VSコロナ コロンビア編

許されざる腐敗

この記事は約4分で読めます by ユースケ“丹波”ササジマ

『VSコロナ コロンビア編#4』では、経済的に苦しい人に対する支援を紹介しました。今回はそうした支援に際して起こっているさまざまな問題を取り上げたいと思います。どんな時にも、どんな場所でも、汚れたその手を隠している人は必ずいるからです。これから、日本でも同じような問題が起こる可能性は十分あります。

ところで、コロンビアは平時から生活困窮者に対してさまざまな社会支援プログラムがあります。細かい説明はすっ飛ばしますが、こうしたプログラムに加入している人はロックダウン中に支援を受けることができます。しかし、国内には該当のプログラムに加入しておらず、なんの支援も受けられていない人が300万人もいる言われています。そこで、コロンビア政府はこうした人たちに160,000ペソ(約4,500円)を給付する支援策を始めました。

しかし、先日この支援を行うためのネットワークシステムで起こった不具合がSNSで拡散され、耳目を集めています。その不具合とは、「誰でも(架空の人物でも)支援を受けられるように見える」というものでした。

政府の該当するHP上でマイナンバーを入れれば、自分が支援金を受け取れるかどうかがわかります。しかし、デタラメの連番とデタラメの名前でも「マイナンバー0000の〇〇〇〇さんは、給付の対象者です」と出る不具合が報告されたのです(たとえば、マイナンバー : 11111111 / 名前 : ユースケ・丹波黒豆・黒光り・ササヤマ とふざけて入力しても、「マイナンバー11111111のユースケ・丹波黒豆・黒光り・ササヤマ さんは給付対象者です」と出てしまう)。

こうした不具合が明るみになると、「誰でも給付金を受け取れるようになっており、必要な人に届いていない可能性がある。政府が支援金を盗んでいるのではないか」という批判が噴出しました。不具合の説明を求める声に対して、政府は「デタラメなデータを入力して『給付対象者です』と表示されても、すぐさまその人に給付されるわけではない。こうした不具合が支援金の適正な給付に影響を及ぼすことはない。システムの回復に努める」と回答しており、現在該当のページはメンテナンス中になっています。

こうしたなか、4月7日、ルルアコという小さな街の市長であるMarly Gutiérrez(マリー・ギティエレス)が、自身の口座に160,000ペソが入金されているのを発見しました。もちろん、この160,000ペソとは生活困窮者のための給付金で、市長は給付対象ではありません。即座に給付金を返還した市長は、政府に対し、給付金が本当に助けを必要としている家庭に届くよう求めました。この問題と前述したシステムの不具合の関係性は明らかにされていませんが、多くの人が訝しがっています。

こうしたさなか、コロンビア会計監査局は、いくつかの都市において生活困窮者のための公的資金が着服されている可能性があると警鐘を鳴らしています。カサナレ県というところでは、24台の病室用ベッドと10台の担架のために、3億7250万ペソ(約1,050万円)が費用として計上されました(この支出で計算すると一台あたりおよそ1100万ペソ[約30万円 ])。しかし、会計監査局の調査によると、実際に購入されたのは一台850万ペソ(約24万)のベッドだったようです。また、トカンシパという街では、生活困窮者に配られる食料品と生活必需品が一式揃ったパックの費用として、一つあたり16万ペソ(約4,500円)が計上されましたが、コロンビア国家統計庁によると実際の値段は8万ペソ(約2,300円)だったそうです。

会計監査局は、ほかにもツナ缶や石鹸、豆などの支給品の費用が上乗せされて計上されているのが確認されていて、こうした全ての事例を考慮すると、生活困窮者を支援するために使われるはずの資金から800億ペソ(約23億円)が何者かによって着服されていると指摘しています。

このことに関して、もちろん国民は憤っていますが「いつものことだ」と諦めきっている人もいます。こうしたことはコロンビアでは珍しくなく、国民はそうした腐敗に疲れ切っています(ポイントが高いほど汚職が少ないとされる世界腐敗認識指数ランキングにおいて、2019年のコロンビアは37ポイントで180カ国中で96位。日本は73ポイントで20位)。

誰かの私腹を肥やすために消えていった23億円で、厳しい暮らしを強いられながらロックダウンを過ごす人たちにどれだけのことができたのでしょうか。COVID-19という突如として現れた未知の病が、古くからコロンビアを蝕ばむ腐敗という病を浮かび上がらせます。

しかし、だからといってなにもしないコロンビア国民ではありません。メデジン市では、市長が100億ペソ(約3億円)と10万の食料パックやその他必要用品を生活困窮者のために集めるべく、寄付を呼びかけました。

こうした呼びかけに、MalumaやJ Balvinなど海外で活躍するメデジン出身のアーティストや、大手スーパー、通信会社、銀行などの企業が応じたほか、なにか寄付したい一般家庭は市に連絡して直接引き取りに来てもらい食料やマスクなどを提供しました。こうした市民の働きかけのおかげで130億ペソと10万個の食料パックを集めることに成功しました。

腐敗に負けてられないという気概が感じられます。

次回は、コロンビアでロックダウンを過ごす移民に焦点を当てたいと思います。

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VSコロナ コロンビア編

祖国へ向かう移民たち

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執筆・編集・撮影
株式会社オフィス303の元社員。黒豆で有名な兵庫県丹波篠山市出身。2017年に日本を飛び出して1年ほどラテンアメリカ諸国を行脚する。現在はライターやフリー翻訳者として働きながら超低空飛行で生き延びる。