LGBTQ+に寄り添う若き実業家・田中史緒里

お客さんとブランドを成長させていく関係

この記事は約6分で読めます by 遠山彩里

FtX(女性性として生まれるが性自認が未定であること)であり、女性の体型に合うメンズパターンのオーダースーツを提供するアパレルブランド「keuzes(クーゼス)」を運営する田中史緒里さん。今回は田中さんに、実際に行っている仕事の内容や、お客さんとのエピソードなどを聞いていきます。

田中 史緒里(たなか しおり)
1994年、福岡県北九州市生まれ。親の転勤で住む街を転々とし、茨城県の高校に入学。高校中退後18歳で上京。2018年3月にenter合同会社を設立し、2019年12月に、女性の体に合うメンズライクなスーツブランド『keuzes(クーゼス)』をスタート。2020年11月には合同会社から株式会社に変更。
Instagram

スーツの知識ゼロから始めたクーゼス

現時点でクーゼスはオーダーメイドスーツがメインのブランドですが、もともとスーツの知識はあったんですか?

遠山

ないんですよ。

田中

じゃあ自分で色々調べながら今の形にしていったんですか?

遠山

そうです。最初は自分でスーツの工場に片っ端から電話をかけてっていうスタートだったんですけど、女性の体型に合うメンズパターンのスーツを作っている工場がなかなかなくて。そんな中話を聞いてくれるところが一件出てきたので、パタンナーを見つけて、サンプルの型を作って工場に見せにいったら、これならできるよって流れで今がある感じですね。

田中

そのパタンナーの方はどうやって見つけたんですか?

遠山

パタンナーを見つけるサイトとかアプリがたくさんあって、そこで見つけました。でもスーツって結構特殊技術なので、専門のパタンナーしかできないって言われてたんですけど、自分が見つけた人はブランドも立ち上げて海外で展示会とかもしてるみたいで。

田中

結構凄腕の人なんですね!

遠山

そうなんです。で、その人が「なんでやりたいのか」っていうのをまず聞きたいというので、田中が思っていることを言ったら、やろうよって。

田中

ちなみに、田中さんはなんて言ったんですか?

遠山

世の中では当事者っていう形で言われてるけど、普通に女の人でもメンズライクな服装が好きな人っているじゃないですか。

田中

はい、いますね。

遠山

それと全く一緒で、スーツって言ったら格好良く着たいって思う人も絶対いるのに、女の人のためのメンズパターンの格好いいスーツがないんじゃないかって。世の中にこんなにたくさんLGBTQ+の人がいる中で、調べてもないし、というかなんて調べたらいいかわかんないし。

田中

確かに。今の時代ならあってもおかしくないですもんね。

遠山

だからそのまま言ったんですよね。「サイトで調べて出てこないってありえなくないですか?」って。そしたらそのパタンナー自身も「確かに周りにそうやって悩んでる人いるもんね」って思ってくれてて。

田中

そうやって同じように思ってくれてる人と作る方が、うまくいきそうですね。

遠山

それで、なんのストレスもなしに単純に欲しいものが手に入る世の中になってほしいっていう気持ちを伝えたら「うん、いんじゃない?」っていうのでやってくれました。

田中

オーダーメイドへのこだわり

オーダーメイドのこだわりっていうのはあるんですか?

遠山

初めは、既製品で号を並べてっていう感じにしようかと思ったんです。でも女の人って寸法とかが複雑なので、既製品だとサイズが合わない人も出てくるんですよね。服装で大事な行事に出られないのはおかしいって言っておきながら、サイズが合わなくて出られなかったら意味ないじゃないですか。それだったら、なんのストレスもなしにスーツが手に入るように、それぞれに合うものっていうので、オーダーメイドにしました。

田中

今後は既製品の販売も考えてるんですか?

遠山

まあ今後は考えていきたいですけどね。その分金額も下げられるし。でもそうなってくると、ネットよりも店舗の方が良くなってくるので、店舗で見たいという声が多いようであれば、それもやっていきたいと思ってます。

田中

なるほど。ちなみにオーダーだと、田中さんが直接お客さんのところに行くんですか?

遠山

そうです。だから全国どこでも飛び回ってる感じです。昨日は大分に行ってました。

田中

おお、すごいですね。でもいろんなところに行けるのは楽しそうですけど、実際どうですか?

