エンジョイステイホーム! 世界ナンバーワン唎酒師に聞く、⽇本酒の楽しみ⽅
「2020 年はとんでもない1年だった」「予定していた忘年会も全部キャンセル、これじゃ年忘れができないよ」という⽅も、ステイホームで年忘れ。家族で⾷卓を囲みながら飲むもよし、じっくり⼀⼈酒もよし。こんな時こそ⽇本⼈ですもの、⽇本酒をいただきたい。
どうせならプロ中のプロに⽇本酒の楽しみと奥深さを教えて頂こうというわけで、2019 年世界唎酒師コンクール(⼩売サービス部⾨)で優勝した沼⽥さんに、⽇本酒をテイスティングしながらお話を伺いました。
⽇本⼈が⽇本酒を選択から外すなかれ
今⽇はよろしくお願いします。
こちらこそ。去年の 12 ⽉※ぶりだね。もう1年だ。
※取材は2020年12月に行いました
ええ、1年前は渋⾕での⽇本酒の集いでお世話になりました。実は沼⽥さんとは⼤学時代のバレーボール仲間です。昔からお酒好きとは知っていましたが、まさか世界⼀になるだなんてすごいです。(名刺を⾒ながら)あれ? ソムリエの資格も持っているんですね。
ワインも好きなのと、ソムリエさんの話題にもついて行きたくて勉強しました。ただ、プライベートでは圧倒的にワインより日本酒を飲んでいますね。
世界⼀ですから当然ですね。そんな沼⽥さんですが、普段のお仕事も⽇本酒に携わっていて、世界に⽇本酒を広げる仕事もされています。まさに⽇本酒のプロフェッショナル。まったくあのウイルスのせいで外出もままなりませんが、今⽇は年末年始に家でお酒を飲む機会が増えるだろうということで、⽇本酒について伺おうと思います。単⼑直⼊に、沼⽥さんにとって⽇本酒の良さとはなんでしょうか。
うん、単純においしいですね。そして⽇本酒のコスパはものすごくいいです。少なくとも⽇本においてアルコールを飲むという時に、⽇本酒を選択肢から外すのはもったいなさ過ぎると思います。
確かに日本酒ってものすごく高いイメージはないですね。
⽇本酒ってペアリングにおけるタブーが少ないから、何種類も用意しなくても食事の間ずっと1本で通せてしまうんですよ。例えばワインなら何も考えずに色々な食事と合わせてしまうと、反発することが少なくない。だからこそソムリエが根付いているとも言えますね。でも、毎晩カジュアルに晩酌をするとなると、日本人の食卓って色々な料理が一度にテーブルに乗るでしょ? 西洋料理みたいにコースじゃないから、ワインで一皿ずつ合わせようと思ったらテーブルの上がしっちゃかめっちゃかになりかねません(笑)。
あーなるほど、ワインはコース料理だから一皿ずつ合わせられるのですね。
あと、⽇本酒はある程度の値段さえ出せば、超高級ワインにも引けを取らないクオリティの商品がたくさん見つかります。そして、ペアリングを細かく考えなくても⼤失敗がほとんどない。さらに提供温度や飲む器など、突き詰めようと思えば深掘りもできます。こんなにおもしろくておいしいものがほかにあるのかなとも思っています。変に肩肘を張らなくて良い分、⽇本酒を酌み交わせば誰とでも友だちになれるんですよ。
なるほど、プライベートでもお酒をよく飲まれると。ご実家も福島ということで、⽶どころですものね。そういった DNA もあるんでしょうか。
ありますね。僕の⽗親は私が産まれる前、樽でお酒を買っていたそうで、樽って⼀升瓶 10 本分で「⼀⽃」というんです。昔は「いやー、親⽗それ飲み過ぎだよな」と笑っていたけど、私もリアルに⼀升瓶10種類をまとめて買うという「⼀⽃買い」をたまにしているので、笑えなくなりました。
お酒好きの DNA がしみこんでいますね。さて今⽇は「⽇本の酒 情報館」さんにご協⼒をいただいて、お酒をテイスティングしながら進めていこうと思っています。ここではなんと 30ml 100 円で⽇本酒のテイスティングができます。すばらしい。
