主催で行われた『新装版 そらのうえ うみのそこ』発売記念オンライントークショー「人類が目指した”そらのうえ・うみのそこ”」。ここでは、その模様を再現いたします。本書監修者の長沼毅先生と、芸人の木場事変さん。久しぶりの再会のふたりが宇宙に、深海に想いをめぐらせます。絵本作家、大橋慶子さんもゲストで登場します!
少年冒険家タケシは実在した?
はい。始まりました。『新装版 そらのうえ うみのそこ』刊行イベントということで、私は木場事変でございます。お願いします。そして、本日いろんなお話を聞かせていただきます、長沼毅先生です。お願いします。
はい。よろしくお願いします。
さて『新装版 そらのうえ うみのそこ』は、少年冒険家「タケシ」が宇宙と深海の両方を冒険するお話ですが、実際に宇宙と深海に行った人っているんですか?
はい、私が知っているかぎりでは二人いて、そのうちのひとりは日本人初の宇宙飛行士である毛利衛さんです。
毛利衛さんって深海も潜ってるんですか⁉
そうなんです。1992年にアメリカのスペースシャトルで宇宙にいって、2003年に日本のしんかい6500で深海に行きました。絵本の主人公タケシよろしく、上は高度310kmの宇宙から、下は深海6500mまで冒険したことのある唯一の日本人です。
タケシの冒険はおとぎ話じゃなくて実際の話なんですね。
まあ、現状では実際にそんなことできるのは特別な人に限られてますけどね。ちなみに、宇宙に行った人はこれまでに世界で533人いて、大半がアメリカとロシアで占められてるんですけど、3位はなんと日本で、12人います。日本人で最初に宇宙に行った人は誰だかご存知ですか?
毛利衛さんじゃないんですか?
ちがうんですよ。元TBS記者の秋山豊寛※1さんが日本人で初めて宇宙に行ったんですよ。というのも、毛利さんは88年に宇宙へ飛ぶはずだったんですけど、チャレンジャー号爆発事故※2が起こったせいでフライトがキャンセルになってしまって、そうこうしてるうちにソ連から宇宙飛行する権利を買ったTBSから秋山さんが一足先に宇宙に行ったっていうことなんです。
※1秋山豊寛 = TBSの記者だった1990年12月2日ソユーズ宇宙船TM-11に搭乗。ソ連の宇宙ステーション・ミール(写真)に滞在して、実験のようすや宇宙での生活を生放送で地上へ伝えた。同年12月10日ソユーズ宇宙船TM-10で帰還。
※2チャレンジャー号爆発事故 = 1986年1月28日、アメリカ合衆国のスペースシャトル「チャレンジャー号」が打ち上げの73秒後に固体ロケットブースタの異常で爆発し、搭乗員7名全てが亡くなった。このチャレンジャー号には初の民間人宇宙飛行士で高校教師のクリスタ・マコーリフさんが一般人として搭乗していて注目を集めていた矢先の悲劇だった。
なるほど。ということは、毛利さんではなく秋山さんが日本人初の宇宙飛行士?
いや、それでも日本人初の宇宙飛行士は毛利衛さんなんです。秋山さんが宇宙に行く前に、毛利さんはすでに宇宙飛行士の資格を持っていましたから。
先に宇宙に行ったのは秋山さんだけど、毛利さんのほうが先に宇宙飛行士になったってことですね。
そういうことです。Wikipediaも含めて、秋山さんが日本人初の宇宙飛行士と言われていますけど、それは違う。これは一毛利衛ファンとして声を大にして伝えたいんですよ。秋山さんも素晴らしい方ですけどね。
その毛利衛さんが宇宙と深海の両方に行ったことがある2人のうちの一人ってことですけど、もう一人は誰なんですか?
その人とはアメリカの宇宙飛行士キャサリン・D・サリバンさんです。アメリカ人女性ではじめて宇宙遊泳を行った人ですね。宇宙には3回も行っていて、2回目のときはハッブル宇宙望遠鏡を宇宙に設置するミッションをだったんですけど、このときに高度615kmまで到達しました。
高度615km⁉ めちゃくちゃ高いですね。
そうですね。この高度はスペースシャトルが到達した高度の中でも最大級に高いです。それで、そのキャサリンさんなんですが、2020年の6月に地球で一番深い場所、マリアナ海溝の10925mの深海まで潜ったんですよ。
すごい! これはなにかのミッションとして行ったんですか?
声がかかったんじゃないですかね。なんせNOAAっていう、日本でいうところのJAMSTECとか気象庁とか水産庁とかが合体した巨大な組織の長官をされてましたから。アメリカの民間会社Triton Submarinesという会社のLimiting Factor※っていうすごい潜水船があって、これに乗ったんですよ。
この二人が宇宙と深海に行った実在の冒険家タケシということですね。それにしても、世界で2人だけって考えると、空の上から海の底の冒険は本当に特別な旅ですね。
余談ですけど、毛利さんは2007年に南極に行ってるんですね。僕は毛利さんよりも先に深海にも南極にも行ってたから、本人に会ったときに「宇宙以外は全部僕の後を追ってますよね」って言ったんですよ(笑)
宇宙以外の極地は負けないっていう意地ですね(笑)
プロフィール
1961年、人類が初めて宇宙へ飛んだ日に生まれる。 1989年、筑波大学大学院生物科学研究科修了。深海から宇宙、北極から南極、砂漠から高山まで、あらゆる極地で、生命について研究する。科学界のインディ・ジョーンズの異名を持つ。JAMSTEC研究員、米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校研究員を経て、現在は広島大学大学院統合生命科学研究科教授。
1993年12月7日、長崎県波佐見町出身。プロダクション人力舎所属、お笑いコンビ「大仰天」のメンバー。日本史・ベースが趣味で、月1回、日本史のトークライブを開催している。樹海に行って歩いたり、不思議な街歩きをしたり、幅広い分野への興味や好奇心が旺盛。
岐阜県大垣市出身。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科卒業。イラストレーター、絵本作家として活動。東京都在住。
主な絵本に『もりのなかのあなのなか』(福音館書店)、『にんじゃタクシー』(フレーベル館)、『そらのうえうみのそこ』、『きょだいなガチャガチャ』(教育画劇)など。
構成:常松心平、笹島佑介