エンジョイステイホーム! 世界ナンバーワン唎酒師に聞く、⽇本酒の楽しみ⽅

この記事は約16分で読めます by 宗我部香

ステイホームでもお酒を楽しもう、⽇本酒への誘い第⼆弾です。引き続き世界唎酒師コンクール(⼩売サービス部⾨)で優勝した沼⽥さんにお話を伺います。⽇本の酒情報館でテイスティングをしつつ、年末年始にぴったりのお酒を4銘柄選んでもらいました。それぞれどんなところがおすすめなのでしょうか。

沼田広志(ぬまたひろし)
2019年、第5回世界きき酒師コンクール小売部門第1位。福島県郡山市出身。学生時代は進学の度に陸上&卓球、バレーボール、男声合唱、お笑いサークルと脈絡のないものに打ち込んだ。
ファミコン世代ど真ん中、ゲーム業界を志すも「将来もゲームがずっと好きかは解らないけど、酒はおじいちゃんになっても好きだろう」という安易な思いつきで大手酒類卸に入社。現在は営業として日本酒などを海外に輸出している。3年間のドイツ駐在経験を経て、ゼロから日本酒に興味を持ってもらう重要性を痛感。プライベートでも「日本人ならもっと日本酒飲もうぜ」をモットーに日本酒の普及・啓蒙に力を注ぐ。日本酒というコンテンツをいかに一般の方に魅力的に感じてもらえるか、異業種の人たちとのコラボの可能性を探る日々。息抜きは。子供の小学校のママさんPTAバレーボールチームの練習に混ぜてもらうこと。
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エンジョイステイホーム! 世界ナンバーワン唎酒師に聞く、⽇本酒の楽しみ⽅

さて、年末年始におすすめの⽇本酒を4本選んでいただきました。テイスティングセットはこちら。今回は特別に試飲できないスパークリング酒をあけてしまいました。もちろん購⼊させてもらっております。普段はテイスティングできないので気をつけていただけたらと思います。

宗我部

はい、泡は開栓したら飲み切らないといけませんからね(笑)。

沼田

まずはスパークリング酒で乾杯

さてそのスパークリング酒はこちら。「七賢スパークリング 空ノ彩」(⼭梨銘醸)。パッケージがおしゃれです。

宗我部

思いっきりぶっつけ本番で選んだので、実はこれを飲むのは初めてです。今回は冷やしている時間がなかったので常温でいただきましたが、冷えていなくても思った以上にバランスが取れていて驚きました。⽢みと酸味のバランスがとれている上に、日本酒特有の旨味が味に立体感を与えてくれます。冷えてくると、⽢みが控えられてより酸味が⽴ってきます。⾷事に合わせるにはもうちょっと冷やした⽅がいいかもしれないですね。

沼田

うん、さっぱりしていておいしい。こちらをチョイスした理由を教えてください。

宗我部

やはり年末年始はクリスマスや忘年会、新年会と乾杯するシーンが多くなりますから、華やかなスパークリングが⼀本あるといいですよね。「七賢」さんはたくさんの種類のスパークリングを作られていますが、値段も自分用のご褒美にもなり得る価格帯ですし、かと言って安すぎるわけではないので贈答⽤にもぴったりだと思って選びました。

沼田

パッケージも星が瞬いているようで聖夜な感じできれいです。⽇本酒のスパークリングはどうやって作るんでしょう。

宗我部

スパークリングの日本酒を作る製法はいくつかありますが、こちらの「空ノ彩」はシャンパンと同じ瓶内⼆次発酵の仕⽅で作っている⽇本酒です。⽇本酒もワインも、アルコール発酵する時点でガス(⼆酸化炭素)が出ていますが、通常、発酵タンクには蓋がないので、ガスは全部外へ出て⾏きます。余談ですが、だからアルコール発酵しているタンクに⾸を突っ込んではいけないです。酸欠を招くので非常に危ないです。

沼田

私なんてうっかり首を突っ込みそう。

宗我部

笑。やめておきましょう。スパークリングワインやスパークリング日本酒はベースとなるお酒を⼀度瓶に詰めてから、さらに発酵させるわけですね。瓶の中で二回目の発酵をさせるから、瓶内二次発酵。シャンパンの場合は瓶内二次発酵の前に糖分を⾜して発酵させることができるので、ある程度コントロールがしやすいですが、⽇本酒の場合は瓶内二次発酵を促すための補糖が許されていません。二次発酵のために補糖を行うと、酒税法上は日本酒のカテゴリから外れてしまいます。

沼田

え、そうなんですか!

