303 BOOKSの『そらのうえ うみのそこ』を置いてくれている「はたけのほんや」さん。その名前のとおり、畑の中に絵本がかわいらしく並べられている珍しい本屋さんです。最終話は子育ての話題をたっぷりと。そもそもなぜ、内田早苗さんが今の活動をしているのか、その理由も明らかになります。
畑の中にある本屋さん、その名も「はたけのほんや」
“子育て”と”植物”には共通点がある!?
内田さんの前回のお話は、これまでの絵本や子育てを語る人とは一線を画する感じがありますね。
そうですね、世の中の母親像ってあるじゃないですか。たとえば母親の後ろに色を塗ってくださいと言われると、みんなパステルカラーを塗るとか。だけどそんな人ばかりなわけがない。私のことをよく知っているお母さんたちは、私の後ろはカーキ、紺、グレーなイメージと言います(笑)。そんな私が子育ては苦しくて母親が向いていなかったのかと問われたら、今の時点で母親業がすごく好きです。子育てほどおもしろいものはないと思っています。
ピンクの母親じゃなくたっていいということですね。
そう、親は子どもをかわいがるだけでいいんです。だからと言って“怒らない”“叱らない”とか感情をコントロールするのも反対で、親なんて感情むき出しでいいんです。今日はお母さんやたら機嫌がいいなとか、ずいぶん機嫌が悪いなとか、昨日いいよと言ったものが今日はダメとか、そんなのオールオッケーです。だって人間なんだもの。むしろ子どもは親で人間の理不尽さに慣れていた方がいい。でも愛情は出し惜しみせずに、好きを全面に出していこうよと言いたいです。
なるほど、親も好きな気持ちを隠さずに表現すると。
でも愛情の方向を間違えている場合もあるから注意が必要ですね。例えば子どもと遊ぶ方が本当は好きなのに、栄養のためにいやいや料理を一生懸命作ってストレスになるのは間違えていると思います。それなら手を抜いて子どもと遊ぶ時間を確保した方が断然いいですね。人との比較で正しい方にしようと思うと、子どもに影響が出てくると思います。お母さんが不機嫌なら手の込んだ料理を作ってくれたって、愛情を感じづらいですよね。
頑張らずにありのままがいいということですね。
子ども主導で考えることが大切で、根っこに子どもを信じる気持ちを持っていないと。子どもはそもそも力を持っているという確固たるものがないと余計なことをしたくなるんです。私は自分のことを親バカでバカ親って思っているんですけど、いまだに子どものポテンシャルをすごく信じています。
そうなんですね。
私は子どもが嫌いと公言していますけど、自分の子どもだけは溺愛しました。だから寄ってきてかわいい時期はひたすらかわいがりました。
それこそが大事ですよね。
私はお母さんたちに、みんながみんな自分の子どもを溺愛したらいいんじゃない? と言い続けています。無条件にかわいがって欲しいんです。だけどあれもやらなきゃとか、これも習わせなきゃいけないとか、そういうことでかわいがることができないんだったら「余分なことはもう捨てちゃって!」というのが私の主義。順番としては、子どものことを子どもがわかるようにかわいがること。それでなお余裕があるなら、教育やしつけに手を出せばいい。でもかわいがるだけで24時間終わっちゃうなら、もうそれでいいじゃんって思います(笑)。
世間一般には勉強があるから好きなことやめなさいって言っちゃう親が多いと思うのですが、そこらへんはどうですか?
子どもがやりたいことを減らして、何か別のことをさせる意味が私にはわからないですね。例えばうちの子どもは魚が好きで、好きだから魚にはお金を惜しまなかったです。魚屋さんにも頻繁に通っていました。小学校の時、私が仕事から帰ってきたら魚を丸ごとさばいて、お造りができていることもありましたよ。
すごい、どんな小学生ですか!?
