絵本作家・長田真作×俳優・松坂桃李『そらごとの月』『ほんとうの星』刊行記念対談

幼少期の原風景。そして絵本を描き続ける理由

この記事は約7分で読めます by 常松心平

2016年のデビュー以来、30冊を超える絵本を世に送り出してきた長田真作さん。
このたび、新作絵本『そらごとの月』『ほんとうの星』が、303BOOKSより2冊同時刊行となります!
その発売を祝し、作者の長田さんと俳優の松坂桃李さんによるスペシャル対談が実現しました!
第四回目は、お二人のルーツにせまっていきます。幼少期の思い出や忘れられない言葉など。
さまざまなお話が飛び出しました。

長田真作(ながたしんさく)
広島県出身。2016年に『あおいカエル』(文・石井裕也/リトル・モア)で絵本作家としてデビュー。『きみょうなこうしん』『みずがあった』『もうひとつのせかい』(以上、現代企画室)、『風のよりどころ』(国書刊行会)、『すてきなロウソク』(共和国)、『とじてひらいて』(高陵社書店)、『いっしょにいこうよ』(交通新聞社)など多数の作品を手がける。
松坂桃李(まつざかとおり)
1988年生まれ、神奈川県出身。2008年に男性ファッション誌の専属モデルオーディションでグランプリを獲得し、モデルとしてデビュー。2009年、『侍戦隊シンケンジャー』で俳優デビュー。それ以降、数々のドラマや映画に出演。映画『新聞記者』(2019年)で第43回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。公開待機作として映画『あの頃。 』、 『空白』、 『耳をすませば』を控える。

ジャポニカ学習帳に、ひたすら漫画を描いた小学生時代

桃李くんてさ、幼少のころは、何か将来の展望みたいなものはあったの?

長田

あー、そうだね。小学校のころなんかは、それこそ漫画家になりたいと思ってて。

松坂

あっ、好きだから。

長田

そう。好きだから。

松坂

非常に簡潔な動機だね。笑

長田

そう、「描いてやるぞ!」と。

松坂

どういう形で描いたの?

長田

うん、ジャポニカ学習帳とかにね、描いたりしてたんですよ。

松坂

描くには最適です。 安いし。

長田

ガーッと描いて。いっぱい描いて、自分の中でたくさん模写とかしたり、オリジナルのお話を描いてみたんだけど、いかんせん一向に上達しないという。

松坂

自分の思ってる感じと違うぞ、と。

長田

うん。「全然違うぞ!」「なんか違うな!」というので。全く才能がないんだなと思った。

松坂

でも不思議だよね。やっぱり何か発するというか、表現することに興味があったんだね。

長田

そういう事だったのかな。

松坂

幼少期の原風景

桃李くんて、出身は神奈川県の茅ヶ崎だよね?

長田

おー、そうそうそうそう。

松坂

漫画を描こうとしていたこととはまた別にさ、思い返してみると、幼少期の原風景みたいなものってある?
ほら、土地が与える影響とか、あるじゃない? そういうルーツについては、どんなもんですか?

長田

えー? ルーツ? 茅ヶ崎時代? 影響、どうなんだろうな……。
本当に、地元はヤンキーしかいなかった笑。

松坂

あっ、そうなんだ。

長田

本当に第一第三土曜日になると、海沿いがブンブブンブブンブンみたいな。うーん。思い出すことといえばそれくらいか……。海は好きだけどね。でも、反対に山への憧れがすごくあって。

松坂

真逆のことを求めたのね。

長田

そうそうそう。「なんで俺ん所は海しかないんだよ!」みたいなね笑。
高校時代とかは、バイトしてお金貯めて、友だちと一緒に毎年スキー場へ滑りに行ってたね。

松坂

むしろ、スキー場のほうに住んでた人が入れ替わりに茅ヶ崎の海にきていたかもね。笑

長田

真作くんはどう? どんな感じだった?

松坂

僕は『孤狼の血』の舞台になった呉市で生まれ育ったから。大きな軍港があって、戦争の中心地になった所だし、そういう歴史みたいなものはたくさん教えこまれるというか。土地からの影響ってわりと感じるほうかな。

長田

うんうん。

松坂

海があって、今でも港にはイージス艦やら潜水艦が停泊していて。それで中通とかのアーケード街も、普通の商店街もあるけど、何か歓楽街の匂いが昔からして。そこらへんは映画でよく表現されていたよ。あと何か、幼心に「極端な感じ」がするというか。そういう場所だったね。
だから、今にして思うと、僕は、呉市に相当強烈な”何か”があったなあと思うのね。

長田
広島県呉市のながめ。

呉は強烈だよね。

松坂

ちょっと行っただけでもわかるでしょう?

