2020年代に現れた80年代キュレーター Night Tempo 夜韻 インタビュー

あの名曲が最新ポップスに!『ザ・昭和グルーヴ』

この記事は約7分で読めます by 常松心平

Wink、斉藤由貴、工藤静香、1986オメガトライブなど80年代日本の昭和ポップスのリエディットを多く手がけるDJ/プロデューサー/キュレーターのNight Tempoさん。今回は、大ヒットしている『真夜中のドア/Stay With Me』を中心に、Night Tempoさんの代名詞とも言える『ザ・昭和グルーヴ』シリーズについて、お話をうかがいました。

Night Tempo
80年代のジャパニーズ・シティ・ポップや昭和歌謡、和モノ・ディスコ・チューンを再構築し、「フューチャー・ファンク」というジャンルを生んだ韓国人プロデューサー兼DJ。米国と日本を中心に活動する。竹内まりやの「Plastic Love」をリエディットして欧米で和モノ・シティ・ポップ・ブームをネット中心に巻き起こした。昭和カセットテープのコレクターでもある。2019年に昭和時代の名曲を現代にアップデートする『ザ・昭和グルーヴ』シリーズを始動。Winkを皮切りに、杏里、1986オメガトライブ、BaBe、斉藤由貴、工藤静香、松原みきとこれまで7タイトルをリリース。同年フジロックフェスティバル'19に出演を果たし、秋には全国6都市を周る来日ツアーを成功させた。2020年2月には東京ドーム ローラースケートアリーナでバースデイ・イベントを開催。
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海を越えた80年代グルーヴ

今回は『ザ・昭和グルーヴ』についてうかがいたいと思います。『真夜中のドア/Stay With Me』の楽曲を最新作としてリリースされましたよね。松原みきさんの曲を選ばれた理由はなんでしょうか?

心平
1979年に発売された松原みきのデビュー・シングルをNight Tempoさんがリミックス。オリジナルを知らない若い世代のハートもグッと掴むキャッチーな出だしで”Showa Groove”全開。

昔から大好きな曲でした。10年前くらい前に好きになって、5~6年前から世界的に流行り出したんです。今回、公式でリミックスさせていただける機会をいただいたので、すぐ「やります!」とお返事しました。

Night Tempo(以下NT)

では以前から狙っていたんですね。この曲に目をつけたポイントはどんなところなのでしょうか?

心平

この曲って派手じゃないですか。それが当時の日本の世相を映し出しているのではないかと感じました。『真夜中のドア/stay with me』はこれは松原さんのデビューシングルなんですが、「デビュー曲からこんな派手なものを作れるんだ」と。

NT
1979年発売の松原みきファースト・シングル。近年のシティ・ポップ人気から火が付き、Spotifyでは2020年の1年間で約460万回、Youtubeでは現在240万回再生を突破している。作詞は三浦徳子、作曲・編曲は林哲司。
Spotify

以前、日本の古いスタジオに行かせていただいたんですけど、この当時は新人のデビュー曲でさえ、ビックバンドを起用して、演奏にお金をかけていたそうです。何を出しても普通に売れたから、アレンジにしっかりお金をかけても十分利益が出ていたと聞きました。音楽業界がそれほどまでに豊かだった時代を、この曲を通して間接的に感じることができます。これは現代の人たちにも魅力的に映るはずです。日本語がわからない外国人にとっても、華やかなこの曲の雰囲気はとても魅力的です。

NT

イントロ・ドン!の重要性

僕がNight Tempoさんがリミックスした楽曲を聴いて、「好きだな~」と思うところはイントロなんです。昭和の歌って元々イントロが強いのに、それをNight Tempoさんはさらに強めています。イントロについてのこだわりはありますか?

心平

そうですね。昭和の曲はイントロ一発でわかる曲がすごく多いので、そこをさらに強くしてやってみようと思ったんです。もともと僕はフューチャー・ファンクを制作していたのですが、当時はイントロについてそこまで重視していませんでした。ですが、日本の文化・昭和の音楽をさらに勉強していくと、”イントロ・ドン!”の重要性に気付いたんです。以降、『ザ・昭和グルーヴ』として出すときは、“イントロ・ドン!“を常に意識しています。

NT

今回の作品も、もう”イントロ最強”になってますもんね。

心平

今回の作品はサビをイントロに持ってきました。以前やっていた『ザ・昭和グルーヴ』とはまた少し違った戦略を持って制作しました。

NT
BaBeのセカンド・シングルにして大名曲『I Don’t Know!』。原曲は歌から始まるが、印象的なイントロがついて、曲の良さを現代に伝えている。

「シティ・ポップ」はイメージ!?