宗我部

そもそもスパークリングというカテゴリは⽇本酒になかったので、法律がそれを作る前提でできていないのです。瓶内二次発酵の前に糖分を添加しないということは、発酵の技術だけでコントロールするということで、とても技術⼒が必要です。そこにもスパークリングワインに上乗せした価値があるわけですね。

沼田

瓶の中で発酵する過程でスパークリングなお酒になるのですね。ところで、スパークリング酒ってこんなに透明なものなんですか?

宗我部

このスパークリング酒、とてもクリアできれいですよね。おり(沈殿物)が底に全然ない。今まではそもそも瓶内二次発酵で作ることが大変だったのに、おりを除去するのがこれまた⼤変で、今もにごりが残るタイプの方がやや多いのではないかと思います。

沼田

私もそんなイメージです。

宗我部

ここ最近はおりを取る技術も⾶躍的に向上して、クリアなタイプがどんどん市場に出てきています。awa酒(あわさけ)協会という団体もできて、一定の基準を持ったスパークリング日本酒をawa酒と呼んでマーケティングやブランディングを行う動きもある程です。
こういった動きの成果もあって、ここ 2〜3年でおりが残らず味のバランスが整ったものが増えました。

沼田

こうやってクリアなスパークリングを作るのは⼤変なことなんですね。図らずもやはりスパークリングが⼀杯⽬になりました。

宗我部

日本酒はラベルの印象で買ってもOK

そして次はこれ、「開運」でいきましょう。

沼田

はい、こちらはですね「開運 吟醸」(⼟井酒造場)。静岡の蔵元さんで原料⽶は⼭⽥錦だそうです。

宗我部
(ここで沼⽥さんテイスティング)

テイスティングが様になっています。当たり前ですけども。

宗我部

笑。まず⾹りをかぎます。通常テイスティングでは飲み込みません。飲み込まないときは飲み込んだ後の香りを疑似的に確かめるため、わざと空気を含むように吸い込みます。ずるっと⾳が出てしまいますが、これは音を出すことが目的ではなく、空気を勢いよく吸い込んだ結果、音が出てしまうということなんです。試しに練習してみましょうか。

沼田

ではひと口……。おっと、これをするとアルコールがすごくきますね。

宗我部

そうそう。でもあくまで本数がたくさんある時にプロが使う技法なので、一般の方は余り使う機会はないでしょうね。今日は本数も少ないので私も飲み込んじゃいます(笑)。

沼田

ええ、飲むのが一番です(笑)。さてこちらのチョイス理由を教えてください。

宗我部

思いっきり短絡的な理由で恐縮ですが、まず名前がおめでたくてキャッチーですよね(笑)。飲むだけで運気が開けてくる感じがしませんか? お酒選びなんて、そういった些細なことで選んでも全然オッケーなんですよっていうメッセージでもあります。

沼田

お、それは一気にハードルが下がってありがたいかもしれません。

宗我部

もちろん、名前だけではないですよ。「開運」は切れが良い吟醸酒です。吟醸香が適度にあってビギナーにもとっつきやすいのに、後味の切れが非常に良く、ある程度お酒を飲みなれた通の方にも納得いただける。万⼈受けするタイプで、かつおめでたい。お正⽉にぴったりな理由がもう一つあって、非常にバランスが良いから、⾊々な⾷事に幅広く合わせることができるんです。つまりおせち料理にぴったり。

沼田

おおー、それはすばらしい。

宗我部

もちろん、⼀個⼀個⾒ていけば、煮⾖にはこれ、伊達巻きにはこうとかペアリングができるけど、これはベターの幅が広い。どんな料理にもしっかり合わせることができます。強いて⾔うならば、静岡のお酒なので鯛などの⽩⾝の⿂がいいですね。お寿司なんかもぴったりだと思います。

沼田

そうするとお正⽉にお刺⾝っていうのもいいですね。

宗我部

お、早速掴んできましたね。お刺身もバッチリだと思います。

沼田

ありがとうございます(笑)。

宗我部

ちなみにこの開運を造る土井酒造場さんは、波瀬 正吉(はせ しょうきち)さんという、40年近く勤めあげられた有名な杜氏(お酒を造る最⾼責任者)さんが長年率いておられましたが、その杜氏や従業員さんがいい意味でラクできるように、機械の設備を積極的に導⼊してきたそうです。もちろん、⼈の勘で残さなきゃいけないところは残すなどメリハリはつけながらですが。波瀬杜氏は10年程前にお亡くなりになりましたが、その後もその⽅のイズムが残っていると思います。