遠山

ほとんど日帰りなので、頭の中はぐちゃぐちゃですね。今までは飛行機に1日2回乗る人生じゃなかったし、空港も特別な感じだったのに、今はなんの感情もないです(笑)

田中

乗りすぎて何にも感じなくなっちゃったんですね(笑)

遠山

でも、飛び回ってるから普段は会うはずのない全国の人に会えるし、それってすごいことだと思うんですよね。スーツを頼んでくれるからこっちは行くんだけど、田中的にはスーツは結構おまけで捉えてて、話したい、会いに行きたいっていうのが大きい。だから会えたことにすごい達成感を感じてるというか。

田中

それはお客さんからしても嬉しいですよね。

遠山

お客さんと一緒にこのブランドを成長させていきたいっていう思いもあるから、みんなと働きたい気持ちだし、だから困ったこととかあったら言ってほしいし、今後これだけの関係にしたくないと思いますね。次も絶対会えるような機会をこちら側で作りたいです。

田中

LGBTQ+の人たちって今結構いる中で、自分でブランドを立ち上げて世の中に第一歩を踏み出している田中さんに会えるっていうことは、お客さんにとっては大きなイベントかもしれないですね。

遠山

なんかもう、注文してくれることが自分としてはありがとうなのに、会いに行かせてもらってるっていうスタンスの中で、お客さんからすごい感謝をされるんですよね。自分でやったんだけど、すごいことやってるなって思ったりもするし、もう他で働けないなと思うくらいの価値を感じてしまってるというか。

田中

恋愛や仕事の相談にも乗るお客さんとの関係

お客さんとどういうお話をするんですか?

遠山

こちらとしては純粋に友達になりたいと思ってるので、普通に「最近どう?」みたいな。でも結構「田中さんカミングアウトしてるんですか?」ってお客さんの方から聞いてくることが多いので、スーツ以外で困ってることとかも聞いて。それでアンダーウェアの声が多かったので、実際に作ったり。

田中

そうやってお客さんとの会話の中でアイデアが出て、商品に取り入れたりもしてるんですね。

遠山

あと、新しく『keuzes wedding by HAKU』というブライダルの事業も始めたんですよ。現在、1組に結婚式を、5組にウェディングフォトをプレゼントする企画を12月20日まで行っているので、結婚を視野に入れているセクマイカップルの方にはぜひ見てほしいです。

田中

素敵ですね!ウェディングの話は次の回でも詳しく聞いていきます。

遠山

あとスーツ以外だと、恋愛や仕事のお悩み相談だったり、事業の話だったりもしますね。お客さんの中で、自分の力で発信したいと思ってる人が結構いるんですよね。そういう相談の時は、なんでやりたいのかを考えて「できるよ実際、やってみればいいじゃん」みたいな話をしたりとか。

田中

もう立派なアドバイザーというか、コンサルタントというか!

遠山

カップルで来る人も多いから、ひたすらその幸せな雰囲気を田中が楽しむみたいな時もあります(笑)

田中

完成した商品は郵送ですよね?お客さんから「届きました」みたいなメッセージも来るんですか?

遠山

みなさんくれますね。「最高の成人式になります」とか「プロポーズのために作ってうまくいった」っていう報告とかも受けます。

田中

それはかなり嬉しいし、やりがいですよね。

遠山

本当に、お客さんに恵まれていると思います。

田中

次回はいよいよ最終回!クーゼスが新しく手がけるブライダル事業の話や、今後の目標、田中さんが思う当事者の方へのメッセージなどを聞いていきます!

遠山

CREDIT

クレジット

執筆
フリーのライター兼プランナー。フードスタイリストやウイスキー検定の資格を持つ。趣味は料理やお酒。一人でどんなお店にでも入れるため、取材も積極的に行う28歳。人との繋がりとコミュニケーションを大切に、遊びも仕事も全力で取り組みます!
撮影
千葉県千葉市美浜区出身。ゴースト・オブ・ツシマにはまってます。パンダが好き。
撮影
某研究学園都市生まれ。音楽と東京ヤクルトスワローズが好き。最近は「ヴィブラフォンの入ったレアグルーヴ」というジャンルを集めて聴いている。