2020年代に現れた80年代キュレーター Night Tempo 夜韻 インタビュー

昭和音楽界のレジェンドたちへのリスペクト

この記事は約7分で読めます by 常松心平

Wink、斉藤由貴、工藤静香、1986オメガトライブなど80年代日本の昭和ポップスのリエディットを多く手がけるDJ/プロデューサー/キュレーターのNight Tempoさん。2021年1月に新アルバム『集中CONCENTRATION』をリリース、『ザ・昭和グルーヴ』シリーズも大ヒットしています。今回は、日本の音楽史を築き上げたレジェンドたちの魅力について語っていただきました。

Night Tempo
80年代のジャパニーズ・シティ・ポップや昭和歌謡、和モノ・ディスコ・チューンを再構築し、「フューチャー・ファンク」というジャンルを生んだ韓国人プロデューサー兼DJ。米国と日本を中心に活動する。竹内まりやの「Plastic Love」をリエディットして欧米で和モノ・シティ・ポップ・ブームをネット中心に巻き起こした。昭和カセットテープのコレクターでもある。2019年に昭和時代の名曲を現代にアップデートする『ザ・昭和グルーヴ』シリーズを始動。Winkを皮切りに、杏里、1986オメガトライブ、BaBe、斉藤由貴、工藤静香、松原みきとこれまで7タイトルをリリース。同年フジロックフェスティバル'19に出演を果たし、秋には全国6都市を周る来日ツアーを成功させた。2020年2月には東京ドーム ローラースケートアリーナでバースデイ・イベントを開催。
WEBサイトTwitterInstagramFacebookYouTubeBandcampSoundCloud

作り手からの影響

Night Tempoさんがリエディットされている曲の、オリジナル曲を作っている人たちについてうかがいたいです。Winkの『愛が止まらない ~Turn it into love~』、『淋しい熱帯魚』や、中森明菜さんの『スローモーション』は、船山基紀さんが編曲されています。こうした作り手の方のことは、意識されているのでしょうか?

心平

はい。もちろん、意識しています。船山基紀さんが編曲される曲は、「音が強い」という印象を持っています。僕の人生の曲ベスト10に入る曲に、1986オメガトライブの『Navigator』という曲があるのですが、これも船山基紀さんが編曲されています。この曲も音がすごく強いんですよね。あとは、『淋しい熱帯魚』みたいに、船山基紀さんが手がけるファンキーなものもすごく好きです。ほかには、荻野目洋子さんの『フラミンゴ in パラダイス』という曲も好きです。ロック調の編曲で、イタロ・ディスコっぽさもあって…。この時代のかっこいいサウンドを全部持ってきて混ぜた!って感じなんです。

Night Tempo(以下NT)

林哲司さんについてもお話うかがってもいいですか? 林哲司さんはNight Tempoさんのお好きな菊池桃子さんやオメガトライブの楽曲を多く手がけられています。もしかしてNight Tempoさんの原点になっているのは林哲司さんの楽曲なのではないかなと思ったんですが、それは意識されていますか?

笠原

色々な方の影響は受けているのですが、僕は林哲司さんと角松敏生さんの影響を一番強く受けています。加えれば、山下達郎さんにも影響を受けていますね。竹内まりやさんの曲のメロディーも凄く好きです。あらためて考えてみると、竹内まりやさんと林哲司さんって、コード進行が似ているんです。そして、どこか”寂しさ””切なさ”を感じさせるメロディー・ラインが特徴です。林哲司さんの曲ってマイナー(単調)の曲が多くて、どういう曲でも林哲司さん特有の味わいを感じます。

NT

コード進行に共通点があるんですね。興味深い!

笠原

林さんも映画のサウンドトラックを作っているんです。その映画を観ていると、音を聞いているだけで、ちょっと悲しくなるほどの切ないメロディーなんです。

NT

哀愁漂う曲が多いですよね。

笠原

僕が好きな作曲家の方たちは世界観が確立しています。林哲司さん始め、角松敏生さん、山下達郎さん、全員それぞれに世界観がきちんとある。そんな中で、僕は林哲司さんの世界観が一番ユニークじゃないかなと思っています。特に菊池桃子さんの楽曲についてはそう感じます。ファースト・アルバム除く彼女の作品については、宇宙みたいなサウンドになっていて、歌詞もすごく……シュールで宇宙的というか。

NT

独自の世界ですよね(笑)

笠原

まあでも、その歌詞自体が当時のロマンを表現しているんだと捉えています。すごくSF的な世界観を展開している曲が多かったんじゃないかなと思っています。

NT

洋楽ビートを体に刻んだ少年時代

林哲司さんってアメリカのポップスを幼少期に聴いて育ったと、どこかの記事で読んだことがあります。Night Tempoさんは、昭和ポップスに出会う前はどのような曲を好んで聴いていたのですか?