10 種類飲んだら 1合半強かな。まさに 1000 ベロ。いろいろ試せておすすめです。館⻑のセレクトもお⾒事ですから、今⽇はここで何種類か年末年始におすすめの銘柄を選んでいきたいと思います。
楽しみにしています。ところで私は⽇本酒というと「⾟⼝」と呼ばれるものが⾃分の⼝に合っているように思うのですが、そもそも⽇本酒のカテゴライズについて教えてください。
⽇本酒は「味」と「⾹り」を楽しむべし
⽇本酒をラベルから読み解く場合には「軸」が2つあります。まずは「原料となるお米をどのくらい磨くか」です。お⽶を磨くことを精⽶、そしてどのくらいお米を磨いたかを精米歩合(せいまいぶあい)と⾔います。ぼくらが普段⾷べているお⽶は玄米から糠(ぬか)と胚芽(はいが)を取り除いています。これらの重量が8%ぐらいだそうです。
と言うことは……。
精米歩合は原料として残る方ですので、精米歩合は92%程度ということですね。日本酒の場合は、そこから更に外側の部分を削り取っていきます。何故かというと、お⽶の外側にはタンパク質が多くある。タンパク質って、⾷べる場合はあった⽅がおいしいのでこれ以上削る必要はありません。でもこれでお酒を造る場合、タンパク質は雑味にもなり得ます。
同じお米なのに、食べるときとお酒にするときで味わいが変わるんですね。
だからどんどん削っていくことで、より雑味の少ないキレイな酒に仕上げるわけです。吟醸酒は精米歩合が 60%以下で、つまり⽶を40%磨いて削ってしまいます。⼤吟醸は吟醸よりさらに磨いて半分の 50%以下にしてお酒にします。厳密に言えば、そこから低温発酵をするなどの条件もありますし、敢えて磨かないことで魅力を持ったお酒もありますが、数字として分かりやすい指標は精米歩合ということになります。
なるほど。磨けば磨く程、綺麗なタイプのお酒に近づく。よりお米に磨きがかかったのが⼤吟醸ということですね。
もうひとつの軸は純⽶か純⽶じゃないか。純⽶の⽇本酒はお⽶と⽔のみで作っています。純⽶じゃない⽇本酒は、他に醸造アルコールなどを添加しています。例えばサトウキビ由来のスピリッツを⽔で割ったものを⼊れると味がすっきりして、フルーティに仕上げることができます。
お米なのにフルーティですか?
そう、お米で作っているのにフルーティってなんだか不思議ですよね。でも、吟醸酒ってフルーツを思わせるような⾹りがあって、いわゆる吟醸⾹(ぎんじょうこう)と呼ばれます。この⾹りはアルコールにより溶けやすいので、度数の高い醸造アルコールを使うことで、よりフルーティな香りを引き出せます。醸造アルコールをコストダウンの意味で使うこともありますが、この場合は⽬的が違いますね。味のバランスを整える時にも添加します。すっきりとした、フルーティなお酒を好む⼈は、純⽶じゃない⽅が好みかもしれませんね。
そうなんですね。なんとなく純⽶の⽅が偉いようなイメージを感じがちですが、⽬的があるのですね。
そうですね。私は個人的には純米酒が好きなので、ここ数年は純米酒を飲むことがほとんどですが、日本酒にハマった頃にはあまりこだわらずにアルコール添加のお酒も飲んでいました。さて、宗我部さんは「⾟⼝」が好みとおっしゃいましたが、実は⽇本酒って乱暴に言ってしまえば全部⽢いものです。アルコール発酵が進むと糖分がアルコールに変化していきますが、完全になくなることはない。
へええ。本当はどれも甘みがあると。
ちなみにワインは原料のブドウに糖分があるから、潰したら適切な温度内であれば自然に酵⺟が付き、発酵してワインになります。美味しいかどうかは別の話ですけど(笑)。⽶の場合はそのままだと糖分が含まれていません。
