LGBTQ+に寄り添う若き実業家・田中史緒里

事業のヒントは、成人式

この記事は約7分で読めます by 遠山彩里

FtX(女性性として生まれるが性自認が未定であること)であり、女性の体型に合うメンズパターンのオーダースーツを提供するアパレルブランド「keuzes(クーゼス)」を運営する田中史緒里さん。今回は田中さんに、幼少期や学校生活から、上京するまでのお話をうかがいます。

田中 史緒里(たなか しおり)
1994年、福岡県北九州市生まれ。親の転勤で住む街を転々とし、茨城県の高校に入学。高校中退後18歳で上京。2018年3月にenter合同会社を設立し、2019年12月に、女性の体に合うメンズライクなスーツブランド『keuzes(クーゼス)』をスタート。2020年11月には合同会社から株式会社に変更。
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転勤族だった幼少期

今日はよろしくお願いします。さっそく、田中さんの幼少期の頃の話から聞いていきたいんですけど、生まれはどちらですか?

遠山

生まれは福岡なんですけど、すぐに横浜に引っ越して、小学校5年生でまた横浜内で引っ越して、それから7ヶ月で今度は茨城に引っ越しました。

田中

ご両親が転勤が多かったんですか?

遠山

そうなんですよ。めちゃくちゃ転勤族だったんですけど、最終的には茨城で落ち着いたので、青春は茨城ですね。中学校も高校も茨城で、18歳で上京しました。

田中

ちなみに、高校生の時に人生で初めてLGBTQ+の方に出会ったんですよね?

遠山

クラスメイトに一人、自分のことをずっと“俺”って言ってた子がいたんですが、その子に関してはあまり突っ込みもせずに普通に過ごしてましたけど、今思えばその人が一番最初に見たLGBTQ+の当事者だったなと思います。

田中

成人式がきっかけで、女性用スーツというアイディアに

田中さん自身が、自分はFtXじゃないかと思ったタイミングってあるんですか?

遠山

今思えば幼稚園ぐらいからきっとそうだったんだろうなっていうのはありますけど、自分自身で認めたのは上京してちょっと経ったぐらいですかね。

田中

今となっては、LGBTQ+やトランスジェンダーなどの言葉は普通に使われますが、田中さんが幼稚園生だと今から20年くらい前ですよね。その頃ってそういう言葉とかは知ってたんですか?

遠山

高校生ぐらいから少し調べたりはしていました。というのも、成人式の時に振袖を着るのは嫌だなと思っていたんです。だから、同じように思っている人はどうしてるんだろうっていうので、そこから調べたりしてましたね。

田中

そのことがきっかけで、現在田中さんが販売している女性用のメンズパターンスーツというところに結びついたんですか?

遠山

一番はやっぱりそこですね。最初は女性用のスーツってなんとなくあるだろうと思っていたんですけど、自分の成人式の時に本格的に探してみたらなくて、諦めたんです。結局成人式も行かずじまいで。

田中

服装が理由で行けないのはショックですね……。

遠山

成人式から少し月日が経ってから友達の結婚式に招待をされてたので、その時にまた調べたらやっぱりなくて。

田中

結局その友達の結婚式はどういう服装で行ったんですか?

遠山

ユニクロやH&Mでかっこいいやつを探して、上下バラバラのものをセットアップにして行きました。でも、すごくめでたい場所なのに、今後も自分がこういう形でしか出られないんだと思いながら言うおめでとうって申し訳ないような気がして。

田中

確かに、ちょっと複雑な気持ちですよね。素直に楽しめないような。

遠山

そしてその結婚式が終わってから、自分と全く同じような事を思っている人がその当時周りに複数いて、自分の周りでもこれだけいるんだったら世の中にはどのぐらいいるのかなって考えたんですよね。

田中

同じような悩みを抱えている人は多そうですね。

遠山

自分の場合は、父も姉もあまり成人式に興味がなかったのでそこまで重要な日とは捉えてなかったんですけど、やっぱり周りの友達とかを見るとすごい大事な日で。そんな大事な日に、服装だけで出られないっていうことにすごい違和感を感じたんです。そして、だったら自分が女性用のスーツを作っちゃって、少しでも悩んでいる人が減って、出たいところに出られるなら幸せだなと思ったのが、今の事業のきっかけです 。

田中

LGBTQ+の仲間と出会った東京の会社

田中さんの経験と、同じように悩む人たちへの思いで、女性用のスーツ販売という発想が生まれたんですね。ちなみに、自分がFtXということを認識して、友達や親に打ち明ける機会もあったんですか?