笠原

もともと父が、日本とアメリカから輸入する仕事をしていたんです。その影響で僕は小さな頃から外国の音楽に触れる機会が多かったんです。イタロ・ディスコ系のアーティストか、ブラック・ミュージックのファンクとか聞いていましたね。クインシー・ジョーンズとか、チャカ・カーンが好きでした。小さい時はチャカ・カーンが大好きでよく聴いていましたね。

NT

なるほど、ブラック・ミュージックの影響があったのですね。

笠原

そのサウンドのベースが僕の中にはあったので、後になって中山美穂さんの『CATCH ME』という曲を聴いたときは、子ども心に「ファンキーなサウンドに、アジアのテイストを入れた、こんなカッコイイ曲もあるんだ!」と、宝物を発見したような思いでした。日本のみなさんも洋楽などを聴くときに経験したりすると思いますが、言葉がわからなくても、音だけで「うん!これ良い!」というような。声も楽器として聴いていましたね。

NT

声も楽器ですね。確かに。実は、以前林哲司さんのインタビュー記事を読んだときに、「桃子は歌唱力よりも、声質が特徴的で”色”がある声だった」というようなお話をされていました。ほかにもたくさん有名なアイドルがいるなかで、Night Tempoさんが菊池桃子さんに惹かれたのは、やっぱり「声」でしょうか?

笠原

菊池桃子さんは、声にとてつもない魅力あるのはもちろんですが、歌もうまいと僕は思っています。菊池桃子さんはとても素直に歌っているのですが、コンサート映像を見るとうまくてビックリしますよ。「こんなに高いキーも出るの!?」って。

NT

そうなんですか! ビデオ見てみたいなあ……。

笠原

当時、アイドルなら松田聖子さん、中森明菜さん、河合奈保子さんがいました。彼女たちはみんな”歌唱系”だからすごくうまいんです。その中で歌唱力だけなら菊池桃子さんよりうまい人はいたかもしれません。でも、林哲司さんの楽曲にぴったり合う歌手といえば、それもう絶対的に菊池桃子さんです。あと同じように林哲司さんの楽曲を完璧に活かす歌手として、カルロス・トシキさんもいます。

NT

あ~、カルロス・トシキさんですね~。

心平

カルロス・トシキさんは歌唱系ではないんだけど、声を聞いて、“切なさ”を感じるんです。杉山清貴さんは歌唱系なので「うまい!」となりますけど、より海外で知名度があるのは実はカルロス・トシキさんだったりします。もちろん、どっちも素晴らしいですが。

NT

カルロス・トシキの声からは”サウダージ”を感じます。

心平

High-BPMで踊れる”筒美サウンド”

斉藤由貴さんの『卒業』リエディットも素晴らしかったですね。これは、昨年亡くなられた筒美京平さんが作曲された曲です。筒美京平さんの作品についてはどう思われますか?

心平
斉藤由貴のデビュー・シングルにして、「卒業」ソング・クラシック。Night TempoさんのリエディットによりBPMがあがり、切なさよりも、青春のきらめきが強調され、踊れる作品となった。

筒美京平さんの曲には、本当に名曲が多いですよね。あえて1曲を選ぶなら、僕のお気に入りは本田美奈子さんの『Temptation』です。中山美穂さんの『派手!!!』も好きです。他にも好きな曲がたくさんあります。High-BPMで、ダンス系が多いのが特徴的ですよね。筒美京平さんの作品は、アイドル・ダンスポップの極みだと思っています。森高千里版の『17歳』とかもそうだし。

NT

そうですね。ダンサブルなんですよね。

心平

少年隊の『ABC』もそうですよね。

NT

いちばん好き。名曲です。

心平

あの曲は船山基紀さんと一緒にやってるんですよ。あっ! そうだ。僕、田村英里子さんもすごく好きです。

NT

あ〜〜〜! 懐かしい! いいね!

安部

アルバムも、全部カセットテープで持ってるんですけど。

NT

え〜〜! カセットで…!

安部

女優になる前の、歌手の時の彼女の歌声がすごく好きで、今もよく聞いています。田村英里子さんの曲も、最後の方になってくると筒美京平さんが書いてますよね。『ロコモーション・ドリーム』とか、『好きよ』とか。少女が大人になる前の”青春”が良く表現されているように思います。

NT

次回、80年代への”愛が止まらない”、Night Tempoさんの「これから」についてうかがいます。

コロナを越えて"昭和"がやってくる!

『集中  Concentration』
YouTubeMusic
Spotify

『松原みき – Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』
YouTubeMusic
Spotify

CREDIT

クレジット

聞き手
303 BOOKS(株式会社オフィス303)代表取締役。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。
聞き手
出版業界やゲーム業界を渡り歩いてきた風来のエンジニア 兼 WEBディレクター。かつて勤めていたゲームメーカーが発売したレトロゲームを数年前から収集し始めたが、数が膨大にあるのと、一部はプレミア価格が付いていて、すべて集めるのは無理と悟った。それでも直近1年間で20タイトルほど購入した。
執筆
長野で野山を駆け回り、果物をもりもり食べ、育つ。好奇心旺盛で、何でも「とりあえず…」と始めてしまうため、広く浅いタイプの多趣味。普段はフリーで翻訳などをしている。敬愛するのは松本隆、田辺聖子、ロアルド・ダール。お腹が空くと電池切れ。