コロナウィルスにどうやって世界が立ち向かっているかを紹介する『VSコロナ』。今回からブラジル編がスタートです。日本とも、コロンビアとも違う、困難におちいっているブラジル。熱狂の日々の終わりにやってきた” パネラッソ”騒乱とは? 吉澤まりえが送ります!
去る2月
中国で新型コロナウイルス(COV-19)の感染がピークに達し
脅威が世界中に広がり始めた頃
ブラジルは浮かれていました
カーニバルの熱狂
街には人が溢れ、歌い踊る
その終焉ととも感染拡大の火蓋が切られるとも知らずに…
申し遅れました、元303アルバイトの吉澤まりえと申します。現在ブラジルはサンパウロに住んでおり、303の心平さんにお声がけいただいて今回寄稿することとなりました。世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るっている中、私が住むサンパウロにおける状況をレポートしたいと思います。
まずは現状から。
- 州内感染者 約10,000人 死者 約700人 死亡率7% (4月15日現在)
- 現在スーパーや薬局等を除く全ての商業施設は閉鎖中
- 州内のICUは80%近くが新型コロナウイルスの患者で埋まっている
- 人工呼吸器は人口2,490人あたり一台
- 医療従事者の5%が感染もしくは疑いで現場を離れている
中国では1月から感染が騒がれ始めていましたが、やはり南米に到達するのは遅く、ブラジルで初めて感染者が確認されたのは2月26日でした。ブラジルは1年で一番大きな祝日であるカーニバルの真っ最中で、海外渡航がとても盛んになっている時期だったと言えます。
一度感染が確認されると拡大のペースは非常に速く、イタリアのそれを超えるとも言われていますが、それに加えて検査数の問題もあります。現在サンパウロ州だけで約2万件検査を待っているサンプルがあると言われており、ブラジル全土の感染者の実態は30万人にも上るという試算もあるくらいです。
医療崩壊は目前に迫っているため市内のサッカースタジアムや公園に野戦病院が作られおり軽症者はそちらに送られるようですが、テント状の野戦病院に入院はかなり心もとないですね…。さらには国内の医療従事者の人手不足も深刻な問題になってきています。
また、感染拡大の二次被害とも言えるのが治安の悪化です。サンパウロは犯罪多発都市で普段から路上でスマホを取り出すことすらできないのですが、現在新型コロナウイルスに伴い職を失った一部の市民が強盗と化しています。中には検査官を装ってマンションに押し入る強盗もいるようです。現に私も3月末に買い物に訪れたスーパーで数時間後に強盗が発生したと聞き、肝を冷やしたこともありました。今ではスーパーの前に警察が配備されています。
さて、ご存知の通りブラジルは日本の約23倍の面積、1.7倍の人口を持つ巨大な国で、大統領を敷く連邦制となっています。そのため新型コロナウイルスの対策も各州によって様々です。私の住むサンパウロ州では3月17日に緊急事態宣言が発令され、スーパーや薬局等を除くすべての商業施設や公共施設、公園などは閉鎖され、学校も休校しています。事実上の外出禁止令ですが、サンパウロでは外出した者や営業した店舗への罰則はありません。
ここで問題になっているのがブラジル大統領と各州政府の対立です。昨年就任したボルソナロ大統領はブラジルのトランプと言われる超右派政権で、日本でも醜聞はお聞き及びのことと思いますが、新型コロナウイルスにまつわる言動は一国の元首のものとは思えません。
新型コロナウイルスを「グリペジーニャ(軽い風邪)」と称し、60歳以上の市民以外は影響を受けないのだから経済を再開させよと州知事を批判し、今でもマスクを着けずに国内各地の支持者たちとハグやセルフィーに興じています。この大統領の国民の命を軽視するかの態度に反発する市民たちは「パネラッソ」と呼ばれる抗議活動を行っています。毎晩8時半になると家の中から鍋を叩き、「大統領は出て行け!」などと叫ぶものです。この抗議活動は既に2週間以上続いています。
州政府は感染拡大に伴い貧困層への食料配布や現金給付、企業への融資を発表していますが、4月11日には外出禁止令の解除を求める大統領支持者たちが車やバイク3,000台以上でデモを行いました。国民の8割は隔離政策に賛同していると報告されていますが、世界中がこれだけの苦境に陥っている状況でこのようなデモを行う国があるでしょうか? 残念でなりません。
ということで、ブラジルでは新型コロナウイルスの感染拡大の脅威だけではなく、大統領と州政府の対立による情勢不安、治安の悪化という日本とは違ったリスクが存在することがおわかりいただけたかと思います。
次回は外国で感染拡大を経験する、ということについてお話ししたいと思います。