沼田

どんなお酒を造るかにも「意思」があるという話もありましたが、蔵元さんによって様々ですね。杜氏イズムを残していくことで、蔵元さんらしさを保っていくことにもなるのですね。

宗我部

土井酒造場さんのように、元々は蔵元さんと杜氏は雇用主と従業員という関係が普通でした。波瀬さんがいらっしゃる前の開運がどういった酒質だったかをご存知の方は業界でもほんの一握りでしょうから、長く務められた名杜氏がいらっしゃると、杜氏のイメージが蔵のイメージと一体化していくようなことが起きるのではないかと思います。

沼田

蔵元さんの背景を知ると、日本酒を飲む時にも感慨深さがこみあがってきますね。おもしろいなあ。

宗我部

一方で、ここ20年くらいは蔵元杜氏と言って、経営者自らが製造責任者を務める蔵が本当に増えました。1本目の山梨銘醸さんは、社長は営業と経営に専念されていますが弟さんが製造責任者です。どちらの形態も一長一短あって長くなるので今日は詳しくは触れませんが、土井酒造場のケースは古き良き蔵元と杜氏の関係が産んだ銘酒と言えるのではないかなぁと思います。

沼田

食の旨み×日本酒の旨み

さて次は「⽇置桜」(⼭根酒造場)、⿃取の蔵元さんです。純⽶酒です。

宗我部

こちらはお燗がよろしいですか?

宗我部

これはお燗ですね。ちょっと冷めてしまいましたが。そもそもなんでお燗をするのかという話からしましょう。⽇本では本来お燗で⽇本酒を飲むのが普通だったんです。お⽶って炊いて⾷べますよね?

沼田

そうですね。

宗我部

それと同じで温めて飲むとお⽶由来のふくよかな⾹りが引き⽴ちます。この日置桜については、お米はお米でも稲わらみたいなニュアンスまで感じますね。だから⽇本酒も炊いてあげるというイメージです。

沼田

日本酒を「炊く」という表現は、私にとって新しい考え方です。

宗我部

⾼い温度にすることで、お⽶のうまみや⽢みの部分を、より⾆で感じやすくなります。⽇置桜のようなお⽶のうまみが強いタイプはお燗で飲みたいですね。昔はこういったタイプの⽅が多かったから、みんなお燗で飲んでいました。⽶を磨くにしてもそこまで磨く技術がなかったので、よりお⽶由来のふくよかな味わいが強かったんです。

沼田

なるほど、うまみが強いタイプは温めるとおいしくなるんですね。

宗我部

「ひや」ってよく⾔うじゃないですか。誤解されていることが多いのですが、あれは冷やして飲むんじゃなくて、常温のことです。「冷酒」が冷えている⽇本酒ですね。そもそも昔は冷蔵庫ないわけでお燗じゃなくてそのまま常温のものを出して「もてなしもしないですみませんね」という感じで、「ひやですみません」という感じだったそうです。何となく粋ですよね。

沼田

おもしろいですね。そして純⽶酒はお燗と……。ということは吟醸酒は?

宗我部

吟醸酒はフルーティだから冷たくして飲んだ⽅がいいですね。アップルパイとか例外はあるけれど、基本的にはフルーツってそのままがおいしいですよね? それをイメージしていただければいいと思います。
ちなみに、前回味吟醸っていうお話をしましたが覚えてますか? 今日は吟醸酒ではありませんが、日置桜さんが作る純米吟醸酒はまさに味吟醸タイプなので、同じ吟醸酒でもフルーツのような派手な香りはありません。なので、お燗でじっくり飲むのがおいしい吟醸酒です。

沼田

ここでも蔵元さんらしさが生きていますね。 ⽇置桜はどういう時に飲むのがいいですか?

宗我部

この時期に家庭で良く食べられるものだと、鍋料理かな。中でも割とこってりした味噌ベースの鍋が合うと思います。またはすき焼きなど脂がのっているものや、味が濃いものと合わせるのがおすすめです。霜降りのいいお⾁って脂が強いでしょう? その脂を燗酒で流すイメージです。

沼田

ほお?

宗我部

お湯で⾷器を洗うとよく落ちるのと同じです。⼝の中に霜降りの和⽜があるとしましょう。確かに脂がのっておいしい、でも場合によっては余分な脂も含まれていることがある。それをお燗の熱の力を借りて洗い流す。

沼田

洗い流す!