長田

いや、強烈だと思うよ。歴史の中でいろんな時代のうねりを越えてきた場所でもあるし。やっぱり他とはちょっと異質な部分があると思う。

松坂

『孤狼の血』を呉のポポロという映画館で見ていたときも、すさまじかったよ。
まず、喫煙所なんてもう煙草吸い放題なぐらいで。分煙はされてなくて。
おじさん達がベンチに並んで煙草吸いながらしゃべっててさ、「あー、わしゃ今日は桃李くん観に来たんじゃ、ほんま。役所さんはどうかのう?」みたいな感じで楽しそうにしてるわけ。映画が始まってもしゃべってるのよ。 笑

長田

おおお、やっぱ違うね。

松坂

上演中でもおじさんが「これ※堺川じゃろう、わしゃあこん時(わしはこの撮影の時)近くにおったで」とかスクリーンに向かって言ってる。東京じゃあない光景よね。地方ならでは。いや、地方でもそうないんじゃない?

長田

※堺川 : 呉に流れる川

そうないと思うよ。撮影してたときも、やっぱり地元の方たちの熱量、感じたもん。

松坂

話しかけられた?

長田

「呉で映画の撮影してんだって?」と言って「わしが出ちゃろうか?」みたいな感じでね。スタッフさんが「ありがとうございます」と言いながら「カメラに映っちゃうんで、すいませんがもうちょっとこちらのほうに。ご協力ありがとうございます!」と言う時間がめちゃくちゃ多かった笑。

松坂

さばきが大変だ笑。

長田

それぐらい、「応援しとるけー」という熱が強くて。撮影でお借りしていた水道局の掃除のおじさんが、メロンパンの差し入れをくださったり。

松坂

メロンパンて、あの呉の「メロンパン」という店のやつ? 食べたの?

長田

そうそう。食べたよ。ものすごいおいしいよね。

松坂

きみはもう、呉市にかなり詳しい!(笑)

長田

価値観が大きくゆらいだ、おじいさんの話

呉はすさまじい場所だってさっき話したじゃない? 最近少し感じたんだけど、やっぱり僕の一部の作品の中には、どうしても、第二次世界大戦のことというのが、どこか、何かしこりみたいにある気がして。

長田

なるほど。

松坂

親戚のなかに被爆をした人がいたり、小さい頃からたくさん被爆体験、戦争体験の話を聞く機会があったの。うちは、二世帯住宅だったんだけど、ある日、いっしょに住んでいたぼくのじいちゃんがすごいことを言ってね。それがね、強烈に記憶に残ってるの。

長田

うん。

松坂

どんなタイミングかは覚えてないけど、「真作ちょっと来い」と。あらたまった感じで呼び出されてね。それで、「あの第二次世界大戦と言うのはな、優秀な人が順番に先に死んでいったんじゃ」と。急にすごいことを言い出して。 もしかしたら、戦争体験について、事前に僕が尋ねていたのかもね。

長田

そのとき、真作くんて何歳だったの?

松坂

その話がわかるような年齢だったから、小学校の3〜4年生くらいかな?「わしは、体が弱くて兵役はちょっと免除されたんだ」と。実際、うちのじいちゃんって、色んな病気があったりして、体が弱かったんだけど。
それで「でもわしは今も生きとるから、ある意味優秀じゃ」というようなことを言って。 他にも何か言ってたのかもしれないけど、その言葉だけが今も身体に沁みついているんだ。

長田

うん。

松坂

聞いてすぐは「??」ってな感じだよ。ふだん寡黙な人の言葉だったから、衝撃が強くて。年を重ねてその言葉を思い返してみると、ぐらっと自分の価値基準が大きくゆらいだの。
何をもって「優秀」「優秀じゃない」なのか・・・・・・。

長田

うんうん。

松坂

呉で育ったからこそ感じてきた「戦争」の気配というのか、そういう体験が積み重なったのは、僕にとってかなり大きな出来事だね。

長田

うんうん。

松坂

だから最近思うのが僕の場合絵本を描くことって、どちらかと言うと「自分のなかの心のひっかかりを落とし込む作業」という意味合いが強いんじゃないかって。自分の感覚やつかみきれない何かを表現するのが、絵だと楽なんだよ。言葉はその次かな。それが僕にとっての絵本との付き合いかたなのかもしれないね。

長田

うん。なるほど。

松坂

この話、するつもりじゃなかったんだけどね。いや、でもね、呉について話すとなると、どうしても通らないわけにはいかないというか。

長田

うん、大きなことなんだろうね。そういう内面的な部分からひっくるめて、今の絵本の描きかたにつながってるということだなんだね。

松坂

そう。自分にとって絵本はなんなのかということを考えるきっかになったよね、ルーツを探るってのは。

長田

うんうん。

松坂

ともかく、今回の2作品の絵本が無事完成した暁には、プレゼントするので、ぜひ読んでほしいよ。

長田

おおー、それは楽しみ!

松坂

うん。今日はありがとう!  感想は絵でよろしく!笑。

長田

構成:常松心平、中根会美、撮影:土屋貴章、水落直紀

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編集部
303 BOOKS(株式会社オフィス303)代表取締役。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。