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303 BOOKSの『そらのうえ うみのそこ』を置いてくれている「はたけのほんや」さん。その名前のとおり、畑の中に絵本がかわいらしく並べられている珍しい本屋さんです。どうしてこんな形態をとっているのか聞かずにはいられない!と、神奈川県・平塚市までおじゃまして、代表の内田早苗さんにお話をうかがいました。
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(株)きいろいおうち代表。待ちよみ絵本講師。「絵本、子育て、暮らし」をテーマにして全国各地で講演を行う。
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緑がいっぱいで、ここは時の流れがちがいますね。
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ここには遊具などを置いていませんが、自由に読める絵本や植物、虫がいます。ここに来る親はすわって子どもがちょろちょろ遊びを見つけているのをながめています。そのうち、「ああ、こんな風に子どもって遊ぶんだ」と言い始めるんですよ。親も子も新しい発見があるんです。親はリラックスができて、子どもは自由に動き回ることができます。
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ゆったりできますね。今日来ていたお母さんとお子さんは金沢からいらしたと話してくれました。
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そうなんです。私はこの仕事をはじめて10年ですが、絵本や子育てのことをブログでずっと書いていたら、それを読んだお母さんに広がって徐々にファンが増えていきました。講演会にも全国各地からお母さんたちがきてくれます。次に平塚でやる講演会なんて、平塚に住んでいる人は一人だけ(笑)。私の書いていることや、話すことが悪く言えば「きれいごと」が多かった世の中の子育て論とはちょっとちがうから、理想の母親像にストレスを感じていたお母さんに響いているみたい。でも本当に知られるようになったのは2019年に「マツコの知らない世界」に出てからです。
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拝見しました。子どもが苦手だったことや絵本の読み方など、興味深い内容でした。
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私は子どもというよりもお母さんのことが大好きなんです。ママたちに笑い転げて欲しいから、講演会でもラジオでも一生懸命おもしろいことを話します(笑)。その講演会を見に来てくれていたのが、いま一緒に「はたけのほんや」を運営している横田です。
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ここの農園(きいろいおうちfarm)の横田さんは、無農薬・有機栽培の食用バラや野菜を作られていますが、絵本との関係性はあったのでしょうか。
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講演会での「絵本」と「子育て」の話しに共感をしてくれたみたいです。私は「待ちよみ絵本講師」という肩書きがあるのですが、「待ちよみ」の部分を「農業」に置き換えたらそっくり同じだと思ったと言っていました。横田が育てる薔薇や野菜は、土と光合成と水だけで育てて、土地に合っているもの、おいしくできるものしか作りません。合っていないものを作ろうと思うと肥料が必要になって、ともすれば劇薬の農薬が必要。これって何かの話に似ているって思ったら「子育て」なんです。
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おおー。
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ここの食用バラは高値でシェフ達の間で取引きされています。バラは香りが全然違うし、なおかつ味もいい。なぜかというと木にものすごく力があるから。土に肥料をあげていないので、苗になるまで時間がかかります。でも、ある程度大きくなって畑に植えると、そこからのダッシュがすごいです。それは野菜も一緒。子育ても同じで、その子にあったフィールドで余計なことをせず幼少期にしっかり親が待つことが大切です。ゆっくり育てて自分の力で育った子には本物の力があるんです。野菜の話と子育ての話って似ているんですよ。
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本当ですね。ゆっくりじっくり育てると強くなる。「待つこと」って大切なのですね。
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「待つこと」の考え方が一致しているのがおもしろ過ぎて、一緒に会社を立ち上げることになりました。だから“畑に本があるのがおもしろいから”というわけではなくて、畑と絵本に共通点を見いだしたからなんですね。もちろんそこをおもしろいと思ってもらえればウェルカム。元々絵本と何か別のジャンルを組み合わせたいと考えていたので、そこにもマッチしました。
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会社名は「きいろいおうち」ですね。
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10年前に絵本の資格をとったとき、まずはこぢんまりと絵本の会をやろうと思いました。子どもが小学校に入学して、ちょっと家があいたときに「絵本を楽しむ会」を始めました。家の外壁が黄色かったので、分かりやすく「きいろいおうち」と屋号をつけたら、定着したのでそのまま会社の名前になったというわけです。
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子育てを「待つ」ことはなんとなく理解できましたが、「待ちよみ」とは具体的にどういうことでしょう。
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子どもにはそもそも自分で育つ力があるし、大人には到底かなわないものなんですよ。大人が踏みこめない感性や感覚とか感受性の部分が備わっているから、大人はなるだけジャマをしないで欲しいんです。本を読むときも、親からいろいろ提示するんじゃなくて、普通に読んであげてれば、子どもの側から気がついたことも言うし、気に入ったページは長く見るし、どうでもいいページは早送りするし。すごく気に入れば何回も読んでと言ってくる。つまり、子ども側の要求に応える読み方をしましょうというのが、「待ちよみ」なんです。
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それは10秒さえ待てない親が多いからわざと書いているんです。子どもは意外と余韻に浸っているのに、大人はすぐに絵本の感想を聞きたがるんですよ。読んだ後は、10秒数えて待ってほしいのです。
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