1989年に発売された工藤静香の『嵐の素顔』をNight Tempoさんがリミックス。2020年8月の配信開始以降、YouTubeでは約13万回再生されており、当時のファンだけでなく若い世代からの熱狂的な支持を獲得している。

工藤静香さんの『嵐の素顔』もリミックスされていますが、あれもイントロであの有名なギターリフが炸裂していて、爆発的に盛り上がるような仕上がりになっていますよね。

心平

ライブやイベントのことを考えて作っています。コロナ以前はイベントをよくやっていたので、イントロを強くすることで、流れた瞬間「あの曲だ!」と現場のみなさんにわかってもらおうという狙いがあったんです。ただ同じライブでも、オンライン配信で聴くのと、現場で聴くのとでは、受け取り方がかなり違うということも実感しています。

NT
2019年にShibuya Wombで行われたライブ映像。『君は1000% (Night Tempo Showa Groove Mix)』が流れるやいなや、客席から歓声が上がり、年齢を問わない盛り上がりをみせた。

『嵐の素顔』って曲調がロックじゃないですか。日本のシティ・ポップってブラック・ミュージックを下味にした曲が多いですよね。イギリスでもデュア・リパがロックをうまく取り入れているように、これからはロック調なものも扱っていこうと考えていますか?

心平

実は音楽ジャンルとして「シティ・ポップ」と厳密に定義するのは日本だけです。例えば、海外だとWinkの『淋しい熱帯魚』も、森高千里さんの『ストレス』も「シティ・ポップ」と呼ばれています。菊池桃子さんの曲が再ブレイクしているのは「シティ・ポップ」として発掘されたからなんです。でも実際には菊池桃子さんの曲は、日本で言えば「ダンス・ポップ」が多いんですよ。海外ではジャンルというよりかは、イメージとしての「シティ・ポップ」が先行していて、「昭和のポップス=シティ・ポップ」として扱われています。

NT

では『嵐の素顔』も「シティ・ポップ」という扱いなんですね。

心平

海外の人から見たら、そうですね。昔「ガール・ポップ」という言葉があったじゃないですか。あれも音楽だけじゃなくてファッションやスタイルも含む概念だった。現代なら、例えば原宿で「ゆめかわいい」というイメージで語られるもののような。そうしたものと同じように、厳密な音楽ジャンルというより時代や都市の気分を表している言葉じゃないかと僕は思っています。

NT

クラブで聴く『ザ・昭和グルーヴ』!

オリジナルの楽曲とNight Tempoさんのリミックスを聴き比べてみると、めちゃめちゃグルーヴィーになっていて、クラブでかけたら爆発的に盛り上がりそうな仕上がりです。素人の耳には、鳴っている楽器はそんなに違わないのかと思うんですが、実際には作業の段階でかなり手を加えているんですか?

心平

手は加えていますね。

NT

ドラムとかベースの鳴りが全然違うように感じていて。

心平

さっき言った通り、クラブとかライブ現場でどう聴こえるかというのをいちばん意識して製作しています。つまりフロアで踊ってもらうための曲、ということになります。具体的には、リミックス自体もコンプレッサを結構強めにかけたり、アンプをつけてベースの音も大きくしたりしていますね。まあ色々手を加えて、体で感じる音楽に仕上げています。クラブだけじゃなくて、車のカーオーディオで聴いても盛り上がれるんじゃないかな。

NT

そういった工夫があるんですね。最高です。

心平

ヘッドフォンだけじゃなくて、クラブや車で、聴いてほしいですね。

NT

『ザ・昭和グルーヴ』シリーズは、アメリカをはじめ全世界で多くの反響があります。次回は、Night Tempoさんに大きな影響を与えた「日本音楽界のレジェンドたち」について語っていただきます!

心平
キレキレのイントロのあと、ベースがうねりまくる。80’sのアイドルソングの名曲がクラブ・アンセムに生まれ変わっている。Night Tempoさんのアメリカ・ツアーの映像でも、会場が爆発していた。

昭和音楽界のレジェンドたちへのリスペクト

『集中  Concentration』
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『松原みき – Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』
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CREDIT

クレジット

聞き手
303 BOOKS(株式会社オフィス303)代表取締役。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。
聞き手
出版業界やゲーム業界を渡り歩いてきた風来のエンジニア 兼 WEBディレクター。かつて勤めていたゲームメーカーが発売したレトロゲームを数年前から収集し始めたが、数が膨大にあるのと、一部はプレミア価格が付いていて、すべて集めるのは無理と悟った。それでも直近1年間で20タイトルほど購入した。
執筆
長野で野山を駆け回り、果物をもりもり食べ、育つ。好奇心旺盛で、何でも「とりあえず…」と始めてしまうため、広く浅いタイプの多趣味。普段はフリーで翻訳などをしている。敬愛するのは松本隆、田辺聖子、ロアルド・ダール。お腹が空くと電池切れ。