HOWではなくWOW! OVER ALLs

アート界の"ドン・キング"赤澤岳人インタビュー

この記事は約7分で読めます by 常松心平

福島県双葉町の壁画プロジェクト「FUTABA Art District」を企画した赤澤岳人さん。アート界の”ドン・キング”と名乗り、刺激的なプロジェクトを次々と仕掛ける赤澤さんに、 同プロジェクトへの思いやアートに対する考え方、今後の野望について、うかがいました。

赤澤岳人(あかざわたかと)
株式会社OVER ALLs 代表取締役社長
大手人材会社の営業職を経験後、新規事業責任者として事業承継をテーマとした社内ベンチャーを設立。退職後の2016年9月、アーティストの山本勇気とともに株式会社OVER ALLsを設立。主に企画・プロデュースを担当。
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2020年12月12日AM6時壁画の制作が始まった。

FUTABA Art District

今回のプロジェクトは赤澤さんと高崎さんとの出会いから生まれた「物語」と言えると思います。山本さん(画家・副社長)や、OVER ALLsのスタッフのみなさんとはすぐに共感できていたのですか。

心平

そうですね。僕らは、そういう場を求めていたのかもしれません。僕たちは普段オフィスやパブリックスペースで「仕事」として作品を発表しています。「商芸芸術からこそ最高の芸術が生まれる」という言葉を僕らは信じているので、依頼をいただいたからこそ、すごいことをやるんだと思っています。でも、それと同時に、自分たちから仕掛けておもしろいことをやる場を探してもいたんですね。

赤澤
下描きをした後は、スプレーで描いていく。

今別のところで暮らしてらっしゃる方が、双葉町に帰ってくる火種みたいになるといいですよね。

心平

これが「WOW!」の強さというか、おもしろそうだから帰ってきたで良いと思うんですよね。そういう「心の動き」がたくさん集まった結果、次に何かが生まれるという確信があります。

赤澤
限られた時間に作品を仕上げるため、圧倒的な速さで描いていく。

ジャズバンド“雨晴らしカルテット”ピアニストのサーカス田中さん(OVER ALLsの音楽部加入)と、ヴォーカルのカサイタカミチさんの素晴らしい演奏を聴いて「音楽、瞬発力すごいな」と感動しました。でも、壁画ってずっと、そこにあって、出会う人に次々と「WOW!」が起こるわけで、それって強いなと思いました。

心平

そうですね。音楽は鳴っている間、日常空間を音で変えるというアートですよね。絵画も飾ることで、同じような空間を変えるアートだと思います。それでいうと、壁画はそこにずっとあるのがおもしろいと思っています。どんなときにその絵を見るのかでもちがうし、何年か経って見るとまたちがうし、自分の状況や心と共鳴し、WOW!を生み出していくのが、独特だと思います。

赤澤
ヴォーカルはカサイタカミチさん、ピアノはサーカス田中さん。ソウルフルな歌声とピアノを披露。
2020年12月12日、建物のオーナーの息子さんの2歳時を描いた作品が完成した。

アートxメッセージ

『HERE WE GO』、『ファーストペンギン』という言葉が効いてますよね。作品名は絵を描き終えてから名付けたのですか?

心平

言葉は僕が考えることが多いです。『HERE WE GO』は、最初は「HERE」というタイトルが頭に浮かんで、それだけだと止まっている感じがしたので『HERE WE GO』にしたんです。『ファーストペンギン』は、双葉町にたくさんあったお店の中で、「ペンギン」が初めて復活するお店だって聞いて、作品の完成後に名付けました。

赤澤
2020年12月13日、もう1つの作品に着手する。

アートにそれほどなじんでない人たちを引きつけるのはコンセプトだと思います。OVER ALLsは、作品のコンセプトをしっかり言葉にしますね。

心平

SNSがこれだけ発達していると、今のアートで作品の物語とか、出すタイミング「5W1H」がすごく大事だと思っています。複雑化している社会の中で、きちんと企画を通す力、言葉の力も必要です。「現代アート」って実は昔ながらの世界なので、僕らは「現代アート」という言葉をあまり使わないようにしています。僕らがやっているのは「現代のアート」なんですね。

赤澤
大きな壁面を描く際には、クレーンが必要。高所作業車も地元の企業が協力した。

OVER ALLsのメッセージは、見た人だけでなく、インターネットの向こう側にも、ドスンと伝わってきますよね。

心平

現代アートの見る人に解釈を委ねるスタンスも素敵だと思いますが、僕らはそうではないんです。音楽に例えると、僕らはパンクのようなもので、そこに込められた想いを伝えたいんですね。

赤澤
若葉を描いている成長した息子さんの姿が現れた。

経営者として

この日は高崎丈さんの同級生が集まり同窓会を開催。キッチンカーを使って、ペンギンのハンバーガーと、キッチンたかさきのコーヒーが販売された。

「WOW!」で突っ走る時、社員のみなさんは常に共感してくれるものですか?