遠山

まず、上京して最初の会社にLGBTQ+の方がたくさんいたんです。なので、何も言わずに自然な感じで受け入れてくれて。自分はこうなんだっていうのは、そもそもあまり言ったことがないですね。地元ではすごく気にしながら生活していたけど、見た目がずっとボーイッシュだからなんならちょっと察してくれてたし、東京に出てきてからは全然気にしなくなって、それからは普通に言うようになりました。だから気まずい雰囲気が流れたこともないし、すごく重い感じで言ったこともないです。

田中

その上京した時の最初の会社は、普通の会社だったんですか?

遠山

普通の会社ですね。テレアポみたいな。

田中

じゃあそんなにLGBTQ+の方たちが集まってたのはたまたま?

遠山

そうなんですよ。なんか会社側がわざと採ってんのかってくらい集まっちゃって。オカマの採用をしてるんじゃないかみたいな(笑)

田中

(笑)じゃあ上京してすぐそこの会社で働いたのが、今の田中さんをつくる転機になったっていう感じなんですね。

遠山

かなりそうですね。あの出会いがなかったらどうなってたんだろうって。別にわざわざ周りに言わなくてもいいんだなってわかったし、自分で認めちゃってもどうってことないんだなっていう考え方がわかった気がします。

田中

FtXを認識することへの不安と葛藤

その会社に入るまでは、悩んでたことってあったんですか?

遠山

悩んでたというか、なんかこう内に秘めまくってたというか。完全に認めてしまったらどうなんだろうって思ってたし、自分が当事者だって認めることもできなかったので、そこに関しては自分の中の葛藤っていう意味でちょっと悩んだかな。

田中

感情に蓋をしちゃってたんですね。認めたくないみたいな。

遠山

認めたくない、られない。あと、周りにどう思われるかをそのときはとても気にしていて、自分がどうしたいじゃなくて、いじめられたくないっていうのを優先に考えてました。

田中

学生あるあるですね。一人になりたくないから周りに合わせちゃうっていう。

遠山

ですよね。だからその時は流行りに乗っかるために異性と付き合ってみたりもしたし、付き合ってたら普通になれるかなってちょっと思ったりもしました。

田中

じゃあもう自分の中で他とはちょっと違うことも少し気づいてて、それを普通にしたいっていう努力もその頃はしちゃってたんですね。

遠山

しちゃってましたね。中学の時はすごく制服が嫌だったから、汚しまくってジャージとかを着てたけど、高校の時はあえて制服を着て女子になってみようっていう期間もちょっと設けたんですよね。高校は基本的に私服でもOKだったんで、すぐ私服に戻りましたけどね。

田中

高校生の時は、ファッションに興味があったんですか? 

遠山

好きだったと思いますね。その時は自分最強って思ってたから(笑)、派手なものがあれば買って、髪もいじりまくって。自分の意志で生きてみたらすごい歯止めが効かなくなっちゃったんですよね 。

田中

学生の時1回はありますよね、自分最強時期(笑)じゃあその時はもう気楽に生きてたっていう感じなんですね。

遠山

そうですね。で、高校生の後半ぐらいからはもうバイト漬け。とりあえず周りよりも稼ぎたかったので、高校を中退してバイト三昧で、みんなに奢りまくるみたいな生活をしてました。

田中

そうだったんですね。その時は、何か将来の夢ってあったんですか?

遠山

なかったです。茨城だと就職先がそもそもなかったし、正社員になるっていう考えもなかったんですよね。なるんだったらやりたいことって決めてたし、でもやりたいことないし、じゃあ別にバイトとか派遣とかでいいやって思ってたけど、茨城には収まりたくないと思って、東京に出てきましたね。

田中

ここで、先ほどのテレアポの会社と繋がるんですね。ということで次回はいよいよ、テレアポの会社を経て、クーゼスを設立した時の話に入っていきたいと思います!

遠山
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執筆
フリーのライター兼プランナー。フードスタイリストやウイスキー検定の資格を持つ。趣味は料理やお酒。一人でどんなお店にでも入れるため、取材も積極的に行う28歳。人との繋がりとコミュニケーションを大切に、遊びも仕事も全力で取り組みます!
撮影
千葉県千葉市美浜区出身。ゴースト・オブ・ツシマにはまってます。パンダが好き。
撮影
某研究学園都市生まれ。音楽と東京ヤクルトスワローズが好き。最近は「ヴィブラフォンの入ったレアグルーヴ」というジャンルを集めて聴いている。