書店探訪

「絵本のこたち」

この記事は約5分で読めます by 加藤千有幾

京都市伏見区にある閑静な住宅街の中に不意に現れる「本」の看板と趣のある木製の柵。民家の庭先にある古民家を改装した建物が「絵本のこたち」さんです。扉を開けると本の香りのする落ち着いた空間が現れ、靴を脱いで上がった絨毯の敷いてあるスペースで絵本を座って読めるようになっています。
新連載「書店探訪」は、この絵本のこたちさんからスタートします。店長の熊谷聡子(くまがいさとこ)さんにお話をうかがいました。

絵本の子たち外観
熊谷聡子さん

すてきなお店ですね。どうしてこのようなお店をつくろうと思ったんですか?

加藤

2018年2月に京都市伏見区で絵本専門店をオープンしました。ここが出来るまで、この地域は図書館も書店もなかったんです。この古民家も傷んで雨漏りもしていたので、直すか潰すか、選択を迫られていたんです。でも住んでいる場所に本屋さんがほしいという思いから、改装して本屋にしました。

熊谷

ここができるまで本屋さんがなかったんですね!?

加藤

そうなんです。でもオープンのきっかけは、子供が通っていた小学校で図書館司書のボランティアをしたことですね。当時の校長先生に声を掛けていただいたんです。そこで最初にしたことは子供たちが利用しやすいようにすることでした。ジャンル毎に分けたり、整理整頓したんです。そしたら子供たちが喜んで利用するようになったんです。みんなチャイムが聞こえないぐらい本に集中してました。それで「子どもは本が好きなんだ」と気付かされました。その時、やっぱり本を読める場所を作ることは大事だなと思ったんです。でも小学校の図書館は、土・日曜日・放課後は閉まっていて、いつでも自由に本を読めないんです。そこで、やっぱり町の本屋さんが必要だなと思いました。

熊谷

なるほど、そうだったんですね。なぜ絵本を専門にしようと思ったんですか。

加藤

絵本は子供も大人も読めるので、時間を共有できると思ったんです。大人と子供が読後に会話ができるって素敵ですよね。それで子供から大人まで、誰でも来られるようにと絵本専門店にしたんです。

熊谷

それは絵本ならではですね。

加藤

絵本から様々なことが学べると思うんです。私は絵本から「思考力・想像力」を学びました。『ふしぎなえ』という絵本があるんですけど、上がっても上がっても下へ行く階段、どうしても逆さまに歩いてしまう横断歩道みたいに不思議な世界が次々と繰り広げられるんです。それが不思議で色んな見方をしてたんです。それで「目に見えていることが全てじゃない。見えないところに何かあるのかもしれない」って思ったんです。それって私の人生の中ですごく大きな発見でした。でも、それで物事を疑ってかかる癖がついたかもしれないです(笑)。

熊谷
「ふしぎなえ」の絵本

私も子どもの頃読んだ絵本には、かなり影響を受けていると思います。

加藤

『ふしぎなえ』を読んで、絵本作家になりたいって小学校のときに思ったんです。でも美大に入っていろいろと絵を描いているうちに、なんとなく自分は作家向きではないと感じていました。それで卒業後、デザイン事務所・大学の助手を経て、出版社に入社したんです。

熊谷

出版社に居たんですねー!

加藤

30年近く前ですけど4、5年編集部で働いていました。画集とか写真集が多かったので、ほとんどは制作管理みたいな感じでしたね。本屋さんにも行くことがあったんですけど、すごく大変そうだなって思ってました。自分だったら絶対やらないだろうなって(笑)。その後、結婚して、子どもができて、退職して、専業主婦の期間があって、図書ボランティアを始めて・・・。その間、ずーっと絵本が好きでした。この絵本、良いですよって薦めるのが楽しいんです。今この仕事が1番しっくりきていますね(笑)。

熊谷

まさに天職!

加藤

なんか随分遠回りしたなと思ってます(笑)。

熊谷
笑顔の熊谷さん

そういえば、イベントも開催されていますよね。開催のきっかけは何だったんですか?

加藤

原画展はお店を始める前から、ぜひやりたいと思ってました。原画は字が載っていないので、絵をじっくり見ることができるんです。「こんなことが描いてあったんだ」って発見があるんですよ。絵の観賞にギャラリーや美術館まで足を運ばなくても、気楽に近所の本屋さんで見てほしいと思ったんです。

熊谷
原画展

原画を見ると、印刷ではわからなかったいろいろな発見がありますよね。絵本選びのポイントって何かありますか?

加藤

お客様には、まず『あなたは何を贈りたいですか?』とうかがってます。きっと絵本をプレゼントした相手に、何か感じてほしいことがあると思うんです。だから、具体的な内容よりも、その「想い」をうかがって、それから私がおすすめの本を紹介しています。だから、本そのものを贈るだけじゃなくて、想いをプレゼントしていただければ、と思っています。

熊谷

タイトルではなく本当に贈りたいものを気付かせてくれるんですね。今注目している本を教えてください。

加藤

最近注目している本は『くろは おうさま』ですね。この本はグラフィックノベルと言われていて、コミックと絵本の中間な作りなんです。グラフィックノベルは、絵本ともマンガとも違って、物語を伝える力がすごくある手法だと感じています。ぜひ多感な中高生に、この作品に出会ってほしいなと思って置いてます。

熊谷

ほんとに美しい本ですね。303 BOOKSでは『本の未来 未来の本』をコンセプトにしています。そこで熊谷さんが考える『本の未来 未来の本』を教えてください。

加藤

「本の未来 未来の本」を考えるヒントは「繋がり」でしょうか。うちは本屋ですけど、本だけじゃいずれ限界はくると思うんです。なので、もっと地域と繋がって、地元の名所や特産物の情報なんかも発信していきたいですね。それと今、司書不足で週1回しか学校の図書館に司書が居ないんです。そうなると本も古くなりがちになるんですね。だから学校とももっと繋がって新刊の紹介をしていきたいですね。子どもたちにはもっともっと新しい本を読んでほしいなと思ってます。そんな「繋がり」の中にある「伏見の本屋さん」という存在になっていきたいです。きっと、そういう本を間にした「繋がり」が未来へのヒントになると思うんです。

熊谷

本日はどうもありがとうございました。

加藤

こちらこそ、ありがとうございました。ちゃんと記事になりますかね?(笑)

熊谷

もちろんです! 今後はぼくらとも繋がってくださいね。

加藤
店舗情報
  • 店舗名:絵本のこたち
  • 創業:2018年2月
  • 住所:〒612-8241 京都府京都市伏見区横大路下三栖辻堂町76
  • TEL & FAX:075-202-2698
  • 定休日:水・木曜日
  • 営業時間:11:00〜19:00
  • アクセス:最寄駅は京阪本線 中書島駅。市バス南行き(横大路車庫方面)で約10分、徒歩で20分。
  • ホームページ:http://cotachi.main.jp/

CREDIT

クレジット

執筆・編集
愛知県三河地方出身。ホームセンターから出版業界へ。様々なジャンルの営業を経験し303 BOOKSへ。何よりも書店に入った時の「本の香り」が好き。
撮影
千葉県千葉市美浜区出身。ゴースト・オブ・ツシマにはまってます。パンダが好き。