心平

ウチのメンバーは、おそらく僕以上にこのプロジェクトに関して熱いものを持っているかもしれません。今回、何名か東京に残しているんですけど、彼らはおそらく双葉に来たかったんじゃないかと思います。それくらい前のめりの気持ちでみんなやってくれています。

赤澤

僕も経営者なんで、わかりますが、ご自身が動くことで熱量が発生して、会社の推進力になっていきますよね。

心平

今はまだ僕が熱を発して動いています。でもスタッフは、僕や山本へのリスペクトが強すぎて、邪魔せずに僕らの考えていることを早く理解して実現させなきゃと思うんですよね。ぼくは、それぞれが好き放題にやって、それが違うんだったら会社と別れたらいい、というくらいの感覚をみんなに持ってもらえたらと思っています。

赤澤
壁画の制作は、数人のスタッフの息の合った作業で進んでいく。

やりたいことをやろうとしたら、「話を勝手につけてきました」っていうパターンが必要ですよね。

心平

そうなんです。その時に、絶対に僕らの「楽しんだって、いい」というポリシーから外れるなという話はずっとしています。例えば、僕らは街に”落描き”をしに行く訳ですけど全て許可を取っています。世界には許可を取らずに描く人もいる。それは、そういう文化がある街でやるから成立するけど、日本でやったら問題なんです。描かれた側も傷つくし、そういうことは絶対にやりません。だけど落描きっていう”セクシーなアート”は、やりたいこと のひとつでもあるんです。僕らは「楽しんだって、いい」を真っ向から貫くために、許可を取って、理解を得てから作品を描きます。

赤澤

今、お忙しいですよね。おふたりは体力的にもかなり大変ではないでしょうか。

心平

僕は、仕掛けて企画して最後に納まりをつけて、それを次につなげていくかを考えればいいので、まだ大丈夫ですけど、僕よりも山本の方が大変でしょうね。彼は身ひとつで絵を描いて、とにかく形にしなければならないというプレッシャーがあります。あれだけのアートをつくるのは、体力的にもかなり大変だろうなと思います。

赤澤
このサインに「誇り」が込められている。

これからのOVER ALLs

2020年12月13日16時30分作品が完成した。

音楽、アート、フード以外にコラボしていきたいジャンルはありますか。

心平

僕らが打ち出そうとしているもので、ファッションの世界があります。今の日本の洋服って「HOW」が多いというか「外せないアウター10選」とか、「この春の着回し術」とか、「HOW TO」ばかりなんです。そうではなくて、服も「WOW!」でいいじゃないかと。おもしろい、物語のある服というものにアート目線で取り組んでいます。僕の顔を描いたシャツとかも全部その一貫です。今後、本格化させて「WOW!」なアイテムを増やしていきたいと考えています。

赤澤
マスクもパーカーもOVER ALLsのオリジナル商品。

衣・食・住すべてにWOW!ですね。

心平

「住」で言えば、ある会社から「OVER ALLsのホテルを作ろう」と話をいただいて。テーブルなどの家具ってシンプルでHOW TOばかりなので、自分たちでペイントしてアートを天板の上にガーンと乗っけてしまって。それらを「バ家具(バカな家具)」と呼んでいます(笑)。こういうものもどんどん増やしたいです。

赤澤

いわゆる「アーティスト集団」みたいな枠にとどまるつもりはないということですね。

心平

ぼくらは、「楽しい国、日本を作ろう」というのを掲げています。ここから外れなければなんでもやっていくという感覚です。アートが中心でもなくてもいいんです。大事なのは「楽しい国、日本」を作るために何をするか。その手段のひとつにアートとか音楽があるというだけの話なんですね 。

赤澤

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取材
303 BOOKS(株式会社オフィス303)代表取締役。千葉県千葉市の埋めたて地出身。バイク雑誌、パズル雑誌を経て、児童書の編集者になる。本は読むものではなく、つくるものだと思っている。
構成
福岡市出身。千葉市を拠点に会社役員とライター、2足のわらじを履くパラレルワーカー。 千葉は第2の故郷。趣味はプロ野球、Jリーグ、プロレス観戦。
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千葉県千葉市美浜区出身。ゴースト・オブ・ツシマにはまってます。パンダが好き。
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某研究学園都市生まれ。音楽と東京ヤクルトスワローズが好き。最近は「ヴィブラフォンの入ったレアグルーヴ」というジャンルを集めて聴いている。
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