好きなことをしていれば、例え赤点を取ってきても問題ないです。成績が悪いのは本人しか困らないし、誰にも迷惑かけないもの。好きなことがあるなんてもう何より幸せだと思いますよ。だからそれをさせないのは私にとっては意味が分からないです。
うーん、考えさせられます。
子どもにはよいものを選び取る力があるんですよ。好きなこともそうだし、絵本もそうですよ。子どものものだから、分かりやすい絵で短い文章で簡単なお話でしょうぐらいにしか思ってない人が意外と多いけど、子どものものだからこそ、作り手は実はすごくよく考えて丁寧に作っているものです。子どもは大人が思っている以上に丁寧さや大事なもの、大切にされているものを感じとるカンが鋭いです。だから絵本もいいものがずっと残っていくんですよ。「はたけのほんや」に来る子どもは、親がいちいちいろんなものを提示しなくても、ここに連れてきて「はいどうぞ」ってしたら、自分で好きな遊びを見つけたり、自分にとって今必要な物を触ったりします。子どもに選ばせてあげればいいんです。
突き刺さりますね。
私は子どもの相手は苦手だけど、子どもの育ち方とか、子どもを取り巻く環境については真剣に考えを持っているし、やりたいことがたくさんあるんですよ。大きなビジョンとしては、虐待とか親から愛されない子どもがいなくなって欲しいと本気で思っています。私の講演会では子どもを叱る回数が減ったとか、子どもをたたく手が止まったとか、幼稚園ならあのお母さんが笑っているのを初めてみた、などと言われることがあります。本当に今大変で、子どもとの向き合い方が分からなくなっているお母さんに届く話がしたいと思っているの。でも私の話を本当に必要とするお母さんに届かせようと思うと、私のことを知ってもらわないといけないから、有名になりたいと思っています。
確かに、その通りですね。子どもだけじゃなくてお母さんも救えますね。子育て中って髪をふり乱しているのが美しいとか、自分のことをやっちゃだめというプレッシャーを感じるお母さんがいますよね。自分もそうでしたけれど。
しかもほめてくれるでしょ、そのことを。美容院行かないことを。
近所のおばちゃんの「あら頑張ってるわねえ」てやつですね。
髪もふり乱しちゃってーとかね。「髪ぐらいキレイにさせてくれよ」ですよ(笑)。なんで髪をふり乱さなきゃいけないんだ、何でお母さんが汚くなきゃいけないんだと誰か言ってあげてよと思います。
それが母の美しさ、汚いことが美しさみたいな。それを内田さんが言ってくれるわけですが(笑)。
美容室もエクステも行かせてくれですよ(笑)。そういうのをお母さんに言うと、「早速帰りに美容院へ寄ってきました。いやー今日は気分がいいわ」とご機嫌でとメールをくれたりします。
大事ですよね。
やっちゃいけないと思い込んでいるんですよね。お金を使うことにも躊躇をしているお母さんがたくさんいるわけです。自分が欲しいものにお金を出しちゃダメなんじゃないかと。もちろん買いすぎて家計を圧迫しているんだったらダメだけど、あるなら買えばいいんです。お金を使うことに罪悪感があるとよく聞きますが、「いいじゃん、あるなら使おうよ」です。絵本もぼんぼん買えばいい。ずっと行っていなかった美容室に行ったことをきっかけに、欲しいものを買うようになって、絵本も買うようになったというお母さんもいます。
なるほど。絵本を買ってもらうためには、お母さんが気分よくいられることも大切ですね。結構みんな我慢をしていたり、理想の母親像に縛られていたりするものですよね。
あとね、「この子なんにも食べないんですけど、何でも食べるようになる絵本ありますか?」と聞いてきたお母さんがいるんです。そんな魔法みたいな絵本あるわけないんですね。だから、「なんにも食べないっていうけど、なんか食べてるでしょ?」と聞いたの。
確かに(笑)。
しかも子どもが2才の割に大きい。だから「うそでしょ、食べてないって」と言ったら、お米しか食べないというの。ちょっと偏食が過ぎる子はよくいるから、そういうこだわりのある子どものお母さんって疲れるんですよね。うちもそうだったからよく分かるんですけど。それで何を食べて欲しいかと聞いたら、案の定「野菜」というわけです。次に、「お母さん絵本を読んでる?」と聞いたら、あんまり読んでないと言うの。読んでないのにいきなり好きでもない野菜の本ってどうかと思うでしょう? 「ここはだまされたと思ってこの子の好きなものを書いている絵本にしよう。だからおにぎりの本にしよう」と、おにぎりの本をすすめて、そのお母さん買って帰ったんです。
ほおお。
2か月してから、そのお母さんからこういうメールがきました。
“あの日から毎日息子におにぎりの本を読んでいます。なぜかというと、息子が毎日読んでくれというからです。私は今、この子が本当にして欲しいことをしてあげているという実感が子育てをしていて初めてあります“
すごく単純だけどすてきなことが書いてあるでしょう? 子どもが「読んで」と持ってくる、その願いをお母さんが叶えていますよね。お母さんは子どもがしてくれと言ったことをしてあげるとこんなに喜ぶのだと気がついたんです。講演会で私が話すことそのままです。
すばらしいですね。野菜を無理に食べさせようと野菜の本を読むのではなくて、その子の好きなことを尊重することにシフトしただけで、親子にこんな変化があるんですね。
そう、だから絵本っておもしろいの。ほかにも山ほどエピソードがありますよ。
続きを聞きたい方は内田さんの講演会へGO!ですね。本日はありがとうございました。