宗我部

けれども、それで口の中がゼロになるわけではなく、不思議なことにお肉の旨味はお酒の旨味と混じりあって、舌の上に残してくれる。つまり、旨味に旨味が乗っていく感じですね。⾚ワインのペアリングってそれとは逆で、脂の部分をタンニンで吸着させて、口の中をリセットします。これはこれで立派なペアリングですが、⽇本酒の場合は、脂は流しつつ旨味はそのまま残してむしろ増幅する。つまり、旨味と旨味のかけ算なわけです。

沼田

旨味と旨味のかけ算だなんて最高ですね。知らない世界が広がっていくようです。

宗我部

だから、これは下手をしたらお酒単体で飲まない⽅がいいくらいです。ここの社⻑みずから「うちの酒は酒だけで飲んでも完結しない」と仰っているぐらいですから。料理とあわせてなんぼ、というふうに造っているお酒ですね。

沼田

そんな話を聞くと、日本酒を選ぶ時の選択肢がぐっと広がりますね。

宗我部

実は⽇置桜はドイツにいたころに売っていたんですけれども(※)、その時は西欧料理のシェフ向けのデモンストレーションとして、鴨のローストにオレンジ系のソースをかけて、燗酒と合わせましたね。鴨は噛めば噛むほど味が出るお⾁なので。極端な話、お⾁ってそのうち冷めてくるじゃないですか、そこに燗酒を合わせるとお⾁のうまみも戻ってくるんです。

沼田

※沼⽥さんはドイツで⽇本酒を販売する仕事をしていました。

最⾼のペアリングじゃないですか。誰か鴨⾁を……(笑)。

宗我部

あと、旨味の多いものといえば、チーズも合いますね。ドイツでは同じく、日置桜のにごり酒を熱燗にして、旨味の強いパルミジャーノ・レジャーノというチーズと一緒に試飲販売したりもしました。向こうだと、おいしいチーズが安く手に入りますので。

沼田

旨みのある食べ物を探して、純米酒と組み合わせて頂く楽しみができました。ちなみに⽇本酒自体の飲み⽅に作法はありますか?

宗我部

⼤丈夫、何も気にしなくてOK。もちろん細かく言えばないことはないですけど、基本的に日本人って社会人になる時点で最低限の酒席でのマナーって習うじゃないですか。日本酒だからって肩肘張って構える必要はないと思いますけどね。強いて言えば、ビールとかチューハイよりアルコール度が高いですから、同じペースで飲んでいると酔いが回ってしまいます。「和らぎ水(やわらぎみず)」って言って、飲んだお酒のできれば倍量、最低でも同じ量の水を飲むと、かなり悪酔いが防げますね。酔っぱらっちゃうと作法も何もないですから。まぁ、これは自分への警告でもあるわけですが(笑)。

沼田

それは私も身につまされますね。お酒を飲むときはお水を用意ですね。楽しむ飲むためのマナーとして覚えておくことにします。ときに、社会人になる時点で最低限の酒席でのマナーって習いましたっけ?

宗我部

そうか、私の場合はお酒を扱う会社だから習ったのか……。瓶ビールの場合は表のラベルが見えるように注ぐとか、乾杯は目上の方のコップが上になるようにとか。若い方だと、そもそも会社での飲み会自体がほとんどないこともありそうですね。

沼田

確かに。

宗我部

でもまぁ、これまた父親の話で恐縮ですが父から習った格言としては「注いでる人は注がれたい人だからね」というのが、人生で父から習ったことの中で最も役立っているかもしれないです(笑)。でもこれだって、自分と同世代以下の方々には「お互い気を使わないように」ということで手酌(てじゃく。自分で自分に注ぐこと)愛好家も増えてきていますからね。少なくとも気の置けない仲間と飲む時には、相手を不快にさせずに自分も楽しむっていうのが大事だと思いますよ。

沼田

確かに最近は手酌する人が多い印象があります。私も自分のタイミングで飲みたいので手酌する派かも……。ただ、お酒のマナーを知っておくことは大切だと思います。相手を気遣うことは、どんな酒席でも心に留めておくといいですね。

宗我部

日本人なら樽の香りを覚えておきたい

さて最後にご紹介いただくのが「菊正宗 純⽶樽酒」(菊正宗酒造)。兵庫県の蔵元さんです。

宗我部

はい、最後に樽酒をご紹介したいと思います。

沼田

(ひと口飲んで)ん? 何やらこれまで飲んだ日本酒と比べて、まったく違う味わいがあります。

宗我部

それは⾹りですね。檜のお⾵呂と近いですよね。杉の樽に移して1週間から10日程寝かせているので、⾹りがお酒に移っています。だからリラックス効果もあります。

沼田

なんだか私、好みかもしれません。

宗我部

実を⾔うと、酒質的には結構ごついのに、割と⼥性に飲んで頂くと評価が高かったりします。⼥性の⽅が杉の⾹りに対してポジティブなんでしょうかね?あくまで個人的な印象ですが。ちなみに、樽に移して保管すると、デリケートなお酒は樽に負けちゃうんです。だから割としっかりどっしりと造っているお酒がベースになります。

