小泉今日子さんが代表を務める「明後日」による『asatte FORCE』が、10月18日まで東京・本多劇場で開催中です。上演される内容は、演劇、朗読、ライブなど多種多様。10月4日には「えほんのろうどく 長田真作さんの本」と題して、今夏303BOOKSから『ほんとうの星』『そらごとの月』を出版した長田真作さんの作品が、小泉今日子さんと瓜生和成さんによって朗読されました。そこで今回は、朗読のイベントや長田さんの作品について、小泉今日子さんにお話をうかがいました。
言葉を読み、伝えること
今日の絵本の朗読、すばらしかったです。客席の子どもたちもすごく楽しんでいるのが伝わってきました。
ありがとうございます。今回のようなオリジナルの演目は、構成や演出も私が考えているので、なかなか客観的に見られなくて。大丈夫かな?と思いながらぎりぎりまで練習していました。
朗読は、以前から積極的にされているんですよね。
そうですね。舞台を作るには時間もお金も人数もかかりますが、朗読はミュージシャンでいえば弾き語りのようなもので、読む人がいればどこでもできる。そういう演目をasatteでも常に持っていたいなと思って。
おふたりだけで朗読しているのに、すごく豊かな世界が広がっていると思いました。今日は舞台の後ろで、実際に絵本をめくる映像も映していましたよね。あれがとても効果的でした。
絵本を朗読する方法を考えたとき、たとえば本を全部スキャンして、ページをめくるのに合わせて画面をスライドさせるという案もあったんです。でもそれだと暖かみがないなと思って。紙をめくることも含めて読書なんじゃないかなと。
確かに、めくる動きのおかげで、実際に読み聞かせてもらっているような気持ちになりました。
今は電子書籍も多いけれど、私はやっぱり紙の厚さ薄さ、質感、それも含めて本を楽しんでいると思うので。子どもたちに、ページをめくることの暖かみを伝えたかったんです。めくるタイミングを合わせるのは難しかったけど。
そういうライブ感も含めて、朗読のよさを改めて感じました。
たとえば友達のお店のお祝いなんかでも、贈り物として短い詩を朗読したりしています。それが私たち役者にできる一番のプレゼントじゃないかなと思って。それもあって普段からいろんな詩を読むようにしていますね。茨木のり子さんの詩を友達にプレゼントしたり。
詩のプレゼント、すごく素敵です。小泉さんは以前から著作や書評なども多くて、本がお好きなイメージがありますが。
本はずっと好きですね。実家では家族全員が本を読むタイプで、私は末っ子なので、もともと家に本がたくさんあったんです。父はミステリー、母は女流作家が好きだったり、姉たちも児童文学シリーズや横溝正史、星新一などを買ってもらっていて、いろんなジャンルの本がありました。
子どものときから本に囲まれて育ったんですね。
子どもの頃の夏休み、家に誰もいなくて退屈だったとき、たまたま手に取ったのが星新一だったかな。そこから本に夢中になりました。10代で仕事を始めてからは、とても忙しくて自分の時間がなかなか取れなかったんです。自由な時間だけは現実を忘れて静かに過ごしたいと思って、そんなときも読書にすごく助けられました。
そのお話を聞いて、線がつながったような気がしました。本が好きということから、本の執筆や朗読のお仕事へとつながっていて、自然な流れがあったんですね。
長田真作の魅力
今回、長田真作さんの絵本を朗読しようと思ったきっかけはありましたか?
長田さんは、女優の満島ひかりさんが紹介してくださったんです。以前からasatteの企画で、満島さんと一緒に『詠む読む』という朗読のツアーをやっていたんですね。そのツアーグッズを作りたくて、グッズのイラストは誰に描いてもらおうかというときに、満島さんが「友達に頼んでみる」と。それが長田さんだったんです。
人と人とのつながりから始まったんですね。
手書きのイラストだったので、私が長田さんのアトリエまで原稿を受け取りに行ったりして。その出会いから交流が始まったんです。朗読ツアーではおもに大人向けの本を読んできましたが、今度は子どもたちに向けて絵本を読みたいなと思って。今回だめもとで長田さんに相談したら、OKをいただいたんです。
長田真作さんの絵本の魅力はどんなところだと思いますか?
何よりもいいのが、子どもを子ども扱いしていないところだと思います。それがきっと子どもが一番喜ぶことだから。自分自身も小さい頃はそのほうが楽しかったです。
確かに、子ども向けに描かれた作品でも、わかりやすかったり、きれいだったりするだけではないですよね。
シュールな部分や、哲学的な内容が入っていたり、発想がとても自由な方だなと思います。親子のやりとりを描いた作品もあれば、文章がほとんどない、詩のような作品もあって。ひとつのイメージに定まらないところもすごいと思います。
すでに数多くの絵本を描かれていますが、似た作品がひとつもなくて、本当に幅が広いですよね。
今日朗読した『おいらとぼく』(文化出版局)なんかも大好きで、大人である私が読んでも、創作することの楽しさや人と関わることについて改めて考えてしまいました。
そうですね。子どもだけではなく、大人も楽しめる作品が多いと思います。
絵もすごく魅力的で、自分の芸術世界を作っていますよね。『タツノオトシゴ』(PHP研究所)では、色をブルー1色しか使っていなかったり。
色使いが上手で、作品によっていろんな表現を使い分けられていますね。
『ほんとうの星』『そらごとの月』も、赤と青、それと黒だけで描かれていましたよね。あの2冊の絵本は、いつか大人に向けて朗読してみたいです。キャンドル1本だけの真っ暗な場所なんかで……
それはうれしいです! ぜひ聞いてみたいです。
以前ですが、プラネタリウムの中でライブをやったことがあるんです。お客さんはこちらではなく星を見ていて、その中で歌を聞いてもらう。そうすると普段より、声や音に敏感になるんだなと思って。歌っている姿を目に入れないことで生まれる想像力がある。そういった朗読も面白そうなのでやってみたいですね。
第2話に続きます。