そう言われてみれば米に糖分はありませんね。
ではどうして日本酒になるかと言うと、お米に含まれるデンプンを糖分に変えているんです。これがよく言う「麹」の役目。最近、「麹の甘酒」って流行っていますが、あれはお米のデンプンを麹が糖分に変えて、アルコール発酵をせずに製品化したものです。だから、砂糖を入れていないのに甘い。ここまでやってようやく、お米が日本酒になる準備ができたということになります。「君の名は」という映画で⼝噛み酒って出てきますけど、あれは唾液の中に含まれるアミラーゼという酵素が麹の代わりをして糖化しているんですね。そこに酵⺟がつくことでお酒になるというわけです。
おーこんなところで⼝かみ酒が登場しました。糖分がないとお酒にならないということですね。
そうです。発酵⼒を⾼めると、よりたくさんの糖分がアルコールにかわっていくので⾟⼝と呼ばれる⽇本酒になりますが、全ての糖分をアルコールに変えるには限界があります。だから全部⽢いんです、本当は。
そうか、なるほど。
「糖分が少ないものを、⾟⼝と呼びましょうね」ということです。⾟⼝にするためには純⽶であれば麹や酵母の⼒でどこまでたくさんの糖分を残らず発酵させるか?ということになります。酵⺟ってフルーティな⾹りを出すのが得意な酵⺟もあれば、発酵⼒が強いものがあったりと様々です。もしくはさっき言った醸造アルコールを使えば、醸造アルコールに糖分はないのでより辛口に仕上げることもできます。
そんなテクニックもあるわけですね。
ここまで話してきたように、日本酒の工程は複雑で様々なオプションがあるので、辛口にせよ甘口にせよ、⽇本酒は蔵元(蔵の社長)さんや杜氏(製造の最高責任者)さんが「このお酒はどういうお酒にしたいのか」という意思が非常に重要な要素になってきます。
蔵元さんの意思! そう考えると「⽢い」とか「⾟い」にはさほどこだわらずにいた⽅がいいのでしょうか。
そうですね。ここでややこしいのは、さっき吟醸⾹と⾔いましたけど甘い香りがするお酒は、糖分が少なくても味まで甘く感じてしまうことがあるんですよね。⼀⽅で甘い⾹りよりも深みのある味わいを重視する吟醸もあって、それは「味吟醸」と呼ばれたりします。
「味吟醸」は初めて聞きました。
どちらを狙って作るかも、蔵元さんの意思。難しく考える必要はないけれど、味と⾹りを分けて考えるとより楽しめるかもしれませんね。⾹りが⽢い⽅が好きだけど、味わいの甘味は少ない方が良いなど、分けて考えると日本酒をすすめる側も選びやすくなるし、幅も広がるかなと思いますよ。この辺りは、テイスティングで詳しく触れていきましょう。
なるほど。私は⾼知出⾝なので、どうしても「⾟⼝」と⾔ってしまいがちだけど、味と⾹りの違いって考えたことなかったかもしれません。意識してみますね。
ちなみにこれまた乱暴な言い方ですが、味わいは⽶、⾹りは酵⺟の種類が重要な要素を占めます。だから使っているお⽶によって味わいも変わります。
例えばどのように変わりますか。
⻄のお⽶の⽅がふくよかな味を出しやすかったり、逆に寒い地⽅はすっきりした味わいに寄ったりするので、特⾊も含めて味わうとおもしろいですよ。宗我部さんのご出身の高知で言うと、西ではありますが量をたくさん飲むお国柄なので、スッキリした辛口のお酒が好まれる傾向になるのではないかと思います。あとは、その土地のお醤油の味わいは地元で好まれるお酒にも大きく影響しているように思います。
生活に密着するお酒や調味料にはお国柄が出やすいのかもしれませんね。おもしろいなあ。⽇本酒についてちょっと聞いただけでも奥が深いことが分かりますね。さてそろそろ具体的にお酒を選んで参りましょう。