沼田

へえ、意外。飲みやすい感じがするのは香りのおかげなのですね。

宗我部

あと、長く寝かせすぎてもお酒の風味が損なわれちゃうわけです。樽廻船って日本史で習いませんでした? 昔は瓶じゃなくて樽で運んでいましたけど、船で10日くらいかけて運ぶと杉の香りがちょうど良い感じでついていたらしいです。今は、ベストな頃合いで引き揚げて瓶詰めしていますので、いつも良い状態で樽酒が楽しめます。

沼田

樽廻船って25年ぶりぐらいに聞いた気がしますね。そうか樽廻船はお酒を運んでいたのかって今さらですが(汗)。お酒は本来杉で作っているから酒屋さんには杉⽟があるんですか?

宗我部

そうです。ひと昔前だと琺瑯(ホーロー)タンク、今はステンレスタンクで仕込むのが主流だと思いますが、そのどちらのタンクもない頃は、杉の木桶で仕込んでいました。杉⽟って最初は緑⾊をしているのですが、そのときは「新酒ができましたよ」というサインですね。それから茶⾊くなるにつれてお酒が熟成していく。茶⾊くなったら「いい感じに熟成したよ」のサインです。そしてまた1年経って新しい杉⽟になる、というわけです。

沼田

杉はお酒造りに⽋かせないアイテムというわけですか。

宗我部

菊正宗さんですら、おそらく仕込みに木樽は使っていないと思いますので、残念ながらいまは杉樽を仕込みに使っているメーカーさんは本当に少ないです。仕込みにまで使おうとすると、途轍もない労力がかかる。使っていない時でもちゃんと保管しないとお酒を入れた時に漏れてしまうし、しっかり掃除しないと雑菌がわきます。

沼田

そんなに管理が⼤変なのですね。

宗我部

この樽酒にしても、そう聞くと「単に移しているだけか」と感じる人ももしかしたらいらっしゃるかもしれませんが、樽を作るのだって一苦労なんですよ。日本酒にとって金属は大敵なので、金釘一本使っていません。

沼田

日本酒って繊細なのですね。

宗我部

私なんか不器用なので、釘も使わずにお酒を入れても漏れない樽を造ること自体が既にリスペクトです。まして、樽酒を造る場合は繰り返し使う程に杉の香りは減って行きますから、古いものは味噌メーカーさんなどに販売してどんどん新しいものを造らなければなりません。
たぶん、単に杉の香りをつけるだけならもっと効率が良い方法はあると思いますが、菊正宗さんは「信念」を持って樽酒を造っています。

沼田

それはすてきです。

宗我部

樽を作る職人さんを自社で雇用していて、その様子が見学できるようになっています。今はこのご時世なので閉まっているみたいですが、昔菊正宗さんに伺った時にはなかった施設なので、一度は行ってみたい場所です。
⽇本⽂化を守ろう、残していこうという固い信念があるので、「お酒を売る」というだけではないところも魅⼒ですね。

沼田

ある意味⾃分たちの仕事が社会貢献にもなっているということですね。

宗我部

その通りです。菊正宗さんは大手なので、日本全国のスーパーやコンビニエンスストアなどでも見つけやすいはずです。⽇本酒の樽の⾹りをぜひ多くの⽅に感じてもらいたいと思います。年末年始は⽇本酒をじっくり味わう良い機会ですから、今回ご紹介した⽇本酒はもちろん、⾃分の好みを⾒つけてほしいですね。⽇本酒は飲んでナンボな部分がありますから。たくさん飲む中で、「あ、いいな」と記憶に残るものをまた飲んでいくという感じでね。

沼田

たくさん飲んで⾃分の⼀本を探してみます。そしてスパークリングは結局全部空いてしまいましたね。ちょっと早い忘年会のようでした。たくさんお話を聞かせていただき、どうもありがとうございました。ここまで読んでくださった皆さま、おいしい⽇本酒を飲んで、すてきな新年をお迎えください。

宗我部

CREDIT

クレジット

執筆・編集
最近は303BOOKSの動画を担当していることが多い一応編集者。私立中学に通う長女に作るお弁当をインスタにアップすることを日課としている。中学2年生と小学5年生の女の子の母。故郷・高知を世界の中心と思っている。
撮影
千葉県千葉市美浜区出身。ゴースト・オブ・ツシマにはまってます。パンダが好き。